第百六十三話 激突
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【連鎖イベント】終末の訪れ:大戦争
レガリア条約機構が正統大陸連盟に宣戦布告しました!
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マイノグーラ主導の同盟による奇襲攻撃はヴァギア側の陣営に多大なる被害をもたらしていた。
ヴァギアらが用意した防御陣地はすでに崩壊。主戦力として控えていたサキュバスたちも無傷な者はおらず、阿鼻叫喚とも言える状況とともに必死に立て直しを図っている。
いくらH氏の強力な武器防具を持とうとも、所詮は個の存在。
軍規模で行動を起こすマイノグーラ側のアクションを満足に受けきることは到底できはしない。
よしんばゲームシステムに根ざしたその圧倒的な差を覆そうと思うのであれば、同じだけの理不尽、同じだけの格を用意しなければならない。
この場でそれが叶うのはサキュバスの指導者であり、プレイヤーと目されるヴァギアのみだ。
「……随分やられちゃったわね。まさかこんな激しい攻撃を仕掛けてくるなんて、私も思いもよらなかったわん。でも分かってるのかしら? 最初から激しすぎるのは女の子に嫌われるわよ?」
ヴァギアは軽口を叩きながら周囲の状況を確認する。余裕の言葉とは裏腹にその表情は硬い。想像の遙か外からの攻撃は、確かに彼女を動揺させている。
だがだとしても、彼女は神の寵愛を受けし魔女。マイノグーラを出し抜いて世界の全てを手中に入れんと画策する者。
この程度で戦意を喪失するほど柔な精神は持ち合わせていない。
(想定外ね……! けどまだまだこんな所でギブアップはしていられないわ!)
七神王の魔法カードはマナソースへの直接攻撃により使用不可。
防御陣地はメルーリアン号の突撃により見事なまでに粉砕。
その特攻攻撃に巻き込まれたサキュバスたちの戦力はほぼ半壊。復帰はさておき、組織だった戦力として再起するには今しばらく時間がかかるだろう。
だが同時に、幸いながら残っているものもある。
護衛のノーブルサキュバス二人は未だ健在であるし、ヴァギアたちの攻防力を増加させるH氏の武器防具が封じられている訳ではない。
そしてなにより、ヴァギアが持つ未だ手の内が明かされていない必殺の能力も健在だ。
最重要戦力は未だ傷なく手元にある。
故に彼女は、貞淑の魔女ヴァギアは十全と言える状況であった。
ヴァギアは静かに自らの武器を取り出す。湾曲したカタール状のそれは、まるで岩石からそのまま削り出したかのように荒々しいフォルムをしており、原色に近い青や緑といった自然には存在していない色合いを有している。
だがその奇抜な見た目とは裏腹に内包する力は膨大の一言。
レジェンダリークラス等と説明せずとも、一目見ただけで分かる危険性はこの場に居る者なら誰しもが理解できるだろう。
拓斗もそのことをよく理解しているのか、静かに彼女の反応をうかがっている。
「まっ、確かに配下のサキュバスが一方的にやられちゃったのは残念だけど。それでも私たちを倒せると思ったら大間違――っ!」
刹那、言葉を止めたのは地面から突き出る鋼のごとき堅さを持つ触手。
一切の気配を悟らせぬそれは、ヴァギアの身体を股ぐらから串刺しにせんと突き出し、だがすんでの所で回避される。
ゆらりと現れ、主であるイラ=タクトの隣に侍るそのものこそ、破滅の王の腹心。
彼が最も信頼を置き、最も愛する英雄。汚泥のアトゥであった。
「この日をどれだけ待ちわびたことか。拓斗さまを謀り、会談と称して罠にはめたその大罪。拓斗さまの英雄たるこの私が引導を渡しましょう」
静かな怒りが辺りに充満する。濃密な魔の気配とともに増す死の空気はさしものヴァギアとて軽口に陰りがさしてしまう。
「少し雰囲気が違うわね? 何かあったのかしらアトゥちゃん?」
「別に、いつも通りのアトゥだよ魔女ヴァギア。強いて言うのであれば、君の方に焦りがあるんじゃないかな?」
ヴァギアの言葉に拓斗が答える。その右手には破滅の王に似つかわしくない剣が一振り。
これまた逸品と分かるそれは、邪悪国家マイノグーラの指導者が持つにはいささか正道に過ぎる意匠であったが、内包する力を考えればその程度のことは些事に過ぎない。
その剣がRPG勢力のものであることに当たりをつけたヴァギアは、警戒を一段階あげる。同盟者から助力を得て事にあたるのは、当然ながら彼女だけの専売特許ではないからだ。
「ふふ、焦りだなんて心外だわ。これは情事の前の興奮と言ってちょうだい♪」
(とは言いつつも、そこまで仲良くされちゃうとちょっと予定が狂っちゃうわね……)
内心の苦悩は吐露されることなく戦場に消えていく。互いに言葉によるやりとりに時間を割くのは相手を侮っていない証拠。だがここに至ってはもはや前座を楽しむ余地はなし。
互いに視線を鋭く交差させ、一瞬の沈黙。
周囲が戦闘を開始し、血と叫びと剣戟の音が混じる中。その中心にのみ訪れたつかの間の静寂。
唐突に、そして突然に。
――両陣営トップの戦いが始まった。
「――っ!!」
「はぁっ!!」
――――キィィィィン!!
