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9. ファットマン

 



「ほら、動かない。じっとしなさい」


「ぶるんぶるん、ぶるんぶるん」



 膨れたお腹が振動する。

 僕のお腹に手を当てて、興味深そうに観察するエメルと楽しそうに笑うメルシー。


 組み手でもするのかと思っていたが、急に魔法で腹を揺らされて困惑していると、エメルは大声をあげる。



「アチッ」


「ごめん大丈夫?」


「問題ないわ、それより体はどう?」


「言われてみたら、体がぽかぽかするような気がする」


「気のせいじゃないなよ。まぁいいわ、私の仮説が正しかったことの証拠だから。許してあげる」



 そう言って、エメルは火傷した手を擦ると傷が消える。

 僕はというと、蒸気を発する自分の体にあたふたしている。熱はどんどんと大きくなるが、体に異常はない。


 今までにないほど、エネルギーを感じる。魔力によるものではなく、なんといったらいいか生命力と言えばいいのだろうか、内から溢れでる。

 今なら、作り置きした唐揚げも一口でペロリと完食してしまいそうなほど、万能感に包まれる。


 なんなら、そこら辺に生えている草から木までも、言葉通り何でも食えそうだ。



「凄いよ、エメル。今なら何でも食べれそうな気がする。こんなの初めてだよ」


「それは元からでしょ。まぁいいわ、それにしても興味深い。特異体質が二つもある人間は、初めて見たわ。食べたものを脂肪として蓄える能力と、その脂肪を効率的にエネルギーに変換する能力かしら」


「メルシーの手柄、手柄」


「そうね、こんな面白そうな拾い物をするなんて、メルシーはスゴいね」


「ふふふふ」



 満更でもなさそうに頭を撫でられるメルシー。

 半ば誘拐じみたことをされた僕の心情は複雑だけど、妖精のやることにいちいち文句を言うのも無駄だ。


 価値観も考え方も人間とは違うのだから、それに結果的に僕にとってプラスだ。まさか、自分にこんな能力があったなんて知らなかった。

 エメルと出会わなければ、気づかず一生を過ごしていただろう。


 これも妖精の導きがなせる業、なのかもしれない。



「でも、もう時間切れね。鏡よ、どう? 出会った時のふくよかな体型に戻ったわね、おめでとう」

「おめでとう、おめでとう」



 鏡に写る僕はぽっちゃりとしていた。

 それはいつも通りだが、ここに来て蓄えた脂肪は見る影もなく消えていた。さっきまで今の三倍は体積があったのに、人間って不思議だな。


 ダイエットの広告で一儲けできそうだ、やらないけど。それぐらい変化の幅がエグい。



「今までこんなことなかったのに、どうして?」


「私に聞いても知らないわよ。多分だけど、使い方を知らなかっただけじゃない。弓だって使い方を知らなければ、ただの木と鉄と羽の置物よ。私があなたの脂肪を刺激した影響で、本来の役割というより眠っていた能力が姿を現したんじゃない。あくまでも予想だけど」


「なるほど。よくわからない」


「そう、まぁ私も同じよ。特異体質と言っても、人それぞれだし資料も少ない。未知の分野なの」



 エメルはそう言うと、少し考える素振りを見せる。

 空を見上げて、ため息をこぼすと苦笑する。



「まぁいいわ」



 彼女の口癖だ。

 会話中に何回も聞いた、この言葉。


 真剣な眼差しと相まって、何かとても嫌な気分になる。どうしてか、わからないけど心が苦しくなる。

 彼女のような雰囲気の人を僕は、どこかで見たことがある。あれは確か――



「計画変更よ。私があなたを手伝ってあげる、幼馴染みに負けないぐらい強くなりたいんでしょ。研究はまた暇な時にやればいいし、感謝しなさい。みっちり鍛えてあげる」


「それはありがたいけど、どうして僕の悩みを?」


「メルシーから聞いたわ。あの子のソウルスキルは『悟り』だから、あなたの心の中も丸わかりよ。ねっ、メルシー」


「唐揚げ、唐揚げ」


「考えていることがバレた!!」


「ほんと、食い意地だけは一人前ね。まぁいいわ、で、どうする。やるのやらないの?」


「やります。よろしくお願いします」


「手伝えるのは、今日を含めて5日だけだけど、よろしく。6日後には、ちゃんとお家に帰してあげるから安心なさい。魔女は契約を破らないから」



 優しく微笑むエメル。

 その姿はどこか、寂しそうだった。




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