サンドガーデン
砂漠を南東へ進むとまわりを砂漠で囲まれたサンドガーデンが見えてくる。
冬華たちは魔物に見つからないよう隠れて進みたかったが、まわりには隠れる場所もなく、ただ砂があるだけだった。
冬華たちは砂漠の丘陵に身を潜めている。
「どうしよっか? このまま進むと丸見えなんだけど」
冬華が困ったように呟いた。
冬華の言葉を聞き頬を赤らめる者がいた。
「セイム君、顔が赤いですよ。暑さに中てられましたか?」
サラが心配げに訊ねた。
「ううん、大丈夫……」
セイムはそう言うと俯いてしまう。
「どしたの?」
冬華がセイムをのぞき込んだ。
冬華が近づいたことでセイムは俯きもぞもぞしだした。
セイムの変化に気付いた冬華はニヤリと嗤う。
「はは~ん、セイム君は元気になっちゃったのかな?」
「『ん?』」
シルフィとサラは何のことかわからず首を傾げる。
「な、なに言ってんだ! お、オレはいつも元気だよ……」
セイムの声尻の勢いは無くなっていく。
冬華はニヤニヤしながらセイムの耳元で囁いた。
「(丸見えって聞いて思い出しちゃたんだ?)」
「な!? 違っ!? んわけねぇだろ!」
セイムは声を上げ否定する。
「(ふ~ん、でも、体は正直だねぇ)」
冬華はチラリと下を見た。
「みみ、見るなぁぁぁ!」
セイムは後ろを向いて声を上げた。
「アハハハハッ、ごめんごめん。ほんと可愛いなぁもう」
冬華は楽しそうに笑っている。
『どうしたのですか?』
シルフィは意味がわからず訊ねた。
「んっとねぇ」
「わーわー!」
冬華が何かをばらそうとするのをセイムが声を上げ阻止する。
「アハハ、冗談。なんでもないよ。それよりホントにどうしよっか?」
冬華は笑いを納めると真面目に言った。
その間もセイムは冬華を睨んでいた。
『私が様子を見てきましょうか』
「ん? あ、なるほど! さすがシルフィその手があったね」
『では行ってきますね』
二人のやり取りを聞いていた、サラとセイムは話についていけていなかったが、次の瞬間にはサラは納得し、セイムは腰を抜かした。
シルフィは姿を消していた。
「ききき、消えた!?」
「うん、消えたね」
「なるほど、そういうことでしたか」
「うん、だからしばらくゆっくり待ってよ」
二人はセイムを置き去りにし休むことにした。
「な、なあ! あのねぇちゃん消えちまったぞ! 魔法なのか!? 魔法なのか?」
「うん、うん、魔法魔法」
驚くセイムを冬華は適当にあしらった。
しばらくすると、シルフィは意外と早く戻ってきた。
「あれ? 早かったね。どうだった?」
冬華がシルフィに訊ねる。
『全体を見渡すために上空から確認したのですが、少し様子がおかしいのです』
「どんなふうに?」
『戦闘の痕跡はありました、結界もすでに破られていました。しかし魔物はいなく、人は普通にいたのです』
「それは確かにおかしいねぇ。罠の臭いがプンプンするねぇ」
冬華は鼻をつまんで臭うアピールをする。
「どうします? 様子を見るにしてもここからでは……」
距離があり過ぎて様子など見られない。サラは困ったように城の方を見る。
「行ってみようぜ! 人がいるんだろ? みんな無事だったんだよ」
セイムは嬉しそうに立ち上がった。両親が無事でいると思っているようだ。
それは安易な考えではあるけれど、このままここに止まるのも愚策と思い、冬華は決断する。
「なんか、いつの間にか私が決めることになってない?」
しかしこれだけはどうしても言いたかった。
『光輝もいませんし、冬華が決めるしかないでしょう? リーダーですよ、よかったですね』
シルフィは完全に押し付けているニュアンスで言った。
「嬉しくない! 私はお兄ちゃんみたいに自由に生きたいのよ!」
冬華は自己主張した。
『自由は自由で、なかなかに不自由ですけどね』
シルフィはしみじみと言った。
「哲学的だねぇ、哲学なんてわかんないけど」
冬華は一つ溜息を吐くと今度こそ決断した。
「ハァ、虎穴に入らずんば虎子を得ず。行きますか」
「おう! そうこなくっちゃ」
セイムは飛び跳ねてやる気を見せる。
冬華はヤレヤレといった様子でセイムを見る。
城下の門を潜ると、町中は閑散としていた。人は確かにいるが活気というものが感じられなかった。動きもなんだか緩慢な感じがする。
「(なんか、人はいるのにゴーストタウンに来たみたいだね。イメージだけど)」