およそ刃がぶつかり合う音とは思えぬほど高音で魔力の伴った音が衝撃波を伴って辺りを吹き飛ばす。
まるで自分達以外にはこの場に不要と言わんばかりのその衝撃は、慌てて助けに入ろうとしていた護衛のノーブルサキュバスや、それに対する形で王を守らんと突撃した配下の魔物たちすら容易に吹き飛ばす。
許されたのは当事者の二人。そしてこの場における拓斗の半身とも言えるアトゥくらいだ。
人外の速度と力が、その猛威を存分に振るわんと相手めがけて迸る。
ガァンと甲高い音が連続して鳴り、同じ数だけの衝撃波が辺りを揺るがす。
極限まで強化された反応速度による攻撃が、まるで早送り映像のように繰り出され、致死的な攻撃が数えるのも馬鹿らしくなるほどの回数交差する。
「七神王の魔法は使えなくなっちゃったけど、私たちにはまだこの武器があるのよね。マイノグーラの持つ銃器なんかとは比べものにならないこれに、対処できるかしら?」
「借り物で随分と自信をつけたんだね。油断があるようでこちらとしてはやりやすいよ」
言葉の応酬の間にも、その数倍の刃の応酬が行われている。
拓斗は余裕を含んだ言葉を返す。一方で、ヴァギアも言葉通りその猛攻に陰りはない。
無駄に凝った設定による膂力と、H氏によるハックアンドスラッシュゲームが持つ無限の可能性を持った装備の融合。その力は確かにマイノグーラにとって、そして暗黒大陸条約機構にとって驚異となり得る。
だがそれだけだ。それだけでしかない。
誰しもがこの事実の重要さに気づいていない。気づけていない。
もしかしたら、それはただ目を逸らしているだけなのかもしれない。
この場において、否、この世界において。
――伊良拓斗とアトゥは初めて共闘するのだ。
拓斗はヴァギアより距離を取り、一拍の間を置いて構える。瞬間、彼が纏う闇の力が膨れ上がり利き手の先へと注がれる。
必殺の力を込められたレガリアの宝剣が無造作に振るわれる。
余裕を持って躱そうとするヴァギアだが、彼は一人で戦っているわけではない。
刹那――拓斗を陰にして視界を遮る形で四方八方から触手が迫ってくる。先程まで気配を殺し見に徹していた腹心の配下がこの最良のタイミングで致命的な一撃を差し込んできた。
回避は不能。故にヴァギアは先にそれらの触手を武器で切り裂くと、地面を割れんばかりに踏みしめ、下段から切り上げる形で、振るわれた宝剣を受ける。
(反射神経、速度、耐久力は向こうが上。こちらがアトゥが居るぶん手数と不意を突いた攻撃が有利。なるほど、気が抜けないね……)
拓斗は内心で独りごちる。
アトゥを入れてようやく同格。
その事実に思わずため息が出そうになる拓斗ではあったが、逆に同格程度まで持っていけたことに安堵もしていた。
この程度であればいくらでもやりようがある。少なくともその手段は持ち合わせているし、その方法も理解している。
唯一の懸念点は自分たちのミスではあるが、その点については問題ない。
拓斗は挑戦的な笑みを浮かべる。果たしてそれはどういう意味であったのか……。どちらにせよ、極限の応酬が繰り広げられる中、その様な事に頓着出来る者は一人もいなかった。
◇ ◇ ◇
王の戦いを観覧する栄に浴する者は多くはない。
だがその姿を目撃した者は例外なく心を奪われ、隔絶した世界の出来事に思考を放棄せざるを得い。
マイノグーラきっての知恵者であり、今まで王がもたらす数多くの奇跡を直接目の当たりにしてきたダークエルフの長老、モルタールですらそれは例外ではなかった。
「まさに、神々の戦い。我らではその場に立つことすら許されぬ……。これが、王の本当のお力なのか……」
唖然とした物言い。どこか恍惚とさえするそれに、すぐさま物言いが入る。
「感動に震えるのは後にしろモルタール老! 配下のサキュバスどもをあの場に寄せ付けない事が我らに課せられた至上の使命! 見惚れて抜かれたとあっては末代までの恥になるぞ!」
