表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/288

黒い精霊再び

 町の中の確認を終えると冬華たちは瘴気の浄化箇所へと向かった。

 浄化箇所は、瘴気の吹き溜まりとなりミイラの発生率の高かった場所。

 その場所はランディが情報を掻き集めて見つけていた。

 そしてそこへ案内するのがランディの今回の仕事である。

 その場所の一つは石碑まわり。これはサンディが抑えたからいい。

 そしてもう一つが今回の浄化箇所だ。場所は最初に入ってきた門の塀沿いを西に行ったところにある枯れ井戸だ。

 どうしてこの枯れ井戸に瘴気が吹き溜まったのかは不明だが、石碑から地下を通ってここに流れ着いたのではないかと言うのがランディたちの見解だ。

 ミイラとなった人が多かったのは枯れ井戸が比較的門から近かった為だろう。ここから流れ出た瘴気が逃げる人々をミイラ化し、ミイラとなった者がさらに人を襲うという最悪の形となったのだろう。

 

 枯れ井戸へ着くなり、総司は浄化作業に取り掛かる。

 総司は井戸の中へ手をかざすと浄化の炎を火炎放射のように放つ。浄化が完了するまで総司はこのまま放ち続けることになる。

 シルフィが冬華にしていたように冬華たちは総司を護衛するため近くに待機している。

 とはいえ、ミイラは一掃したため邪魔をするものはいないのだけれど……

 冬華はハッとなりまわりを見渡す。

 特に何も起こる気配はない。

『どうしたのですか?』

 そんな不審な行動をする冬華を怪訝そうに見ていたシルフィが訊ねた。

「いや~フラグ立てちゃったかと思って、アハハハ~」

 冬華は乾いた笑いを漏らす。

 カレンは冬華の言っている意味がわからず小首を傾げている。

『何か余計なことを考えていたのですか? もう邪魔するヤツはいないから大丈夫だろう、とか?』

 シルフィはチラリと冬華を見る。

「あはは~」

 冬華は図星を突かれ苦笑いを浮かべた。

『大丈夫ですよ、町中にはもうミイラはいませんから』

「だから、それ言っちゃダメなんじゃん!」

 冬華はシルフィの口を押えようとする。

ジャリ

「!?」

 近くで足音がした。

「(ほら~言わんこっちゃない!)」

『(まさか本当にフラグになるとは……)』

 二人は足音のした方へ注意を向ける。

「(え? なんですか? 敵ですか?)」

 二人が警戒しているのに気づきカレンも二人の視線の先を見た。

ザッザッ……

 足音が近づいてくる。

 総司は浄化に集中しているため動けない。

 三人は息を飲む。

 冬華は剣に手を掛け身構える。

 建物の影から人影が出てきた。


「ちょいさぁぁぁぁっ!」


 冬華は妙な掛け声と共にその人影へと剣を振り下ろした。

「のわぁぁぁぁぁっ!?」

 間の抜けた声が上がった。

 ランディだった。

 間の抜けた声を上げていたが体は条件反射のように反応し、ギリギリで剣を抜き冬華の剣を受けとめた。

 冬華の剣は鞘に収まったままだった。足音がミイラのモノではなく人のモノだとわかっていてわざと斬りかかったようだ。

 手加減したとはいえ、しっかり反応し受けとめたことに冬華は満足げに頷いた。

 ランディは冬華の剣を見て呆れるように溜息を漏らした。

「危なかったねぇ。いきなり出てきたら危ないよぉ」

 冬華は剣を引くと笑顔を見せ悪びれることなくそんなことを言う。さもランディの方に非があるかのように。

「なぜこちらが悪いことになっているのだ!」

 さすがにラディも声を上げずにはいられなかった。このまま放置すれば悪くもないのに謝らさせられるかもしれないと感じたからだ。冬華ならやりかねないところが困りものだ。

「まったく冬華殿は腕はたつのにどうしてこう悪戯好きなのだ……」

 ランディは残念な子へ視線を向けた。

『まあまあ、冬華なりに緊張を解そうとしているのですよ』

 シルフィが冬華を擁護するが、無理があった。

「そうは見えないがな」

 ランディは総司の側へ歩み寄る冬華を目で追いながら呟く。

『それよりどうでしたか? 結界の方は』

「ああ、あちらは順調だ。こちらより早く作業は終わるだろう」

『では、あとは総司次第ですね。頑張ってください』

 シルフィは総司へ視線を向けると淡々と言った。一応応援しているようだが、そうは聞こえなかった。

「あ、ああ」

 総司は集中しているようで短く答えるとすぐに口を閉じる。

「これ、大変だよねぇ、私のときは湖丸まるだったからさぁ、見えてる分なかなか進まない浄化にうんざりしながらやってたよ~。ソウ君は見えないからいいよねぇ。あ、見えないと残りがわかんないから余計にキツイかぁ。だとしたら私の方が楽だったのかなぁ、どう思う?」

