抱きつかれる
ねぇ、ママ。
私、帽子なくしたの…
ごめんなさい
男の子がこちらを向いた時、悲しそうな表情をしていた。
目に力は無く、顔色も悪い。
だが、それらを除けば普通の男の子に見えた。
…赤い鼻水?
私が何か話そうとすると、男の子は右腕をゆっくりと上げ、私の後ろを指差した。
えっ?
急に、背後からの気配が強くなる。
動いたら殺されるような危険な感覚。それが、静かに後ろから近づいてくるのだが、体が動かせない!
…動けない!何で!?
男の子に助けを求めようとしたが、声が出せない。あ…う…
男の子は、私の背後を指差したまま目から赤いものを流し、首を横に何回か振るとその場で透けるように消えていった。?
背後から来ていたソレの息が耳元で聞こえたとき、二本の腕で強く抱きつかれた。
冷たい体を私に密着させ、更に腕に力を加えてくる。背中の感触から女性だと思ったが、体温が全く感じられなかった。
私の顔の横に、女性の顔がある。唯一動かせる目をそちらに向けると、女性は口から、虫や泥や赤いものが混じった大量の水を吐き出し、私をびしょ濡れにさせた。
腐った臭いのする水で息ができず、少し飲んでしまう。うえー
女性は暫くの間、開けた口から水を吐き続け、私は寒さと恐怖で意識が遠くなり、気を失ってしまった。
両親から、その後の話を聴くと、池の中へ体を沈めて溺れかかっていたそうだ。
風邪ひいたし、帽子なくしたし、もう散々。
…イヤなこと思い出したな、まったく。
隣で、夫は新聞を読んでいる。
…5分程すぎて、お婆さんが料理を運んできた。
その料理のなかの、あの男の子の赤い鼻水色に似た、トロッとした煮込み料理を見つけたとき、私は食欲が失せ、敷いてもらった布団で横になった。