ひっきりなしに指示を行い、同時に自らも手にする銃器で正確無比な狙撃を行うその者こそ戦士長のギア。マイノグーラが誇るダークエルフ戦士団を率いる戦略の要だ。
彼の言葉により老賢者の表情が戦場のそれへと瞬時に戻る。
「ぬぅ! ワシとしたことが、お主に正論を吐かれるとはな! しばし時間を稼げギア! 破滅の魔法を放つ!」
モルタール老はすぐさま呪文の詠唱を始める。
自分より年若いギアに叱咤されたのは業腹だが、だとしても自分が失態を犯した事をよく理解している。同時に、この状況においては謝罪や反省よりもまず何をすべきかをよく知っていた。
マイノグーラと親和性の高い破滅のマナ。そのマナによって使用可能となる魔法は内政には非常に不向きな使いづらいものばかりだ。
引きこもりプレイ向きのマイノグーラとは全くもって相性の悪い戦闘向け魔法。
それらが破滅の魔法だ。
――破滅の魔法とは、このような状況にこそ真価を発揮する。
「破滅の軍事魔術――《怨嗟の外套》!」
軍事規模の魔術が戦場に満ち、魔力が粘性を帯びた漆黒の霧となって拓斗らを包み込む。
《怨嗟の外套》はユニットに破滅属性の防御を付与する軍事魔法だ。
その強化率は『Eternal Nations』におけるユニット強化魔法の中でも随一。
『破滅の大地』とは違い敵味方の識別もできるため自軍だけを強化できる。
だがデメリットとして効果時間の短さと強化されたユニットが存在する土地の建物や改善を敵味方関係なく破壊するという特性がある。
だが効果時間の短さはSRPGの時間感覚を考えれば考慮に値せず、建物破壊については敵地故にメリットにしかならない。
内政で引きこもる作戦が常のマイノグーラにとって宝の持ち腐れと言って良いほどの魔法が、ここに来て輝くことになった。
「まさにこの場にうってつけの技よ。王よ! この老いぼれめのお節介、どうかご笑納くだされ!」
「敵はひるんでいるぞ! 魔獣部隊は前線を押し上げろ! 銃兵部隊は弾幕を増やせ! 王にサキュバスの雑兵を寄せ付けるな!」
ギアの指示によってマイノグーラの配下が猛然と歩みを進める。戦場全域に軍事魔術が放たれたため、防御力上昇の恩恵が配下たちにも行き渡ったが故の攻勢だ。
その隙間を縫うようにダークエルフの銃士が放つ弾丸や爆弾がサキュバスの残存部隊に降り注ぐ。
無事だったサキュバスたちが反転攻勢をかけ、H氏の武器によって繰り出される反撃にマイノグーラ側でも少なくない被害が発生する。
無論この点も拓斗の想定内。
むしろ作戦通りと言ったところだろうか。
マイノグーラの配下ユニットは金銭や魔力によって再生産が可能だ。
無論コストはかかるものの、再配備は容易。内政面やバックアップとして換えの効かないダークエルフや衛生兵を後衛として下がらせ、損耗覚悟で配下を押し出すのは理にかなった方法であろう。
もちろん、その配下たちもただのやられ役という訳ではない。
《首狩り蟲》は人間系のユニットに対して有利な能力を保有しているし、いくらか補充が叶った《出来損ない》はそれこそ生半可なサキュバスでは太刀打ちできない。
土地改善役から引っ張ってきた《破滅の精霊》は魔法による中距離攻撃を主として相手側に被害を与えているし、今回のために新しく用意したユニットも存在している。
総じて、初撃で大ダメージを受けたサキュバスの部隊では防戦一方というのが実情だった。
「ああ、ピンクのゾウさん、きれいだよ……」
崩壊し、その役割を終えたはずのメルーリアン号がまるでなんのことはないと言わんばかりに気色の悪い呟きを繰り返すその残骸の上で、人知を超えた極大戦力がぶつかり合い、自らの意志を貫き通さんと必殺の攻撃を繰り広げる。
メルーリアン号の突撃からはじまった強襲作戦。その余波で戦場は混乱の様相を強くしていく。
当初よりこの作戦を採用したマイノグーラですら、秒ごとに大きく変化していく戦況に翻弄され始めており、拓斗とアトゥの二人がヴァギアにかかりっきりの為、配下の統率も弱まりつつある。
だがその全てが想定内かつ許容の範囲内。
