表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/288

アンデッド

 冬華たちは再びサンドガーデンに来ている。

 避難所のミイラ化の進む人たちを救った後、セイラの口添えで姫たちへの謁見が叶い話を聞くことができた。

 姫の名前はサンディ・ガルデン。小麦色の肌にダークブラウンの長髪を三つ編みに編み込んでいる。顔だちも整っており、その瞳からは強い意思が感じられる。

 サンディの話によると、召喚の儀を行わなかったのは魔力がなかなか安定しなく、行いたくとも行えなかった。そしてなぜだか突然安定したので召喚の儀を行ったのだそうだ。腑に落ちなかったが、今を逃したらまた安定しなくなるのではないかと思い行ったのだそうだ。その結果がこれなのだが……

 その後の話はセイラに聞いた話と同じものだったが、石碑が破壊されたという報告をした者が行方不明とのことだ。その者は石碑から瘴気が噴き出し、警備をしていた者がミイラとなっていくさまを目撃したのだそうだ。そして行方がわからなくなった。ミイラ化したという可能性が濃厚ではあるけれどサンディは無事であることを願っていた。

 そして、瘴気をこれ以上拡散させないためサンディの力で瘴気を抑え込んでもらう必要がある。サンディもそれはわかっていたが、城内にミイラが多数徘徊しているということでなかなか手が出せないでいた。

 そのため冬華たちがミイラ共を一掃する役目を負ったわけである。

 冬華たちは逃走で使用した経路を逆にたどり城内に潜入した。

「取りあえずミイラを狩ってく?」

 冬華が剣を抜き訊ねる。

『そうですね。ミイラが外から侵入してこないか城壁を確認しながら狩っていきましょう。その後、城内を階下から掃除していきましょう』

 シルフィがそう提案する。

「了解!」

「わかりました」

 冬華とサラは了承し、城壁を回って行った。

 城壁に異常は特に見られなかった。

「特に破壊されてる箇所はないね」

 城壁を手でなぞりながら歩く冬華が呟いた。

『そうですね。魔物はここまでは攻めて来なかったのかもしれません』

 シルフィが城壁を確認しながら話す。

『石碑さえ破壊できればあとは勝手に滅んでいくとふんだのかもしれません。そうなると魔物の襲撃は兵たちの目を向けるための揺動だったのかもしれません。そして逃げていく人間を追撃するのが役目だったのかもしれません』

「でも、セイラさんの話だと、召喚の儀が失敗して魔物がせめて来たって言ってなかった? 順番だと召喚の儀がはじまって、石碑が破壊された。で、召喚が失敗して、魔物が攻めて来たんじゃないの?」

 冬華は聞いた話を思い出すと頭の中で整理するように口にする。

『順番が違ったのかもしれませんね。警備の兵が一瞬目を離したというのは魔物が攻めてきて慌ただしくなったからかもしれません。そして石碑が破壊された』

 シルフィは当時の情景を想像しながら話した。

「私たちが勝手に思い込んでいたということですか」

 話を聞いていたサラが呟いた。

『そうです。人は違和感を抱かなければ聞いた話をそのまま受け入れてしまう傾向にありますから』

 シルフィは淡々と言う。

「シルフィも受け入れてたよね」

 冬華がボソリと突っ込む。

『私はアキといた時間が長いから人間寄りの考え方なの!』

 シルフィは頬を膨らませて言う。いかにも人間らしい反応だった。

「でも、それがわかったところで何も変わらないような……」

 冬華は身も蓋もないことを言ってしまった。

「……」

 サラも同意見のようだでバツの悪そうな表情をする。

『そ、そんなことないよ! ミイラ以外の敵の数が少ないだろうってことがわかったじゃない!』

 シルフィは素に戻り顔を赤くして声を上げる。

「た、確かにミイラ以外は見ていないですね」

 サラが納得してまわりを見渡した。

「ゴメンゴメン、わかったからそんなに怒んないでよ~」

 冬華はシルフィの腕に絡みつきご機嫌をとる。

『む~』

 シルフィはむくれたままなかなか機嫌が直らない。

「そんなにむくれてないで早くミイラ片付けちゃお? ね?」

 冬華はシルフィの頭を撫でながら微笑みかける。

『……うん』

 シルフィはあまり納得いっていない様子だがもたもたしているわけにもいかず渋々頷いた。

「よし! じゃあ、城内を片付けよぉぉ!」

 冬華は拳を振り上げた。

 今回もやはり冬華一人だけだった。

「……」


 城内は話した通りミイラだけで、魔物の姿はなかった。ミイラを倒しながら謁見の間へ向かうと一体のミイラがいた。外観だけでそれが誰なのかがわかる。頭上に輝く王冠がこの城のかつての主であることを示している。

