知る
不安は、突然訪れる。
二人は、池に沈んだまま浮かんでこなかった。
あの少年もあれから姿を見せず、少し淋しい感じがしていた。
………。
水辺にしゃがみ込み、ぼんやりと池を眺める。
時々、池に手を入れてみたが、何も起きなかった。
…典子。…先輩。
「ああ、こんな所にいたか。」
……あの家の婆さん?
懐中電灯の光を向けられ、急に現実に引き戻された気がした。
「家の中は酷い有り様だし、アンタら二人はいないし、捜してみればこんな所にいるし。」
……。
「いったい、どうした?」
「……え…ええと…」
「何かあったか?」
「……」
「顔色の悪い、あの女の人はいないようだね?」「えっ…ああ、…ええ」
一瞬、どちらの女性の事か、判断に迷った。
だいぶ、疲れているのかもしれない。
「妻は…」
「この池には、¨ぬまこ池¨という名が付けられている。」
「?」
「だが、もう一つ別の名前があるのだよ。池の前で、手を叩いてごらん」
「…ぱんぱん。こうですか?」
「うむ。」
何か白いものが、ゆっくり浮かんでくるのが見える。
……?
小さな水音をたてて池から出てきたのは、後ろを向いた年配の男性の頭だった。
その頭が、静かにこちらを向くと、青白い顔が口を開く。
ゲエエエエェっぷ
…いきなりゲップかよ
「この男性は誰です?」「私の爺さんだよ。たまに会いに来ている。」
「………河童ですか?」
「普通の人間だよ。何年も前に死んだけどね。」
「?」
「こちら側に遊びに来ているんだよ。この池は、あの世への門でもある。」
婆さんが、池に向かって小さく手を振ると、爺さんは静かに沈んでいった。
「……。」
「もし、この池に落ちたのなら、助けるのは簡単な事ではない。」
「……どうすれば…」
「一時的に、あの世の門を閉じる方法がある。」
婆さんは、微笑んだ。
だが、その微笑みが、自分の不安を更に大きくしていく。




