西門の戦い
西門の守備にまわった僕たちだったが、数が多いだけでまるで手応えがなかった。
「あれ? こんなもんだっけ?」
オークの首を刎ねながら冬華ちゃんが首をかしげている。
後から後からオークが迫ってくるが冬華ちゃんはオークの攻撃をダガーでいなすとショートソードでオークの首を刎ねていく。冬華ちゃんは無駄な動きを見せず効率よく魔物を片付けていき息一つ乱していない。
「ああ、以前戦った時よりも弱く感じるね」
僕も真聖剣を発動し魔物を次々に両断していく。
戦いの最中に話をするって以前では考えられなかったけれど、今はその余裕がある。油断と言われるかもしれないが、それほどに魔物が弱かった。
「すごい……」
怪我をした兵士の治療をしながらこちらを見ていたカレンちゃんが呟く。
「それは魔物が弱いのではなく二人の実力が以前より上がっているからですよ」
後方から魔法で魔物を攻撃しているサラさんが感心したように言う。
「そうですね、アギトとやり合ったことで経験値が上がったのでしょう」
魔力の矢を次々と放って援護している汐音君が不本意そうに言う。
確かにアギトと比べたらこの魔物たちは取るに足らない相手だった。
あらかた片付けると僕たちは負傷兵を後方に下げ治療術士に預けていく。汐音君とカレンちゃんはそれに交じり負傷兵の治療を行っている。
すると台座の敵を相手にしていた総司たちがよろよろと戻ってきた。
総司に寄り添いながら歩いてくる結衣君は軽度の火傷をしているようだ。火傷か……
総司とカルマは擦り傷がある程度で治療は必要ないだろう。どちらかというと疲労しているのか?
僕は汐音君に声を掛けた。
「汐音君! 結衣君を治療してやってくれ」
「はい」
汐音君がこちらに来ると、結衣君は総司から離れ治療を受ける。
僕は総司に話しかけた。
「総司? なにがあった?」
「……」
総司は口を噤んで視線を逸らした。
総司の様子を見てカルマが代わりに口を開いた。
「あ~ハイドとか言うやつ? あいつ人間やめちまったみたいでよぉ。斬っても斬っても傷が塞がりやがんの」
「な!? それって……」
「だから時間が掛かっちまった。まあ最後は総司の炎の剣で焼き尽くされたけどな」
カルマは説明を終えるとドカッと地べたに座り込む。
「そうか、お疲れ」
僕は労いの言葉を告げると、思考の海へとダイブした。
カルマはハイドを斬ったがすぐにその傷は塞がったと言った。そして人間をやめたみたいだとも。その現象はヤツと、モルガナと同じじゃないか。ヤツも斬った後すぐさま傷が塞がった。だとするとモルガナも元人間ということか? いや、ただモルガナの眷属になっただけという可能性もある。ん~これは答えが出そうもないな。証拠も何もなさすぎる。ハイドの遺体は消し炭になったみたいだし。
それにしても、僕の真聖剣でもモルガナの傷は治りが遅くなる程度だった。それなのに総司は焼き尽くすことができた。モルガナとハイドで比べていいものか疑わしいけれど、それでも総司の炎の剣には何らかの能力が付与されているんじゃないかと思えてくる。これに関しては後でマリアさんに調べてもらえばわかるかもしれないな。
僕が思考の海から帰還するとカルマに蹴りを入れている冬華ちゃんが目に入った。
「折角稽古つけてあげたのに何やってんのよ! あんなの一人で片付けなさいよね!」
「いてぇな! 仕方ねぇだろ、相手は人間やめた化け物だったんだからよぉ」
カルマは頭を抱えるようにして言い訳をする。
「言い訳すんな! 男らしくない!」
と言って冬華ちゃんはカルマを蹴る。なんだかんだでカルマも蹴りを避けないんだよな。やっぱり師匠には逆らえないか? そんな関係じゃないか。別の関係か?
二人を見ているとこちらを見る視線に気づいた。
その視線の先には僕から視線を逸らす総司がいた。
「総司? どうした?」
僕は総司に訊ねた。
「あ、ああ……」
総司は言いよどみ、決心したように口を開いた。
「あ、その、さっきの戦いの最中に記憶が戻ったんだ……」
「そうか……」
それはつまり結衣君のことも思い出したということだ。
「光輝は知っていたんだろう? だから俺をハイドに近づけさせたくなかったんだろ?」
「すまない、詳細を知っているわけじゃないんだ。知ってる人の態度や断片的な情報から推測していただけで、そうであってほしくなかったから言えなかった」
「知らなかったのは俺だけだったわけか……」
総司は悲しそうな顔をする。
「いや、そんなことは」
「冬華のことを言ってるのか? あいつはあれでなかなか鋭いところがあるから……」
総司はカルマに説教をする冬華ちゃんを見て言う。
「そうだな……それで総司、お前は大丈夫なのか?」
「ああ、俺のやることはこれからも変わらない。結衣を守るだけだ」
総司は決意の表情を見せるが、その瞳には憂いが宿っていた。
「そうか……」
僕は総司の決意を見届けるとその肩に手を置いた。
その時、
グオォォォォォォォ!