 冬華は総司の側に座り込み、総司の真剣な顔を眺めながら一人で勝手に話、総司に話を振るが、総司に答える余裕はなかった。

「あれは邪魔してるようにしか見えないんだが?」

 ランディが冬華を見て呆れたように言う。

『……』

 悪気はないはず。ないはずなのだが明らかにあれは邪魔そうだった。シルフィは庇いようがなく黙り込む。

 ランディの声が耳に入った冬華が反論するために口を開いた。

「そんなことないよ~、浄化って結構大変だよ。こうして話しかけて気を紛らわしてあげてるんじゃん」

『浄化に回してる気も紛らわさないでくださいね』

「そんなことしないって、ねぇ?」

 冬華は総司に同意を求める。

「……」

 しかし、総司は答えてはくれなかった。

「ソウ君、余裕のない男はモテないよ」

 総司が反論できないのをいい事に冬華は言いたい放題言っている。

「ねぇねぇ、冬華ちゃん」

「ん? なになに? カレンちゃん」

「(シルフィさんの歌声ってすごいよねぇ。夢中になっちゃったもん)」

 カレンは夢心地といった恍惚とした表情で言った。

「(う、うん。そうなんだけどね……)」

 冬華は困った顔をして言い澱んだ。

 冬華のそんな変化に気付きカレンは訊ねる。

「(シルフィさんの歌声に何かあるの? 精霊だけに魔法的な付与が掛かってるとか?)」

「(ん~私も詳しくは覚えてないんだけど、昔シルフィの歌で一騒動あったらしいんだよねぇ)」

「(騒動? 何があったの?)」

「(おじいちゃんに聞いた話なんだけど、実は……)」

 それは冬華が幼稚園児の頃だった。

 道場でアキと光輝が稽古をしているのを冬華は隅で見ていた。しかし、すぐに退屈になると庭に出て鼻歌を歌いながら遊びはじめた。

『……』

 一緒に遊んでいたシルフィは冬華の鼻歌を不思議そうに聴いていた。

「ん? シルフィも歌いたいの?」

 冬華が訊ねるとシルフィは俯き、黙って首を振った。

「ん?」

 冬華はシルフィの顔を覗き見た。

 シルフィは頬を赤くしていた。

 冬華は恥ずかしがっているだけだと思った。

「じゃあ、一緒に歌おうよ」

 冬華がそういうと、シルフィは控えめにコクリと頷いた。

「じゃあ、いくよ~せ~の!」

 冬華の合図でシルフィは恥ずかしそうに、控えめに歌い出した。

 小さな声だったが、とても綺麗な歌声だった。

 シルフィの表情からは次第に硬さが抜け柔らかく笑顔になってくる。

 冬華はシルフィの歌声に驚きつつも楽しそうにしているシルフィを見て嬉しくなった。

「お~シルフィ歌うまいな!」

 休憩に入ったアキと光輝が庭に出てきていた。

 アキに褒められシルフィは照れたように冬華の後ろに隠れる。

「む~お兄ちゃん私は~?」

 冬華はアキがシルフィだけを褒めるのが不満でむくれた。

 アキは顔を引き攣らせると、冬華の機嫌を損なわないように言い繕う。

「え、あ、うん、冬華もうまいぞ。な?」

 アキは助けをこうように光輝に同意を求めた。

「……」

 光輝はなぜか不思議そうな顔をしていたが、コクリと頷いた。

「えへへ~」

 冬華は素直に褒められたことを喜んだ。

 アキは冬華の機嫌がよくなりホッとした。

「ふぅ、シルフィもう一回歌ってよ」

 アキが手を合わせてお願いすると、シルフィは恥ずかしがりながらもコクリと頷いて前に出た。

 アキにお願いされるとシルフィは断れないようだった。

 シルフィは嬉しそうに歌い出した。アキに聴いてもらえることがよほど嬉しいようで、声もさっきよりも出ていた。

 アキはシルフィの歌声が気に入ったようで、笑顔で聴いていた。

 その隣で光輝は挙動不審な感じでキョロキョロしている。

 冬華も負けじと歌い出した。


 そして異変が起こった。


 道場の門下生たちがその歌声に引き寄せられるように外に出てくる。

 その表情は恍惚としていて、とても正気の顔とは思えなかった。 

 門下生たちはシルフィへと近づいていく。

「な、なんだ!? みんなどうしたんだ?」

 アキと光輝が何が起こっているのかわからず慌てふためく。

