池があった
ウチが数日休んでいる間にフォイマンとアンバスが頑張ったけれど、結果はぼちぼちといったところに収まった。
捕まえてきた魔物に石化毒の粉をかけると石化することがわかり、ナーシャの団や森から戻ってきたガドルフたちが協力して強い魔物を捕らえて、同じように粉をかけても石化しないことから魔力が抵抗の役割を果たしていると仮定できている。
しかし、アンバスによる石化毒に対する薬作りは思うように進まず、効果のある物はできていない。
その結果、予定通りウチとネルソンだけで奥深くまで行くことになった。
「粉を多めにお願いします」
「俺は森で取れる薬草や水、木の実にキノコがほしいな。魔物素材と魔物じゃない素材の両方だ。薬を作るには現地の素材が適しているはずだが、前回はあまり採取できなかったからな」
「エルを背負ってるからあまり荷物は持てないんだ。期待はしないでくれよ、お二人さん」
「エル、気をつけろ」
「危なくなったらエルだけでも逃げるのよ」
「ハリセンだったか?あれで叩けば大抵の魔物を倒せるだろ!叩いてこい!」
もう少しで石化毒の森というところで、フォイマンやアンバス、援護のために着いてきてくれたガドルフたちと別れた。
この人たちは無理しない程度に石化毒の持ちへと入り、素材を集める手筈になっている。
ネルソンに背負われたまま、ガドルフたちに手を振っていたけれど、木々のせいですぐに見えなくなった。
そしてネルソンが森の中を疾走することしばらく。
「前回調査した場所まで来たぞ」
「え?もう?早ない?あと、周り見ても全然分からんわ」
「まだまだだな」
「せやで。ウチまだか弱いお子様やねん」
「か弱いかは置いておいて、お子様なのは間違いないな。だが、ここからは声も慎重に進む。後ろから何か来たら教えてくれ」
「はーい」
ここまで走ってきたネルソンだけど、この先は他の魔物が出るかもしれないため、ゆっくりと警戒しながら進む。
今のところ石化毒の胞子を飛ばしてくる歩くキノコの魔物と、石化毒の液体を出す木に巻き付いた植物の魔物しか見かけていない。
しかし、麻痺毒や吐血毒の森でさえ動物型の魔物や虫型の魔物が存在し、毒への耐性器官を保持していたり、保有する毒の強弱によって薬にしやすいなどがある。
アンバスが石化に対する薬が作れないのも、そういった材料不足が原因で、ウチらは可能な限り素材を持ち帰らなければならないが、ウチを背負っているせいで軽量袋を持ち込んでいないから、数枚の皮袋に入れられるだけとなる。
初見の魔物から適切な部位だけを持ち帰るのは難しく、つまるところ植物などの採取できる物が中心となるはずだ。
初見の花や木の実、キノコに変わった形の草を集めながら進んでいくと、急にネルソンがしゃがみ込んだ。
「これは……何かの足跡だな。爪のような硬い部分があるから、歩きキノコじゃないはずだ」
「おぉ。なんかおるんやな。話題の足跡はうちには見えへんけど」
「見せてやろうにも背中を地面に向けるのは難しいから諦めてくれ。見れるぐらい傾くのは体にも負担がかかる。まぁ、そのまま倒れて潰れてもいいならできるが」
「固有魔法的に潰れへんやろうけど、足跡見る間もなく地面ごと押し潰しそうやなぁ。せやから見んでええわ」
「わかった。それじゃあこの足跡を追ってみるか」
ネルソンは迷いなく進み、時々止まって地面を見る。
背負われながらも頑張って見たけれど、ウチには全然わからなかった。
これをチラッと見るだけで追跡できるのは凄いけれど、ちょっと怖いとも思ってしまう。
きっと森の中で追いかけっこをしても、すぐに相手を捕まえられるのだろう。
「水の匂いがする」
「え?ほんま?……あかん、ウチにはわからんわ」
ネルソンにならって周囲の匂いを嗅いでみるも、草や木、土の匂いしかしない。
水に濡れたことで匂いの質が変わっているとのことだけど、やっぱりわからなかった。
ネルソンも団の獣人に教えてもらいながら、時間をかけて覚えたらしく、今すぐ分かることはないと言われたので、覚えていたらガドルフたちに聞いてみようと思う。
たぶん、すぐに忘れるはずだけど。
「これは池か。足跡もここに続いているから、水を飲みにきたようだな」
「迷宮の魔物も水飲むんやな。なんとなくやけど、そういうのは外の魔物しかせぇへんと思ってたわ」
