8. 二日目の朝食
メルシーと遊んでいたら、庭で寝落ちしてたらしい。
帰ってきたエメルに叩き起こされ、食事をとることになった。
エメルの魔法で、庭に簡易のテーブルと椅子が現れる。
大鍋の中身はスープだった。
「もしかして、エメルってスープしか作れない?」
「そうだけど、悪い」
「このスープも十分美味しいけど、毎日だと飽きない?」
「食事は栄養補給と考えているの、私。まぁいいわ、食材はあるから自分で何でも作りなさい。あー、機材もほら」
マジックバックを僕に投げつけるエメル。
マジックバックとは見た目よりも多くの物を入れられる魔法の鞄だ。昨日家を出るとき彼女が持っていったヤツだろう。
台所と調理器具がポンッと魔法で出すエメル。
「そうだ、助けて貰ったお礼に何か作るよ。食べたいものある?」
「そうね、特にないからあなたの好物を食べさせなさい」
「あいよ」
「イエッサー、イエッサー」
僕の好物と言えばあれしかない。
唯一の持ち物であるポーチを取り出す。アルケミーの試作品であるが、マジックバックと同じ効果がある。
必要な調味料は、砂糖、醤油、ニンニク、塩コショウ、そしてマヨネーズ先輩。
マジックバックの中にあった見たことない肉を一口サイズにカットして、ボールに入れる。
そこに取り出した調味料をいれて、軽くかき混ぜる。一晩寝かせて味を染み込ませるが、今回は裏技を使うことにした。
ボールを両手で固定して、中にある肉とタレを絡ませるように風魔法でかき混ぜる。
「なにしてるの、なにしてるの」
「下味をつけてるんだよ。こうすると時短になるんだ」
「手伝う?」
「そうだね、だったら出来上がったら味見を頼むよ」
「任せて、任せて」
味を染み込ませた肉に小麦粉と片栗粉を加えてコーティングする。
ここまで来れば、もうすぐだ。
ポーチから取り出した油を贅沢に使って、小さな鍋に黄金色のプールを作る。
火をつけて、適温になった油に、白い衣を纏った肉を投入する。
ジュワアァーと心地よい音と、香ばしい肉の匂いが庭に広がる。
「それなにかしら?」
いつの間にか後ろに立っていたエメルが、油の中で踊る肉を見つめていた。
「唐揚げだよ。僕の大好物なんだ、たぶん嫌いな人はいないと思うよ」
「……私も食べたい」
「ちょっと待ってね」
いい頃合いかな。油から取りあげた唐揚げを金網の上に置く。余分な油が滴る。
できたての唐揚げをお箸で二つにわける。
中から溢れる肉汁、鼻孔を刺激する唐揚げの匂い。よし、ちゃんと肉に火が通っている。
「メルシー、はいどうぞ」
「イエーイ」
「ほらエメルも、ひとつどうぞ」
「どうも」
僕も揚げたての唐揚げをひとつ口に運ぶ。
熱くてハフハフするが、それもまた揚げたての醍醐味だろう。
エメルもメルシーも口から白い湯気を出しながら、咀嚼を続ける。ゴクリと飲み込むと、幸せな息を吐く。
「うまい、うまい」
「これは……」
「どう、美味しいでしょ?」
「悔しいけど、私のスープよりおいしい。唐揚げね、覚えてあげる。さっさと、私とメルシーの分も作りなさい」
「了解です!!」
僕は唐揚げを揚げて、それをメルシーとエメルが食べる。
脂っこいと感じたら、スープで油を流してまた食べる。味を変えるために、レモンや七味それから最強のマヨネーズ先輩を使って、僕たちは唐揚げを楽しんだ。
「うっぷ、久しぶりにこんなに食べたわ。少し苦しいわ」
「おなかいっぱい」
「そう、まだ食べたりないんだけど」
「やっぱり異常だわ、あなたの食欲は。私はもう無理、少し眠るわ」
「私も」
テーブルに頭を預けて、エメルは寝息をたてる。
僕は彼女たちが寝ている間に、予備の唐揚げを作る。マジックバックの中は時間の流れが遅い。作り置きにはピッタリだ。
あそこまで喜んでくれるなんて、思ってなかった。調子に乗って、調味料が尽きるまで唐揚げを作ってしまった。
料理道具を片付け終わった頃、昼にエメルとメルシーが目を覚ます。
「ふーっ、よく寝た。たまには良いわね、こういうのも。起きて早速だけど、ソウルスキルの実験よ。寝てる間に良いアイディアが浮かんだの、手伝ってくれるわよね」
「はい」
「よろしい。まずは、あなたの体質の把握よ。腹ごなしに相手してあげる」