 それでも冬華たちを庇うように前に出る。

「きゃぁっ!?」

 シルフィの横で気持ちよく歌っていた冬華がその異常な光景を見て悲鳴を上げる。

 その悲鳴を聞いてシルフィは歌を止めた。

 門下生たちはシルフィのまわりに集まり、動きを止めるとフラフラと立ち尽くす。

「なんだよこれ……じ、じいちゃん! みんながおかしくなっちゃったぞ!」

 アキは嵐三に助けを求め声を上げた。

 嵐三が出てくると、アキは何があったのかを説明した。

 嵐三はしばし考え込むと「ふむ」と一つ頷き、パンッと手を叩いた。

 すると、みんなは我に返ったように目をパチクリさせる。そして、自分たちがなぜここにいるのかわからずザワつきはじめた。

 嵐三はみんなを道場へ戻すと、シルフィに向き直る。

「シルフィ、お前さんの歌声はみんなには刺激が強いようじゃ。残念じゃが、みんなの前では歌わんでもらえんかのう」

 嵐三は優しく言い含めるように伝えた。

 シルフィは悲しそうな表情をしていたが、コクリと頷いた。

 当然アキと冬華は納得できなかったが、シルフィのためだと説得され渋々頷いた。

 それ以来シルフィの歌声は聴いていなかった。

「ということがあったとさ、おしまい」

 冬華は昔話風に話を閉めた。

「へ~、シルフィさんの歌声は人を操る効果があるのかなぁ?」

 カレンは昔話風には何も突っ込まず自分の考察を呟いた。

『というより、人の精神に干渉するようです。私の感情がそのまま干渉していたようですね』

 話を聞いていたシルフィが話に入ってきた。

「干渉ですか……」

『ええ、おじいさんが言っていました。当時私はアキを大好きって気持ちを乗せて歌っていましたから、それが影響していたようです。いわゆる惚れ薬のような効果ですね。一時的なものですが』

 シルフィは恥ずかしそうに説明した。

「それで、禁止されてたんだぁ。じゃあ、やっぱり歌わせるのはまずいね」

 冬華は険しい表情で言う。口元は笑いを堪えるようにヒクヒクしていた。

『え!? みんなの前じゃなきゃいいんだよね? 冬華と二人っきりの時ならいいって言ったよね?』

 シルフィは縋るような表情をする。

 冬華はそんなシルフィが可愛くなり抱きしめる。

「もう、冗談だよう。二人の時は思う存分歌っていいよん」

 シルフィはホッとした表情をする。

「いいなぁ……」

 カレンは羨ましそうに呟いた。抱きしめている方ではなく歌の方を羨んでいた。

 そんな話をしつつ、しばらく待っていると、結界が張られる瞬間を見ることができた。

「うんうん、こりゃまた綺麗だねぇ」

 冬華は花火でも見ているかのような面持ちで呟いた。

「これで、浄化が終われば皆を町に戻すことができるな」

 ランディはホッとしたように言う。

「い、今のは大丈夫だよね?」

 冬華はまわりをキョロキョロ見る。

『さすがに大丈夫でしょう。そうそうフラグなんて立ちませんよ』

 シルフィはまだ言っているのかと苦笑いを浮かべる。

『そうそう、フラグなんて立たないよ。で、フラグって何かな?』

「何って、シルフィ知ってるでしょ?」

 冬華は何をとぼけたことを言っているのかとシルフィを見るが、シルフィは驚いた表情で首を横に振る。

『今のは私ではありませんよ』

「じゃあ、誰?」

 冬華は犯人を捜すようにカレンやランディへ視線を向けるが二人ともブンブンと首を横に振る。

 冬華が怪訝そうな表情になると再び声が聞こえてくる。

『酷いなぁ、もうわたしのことを忘れたのかい? あんなに激しくぶつかり合ったと言うのに』

 聞き方によってはかなり怪しく聞こえる。

 冬華は視線をめぐらし声の主を探した。

 冬華の視線が宙の一点で止まると表情を強張らせる。

 宙に漂う黒い人影。レイナを襲った黒い男。いや、黒い精霊が浮かんでいた。


『久しぶりだね冬華。あれから強くなったのかな?』



子供の頃の光輝は、やはりシルフィが見えていません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