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違和感

「と、言うわけだからソウ君連れてくね。コウちゃんはお兄ちゃんと修行しててよ」

 冬華たちはサンドガーデンでのことをみんなにはなし浄化のために総司を連れて行くことを告げた。

「わかった。僕は構わないけど……」

 光輝はアキを見る。今だに力を引き出せていない自分にアキは怒っているかもしれない、協力はしてくれると思う、だがその前にいろいろ言われるだろうと覚悟を決めた。

「俺の力が役に立つんなら構わないぞ」

 アキはそういうと、シャドーボクシングをして見せる。ボクシングなどしたことがないため妙な動きをしていた。

 妙な動きはともかくとして、アキは何も言って来なかった。光輝はそこに引っかかりを感じた。

 しかし、言わなかった分修行に反映されてくるのではないかと思いなおし、光輝は頬を引き攣らせる。加減なしのアキの力がどこまでのモノか想像もつかなかったからだ。

 光輝は頬を引き攣らせて黙り込んだ。

「ところで、なんで俺なんだ? 冬華ちゃんじゃ浄化できないのか?」

 考え込んでいた総司が訊ねた。

『推測ですが、各封印にはそれぞれ属性が関係していると思われます。レイクブルグは湖が穢れていましたから水、モルデニアは植物が変異していましたからおそらくは土、そしてサンドガーデンはあの暑さですから火だと考えられます。体の水分が蒸発してミイラとなっているので間違いないかと』

 シルフィが丁寧に説明する。

「なるほどね。うん、ありがとう」

 総司は納得できたように一つ頷くと礼を言った。

『いえ』

 サンドガーデンへ向かうメンツを見て何かに気付いた汐音が口を開いた。

「3人だけですと回復役がいないですね。サラさんがもう一度行くんですか?」

 汐音はあまり行く気はないようだ。他に行く者がいなければ行く、その程度の意気込みのようだ。

 しかし、光輝のサポートをするためにも光輝の側を離れるわけにはいかないと思っていた。

 先ほどの光輝との姿を見た後ではそれだけが理由とは思えないのだが……

 汐音の言葉を聞いてサラはアキの腕にしがみつきアキを見上げる。傍から見ると「行きたくないから助けて」と言っているように見える。それほどまでにアキと離れたくないのだろう。

「俺は光輝の修行の手伝いしないといけないからなぁ」

 アキは困った顔をしてサラに言った。

「そんなぁ……」

 サラの表情は絶望に彩られた。

 もう十分過ぎるくらいイチャイチャしてただろうに、これ以上イチャつく気なの!? 何する気なのよ! と冬華は心の中で叫んだ。アキの幸せを考えると言ってしまった手前、口を出すことができなかった。

 常識の範囲内であれば口出ししても問題ないのだが、今の冬華はそこまで頭がまわらなかった。

「ぐむむむむ」

『何を唸ってるんですか?』

 シルフィが小首を傾げる。

「だったら、わたしが行きましょうか?」

 カレンが控えめに手を上げて立候補した。

 サラは素早く反応し、期待に満ちた目をカレンに向けていた。

 以前アキに向けていたカレンの視線は好意のものだったはず、カレンもアキと一緒に居たいはずなのになぜわざわざ離れようとするのだろう?

 シルフィは疑問に思いカレンとアキに視線を向けた。

 アキにはサラが寄り添い幸せオーラが嫌味なほどに放たれている。これに()てられるのはアキに好意を寄せている者にとっては拷問に近いだろう。シルフィでさえあまりいい気はしないのだからカレンには相当だろう。カレンもアキから視線を外している、直視するのはキツイのだろう。

『(なるほど、そういうことですか)……わかりました。ではカレンに付いて来てもらいましょう』

 シルフィはそういうとカレンに微笑みかけた。気持ちはわかると言いたいのだろう。

「はい、よろしくお願いします」

 カレンはぎこちない笑顔を見せると、部活の後輩のように勢いよく頭を下げた。

 聞き耳を立てていたサラの表情は花が咲いたように晴れやかになり、アキに寄り添った。

 そんなカレンにアキは何も言わない。それはそれでやはりおかしい気がする。アキはカレンが自分に好意を寄せていることに気付いていなかった。気付いていれば距離を取ろうとするかもしれないが、気付いていないアキならば何かしらちょっかいを出してもいいはずである。

