122、赤い髪の効果
「この呪われた小娘が! さっさとつまみ出せ!」
ぶよぶよなオジサンは、顔を真っ赤にして怒ってる。でも帰る前に、城にいる人達の白い髪に対する偏見を、何とかしないとね。
皆がこんな価値観だから、母である王妃リーネルは、心を病んでしまったのだと思う。だから、一番下の子だけは生かそうと、部屋に引きこもって隠しているのね。
「オルグ様! 国王ランドルフ様が、王女ジュリエッタ様と話したいから、呼ばれたのです。まだ、何も……」
「黙れ! カール! おまえも追放されたいか」
(追放されたいと思うよ)
お兄さんは、ランドルフくんの方を見て、黙ってしまった。彼が守ってあげないと、気の弱いランドルフくんは壊れてしまいそう。
「オルグさん、アナタは本当に無礼な方ですね。国王様に対する言葉も威圧的だし、英雄カールさんへの侮蔑的な発言もひどい。無知で無能なだけならまだ可愛げがあるけど、私から見て、アナタは国王の側近として失格だと思うわ」
「まだ、言うか!」
「あのねー、簡単に挑発に乗って、真っ赤な顔をしてたら、血圧が上がるわよ? 国王を支える能力がないなら、引退を考えたらどうかしら」
「何を……」
ぶよぶよなオジサンは、怒りで上手く言葉が出てこないみたい。あと、もう一息ね。
「オルグさん、この国では、何を基準に地位を決めているの? 生まれた素性? それともチカラ? チカラと言ってもいろいろあるわね。単純に強いとか、お金を持っているとか、権力者に繋がりがあるとか?」
「有能な者が、高い地位に至るに決まっているではないか!」
「じゃあ、英雄カールさんの方が、アナタより上なはずよね?」
「は? 平民風情が、高い地位を得られるわけがないではないか! 愚か者!」
「じゃあ、アナタが今、愚か者と指差した私は、アナタより地位は低いの?」
「ぐぬぬ……白い髪は、呪われている証だ! 王女であったとしても……な、何?」
ネイルは、サッと手を振り、私の髪色は赤く染まった。ランドルフくんよりも鮮やかな真紅だ。
(ネイル、グッジョブだよ)
「髪色が何? そんなものはいくらでも変えられるわ」
「な、なぜ……そんな、髪色を変える魔法など存在しない。髪色はその地の民の証。それがなぜ……」
(あれ? ビビってる?)
私の髪色が赤くなると、剣を持っていた兵の何人かが、床に剣を置き、ひざまずいている。
「ジュリエッタが、ダークスライムを討ったというのは、本当なんだね。髪色が赤くなると、王妃リーネル様に、そっくりだ」
ランドルフくんは立ち上がると、目をキラキラと輝かせている。お兄さんが率いていた軍隊から聞いたのかな。
「国王様、私に会いたかった理由は、王妃のことですか」
「うん、それもあるよ。でも、俺が国王になった理由がわからないんだ。俺よりも強くて国王に相応しい兄弟はいる。俺は、緑の帝国に殺されるための国王なのかな? ジュリエッタなら、わかるんじゃないかと思って、意見を聞きたかったんだ」
ランドルフくんは、一気に話した。ぶよぶよなオジサンが喋らなくなったから、今のうちにと思ったみたい。
お兄さんが、私にすがるような視線を向けていた。ランドルフくんが、私にこんなことを尋ねるのは、変な噂を聞いたからかも。
「国王様、いえ、ランドルフくん。誰がランドルフくんを国王にしようと言ったの?」
私が彼の名前を呼ぶと、ランドルフくんは、少年っぽい笑みを浮かべた。
「大臣達が決めたみたいなんだ。俺が適任だって。俺がもし殺されても、代わりはいるって言ってたよ」
ランドルフくんの話に、ぶよぶよなオジサンは焦ってるみたい。だけど何も言わない。髪色を変えたことで、ここまでビビるとは思わなかったな。
「ランドルフくん、青の王国を知ってる?」
「いや、俺が生まれる前に滅んでいたから、わからない。今は、さすらいの荒野になっていて、ダークスライムが大量にいると聞いたけど」
「私と同じくスライム神の島で育てられた、青い髪の子がいるの。彼は、青の王国を再建しようとしている。ランドルフくんと同じくらいの歳だよ」
「えっ? 青の王国の再建?」
「うん、彼はきっと再建すると思うよ。ランドルフくんも、赤の王国を変えることができるんじゃないかな? 戦闘狂な人が王になると、国は滅びに向かうと思う。ランドルフくんなら、優しい国に変えられるんじゃないかな」
「国を変える? どうして?」
「大陸は、もともとは戦乱なんてなかったらしいよ。この世界は、スライムが統べる世界だからね。大陸は、スライム神が、人間を住まわせてその行動を観察して楽しむために造られたんだって」
「えっ? 大陸は人間の領土だよ。スライムも少しいるけど、あっ、最近は人化するスライムがいるらしいけど、人間とは関わらないよ?」
(やっぱり知らないか)
私は、大きな部屋の中をぐるっと見回した。魔導士は一人しかわからないけど、兵の大半は赤い髪のスライムね。
「ランドルフくんが思っている状態なら、良かったんだよ。だけど違うの。私達のお父さんを殺したのは、緑の帝国の人間のフリをしたグリーンスライムだよ。たぶん改造スライムだから、かなり戦闘力が高いの」
「カールがそう言ってたけど、誰も信じてない」
「ランドルフくんも、英雄カールさんを信じてないの? 物質スライムを持つと、スライムを見抜くことができるんだよ。今、数えたけど、ここにいる兵の大半はレッドスライムだよ」
「えっ? ここにスライムがいるのか?」
ぶよぶよなオジサンは、私達の会話をさえぎった。これって、不敬罪なんじゃないの?
チラッとお兄さんに視線を向けると、お兄さんが口を開く。
「魔導士の中にも、完全にスライムになった者がいる。これは、皆が承知しているはずですね。王宮魔導士は、スライムを体内に取り込んでいますから。今、剣を握っている兵は、全員が人化したスライムですよ」
(スライムを体内に?)
「カール! いい加減なことを言うなよ!」
ぶよぶよなオジサンは、また怒鳴ってる。だけど、私が睨むと、怯えた顔をするのね。
ドォォン!
(な、何?)
白い壁の向こうから、何かが爆発したような大きな音がした。
『ジュリエッタ、反乱分子が乱入して来たようだ』
赤い髪の女の子は、好戦的な笑みを浮かべた。
「賢い子は、手を出しちゃダメだよ。ここは人間の城だから、私達が迎撃する。情報だけ教えて!」
そう言い終わったときに、部屋の白い壁がパタンと倒れ、隣の部屋が炎に包まれているのが見えた。




