20. エピローグ『7日目のデザート』
お昼だ。太陽がまだ高い。
誕生日会といえば夜に集まってやるものだけど、僕たちは冒険者。働く日も働かない日も自分で決める。
集まろうと思えば、朝だろうが夜だろうが集まることができるのだ。
家は壊れちゃったから青空のもとエメルの誕生日を祝おう。一応日差しよけはスミスが作ったから、暑かったらそこに逃げ込めばいい。
ポーションで回復したとはいえあの怪我。元気だなスミスは。
テーブルの上に盛りつけられた肉、肉、肉。市場に出向いて根こそぎ買い占めた。肉以外も魚や野菜、果物まで全部だ。そのせいでお金はすっからかんだ。
お金もなし、家もなし。それでも祝うぜ誕生日。
ルルの魔法で保管していた皿やテーブルを広げて、料理は僕とルトが担当した。アルケミーとスミスで急こしらえながら会場を設置する。
「準備できた。どうよ、この大量の唐揚げと手作りプリン。スゴいだろ」
「あなたプリン作れたの?」
「初めて作ったけど、なんか上手くいった。体が勝手に動いた系っていうの。レシピなし、自信ありみたいな感じ」
「流石グラトンさんです、その根拠のない自信は尊敬に値します」
「いや、それは尊敬したら駄目だろ。それより早く飯食おうぜ、飯。朝から何も食ってないから腹ペコだぜ!!」
今にも食べ始めそうなスミスを制止する。
「今回の主役はエメルだから。駆け抜けは禁止」
「そうだった。忘れてたぜ、悪いなお嬢ちゃん。まだ手つけてないからセーフってことで」
「別に食べても構わないわ。あなたたちのお金で、あなたたちが作った料理じゃない」
「いいから、いいから。誕生日の時は主役が最初に食べる。僕たちの間だとそういう決まりなの。エメルが手をつけないと誰も食べられないし、ほら一口だけでも」
「わかった。わかったから肩から手を離しなさい。食べればいいんでしょ、食べれば」
そう言って彼女は大皿に盛られた唐揚げに手を伸ばす。
口を大きく開けて一口で食べきる。
「うん、美味しいわ。グラトンこれおいしいわ」
「よし、皆のものかかれ。早い者勝ちだぁーー!!!!」
「よっしゃあ、今回こそ俺が勝つぞグラトン!!」
「腹八分目という言葉を知らないのですか、あなたは。これだから馬鹿は困ります。もちろん僕も負ける気はしませんが」
「ルトは魚から攻めるからルル姉さんは野菜をお願い」
「任せなさい。今回は負けないんだから」
「イエーイ!!」
「ガルグル」
僕たちは一斉に肉や野菜に群がる。
ガーくんとの約束もちゃんと忘れていない。収納していた解体されてないモンスターを大処分セールばりにドドドンッと提供。
ノリノリのメルシーと一緒に僕らは競うように料理を味わう。鬼気迫る僕らにエメルの顔は少しひきつっていた。
「もぐ食べた量が一番少なかった人がもぐもぐ、支払い持つんだもぐもぐもぐゴックん。エメルは大丈夫、今回の主役だからゆっくり食べていいんだよ」
「ええ、そうするわ。でもそのルールならあなた絶対負けないわよね」
「ああ、それは――」
「ようグラトン来たぞ。今回こそは俺たちが勝つぞ、市場を買い占めたんだ今回は楽にはいかねぇぞ」
「酒持ってきたぞ、酒。あとジュースも。つうか家どうしたんだよ」
「大きなドラゴンだ。あれ触ってもいいの?」
「妖精さんだ。初めて見た」
「飯だ飯。ただ飯だ、腹が裂けるまで食ってやる」
ぞろぞろと集まる人の群れ。
市場の人から酒屋のおじさん、街に住む小さな子どもたちまで。老若男女、年も性別も職業も様々な人たちが街から少し離れた僕らの家までやってくる。
見慣れた風景だ。恒例行事というべきだろう。
「僕対それ以外。これでもフェアじゃないけど、面白いでしょ。一応今まで負けなしなんだよね」
子どもの頃は今ほど食べることができなかった。
そもそも食べ物が少ないというのもあったが、今と違い満腹になることもあったのだ。年を重ねるごとに、満腹という状態から遠ざかってきた。