 サンディが言っていた。

 王は民の避難を見届けてから避難を開始する予定だったのだと。そして、逃げ遅れてしまったそうだ。

「立派な王様だったんだろうね」

 冬華は生前の王に敬意をはらうと剣を構える。

「人を襲う前に終わらせよう!」

 冬華は王に人を襲わせるようなことはさせてはいけないと思った。

 冬華は苦しまないように、死んでいるからそれもおかしいのだが、気持ち的にそうしてあげたいと思い一刀のもとに斬り払おうとした。

 そのとき、王のミイラから黒い靄が噴き出ると実体をなくし冬華の剣はすり抜けて空振った。

「え!?」

 突然の出来事に冬華はわけがわからず一瞬硬直してしまった。

『冬華!』

 シルフィが声を上げた時には冬華のすぐ横に王が現れ、その手で冬華を触れていた。

「っ!?」

 冬華は力なく崩れ落ちると片膝を着き、剣で体を支えた。 

『冬華!?』

 シルフィが王のミイラに風の魔法を放った。

 しかし、先ほどと同じように実体をなくすと魔法はすり抜けていった。

「冬華さん!」

 サラが冬華へ駆け寄り回復魔法を掛ける。

「あ、ありがと。ふ、触れられただけなのに力が……」

 冬華は苦しそうに礼を言うと視線を前に向ける。

 視線の先に王のミイラが現れると黒い靄が纏われていき、ミイラだった顔はドクロへと変貌し手には死神が持つような巨大な鎌が現れた。その姿は黒いローブで身を包み鎌を担いだ死神のようだった。

「な、なに、あれ? まんま死神じゃん……」

 冬華は放心したように呟いた。

「まさか、文献の死神って本当に死神だったんじゃ?」

 サラは恐怖で上ずった声を漏らす。

『落ち着いてください。あれは死神ではなくアンデッドでしょう。見た目からリッチ、でしょうか? そう呼称しましょう』

 シルフィはアキの中にいたときに得た知識を引っ張り出し冷静に分析をはじめる。

『アキの知識を借りるなら、冬華は触れられたことで生命力を奪われたのでしょう。俗に言うエナジードレインですね。対処は簡単です。触れられなければいいんです』

 シルフィは淡々と説明する。

「簡単に言うけど、どこから現れるかわかんないじゃん……それで攻撃はどうするの?」

 冬華は触れられる前に攻撃してやろうと考えた。

『通常攻撃は効かないはずです。冬華の水の剣が有効なはずです。なんと言っても浄化の力ですから。後は魔法も有効なはずですけど、今躱されてしまいましたし少し怪しいですね。ないよりはましですけど』

