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総司、カレンの思いと、冬華の関係ない思い出

 冬華たちは再びサンドガーデンへと向かっていた。

「ハァ、二往復目ともなるとさすがにダルイね」

 冬華は足を引きずるように歩いている。

『足を引きずっていると余計に疲れますよ。それに砂埃も立つのでやめてください』

 シルフィは目を細めて冬華を見据える。目に入るからやめろというアピールだろう。風で弾かれるからシルフィの目に砂が入ることはないのだが……

「はいはい、ごめんなさいね~」

 冬華は適当に謝ると、小学校低学年の入場行進ように足を上げ手を振って歩いて見せる。

『ずっとそのままでお願いします』

 シルフィはジト目を向けて言い放った。

 冬華は意地になって入場行進し続ける。

 そんな二人のやり取りを苦笑いを浮かべながら総司とカレンは見ていた。

 前を冬華とシルフィが、その後ろに総司とカレンが続いて歩いて行く。

 シルフィはペースを落としカレンの横に並ぶ。

『カレン、少しいいですか?』

「え? はい、なんですか?」

 カレンの返事を待ってシルフィは総司へと視線を向ける。

 その目は外せと言っていると察し総司はペースを上げると冬華の横に並ぶ。

 総司が外したのを満足げに頷くとシルフィは口を開いた。

『カレン、どうして村へ戻らなかったのですか?』

「え? それは……」

 カレンはシルフィの表情から責められているのかと思い言葉に詰まってしまう。

『あ、別に責めているわけではありませんよ。ただ、我々に係わるということは危険な戦いに巻き込まれるということを意味します。それなのになぜ、自らその渦中に跳び込むようなまねをするのかと思いまして』

 カレンはどう見ても戦闘向きではない。後方支援タイプ、しかも後方陣営内での支援タイプである。要するに戦場での回復役ではなく、後退してきた者への回復役である。そんなカレンが戦場にまで出てくるのは危険なのである。汐音くらいに攻撃や防御に貢献できるのなら話は別なのだが……

「それは、私にも何かできることが、役目があるんじゃないかと思ったんです。アキを見ていて思ったんです。アキは誰かに強制されたわけでもないのに自分の役目を見出しそれを全うしようと頑張ってた。だから私もそれを見つけたい、アキみたいに頑張りたい。そう思ったから残ったんです。迷惑、ですよね。私みたいな足手まといが残っても……」

 カレンは素直な気持ちを言った。自分の勝手な思い込みでわがままを言っているのだから。帰れと言われるかもしれない。それでもみんなの力になりたいと思っていた。

 シルフィはカレンの言葉に引っかかりを覚えていた。

『いえ、迷惑などとは思っていませんよ。実際カレンの回復魔法には期待しています。当然単独で前線には出せませんが、結衣と組ませれば救急車的な運用もできそうですしね』

 シルフィはアキが考えそうな発想を持っていた。

「キュウキュウシャ?」

 カレンは聞きなれない単語に首を傾げる。

『いえ、こちらの話です。コホン』

 シルフィは咳払いをすると続ける。

『カレンが何を思って残っているのかを知りたかっただけですから、そんなに不安そうな顔をしなくてもいいいですよ』

 シルフィはカレンの緊張をほぐすように微笑みかけた。

「はい」

 カレンも緊張を解き肩の力を抜いた。それを確認しシルフィは口を開いた。

『それで、カレンはアキの事が好きなのですよね?』

 シルフィはカレンが油断している今、単刀直入に訊ねた。

「な!? ななな、なんですかいきなり!?」

 カレンは見事なまでに取り乱した。

『あ、その反応だけでわかりましたから答えなくていいです。それで、カレンはなぜアキから離れたのですか? 近くに居たいとは思わないんですか? やっぱりあの二人を見ていられなかったですか?』

 シルフィはなんの遠慮もなく訊ねた。

「アキ……あの人、本当にアキなんでしょうか」

 カレンは呟くように言った。

 カレンが返した言葉はシルフィの先ほど感じた違和感の答えを示していた。

 カレンはさっきアキの事を話していた時、過去形を使っていた。アキが戻ったというのに。シルフィはそこに引っかかっていた。そしてこれが答えだった。

 シルフィはカレンの顔を真っ直ぐに見ていた。

 カレンはその視線を感じ慌てて言葉を探した。

「あ、い、いえ、違うんです。そのすいません……」

 カレンは「何寝ぼけた事言ってるの」と睨まれているのだと思い俯く。

『なぜ謝るのです? 怒っているわけではありませんよ? カレンの考えを聞かせてください』

 シルフィは表情をやわらげカレンを促す。

「私、アキとアギト両方を見てきたから感じたんですけど、なんていうか、芯? みたいなものが前とは違う気がして、それを隠そうとしているような……ん~うまく言えないなぁ。すいません、これもう勘ですよね。具体的にこれっていうものはないんです」