冬華はこの雰囲気にのまれたのか声を潜めて言った。
「(確かに静か過ぎますね……)」
サラも同じく声を潜める。
『(この感じは……モルデニアと同じ感じがします。上空だけでなく下りておくべきでした)』
シルフィは表情を険しくする。
「(モルデニアって、滅んだんだよね?)」
冬華がシルフィの表情を見てただ事ではないと察した。
『(ええ、人々は植物の苗床となっていました。ここもすでに異変がはじまっているようです。ということは……)』
シルフィは唇を噛みしめる。
「(封印が解かれた……)」
冬華は拳を握り込み呟いた。
「(そんな! もう二つ解かれているのにここのまで解かれてしまったら!?)」
残り一つになってしまう、サラは絶望がすぐそこまで迫って来ていると思い硬直する。
「封印? 何言ってるんだ?」
ただ一人セイムだけは何もわからず、とぼけた顔をしている。
「(何でもないよ。とにかく調べてみよう)」
冬華はセイムの頭をワシワシして歩を進めた。
町の中を確認しながら進むと、冬華たちが通り過ぎるたびに人々の動きがピタリと止まる。
「……何?」
冬華は雰囲気が変わっていくことに気付き足を止めた。
「どうしたんだよ? 声掛けてみようぜ」
「待って!?」
冬華がセイムを止めようと手を伸ばしたが遅かった。
セイムは近くに立って動かなくなった人へ声を掛けた。
「おっちゃん、ちょっと聞きたいんだけどさぁ……!? うわっぁぁぁっ!」
おじさんの前に回ったセイムはおじさんの顔を見て驚愕の声を上げた。
グガァァァァ
セイムの悲鳴に呼応するかのようにおじさんが動き出し、セイムに襲い掛かってきた。
「セイム!」
冬華はすぐさま駆け寄るとおじさんを突き飛ばした。
おじさんは突き飛ばされ地を転がる。
「冬華!」
セイムは冬華へ抱きついた。
「大丈夫?」
冬華はセイムの頭を撫でながら訊ねる。
「おっちゃんが……」
セイムはおじさんを指差し震えている。
冬華たちは、起き上がりこちらを振り向くおじさんの顔を見た。
「な!?」
冬華は目を見開き、サラは悲鳴を上げないように口を押える。シルフィは目を細めて見据えていた。
町のおじさんだと思っていた人物は、ミイラとなっていた。
シルフィはすぐにまわりへと視線を向ける。
『他の人たちも同じようですね』
シルフィは険しい表情で告げた。
ミイラは痛んでいない服を着てフラフラと町を徘徊する。ミイラが町を襲ってきたわけではなく、町の人たちがミイラ化したと言った方がいいだろう。
冬華たちの声に反応するかのように緩慢にフラフラしていた他のミイラ共が冬華たちへと振り返る。
「これって、映画でよく見るパターンじゃない? ゾンビ映画的な……」
冬華がボソリと呟いた。
『そんな事言ってる余裕あるんですか?』
シルフィは身構える。
ミイラ共の光の灯っていない瞳が冬華たちを捕らえる。
「やばっ!? 目が合っちゃった」
ミイラ共が冬華たちへとワラワラと群がり襲い掛かってきた。
「キタァァァァァッ!?」
セイムが叫び声を上げると冬華は指示をだす。
「城まで走るよ!」
「『はい!』」
「え、ええ!?」
シルフィとサラはすぐに反応し城へと向かいはじめる。
セイムは恐怖で足が思うように動かせずに立ちすくむ。
「ほら! しっかりしなさい! お母さん助けるんでしょ!」
冬華はセイムの手を取り走り出す。
セイムは冬華の背を見ながら歯を食いしばり足を動かしはじめる。
「うん!」
先を行くシルフィとサラの行く手をミイラ共が塞いでいく。町の住人がすべて集まってきているのかと疑いたくなる光景だった。
『もう死んでいます。手加減は無用です!』
「はい!」
シルフィは手短にいうと、風の魔法でミイラを蹴散らし道を開けていく。
サラも同じく風の魔法で邪魔をするミイラを倒していく。
ミイラ共は倒しても倒しても起き上がってくる。
「これじゃキリがないですよ!」
サラが叫ぶ。
「数が多すぎる! 邪魔な奴だけ薙ぎ払って突っ切る!」
冬華はそう叫ぶと近づいてくるミイラへ水の弾丸を撃ち込んでいく。
いつもの冬華ならすべて倒そうとしただろう。三人だけならそれも可能だったかもしれない。しかし今はセイムがいる。セイムを置いて自分まで前に出て、もし倒しきれなかったらセイムの命が危ない。冬華はセイムの身の安全を最優先に考え城へ逃げ込むことにした。