西門から新たな魔物の雄叫びが響き渡った。
「またか! 総司たちはしばらく休んでいろ!」
僕はそう言うと西門へと向かう。
そこには2体の大型のオークが門を破壊して入ってくるところだった。
「でっかいね!」
第一声はやはり冬華ちゃんだった。
確かにでかいな。3、4メートルくらいあるか? 門を潜れないから破壊したみたいだ。瓦礫で入りずらくなっているようだが……
「バカじゃないの……」
冬華ちゃんが呟いた。
「あれはオークの上位種、ハイオークです!」
サラさんが後ろから声を上げた。
ハイオークか……オークの二倍くらいの大きさだな。たしかスピードはオークとさほど変わらないがパワーははるかに上回るらしい。一体ずつ片付けた方が確実だが、冬華ちゃんが飛び出していきそうだなぁ。
僕はちらりと横を見た。
冬華ちゃんは困った顔をしている。どう攻めるか迷っているようだ。
「一体づつ片付けるぞ!」
僕は先手を打って叫んだ。
「サラさん一体足止めできますか?」
「はい!」
「僕と冬華で先に一体殺る。汐音は援護、行くぞ!」
「「はい!」」
僕の合図でサラさんは一体のハイオークに両手を向け魔法を放つ。
「風よ! かの者を絡めとり束縛せよ!」
ハイオークのまわりの風が巻き起こり、体に巻き付き束縛いていく。
ハイオークは逃れようと力任せに風の拘束を剥がそうとする。
「くっ!?」
サラさんは歯を食いしばり魔力を高め拘束を強める。ハイオークの動きを止め魔法を維持する。
どうやらこの風の束縛はそれ自体で拘束できるものだけど術者が魔力を籠めればさらに強力になるようだ。その分術者に負担が掛かるようだけれど。
今のうちに残りの一体を倒そうと僕たちは斬りかかって行く。
「魔力の矢!」
汐音君がハイオークの顔を狙って放った。
しかしハイオークはそれを体を横に傾けて避ける。
そのタイミングで冬華ちゃんが僕の前に出る。
「水の刃!」
冬華ちゃんは魔法を叫ぶとダガーを持つ手をアッパーを打ち込むように振り上げると鎌状の水の刃がハイオークの片足、体重の掛かった足へと飛んでいく。
僕はてっきりあの水の刃の事かと思ったがどうやらあれとは違うようだ。紛らわしいからあれは水の剣としよう。
冬華ちゃんの放った水の刃がハイオークの足に直撃すると鮮血が飛ぶ。ハイオークは体重を支え切れなくなり体制を崩し膝を着いた。
首が目線の高さまで下がってきたところを僕は剣で斬り込んだ。
「おぉぉぉぉぉ!」
ザクッ
(硬っ!?)
僕は腕に痺れを覚えた。
ハイオークは動きを止めた僕を掴もうと手を伸ばそうとする。
僕は剣を引いて下がろうとするが、剣が首に刺さったまま抜けない。痺れが残っているのもあるのだろう、力がうまく入らない。
「くっ!?」
ハイオークの手が迫り、僕は剣を手放して下がった。
「なにやってんの! コウちゃんから剣取ったら何も残らないじゃない!」
冬華ちゃんに言われてしまった。酷い言われようだ……言われても仕方がない失態だが。
「う、すまない」
僕は素直に謝った。
冬華ちゃんは僕の横をすり抜けハイオークの顔へと迫ると、体を回転させ両手の二刀で斬りつけていく。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
僕のように叩き斬るのではなく刀のように引くように斬っていく。刀でもないのに器用なことをするな。そのおかげでハイオークの肉に食い込むことなく斬り刻むことができている。
しかしハイオークの皮膚の硬さから表面を斬る程度で致命傷を負わせられないでいる。あの手数、相手が人であるなら終わっていただろう。
水の剣が出せたなら最初の一太刀で倒せていたはずだ。もちろん僕が真聖剣で斬りつけていればもっと早く方はついていた。ほんとに大失態だ。
汐音君の援護を受けながら冬華ちゃんが賢明に肉迫するが決め手に欠ける。
僕は意を決して試してみることにした。
僕は自身に手を当てイメージし魔法を唱えた。
「(身体強化)」
実戦初の魔法でちょっと恥ずかしかったため小声になってしまったが、力が膨れ上がるのがわかる、成功だ。続けて、
「光よ、清浄なる光よ、我が拳に纏まといて力と成せ! 真聖拳!」
両拳に光を纏わせ、拳同士を撃ち合わせると、バチンッと光が弾け輝きを増した。
「おぉぉぉぉぉ!」
僕はハイオークに急接近するとその拳を膝を着いていない方の足へと打ち付ける。
「ふん!」
ボキンッ
という鈍い音が響きハイオークの足の曲がるはずのない箇所が曲がり、ハイオークは叫び声を上げると前に倒れ込んできた。
グギャァァァァァァ!?