『いえ、いいですよ』

「でも、サラさんも気付いてるんじゃないですか? 知っててそうしてるような……すいませんこれも勘なんですけど」

『女の勘ですか……』

 シルフィは無表情で呟いた。

 カレンは余計な事を言ったかと思い、シルフィの顔色を窺う。どうもカレンはシルフィの事が苦手のようだ。

『そんなにオドオドしないでください。そんなに私、怖いですか? 少しショックです』

 あからさまにビクビクされるとさすがのシルフィも悲しくなってきた。これでも極力優しく接しているつもりでいたから余計に悲しかった。

「いえ、そういうわけではなくですね! その、精霊さんとお話するなんて夢にも思っていなかったもので、失礼があってはいけないと思いまして……はい、すみません」

 カレンはなんとか誤解を解こうと頑張ったが空回りし、結局謝った。

『フフッ、そんなに気にしなくていいんですよ。私たちは仲間なのですから』

 シルフィは微笑みかける。

「は、はい!」

 しかしカレンの緊張はなかなかほぐれなかった。そのうち「シルフィ先輩!」とか言いだしそうな感じだった。

 シルフィは苦笑いを浮かべる。

 カノンはアギトの正体をすぐに見破った。カレンにも人を見る目があるのかもしれない。だからあの時アギトについて来たのかも知れない。だとしたら、今の勘もあながちでたらめではないのかもしれない。

 シルフィはそんなことを考え、カレンの評価を少し上げておいた。


 シルフィとカレンがそんな話をしているとき、前を歩く冬華たちも話をしていた。

「ソウ君、結衣ちゃんと喧嘩した?」

 冬華は入場行進しながら前置きなしに訊ねた。

 冬華は結衣との約束を果たそうとしていた。仲直りするにあたり総司が何を考えているのか聞き出すと、仲介人である冬華が勝手に約束したのだ。もちろん結衣はそんなことは一切考えていない。冬華が勝手に勘違いしているだけだった。

 いきなりの質問に総司は驚きつまずきそうになる。

「ず、ずいぶんいきなりだな。……ん~喧嘩だっけ? 喧嘩なんかしてないけど?」

 総司は身に覚えがなかった。

「ふ~ん、じゃあなんで結衣ちゃんと距離置いてるの?」

 冬華は鋭く切り込んできた。アホな子のようで意外と見るところは見てる子だった。

 冬華は今バカにされた気がして総司を睨んだ。

 総司は身に覚えのない濡れ衣を着せられていた。

「距離、か……確かに距離感を掴みきれていないのかもしれない」

 総司はよくわからない言い方をする。冬華にわかるはずなかった。

「え? どういうこと?」

 冬華は不機嫌そうに聞き返す。総司がワザとそんな言い方をしたと思ったからだ。

 総司は一瞬辛そうな表情を見せると口を開いた。

「召喚初日に俺と結衣が体験したことは知ってるよね?」

「……うん」

 冬華は暗い表情で頷く。

「俺は結衣を必ず守ると約束した。それは兄としてそう思っているのか、それとも……同情しての事なのか、そう考えだしたらどんな顔をして接したらいいのかわからなくなった。結衣はそんな俺の考えにすぐに気付いて俺を気遣うように元気に振る舞ってくれる。それが何だか余計に辛くなってうまく接することができなくなったんだ」

 総司は年下の冬華に何を話しているんだと自嘲した。

 冬華は入場行進しながら考える素振り(そぶり)を見せると口を開いた。

「ん~、それって一人で考えても答えなんか出ないよね。ソウ君と結衣ちゃんで話して今の気持ちを打ち明けて一緒に泣いてあげて。そんでもって抱きしめてあげてよ。お兄ちゃんのぬくもりが心の傷を癒してくれると思うよ」