 例えば、「真面目か!」とか「あれから少しは役に立つようになったのか?」とか「体は成長してないのな?」とか。カレンを怒らすようなことを以前は面白がって言っていた。

 それなのに今はサラの言っていたように、謙虚で真面目な印象を受ける。やはりおかしい。

 シルフィは疑念を再び抱きはじめる。

「……」

 離れたところから黙って総司とカレンを見ている結衣を、冬華は怪訝そうに見ていた。

 そして溜息を吐くと結衣に近づいて行った。

「結衣ちゃんも一緒に行こうよ」

 冬華は結衣にそう提案する。やはり二人の態度がおかしい、留守の間に何かあったのかと思い、気を回したのだ。喧嘩ならここで仲直りさせてやろうと考えていた。

「え? な、なんで? あたしが行っても役には立たないし……」

 結衣はとぼけて話を濁す。

「(喧嘩でもした?)」

 冬華は他に聞こえないように小声で話した。隠しているようだから余程聞かれたくないことなのだろうと思いそうしたのだ。

「ううん、喧嘩なんてしてないよ」

 結衣は胸の前で両手を振り否定した。

「え? そう? じゃあなんでこんな離れたとこにいるの?」

 冬華はまわりくどいのが面倒になりズバリ聞いた。さすがに総司たちにも気付かれ視線がこちらに向けられた。

「え、いや、ほら、あんまりあたしには関係なさそうな話だったし、邪魔しちゃダメかなって……」

 みんなの視線が気になり、結衣の声尻は弱々しくなっていく。

「関係ないことないよ、私たちの問題だよ? 結衣ちゃんだって仲間じゃん、寂しいこと言わないでよ~私悲しくなっちゃうじゃん」

 こういう時冬華は本心しか言わない。本気で仲間だと思い、本当に寂しく思い悲しんでいる。結衣は冬華がいつものように本気でぶつかってきてくれることが嬉しかった。

「そうだね……仲間、だもんね。ゴメンね冬華ちゃん」

 結衣はいつものように微笑んだ。

 冬華はその笑顔を見て嬉しくなり、いつものように抱きついた。

「じゃあ、一緒に行ってくれるよね?」

 冬華は結衣が来てくれると思い、もう一度誘った。

「ううん、あたしは行かない」

 結衣は微笑むと冬華の頭を撫でながら断った。

「ええ~、なんで~」

 まさか断られるとは思わず冬華は不満顔でむくれる。

「ゴメンね、やっぱりあたしがついて行っても役には立たないし……(あたしのやれる事をするよ)」

 結衣が言ったことは本心だった。

 今回必要なのは総司の力、そして回復役のカレン、結衣の出番はないだろう。どんなに冬華が気を回してもそれは変わらない。

 そして結衣には結衣にしかできないことがある。

 それは以前アキに、いやアギトに言われたこと。結衣の力は守る力、この力でまずは自分を守れるようになれ。次に仲間を、そしていずれは目に映る人々を守れるようになってくれ、と。結衣にはもうこれしか残っていなかった。総司の心が離れつつある今、妹として総司が帰る場所を守ろうと思ったのだ。……とはいえ、本音を言えば離れていく総司を間近で見ていたくなかったのだが。

「(やれる事?)」

「(うん。だから総司の事お願いね)」

「……わかった。任せてよ!」

 冬華は力強く胸を叩いて頷いた。

 結衣は本当にわかったのかと少し不安に思っていた。


 出発は明日と告げ、サプライズ兼話し合いはお開きとなった。



 光輝と汐音は中庭に来ていた。

「五十嵐君、生きていて本当によかったですね」

 汐音はホッとしたように微笑む。汐音は光輝がずっと悔やみ自分を責め続けていたことをいつも隣で見ていた。だからこれで光輝の後悔の重荷もなくなったのだと思いホッとしていたのだ。

 しかし光輝の表情はそれほど晴れやかではなかった。

「……そうだね」

「何か気になることでもあるんですか?」

 そんな光輝を訝しく思い汐音は訊ねた。

 光輝が気になっているのはこれからここへ来る者の事である。

 光輝が汐音を連れてここに来た理由は、汐音とゆっくり話をするためでも気持ちを伝えるためでもない。シルフィに呼び出されていたのだ。本当は光輝だけが呼ばれていたのだが、光輝が汐音もいた方がいいと判断し連れてきたのだ。

 汐音にはまだそのことを話ていなかった。

「実はシルフィに呼び出されていてね、彼女の雰囲気からあまりいい話ではなさそうなんだ」

 声を掛けられた時のシルフィの態度は普段通りのものに見えたが、その実、目がかなり真剣なものだったのだ。だからこそ光輝は汐音も連れてきたのだ。

 汐音を連れだって中庭に来れば誰も邪魔しに来ないだろうとはさすがの光輝も思ってはいなかったが、みんなは逢い引きなのだと勘違いし、何も言わず二人を見送っていたのだ。図らずも人払いができたというわけだ。