強大な力を持つ者たち同士の戦いを、現実の戦と同等に考えることは愚かに等しい。
すなわち個々の戦闘能力に圧倒的な差が存在する世界において、既存の軍事戦略のセオリーは通じない。
いくら戦略で優位に立とうとも、いくら数で勝る軍隊を用意しようとも。
それらを凌駕する戦闘力を持つユニットが一体いるだけで全て覆される。
すなわちそれは我々が知る既存の戦略が無価値となることを意味し、同時に新たな、そして個別にカスタマイズされた戦略を構築することが求められる。
「その中でも最もスタンダードな戦術がこれ――初手で全力でもって相手のキーユニットを撃破する」
『Eternal Nations』において英雄が撃破されると立て直しがほぼ不可能であると言われる所以でもある。
それほどまでに卓越した個の戦力とは重要なものであった。
(結局のところ、この女が一番厄介なんだ。だからこそここで殺すよアトゥ)
(はい、拓斗さま!)
拓斗とアトゥの連携によってサキュバスの軍勢は徐々に劣勢に押し込まれている。
確かに彼女たちサキュバスの持つ武器は強力だ。だがあくまでそれは個人レベルでの話。軍団レベルの戦いというスケールを持つマイノグーラの英雄と指導者たちに立ち向かえる者はそう多くはない。
事実あれほどの気勢を上げたヴァギアですら防戦一方。途中で参戦してきた護衛のノーブルサキュバスの助けを借りてようやく戦いになると言った有様だ。
圧倒的な有利、圧倒的な力量差。
七神王の魔法がいかに厄介なものであったかを示す結果ではあったが、この状況においてなお伊良拓斗は決して油断することはなかった。
戦況は順調にマイノグーラ有利へと推移している。
しかしながら、拓斗はいまだ気を緩めていない。それどころか懸念すら抱いていた。
(しかし……予想以上に対応が鈍いな? もう少し早く立て直してくるかと思っていたが……)
すなわち相手の行動は鈍いのだ。拓斗の予想としては、もっと早くに立て直して対処をしてくると思っていたのだが、その気配が一向にない。拓斗の考えるヴァギアはこの様な状況にも対応出来るだけの能力を有していたはず。疑問はあるがとりあえず攻撃の手を緩めず一気呵成に戦線を押し上げて圧力を深める。
一方のヴァギアは混乱のさなかにあった。ヴァギアも一応拓斗の狙いは予想できていた。街を破壊し直接マナソースを狙った方法は分からないが、とはいえ現状は全方面から攻撃を受けていることは確か。七神王のカードを主軸においていた彼女としては、抜本的な戦略の立て直しを迫られることになっており、それは実際に行うには非常に厳しいものがあった。
ヴァギアが苦悶の表情を浮かべる。
攻撃の手を緩めず、拓斗はその表情を冷静に分析する。
(マナソースの封印はブラフで反撃の機会を狙っているのか? だとしても現状の損耗を考えると余りにもリスクが大きい。サキュバスの再生産や復活手段も有している? いや、ドキサキュでそのような設定はなかったはず。H氏のゲームでもそれは同じだ)
戦闘を行いながらのマルチタスク。複数の検討を同時並行で処理し吟味する。
戦場における極限までの集中は、伊良拓斗を一つ上の段階へと押し上げていた。
(後詰めに配置した中立同盟国の方も異変は無し……僕の考えすぎか? どちらにしろやることはシンプルだけども……)
この攻撃のため、戦力的に不安のあるペペやドハンはすでに後方の配置や横に広がった戦線を突破して背後を取られないよう予備戦力として確保している。
特に配下の魔物を配置しておけば常に戦況を確認出来るため、あらゆる状況に対応が可能。これがSRPGにおける戦争のメリットだ。
すべてを自らの管理下に置きながら、拓斗は揺さぶりをかける。
「支援を待っているのかい? それは無駄だよ。向こうにも十分な戦力を置いてきた。生粋の勇者とギャンブラーだ。プレイヤーを落とすのは容易じゃない」
そう不敵な笑みを浮かべる拓斗。
ヴァギアからは返事はない。その苦悶の表情を見るに、いよいよ進退窮まったと言ったところだろう。