 冬華は昔の事を思い出していた。

 あれは冬華が小学生の頃だった。

「お兄ちゃん待って~」

 冬華はアキを追いかけていた。

 アキが友達と遊ぶため出掛けたのだが、冬華はそれについて行った。

「空雄~また妹連れてきたのかよ~」

 友人Aは呆れたように言った。

「ちげぇよ、冬華が勝手に付いて来てるだけだ!」

 アキは声を荒げて言う。

「そうか~お前ホントはシスコンなんじゃねぇの?」

 友人Bからかうように言った。

「んなわけねぇだろ!」

 アキは否定する。

「お兄ちゃん! やっと追いついた」

 冬華は笑顔でアキに抱きついた。

 それを見た友人Bは面白がりこう言った。

「やっぱりこいつシスコンだ! シ~ス~コン、シ~ス~コン、シ~ス~コン」

「ちげぇっつってんだろ! 冬華もついてくんなよな!」

 アキはムキになり冬華を引き剥がす。

「!?」

 冬華は勢い余って転んでしまった。

「な、なんで? なんでそんなこと言うの? ヒック、ヒック、う、うぇぇぇぇぇぇん」

 冬華は大好きなアキに冷たいことを言われ泣き出してしまった。

 友人たちはオドオドしはじめる。

 それ以上にアキは動揺していた。

 アキは妹が泣くのを何より見たくなかった。にもかかわらず自分が泣かしてしまったのだ。

「な、泣くなよ。俺が悪かったから、な? 泣き止めよ」

 アキは冬華の頭を撫でて慰める。

 冬華はアキの胸に飛び込みガシッと抱きつき泣き続ける。

「ヒック、ヒック」

 アキは抱きついて離れない冬華を抱きしめ泣き止むまで頭を撫で続けた。

 それがきっかけでアキのシスコン疑惑が広まった……

(あれ? これ違う思い出だ。ん~こっちかな?)

 これも冬華が小学生の頃だった。

 稽古が終わり道場で鍋が振る舞われた。

「おいしいね、お兄ちゃん」

 冬華はホクホク顔で鍋を食べまくっていた。

「おい! 冬華食い過ぎだ! 俺の分がなくなるだろ!」

「お兄ちゃんが遅いのが悪いんだよぉ」

「光輝も早くしねぇと全部食われちまうぞ!」

「う、うん」

 アキと光輝は冬華に負けじと食べていたが、善戦むなしく半分も食べられなかった。

「あ~おいしかった~」

 冬華は満足顔でお腹をさすりアキに寄りかかっている。

「ハッハッハッ、冬華は相変わらずよく食べるなぁ。見ていて気持ちがいいわい」

 嵐三は嬉しそうに冬華の頭を撫でる。

「えへへ~」

 冬華は嬉しくなり頬が緩んだ。

「食い足りねぇよ~おかわりねぇの?」

 アキが満足できずにぶうたれる。

「そうは言ってものう、もうおらんのじゃ」

 嵐三は申し訳なさそうな表情をする。

 アキはそんな表情より、別の事が気になっているようだ。

「おらん? なにが?」

 アキは訊ねた。

「ん? 鶏じゃよ?」

 それがなにか? みたいな顔で嵐三は言った。

「……鶏?」

 アキは顔色を悪くすると、鍋と庭を交互に見た。

 冬華はアキが何に焦っているのかわからずに小首を傾げていた。

 アキは庭に飛び出した。

「ピーコ! ピーコ!」

 アキの呼びかけに答える者はいなかった。

「ピーコがどうしたの?」

 冬華は不思議そうにアキを見つめ訊ねた。

「あ、いや、何でもない」

 アキは冬華から目を逸らすと誤魔化すように口ごもった。

 光輝はそれに気付き、衝撃の事実を告げようとした。

「あ、さっきの鍋の鶏肉って、ピー……」

 アキは言わせまいとし、素早い動きで光輝の口を塞いだ。

 しかし、遅かった……

「え? ピーコ?」

 冬華はたった今お腹を満たしたものを思い出し硬直した。

「うむ、ピーコももう年じゃったからのう、さ……」

「ヒック、ヒック、うぇぇぇぇぇぇん、ピ~コ~」

 嵐三が言い終わる前に冬華は泣き出してしまった。

「なんで言うんだよ! ピーコは冬華がすっげぇ可愛がってたんだぞ! それを冬華が一番食っちまったんだから言うなよな!」

 冬華はアキに止めを刺されてしまった。

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」

 冬華はよりいっそう泣き出しアキに体当たりで抱きついた。

「グフッ!? な、泣くなよ~」

 アキは地面に倒れ冬華が泣き止むまで抱きしめ頭を撫でていた。

 それが切っ掛けで冬華は、鶏は愛でるモノであり、味わうモノだと学習した。

(ピーコ……道場で飼ってた鶏、可愛かったなぁ、とり鍋もおいしかったなぁ)

 冬華は頬に手をやり、あの味を思い出し舌なめずりする。

 同情と道場、そんなダジャレ的発想で思い出したわけではないが、これも何か違う。

 いい思い出が浮かばない。他に何か……

 冬華が他の思い出を掘り起こそうとして険しい表情になる。

 総司はそんな冬華を怪訝そうに見ていた。

「冬華ちゃん?」

「ん? なに?」

 冬華はなんの話をしていたのかすっかり忘れていた。

「冬華ちゃんが言うように戻ったら一度結衣と話してみるよ」

 総司は微笑みを浮かべてそう告げた。

「え? ……あ、うん。そうしてあげて、ソウ君お兄ちゃんなんだからしっかりね!」

 冬華はギリギリで思い出し、握り拳をつくり激励を送った。

 冬華が関係ない思い出に浸っていたことなど気付かずに、総司は心配してくれる冬華に感謝していた。


 各々話していると、目的地であるサンドガーデンが見えてきた。

 そのころには冬華の入場行進も勢いがなくなってきていた……


冬華は昔から大食らいだったようです。

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