「迷宮内でも生きているからな。水も食料も必要になる。どこかの研究者が迷宮の外と中で同じ魔物を捕まえて、同じ餌や水を与える実験をしたそうだ。その結果両方とも食べるし飲む。ただ、住んでいた場所の違いか魔力量に差があって、迷宮内の魔物の方が魔力が強い分、外の魔力量に適応できずにだんだん弱っていったと発表があった」
「ほーん。じゃあ繁殖とかもするん?」
「するぞ。幼体が見つかることもある。迷宮を放置していても魔物は増えるが、繁殖でも増えるんだ。獣なら雄雌必要で、植物やキノコは生い茂る形で増える。流石にアンデッドは勝手に増えないが、死体の魔石を放置していれば、そのうち動き出す」
「まぁ、アンデッドは勝手に増えへんわな。じゃあこの池で待ってたら他の魔物が来るかもしれへんってこと?」
「ああ。水を飲みに来た魔物を見つけられるだろうな」
そういう訳で、木の上に登って魔物が来ることを待つことにした。
足跡を追っても途中で痕跡が途切れる可能性があるから、少しでも確率の高い方を狙う。
他にも追跡の場合、予期せぬ遭遇などもあり、待ちより危険が多いとのこと。
これが狩りなら罠を仕掛けることもあるけれど、今回は偵察なので、できるだけ気配を消して物音を立てないように言われた。
音はともかく気配についてはわからないから、口を両手で塞いで喋らないようにだけしておいた。
・・・気配ってなんやねん。隣に人が来たらギリギリわかるけど、周りの音やらなんやらから察知するとか無理やろ。視線とか全然わからんし。できる人らほんま意味わからんわ。
「何か来た」
これはうちにもわかった。
草がガサガサと音を立てて揺れたからだ。
一層強く口を押さえて、万が一気持ち悪い見た目の魔物だったとしても、声を出さずにすごでるようにした。
そんな背中合わせなウチらでも、木の上にいれば近づいてきた生き物の姿がわかる。
猿が3匹周囲を警戒しながら現れた。
尻尾の先端や頭、腕や足の先に横腹といった一部が石になっているけれど、毒に侵されて動けないわけではなく、攻撃や防御のために覆っているように見える。
そんな3匹の猿は水に口をつけてガボガボと飲むと、その手を水の中に入れ、何かを取り出して食べた。
手のひらに収まる程度の物だから魚ではなさそうで、さらに口から響く音がバリバリゴリゴリと、とても硬いものを食べているように聞こえる。
しばらく水を飲む音と何かを噛み砕く音を聞いていると、満足したようで来た道を戻るように去っていった。
「猿やったな」
「そうだな。体の一部が石に覆われていたが、石化というよりそういう生態のようだった。動きも阻害されていなかった」
「やっぱりそうやんな。じゃああの石になった部分で攻撃してきたり、こっちの攻撃を防ぐんやろか」
「その可能性は高いな。魔力で強化されている魔物の力で、石のような硬い攻撃を受けたらなかなかのダメージになりそうだ。エルの固有魔法はどうだった?」
「問題なしやな。あの猿じゃあウチは傷つけられへんで」
「頼もしいこった。もう少し様子を見て、他にも来ないか調べた後、何体か倒してみるか」
「了解や」
ウチはまた口を塞ぎ、声を出さないように注意した。
そうして間に食事を挟むほど待った甲斐があり、たくさんの魔物を見ることができた。
森ゆえの鹿や猪に熊などの獣系、蝶やトンボなどの虫系、歩く植物に歩く岩もいた。
そのどれもが体の一部が石化していて、虫に至っては石化したら重くなるはずなのに、羽を大きくして勢いよく飛んでいた。
虫嫌いだと近づきたくなくなる程の大きさだろう。
もちろん固有魔法は全てに問題なしだった。
「とりあえず次に来た獣系を狙う。素材を持って撤退だ」
「了解や」
次にやってきたのは猪の魔物だった。
小さな牙が生えていて、頭と背中を守るように石を纏っている。
そんな猪に対して木の上から飛び降りた勢いを利用して、ちょうど空いている首にナイフを突き立てるネルソン。
断末魔のぷぎぃを放った猪は、少しの間暴れた後ぱたりと息絶える。
せっかくの水場だけど、解体している間に魔物が来るかもしれないため、死体を抱えて離脱することに。
背中合わせだから自ずと見える池の中には魚は見えなかったけれど、たくさんの石が沈んでいるのが見えた。