城ならば城門を閉じればある程度時間が稼げるし、城ならば逃走経路の一つや二つあるだろうと考えていた。もしくは、生き残りが立てこもっているかもしれない。そこにセイムの両親もいるかもしれない。冬華はそんな低い可能性も考えていた。
セイムは冬華の背を見ながら唇を噛みしめる。守ると言っておきながら自分が守られていることに悔しさがこみ上げてきたのだ。
冬華の手をセイムは強く握り返した。
その変化に気付いた冬華はセイムへと振り向く。
「ん? 元気出てきた? もう少しだからがんばれ!」
冬華の表情は真剣だったがセイムを不安がらせないよう微笑みを見せていた。
「うん!」
セイムは力強く頷き、走る足に力を籠めた。
城にたどり着くと城門は閉じられていた。
籠城しているということだろうか? 冬華は少しだけ希望が見えた気がした。
「シルフィ、飛び越えて門を開けて!」
『はい!』
シルフィは跳び上がり門を超える。
冬華は門まで行くと振り返りセイムを背後へ回す。
「じっとしてて」
「うん」
「サラさん!」
「わかってます、近づけさせません!」
サラはそういうとすぐに魔法を放つ。
「風よ! 暴風よ! 敵を切り刻め!」
サラが手をかざしたその先に巨大な竜巻が発生しミイラ共を巻き込み切り刻んでいく。
「さっすがサラさん。私も負けないからねぇ」
冬華はダガーを抜くと水を纏わせる。
「ハァァァァァァッ!」
冬華は水の剣をムチのように伸ばし、横に薙ぎ払う。
「あ!?」
近づいて来ていたミイラ共は上と下に切り裂かれた。ミイラなだけあり、幸い血が噴き出ることはなかった。
血が噴き出ていたらセイムが卒倒していたかもしれない。
冬華は「あぶなかったぁ」と心の中で呟いた。
「うぅぅぅりゃっ!」
「風よ!」
門が開くまで冬華とサラはミイラ共を薙ぎ倒し時間を稼いでいた。
しばらくすると城門は開かれた。
冬華たちは中へ入り、すぐさま門を閉じた。
「ハァハァ、遅かったじゃん」
冬華はボソリと言った。
『中にもミイラがいたので、片付けていたんです。それより私が皆さんを中に運んだ方が早かったのではないですか?』
シルフィはいまさらながらに言った。
「はっ!? そういうことは早く行ってよ~私超恥ずかしいじゃん」
かっこよく指示を出した私超イケメン、そんなことを思っていた冬華は顔を赤くしシルフィをポカポカ叩く。
『ゴメンねぇ、私もちょっと戸惑ってたのよ』
シルフィは冬華がいつもと違う行動をとっていた為、対応が遅れてしまっていた。
シルフィは顔を赤くする可愛い冬華の頭を微笑ましそうに撫でる。
サラは二人の様子よりも別の事が気になっていた。
「城門の中にもいたって言うことは……」
サラは最悪の事態を想像し表情を曇らせる。
セイムは冬華のローブを掴み俯く。
「とにかく、中を調べてみましょ!」
冬華はそういうと城へと歩を進めた。
城内は閑散としているが時折唸り声のようなものが聞こえてくる。
「……」
ミイラの声だろう。冬華は声の聞こえる方へ視線を向けた。
「セイム、お母さんがいつも仕事してるところってわかる?」
冬華は視線を外さずに訊ねる。
「うん、こっち」
セイムは冬華の視線の先とは反対に向けて進んだ。
セイムに案内され入った部屋は魔道具やら魔法書が並べられて、いかにも研究室って感じの部屋だった。
「母ちゃん?」
セイムが声を掛けたが返事は返ってこない。
『誰もいないみたいですね』
シルフィは淡々と告げた。
「そうだね……」
冬華は落ち込むセイムの肩を抱いた。
「石碑の確認をしませんか? 本当に封印が解かれているのか気になりますし」
サラは封印が気掛かりのようだ。サラの役目は光輝たちと共に封印を守ること。当然である。
石碑を確認するため部屋を出ようとした時、部屋の外から物音が聞こえてきた。
『何か近づいてきます』
シルフィが部屋の外の気配を探る。
『……3人?』
「かあ……」
セイムが声を上げて部屋を出ようとするのを冬華は口を塞いで止めた。
「(誰だかわかんないでしょ! 隠れるの!)」
冬華たちは物陰に隠れ、シルフィは姿を消した。
息を潜めていると、何者かが部屋に入ってきた。
何者かは何かを探しているようだ。
「(急げセイラ、ミイラ共に気付かれる!)」
「(わかってます)」
(セイラ? 女の人?)