「あ、そうだったんですね……」

 汐音は声音は明らかに低くなり、テンションは下がっていた。無意識の反応で汐音自身テンションが下がった事には気付いていなかった。

 急にテンションが下がった汐音を不思議に思い光輝は首を傾げた。

『お待たせしましたか? それとも、もう少し遅く来た方がよかったですか?』

 シルフィは微笑み、いらぬ気づかいを見せた。

 汐音がいても特に何も言ってくる気配はない。いてもおかしくはないと思っているようだ。

「いや、僕たちも今来たところだけど……?」 

 光輝はシルフィの言っていることの意味に気付いたが、まさかシルフィがそんなことを言うとは思っていなかったため、返事に窮してしまった。

『ふむ、反応が薄いですね。汐音の苦労が窺えます』

 シルフィは汐音をチラリと見て言った。

 汐音は苦笑いを浮かべ、光輝は不満そうな表情をする。 

 確かに汐音には苦労を掛けているかもしれない。無気力状態の時ずいぶん心配を掛けてしまった。いろいろ気を使ってもらった。いつか恩返しとまでは言わなくても何かお返しをしようとは考えている。そんな鈍感扱いされる覚えはなかった。

 そんな光輝の抗議の視線などお構いなしにシルフィは本題に入る。

『光輝、汐音、アキにはまだ気を許してはいけませんよ』

 二人の表情は一気に硬いものへと変わった。

 ついさっきまでアキの生還のことで盛り上がっていたところへこの警告である。気持ちの切り替えに時間がかかってしまう。

「なぜ、そんなことを?」

 汐音が切り替えの時間を稼ぐために疑問を投げかけた。

『彼には違和感があるのです。確かに魔力特性でも本物だと出ていますが、何か引っかかるのです。以前のアキとは何か違うような……』

 シルフィは些細な違和感なため、はっきりとは言えないでいた。

「それは僕も感じていたけど、以前とは状況が変わったからじゃないのか?」

 以前と今とでは明らかに状況は異なる。それのせい、というかそのおかげで違和感が生まれているのかもしれない。光輝はそう思っていた。

「サラさんの存在ですね。以前の五十嵐君にはサラさんがいなかった。でも今はサラさんがいる。晴れて両想いとなり人として成長したんじゃないですか?」

 汐音の言う通りなのかもしれない、しかしそれでも腑に落ちない。シルフィは感覚でそう思っているため言葉にするには難しかった。光輝たちが気に留める具体的な何かを提示しなければ警告しても聞いてはくれない。

 シルフィはまず二人の認識を確かめることにした。

『……二人は以前のアキを謙虚で真面目な人だと思いますか?』

「え? それは……見方によってはそう見えなくもなかったような……」

 光輝は幼馴染に気を使い濁して答えた。いや、実際にそう見えないこともなかった。ただ、どう見えるかと聞かれて真っ先にその単語が出てこないだけだった。

「いえ、見えませんね」

 しかし汐音ははっきり言い放った。

 確かに汐音ならそう答えるだろう。光輝はわかっていてもさすがにそこまではっきり言わなくてもいいんじゃないかと思っていた。アキにもそういう部分はある、そこは評価してやってもいいんじゃないか、と。

 そんなことを思っている光輝など気にも留めず、シルフィは今までの出来事から光輝たちを納得させる事柄をまとめ話を進める。

『サラさんはアキと再会する前からアキをそう評価していました。そして今のアキはそのように振る舞っている。サラさんがあれほど積極的にしているのに、当のアキは平然としているのもおかしいのです。光輝に対する態度も緩いものでした。様子のおかしい総司や結衣、カレンにも何も言わない。言うであろう言葉を言わず、行うであろう行動をしない。明らかにらしくありません』

 シルフィは違和感を覚えたことを一つ一つ上げていった。

 二人は黙って聞き、確かにその通りだと頷く。

『些細な事かもしれませんが、用心しておく必要はあるでしょう。封印もあと一つ、ここを守り切るためなのです。それに何もなければそれでいいんです。彼が本物であると証明するためだと思ってくれればいいです。私は冬華と行かなければなりません。お二人に頼めないでしょうか?』

 シルフィはそういうと佇まいを正し真っ直ぐに二人を見た。

 シルフィが頼み事をしてくるとは思わなかったふたりは驚き、それほど疑念を抱いているのだと悟った。

「わかった、アキの事は僕たちが気に留めておくよ」

「そうですね、用心に越したことはないですからね」

『すみませんが、よろしくお願いします』

 二人の了承を得てシルフィは丁寧に礼を言った。




 ……


 ……闇


 ……闇の中に男が一人


 ……そして男の前にはサラが


 ……サラはハラリと服を脱ぐ

 艶めかしい裸体があらわになる

 サラは頬を朱に染め恥ずかしそうに俯く

「あまり、見ないでください」

 男は微笑むと手を伸ばす

「おいで、サラ」

「はい」

 サラは消え入りそうな声で頷くと男の手を取り、腕の中へ包まれる

 サラはトロンとした瞳を男へ向けると瞳を閉じた

 男はサラの唇へ唇を重ねた

「……ん、ん」

 サラは艶っぽい声を漏らす

 男は無表情に虚空を見つめる

 その視線の先には赤髪の女が立っていた


 ……


 ……


ガバッ


「……」


難しいですねぇ。

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