無謀
「…そんな事が、出来るのですか?」
「うむ。」
婆さんの顔から、笑みが消えた。
婆さんは懐から、人肌に冷めた缶茶を取り出した。
缶を開け一口啜ると、雲ひとつ無い夜空を見上げる。
木々の、三角シルエットを額縁にして、ちかちかと沢山の星が瞬く。
そこを、長い尾をひいた彗星が、ゆっくりと横切っていく所だった。
婆さんが、こちらを向く。
「あれを見たことがあるかい?」
「彗星ですね。初めて見ますが…」
「私は三度目だよ。」
「それより…」
「ああ、簡単に言うと、あの彗星を池に落とす。」
「えっ?」
婆さんが、彗星に向かって大きく手を振る。
「おーい。」
「……冗談でしょ?」
「…………冗談だよ。」 婆さんが手を振るのを止めると、近づき始めた彗星が、適当に向きを変え何処かへ飛んでいってしまった。
「…で、他に方法は無いのですか?」
「…あの彗星が近づく年の今日、日の出までの間は、この池の水が酒に変わる。それを全て飲み干せばいいのだ。」
「あと四時間で?」
「うむ。」
「仮に、飲み干せたとしても、酔って助けに行けるかどうか…」
「後の事は考えるな。すぐ始めるのだ。」
「…わかりました。」
自分が池の側まで近づくと、先客が四つん這いになり、その池の酒に頭を突っ込んで、飲んでいる姿があった。
少し遠慮して、離れた所に移動する。
「…この辺でいいか。」 正座して心を落ち着かせ、顔を叩いて自分に活を入れると、四つん這いになり、池に顔を突っ込んだ。
婆さんが、自分の後ろに立つ。
「そのままで聴け。この池は水量が減ると、それを元に戻す為の部隊がでてくるのだ。そうなれば飲み干すのは更に困難となる。」
……!
「まあ、心配するな。応援は呼んである。」
自分が、少し顔上げて周りを見渡すと、先程の先客以外にも、たくさんの人?たちが池に沿って並び、むさぼるように酒を飲んでいた。
それは、宴会という雰囲気ではなく、今の内に飲めるだけ飲んでおけ、という¨必死さ¨ばかりが感じられる。
「私の知り合い達だ。みんな、酒で寿命を縮めた猛者だよ。ヒヒヒ」