僕は下がってくる顎へと全力でアッパーをぶち込んだ。
「ふっ!!」
ドッバチャ!
僕の拳は顎というか顎の骨より内側の比較的柔らかい箇所に直撃し腕がズッポリ突き刺さってしまった。 当然ハイオークの脳にまで達したわけで、ハイオークは痙攣を起こし絶命した。
僕は腕を引き抜くと全身に返り血を浴びてしまった。いや、ひょっとしたら脳味噌も掛かってるかも。
「うわ~、汚~」
冬華ちゃんが顔を顰め汚物を見るような目で僕を見る。いやそれ僕も言いたいんですけど……
僕は全身の気持ち悪さを我慢すると剣を引き抜きもう一体へと目を向けた。
サラさんが頑張って縛り付けていてくれたがそろそろ限界のようだ。かなり辛そうな顔をしている。
僕たちはさっきと同じ要領でハイオークの膝を着かせると、真聖剣で首を刎ねた。
……ひょっとして縛った方を先に倒した方が早かったのでは? と思ったが、いやそんなことはないな。もう一体に邪魔される恐れがあるし。うん大丈夫のはず。僕は一人自分を納得させるとみんなの下へと戻る。
みんな若干僕から距離を取っているように見えるのは気のせいかな?
「コウちゃん、汚いからちょっと拭いてきなよ」
冬華ちゃんはなんの遠慮もなくそう言うとシッシッと手を振る。魔物倒したのになんか悲しくなるな。
西門にはもう魔物はいないし大丈夫だろう。
「あ、ああ、わかった」
僕はトボトボと水汲み場へと向かった。
「冬華ちゃん!」
汐音君は冬華ちゃんを注意するとそのまま僕の後に着いて来た。
水汲み場で返り血を洗い流していると汐音君が話しかけてきた。
「さっきはすごかったですね。スピードもありましたし、何より真聖剣を拳で扱うとは」
「いや、真聖拳はさすがに単体でやるには体がもたないと思う。拳は光を纏っているからいいけど、腕や体は衝撃に耐えられなかっただろうからね」
僕は腕を回して見せる。
「でも、耐えられましたよね?」
汐音君は不思議そうに小首を傾げる素振りを見せるが、その瞳は何かを確信したようだった。
「うん、だから先に身体強化の魔法を掛けて強度を上げておいたんだ。そのついででスピードも上がったんだけど、アギトに比べたら全然遅かったどね」
「やはり身体強化ですか。言ってくれれば私が掛けましたのに」
汐音君は不満そうに僕を見つめる。
「い、いや、僕もそうは思ったけどね、自分でもできた方がいいと思って。それに常に汐音君が側にいるとは限らないし」
僕はなぜか必死に言い訳をしていた。
「そうですか。確かにそうですね」
汐音君は目を伏せて納得した。が、メガネをクイッと上げると鋭い眼光を向ける。
「しかしですね、私がいるときは私に任せてください。戦いは何が起こるかわからないんですから! いざというときに魔力切れなんてことになったら目も当てられません。特に会長は最前線で戦っているのですから気をつけてください!」
汐音君は僕を心配して説教してくれた。
なるほど、そのためにここまで着いて来たのか。みんなの前で僕が説教をされるのは士気に係わる。それは避けたかったんだろう。本当に気の回る子だ。
「ああ、気を付けるよ。ありがとう」
僕は微笑んで礼を言った。
「い、いえ。わかっていただければそれでいいんです」
礼を言われるとは思っていなかった汐音君は戸惑いつつ顔を伏せると、自分の顔を隠すように布を僕の顔の前に押し出してくる。
あ、これで拭けってことね。
「ありがとう」
僕は布を受け取るともう一度礼を言った。
みんなの下へと戻ると「汐音ちゃんに拭いてもらってたの?」という冬華ちゃんから冷やかす声を掛けられたが、そこは汐音君がきっちり睨みを聞かせたことで収まった。力関係のピラミッドが形成されつつあるようだ。
それはともかくとしてこちらも一段落着いたことだし東門の様子でも見に行こうかと思ったとき……
ドッゴォォォォォン
という音が鳴り響いた。
「な、なになに?」
「どうした? なにがあった?」
と皆が騒ぎ始めると東門からの伝令が駆けてきて、矢継ぎ早に伝達した。
「光輝殿! 東門にアルマ、黒髪の女、そしてアギトが現れました! 至急援軍に来てほしいとのことです!」