あと一息、彼女の防御も崩れつつある。相手のリズムを崩す言葉はないかと考える拓斗は、自らの直感に従い瞬時に上体を半歩後ろにそらす。
首筋ほんの数センチ先を一筋の光が走り、同時に拓斗の視界に影が重なる。
「お逃げくださいヴァギアさま!」
「こ、ここは私たちが止めます!」
護衛のサキュバスだ。
チラリとアトゥへと視線を向けると、いくつか触手を切断されたアトゥが視線だけで謝意を向けてくる。
流石に拓斗のサポートをしながら護衛二人を抑えることは厳しかったかと拓斗は軽く頷き、体勢を整えるためにしばし距離を取る。
だが果たしてそれは正しい選択なのだろうか? 状況を見るにヴァギアを逃がすために護衛サキュバスが決死の殿を買って出たのは見るに明らか。
ここで一拍おいてしまってはむざむざ逃亡を許すことになるだけではないのか?
この場にギアやモルタール老がいればそう懸念するであろう。無論エルフール姉妹やクレーエも同じだ。戦略に疎いアンテリーゼでさえそう判断する。
「――っ、ごめんなさい!」
事実ヴァギアは配下の申し出を奇貨と受け取り、一瞬の逡巡のあとに逃走と立て直しを図る。
果たして、伊良拓斗がそのことを予想していないだろうか? 否――。
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〈!〉エラー
移動可能な場所が存在しません。
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「ばっ! 馬鹿な!」
ヴァギアが叫ぶ。不可視の力場が逃走を妨害している。
意志が削がれる、足が動かぬなどと言った次元ではない。もっと高位の部分でヴァギアの行動が根本から挫かれていた。
そんな彼女に拓斗は朗々と説明してやる。
「『Eternal Nations』では隣接する全てのヘックスを敵ユニットに囲まれていると退却ができない。そしてユニットとは何も軍勢に限ったことではなく、単体でもユニット判定される」
ヴァギアの瞳が驚愕で見開かれる。
システムによる矯正力だと判断することは容易であった。だが、「なぜ?」の疑問がどこまでいっても解消されない。
仲間の犠牲を踏み越え逃走を図ろうとしてなお叶わぬ撤退。
自らが散々使ってきたシステムの理不尽が牙を向いた瞬間をヴァギアは確かに感じ取る。
「敵ユニットによって移動先が防がれている場合、排除されるまでいかなる通行も不可能となる。例えばそう、最も低コストで量産できる、《足長蟲》くんとかでもね」
拓斗がどこかからかうような声音でそう告げる。だがその瞳に宿る濃密な殺意は、彼がこの場においてなお一切の油断を行っていないことを如実に表している。
「決死の覚悟で自らの主を逃がさんとするその意気は素晴らしい。ただ、我が王はその様な児戯を許しはしません」
アトゥが付け加える。すでに触手は再生しており、いつでも戦闘を再開できるよう周囲に展開している。
主従の言葉は重かった。
ヴァギアの顔にあった余裕はすでにどこにもなく、ただ混乱と驚愕だけが占めているようにも思える。
だがそれであってもなお、彼女の表情からある種の余裕を感じ取った拓斗は、今までの状況であったならば確実に存在していたであろう油断を排除する。
まだなにかある。拓斗はそう確信している。
「アトゥ。最後まで気を抜かずに行こう」
その言葉は重く暗い。
果てしない闇の奥からやってきたかのようなその声音は、ただシンプルに次の作業を指示するのであった。
=Eterpedia============
【怨嗟の外套】Lv2.破滅の魔法
1ターンの間、対象の土地に存在する自軍ユニットの防御力を上昇
※対象の土地に存在するすべての建築物、改善は破壊される
※防御力の上昇率は破壊された建築物に応じて変化する
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