 シルフィがそういうと冬華は立ち上がろうとする。

「わかったよ……!? あ、あれ?」

 しかし冬華は力が戻っていないのか足に力が入らない。

「ダメージとは違うから回復できていないのかも」

 サラが困惑したように言う。

『私が時間を稼ぎます。その間に何とか冬華の回復を!』

 シルフィはそういうとリッチに向け魔法を放っていく。

「わ、わかりました」

 サラは回復魔法を掛けながら他にやれることはないかと考える。

 冬華は悔しそうにシルフィの方へ視線を向けている。

「と、とにかく体力を回復しないといけないのでこれ食べてください」

 サラは非常食の干し肉を差し出す。

 外側からだけでなく内側からも回復させようと考えたようだ。

「え? う、うん、わかった」

 冬華は戸惑いつつもサラに従い干し肉を食べはじめる。

 戦いの方はというと、シルフィの魔法は躱され続けていた。

『くっ!? 面倒な相手ですねぇ』

 自分も同じように消えることができるというのにずいぶんな言いぐさだと冬華は思っていた。

『これならどうです!』

 シルフィは両腕を広げリッチを覆うように巨大な竜巻を発生させる。リッチを竜巻の檻に捕らえると両腕を閉じていき、竜巻の威力をそのままにサイズだけを縮めていく。

『はぁぁぁぁ!』

パチンッ

 両手を合わせると、竜巻は爆ぜリッチは竜巻諸共霧散した。

「やったの?」

 冬華は言ってはならないセリフを言ってしまった。

 シルフィの背後に黒い靄が集まっていき形を成していく。

「シルフィ、後ろ!」

 冬華は声を上げていた。

 すでにリッチは手に持つ鎌をシルフィへと振り下ろしていた。

『わかってます!』

 シルフィは体を風に変え鎌を躱し、リッチに向け手をかざした。

『これでもくらいなさい!』

 シルフィは近距離から魔法を放とうとする。

『な!? なんで……触れられてない……』

 突如シルフィは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 リッチはシルフィへ視線を向けた。

 冬華はリッチが嗤ったように見え、シルフィが何かされたのだと確信した。

 シルフィを助けようと腹の底から声を張り上げる。

「キエェェェェェェッ!」

 冬華は気勢を上げると飛び出しショートソードでリッチを斬り付けた。

 しかしそれは水の纏われていないただの剣だった。まだ水の剣を出せるほどには回復していなかった。シルフィを助けたい一心の火事場の馬鹿力だった。

 当然リッチは黒い靄に変わり冬華の剣を躱す。そして冬華とシルフィのすべてを奪い取ろうと覆いかぶさろうとする。

「冬華さん! シルフィさん!」

 サラは声を上げ、魔法を放とうと手をかざすがすでに遅すぎた。

 冬華たちは黒い靄に覆い隠されようとしていた。

 冬華の瞳に絶望が宿りはじめる中、視界の端に人影が見えた。

「おぉぉぉぉぉぉ!」

ドスッ

 冬華たちの前に一人の人物が現れた。

 リッチは不意を突かれ靄になって躱すことができず蹴り飛ばされていた。

 冬華とシルフィは突如現れた人物を見上げる。

 男は白いローブを羽織りフードを深く被っており顔が見えない。

「これを飲め、体力が回復する」

 その人物は一つの瓶を冬華へと差し出した。声から男だとわかる。

 冬華は恐る恐る受け取るが、本当に飲んで大丈夫なのかと迷っていた。

 男は冬華が瓶を受け取るとすぐさまリッチへ向け駆け出した。

 なかなかのスピードで瞬時に距離を詰めると、手刀と蹴りの連打を浴びせる。

 しかしリッチもさすがに真正面から来るものをくらってくれるはずもなく靄となって躱していく。

 男は連打を続け、リッチは靄の状態を維持する。まるでリッチを実体化させないためのようだ。

 リッチはこんなにも接近しているというのにエナジードレインをしてこない。

 それを見ていたシルフィは気付いた。

『実体化していないとエナジードレインできないのでは!?』

 シルフィは男がそのことを知っていたのかと疑念を抱く。もしくは一度戦ったことがあるのか……どちらなのかはわからない。

 しかし、このままではキリがない。それどころか動き続けている男の方が次第に不利になっていくのは明白だった。体力には限界がある。現に今まさに男の動きが鈍くなってきている。

「くっ!?」

 男の動きが一瞬止まる。

 リッチはそれを見逃すことなく実体化し手を伸ばした。

「危ない!」

 冬華が声を上げた。

 リッチの手が男に触れるその瞬間、男の姿がかき消えた。

 そして次の瞬間リッチの後ろに現れると、

「うおぉぉぉぉ!」

 渾身の力を込めた蹴りを繰り出した。

 リッチは躱すことができず、蹴り飛ばされる。

 冬華たちはこの動きに覚えがあった。ありえない、そんなことあるはずがない。しかしその動きは確かにあの男のもの……

 冬華とシルフィは茫然と男を見つめていた。

 そしてサラは涙を浮かべていた。

「冬華! トドメだ!」

 男は声を張り上げた。その声は懐かしいあの男の声だった。

 冬華は迷いなく瓶の液体を飲み干すと立ち上がる。

「な、力が……」

 冬華は力が戻ってくるのを感じた。

 冬華はすぐにショートソードに水を纏わせると駆け出した。


渦潮水撃(かちょうすいげき)!」


 水の剣による多数の乱撃を繰り出した。その水の剣撃は渦潮(うずしお)のようにうねりリッチを巻き込み切り刻んでいく。

「はぁぁぁぁっ!」

「……ッ!?」

 切り刻まれたリッチは声にならない悲鳴を上げると霧散し消滅した。

「ハァハァハァ……」

 冬華は呼吸を整えると、男を見る。そんな事ありえないとは思っていても、もしかしたらと、本当にそうなのかと。

「やったな、冬華」

 男はフードを取り冬華に向け声を掛けた。

「『!?』」

 冬華とシルフィは驚きで声を失う。

 フードの下の顔は火傷の痕が痛々しいアキのものだった。

「アキ!」

 サラがアキの名を呼び駆けだし、そして抱きついた。

「サラ……ずいぶんと待たせちゃったね」

 アキもサラを抱きしめる。

「本当に遅いですよ」

 サラはアキの腕の中でそう呟くとアキを見上げる。

 微笑むサラの頬に涙が伝う。

 アキは微笑みを返すとそっと涙を拭い頬に触れる。

 サラはアキの手のぬくもりを感じるように瞳を閉じた。

 アキは優しく、サラの唇に唇を重ねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