最後にもう食べられないと感じたのは6歳の時の収穫祭だ。両親はキツく叱られて、それ以降僕は自分の食欲をセーブしていた。
食べること、それは生きることに他ならない。
僕は他人よりも多くの命を頂いてきた。エメルから特異体質の話を聞いて、実践して僕は改めて実感した。食べることの意味を。
エメルは僕には脂肪を蓄えて、燃焼する力があると言っていたけどそれは少し違う。
食べたものが僕自身を作る。脂質、糖質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル。それと魂。
僕は食事をすることで、少しずつ成長していたのだ。子どもの時から積み重ねてきた食事という名の鍛練。
魔境の森の深層、そこに住まうモンスターの肉。宿る強い魂が僕を急激に成長させてくれた。
ソウルスキルの強さは魂の強さ。
僕が背負っている魂は自分だけのものじゃないということだ。
例えば、あの悪魔を食べたときに一緒に流れ込んだ優しい母親としての記憶。とても暖かい誰かの想い。僕はそれを背負って生きている。
「大丈夫エメル?」
「あんな大勢の人に囲まれるのは久しぶりだから、少し疲れたわ」
木陰で休憩しているエメルに僕は横に座る。
今回の主役は彼女ということもあり、色んな人に囲まれていたのだ疲れて当然だ。彼女の隣には街の人々から貰ったお土産やプレゼントが積まれている。
「街の人から聞いたわ。お祝いの時は市場の食材買い占めるするらしいわね。誕生日の度にあんなばか騒ぎして、よくお金が持つわね。普通は破産よ」
「お金の心配はないよ、こう見えて僕たちAランク冒険者なんだ。それに毎回じゃない。Aランクになるまでは、小さな宴会ぐらいだったんだよ。お金に余裕が出始めたとき、スミスが面白がって市場の商品を買えるだけ買って、店員も引き連れて僕の誕生日会を開いたんだ。それが切っ掛けで今ではこんな感じさ。市場から商品がなくなったら、街外れの家にいけ。ただ飯のチャンスだぞって冗談言われて」
「いいじゃない、みんな楽しそうよ」
「僕もそう思う」
腹を満たした後は各自バラバラだ。
酒盛りを始めるもの、デザートを食べ始めるもの、持参した鍋に料理を詰め込むもの、力自慢をはじめるもの。
それを眺めながら、僕はエメルにプリンを手渡す。
「まだ食べてないでしょ。味には自信あるんだ」
「……まぁいいわ、そこまで言うなら食べてあげる。感謝しなさい」
「どういたしまして」
彼女は恐る恐るプリンを口へ運ぶ。
「どう美味しいでしょ」
返事はない。
その代わり彼女の口にもう一度プリンが運ばれる。僕はそれを横目に確認して、空を仰ぐ。
夕日が見える。もうそろそろ子ども達は家に帰るのだろう。
大人たちも明日の仕事のために体を休めるとして、いつも通りなら僕たちと同じ冒険者と飲んだくれたちが残る。
「注目!! 今日はこれでもうお開きです。次の機会にまた来てください」
「マジかよ。たくっ、まだ飲み足りないだがしょうがねえ。マスターの店で続きを飲むか」
「魔法で一瞬で移動するやつやりたい。ルルお姉さんやって」
「ドラゴンの背中に乗りたい」
「まだ腕相撲の決着がついてない」
なんだかんだ言いながら街に帰る人々。
冒険者もいるのだから帰路の安全は確保されているだろう。一応ルトとスミスがいるから大丈夫だろう。
空になった容器を見つめていたエメルがぽつりと呟いた。
「私の誕生日の時、決まってお母さんがプリンを作ってくれたの。その味に似てるわ、出来はまぁまぁだけど」
「プリンだから、似てて当然だよ」
「それもそうかしら。まぁいいわ、及第点にしてあげる。もっと腕を磨くことね」
「厳しいな。なぁメルシー、君の主はとっても辛口評価だよ」
「うまし、うまし」
プリンを頬張るメルシー。
彼女は一体どこまで見えていたのだろうか。僕には分からないけど、きっとこの答えは正しい。僕たちで出した答えなのだから。
「単刀直入に言うよ。僕たちとパーティー組まない?」
最終話まで読んでくださってありがとうございます。




