思い出してみる
私達は、囲炉裏のある部屋で、暫く待つように言われた。
奥の台所で、食事の準備の音がする。隣では夫が、ホッとした顔で囲炉裏に手をかざしている。
私は、この部屋から寂しい感じを受けていた。
それは、テレビが無いとかそういう事ではないと思う。
なんだろう…
部屋の隅々まで観察していると、低いタンスの上の写真立てに気づく。
そこには、お婆さんの孫と思われる子供の写真があったが、その顔を見た時、忘れていた過去の出来事を思い出す。
―16年前
その時、私はクルマの後部座席で、外の景色を見ていた。
ヒマだったから、家族旅行に来てみたけど、ずっとクルマの中。
ああ、暇暇暇暇暇。
寝過ぎて、もう睡眠は「暇ツブシ」にもならないし、帰路と言っても家まで3時間ぐらい。
ああ、暇暇暇暇暇。
なのに、ウチの両親は何が楽しいんだろ…
「ねえ、アナタ。あそこの石碑の所から入れるんじゃない?」
「ああ、そうだね」
…ちょっと、なに寄り道してんのよ!
「紅葉を観ていきましょう。ほら典子、奇麗じゃない?」
「早く、帰ろうよー」
「ハハハ、典子は花より団子だな。」
ぶーぶー
5分ほど走ってクルマが止まる。
「ちょっと二人で歩いてくるけど、典子は?」
「待ってる。」
「そう?じゃ、すぐ戻るからね。」
両親は、歩いて行ってしまった。
まあ、このままクルマの中にいても暇だし、外に出てみることにした。
少し、空気がヒンヤリする程度で、気持ちがイイ。
背伸び、欠伸、遠吠え大サービス!うおーっ
うーん、新大陸上陸ってこんな感じだと思う。 ぶはー、と一息はいて落ち着くと、急に冷静に戻った。
…さて、二人が戻るまで帰れないんだな
どうするか思案していると、目下にキラキラ光る水面が見える。ちょっと行ってみようかな…
クルマから麦わら帽子を出してきてかぶる。
夏に買ってもらった、とても気に入っている物で、冬でも使いたいと思わせる魅力があった。
クルマの窓を鏡がわりに帽子の位置を直すと、いつもの笑顔の練習。
…よし。
池の方を向き、降りられる所を探す。
帽子を傷つけたくないので、木々や豪草の少ない所…んー。
?
この辺に住んでいる男の子だろうか。自分より少し年下な感じがする。 その子と一瞬目が合った時、ついて来いと言われた気がした。
えっ?
男の子は、池の方へ木々をくぐっていく。私も慌てて後を追った。その道は、しゃがまなければ通れない程低かったが、帽子がぶつからない位の幅は有り、この子の獣道みたいだった。
そして、そのトンネルを抜けた時、目の前に池が広がっていた。
その池を向いて、先程の男の子が立っていた。
私が声をかけると、その子は、ゆっくりと振り返り…