冬華がそう考えていると。腕の中のセイムがピクリと反応した。
「母ちゃん!」
セイムは声を上げ飛び出した。
「何者だ!」
兵士風の人物が剣をセイムへと向ける。
冬華は咄嗟にセイムの腕を引き背後へと庇う。
「セイム? セイムなの?」
セイラと呼ばれた女性が声を上げる。
「母ちゃん!」
セイムはセイラへ抱きついた。
「セイム、なぜお前がこんなところにいるの!?」
「母ちゃんを助けに来たに決まってるだろ!」
セイムは目を潤ませて言う。
「なんだ、この人がセイムのお母さんか……若っ!?」
冬華はその若さに驚き緊張が解けた。
確かにセイムの面影がある。ダークブラウンの髪をセイムを同じく後ろで束ねている。きっとセイムが真似ているのだろう。土地柄なのだろうか肌はこんがり小麦色に焼けている。
「この方たちは?」
セイラが訊ねた。
「オレのこと手伝ってくれてるんだ」
母親の前だからなのか、自分がメインであると主張している。
「どうも~、セイムの手伝いをしてる冬華で~す」
冬華はいつものように軽く名乗った。
「で、こっちがサラさんで、こっちがシルフィ」
サラはその場で会釈し、シルフィは突然目の前に現れ会釈する。
さすがにその登場の仕方はどうかと思うが、案の定兵士は驚き剣を構えて警戒する。
『警戒しなくてもいいですよ。攻撃するつもりなら姿を見せたりはしませんから』
シルフィはもっともなことを言った。
「大丈夫です、この子が信頼している方たちでしたら私も信じます。ですから」
セイラは兵士にそう言い、剣を引かせる。
「おい、何を騒いでるんだ! ミイラ共が気付いてこちらに近づいてくるぞ!」
外で見張りをしていた兵士が声を掛けてきた。
「仕方ない、一旦戻るぞ!」
「しかしまだ……」
セイラたちが何やらもめているようだ。
探し物が関係してるのかと思い冬華が提案する。
「あの~私たちで時間を稼ぎますからそのうちに用事済ませちゃってください」
「しかし……」
「そうだ、女子供に何ができる」
兵士はバカにしているつもりはない。実際声音は優しげだった。しかしそう聞こえてしまい冬華はむくれた。「何ができる」の部分ではなく、「子供」の部分でだ。
「大丈夫だよ、冬華たちすっげぇ強いから」
セイムは満面の笑顔で言った。
「さすがセイムはわかってるねぇ、愛いやつだなぁ」
冬華は可愛い弟を見るような表情をし頭をワシワシする。
セイムは鬱陶しそうにしている。
『冬華、遊んでないで行きますよ』
シルフィは困った子を嗜めるようにいうと部屋を出て行く。
「は~い、わかってますよ。そういうわけなんで、早めに済ませてね」
冬華はシルフィの後に続き、サラも続く。
宣言通り時間稼ぎはできた。というか、近づくミイラは一体残らず倒していた。
探し物を済ませ、部屋から出てきたセイラたちは一様に驚いていた。
この後冬華たちはセイラたちが隠れている避難所へ向かった。
冬華はセイムの事が可愛くて仕方がないみたいです。




