廃村にて
ローズブルグの東、サンドガーデンへと続く街道の途中を北へとそれた先に滅ぼされた村がある。村には魔物が徘徊し、生き残りの人間は奴隷として扱われていた。
この村はアルマが仮の拠点としている村だった。
家の一つから忌々し気な声が響いていた。
「クソがー! レオルグの野郎オレの顔をぉぉぉ」
家の一室でアルマは傷の治療をしていた。と言っても治療をしているのは奴隷の女だ。見た目は少し薄汚れてはいるが目鼻立ちも整っており、この村でも指折りの美女と言えるのではないだろうか。
「あの野郎、次こそは殺してっいっつ、いてぇだろうが!」
女は震えながら治療をしていた為か力が入ってしまいアルマの傷を強く刺激した。
アルマは治療をしていた女を怒り任せに蹴り飛ばした。
「きゃっ!? ぐっ……も、申し訳ありません」
女は震えながら地べたに額を擦り付ける。
「このクソ女が! もういい! おい、そいつはもういらん! 始末して他の女を連れてこい!」
アルマは扉の前に立つ男に命じる。
「……はい」
精気の感じられない男は呟くように言うと女に近づいて行く。
「お、お許しくださいアルマ様! どうかご慈悲を!」
女は縋るようにアルマの足にしがみ付くが、
「オレに触るんじゃねぇ!」
アルマは再び女を蹴り飛ばす。
「きゃっ!?」
「さっさと連れて行け!」
精気のない男は女の腕を掴むと引きずるように連れて行く。
「どうか! アルマ様! アルマ様——!」
部屋を出ても女の慈悲を乞う声が聞こえる。
「どいつもこいつも使えねぇ」
アルマは一人ごちると、窓際に立っている白い男が口を開く。
「アルマ殿、これで何人目ですか? 奴隷は生きていないと意味がありませんよ」
「うるせえよアギト! てめぇも使えねぇんだよ! 回復魔法が使えねぇってどういうことだ!」
白い男、アギトは反省した素振りも見せずに言う。
「これは申し訳ありません。そちらの女性にお願いしてはどうですか?」
アギトは黒髪の女を差して言う。
「そいつも使えねぇんだよ! そいつはどういうわけか土系統の魔法しか使えねぇ。なんで俺のまわりには使えねぇ奴らが集まるんだ?」
(お前が一番使えねぇけどな……)
「なんか言ったか?」
「いえ、土系統の魔法しか使えないとは珍しいと思いまして……ところでその女、なぜ何も話さないんです? 身動き一つしないですし」
アギトは黒髪の女を訝しむ。
「ああ、余計な事をできなくしてあるらしいぜ。モルガナ様が術を掛けて操ってんだよ。最近じゃ術に抗うようになってきたがな。まあ、術が解けても歯向かうことはできないがなっハハ」
アルマは血を拭った布を黒髪の女に投げつけ嘲笑うように言う。
「ほう、歯向かえないのですか」
「ああ、人質がいるからな、クックッ」
アルマはいやらしく笑う。
「人質ですか……」
アギトはそう呟くと、黒髪の女へ近づき顔の前で手を振る。
女は反応を見せない。いや目は手の動きを追っている。
アギトは女の顎に指を当てくいっと顔を上げると、その黒い瞳でまじまじと見つめる。
「ふむ、やはりいい女ですね」
アギトはそういうと女の首筋に口づけでもするかのように顔を近づけた……
女の体がピクリと反応する。
「おい! その女に手は出すなよ! モルガナ様の所有物だ、お怒りを買うぞ!」
アルマは焦ったように言う。
「フフッ、出しませんよ。まだ死にたくありませんから。それよりそのモルガナ様はどちらに? 配下にしていただけるよう口添えをしていただけるはずでは?」
アギトは女から離れると訊ねた。
「ああ、わかっている。モルガナ様は今サンドガーデンに行っておられる。戻られるまで待て」
アルマは面倒くさそうに言う。
「そうですか……アルマ殿としてはそれまでにローズブルグを何とかしたいとお思いでは?」
アギトは薄ら笑いを浮かべて言う。
「なにが言いたい?」
アルマはアギトの笑いの意味を問う。
「私も手土産の一つでも持ってモルガナ様にお会いしたいのですよ」
アギトは俗物的なことを言う。
「なるほどな。だが、それならなぜあの時石碑を破壊しなかった?」
アルマはアギトを試すように問う。
「あの時ですか……それはアルマ殿が破壊すると思っていましたので、手柄の横取りをするのはどうかと思っただけですよ」
アギトはさももっともそうな理由を口にする。
「ふん、だったらオレに加勢するなりやりようはあっただろう? お前はオレに取り入りたいんだろう?」
「それはそうですが、あの時私は5人を相手にしておりましたから、自分の身を守るので手いっぱいで加勢に行くなんてとてもとても」
アギトは大袈裟に首を振って言う。
「そんな風には見えなかったがな」
アルマは疑わし気な視線をアギトに向ける。
「まさか、買い被り過ぎですよ」
アギトは含むところはないとばかりに両手を広げて言う。
「ふん、まあいいだろう……オレの治療が終わり次第ローズブルグを落しに行くとしよう。存分に手柄をあげろ」
「はい、ありがとうございます」
アギトは恭しく礼を言うとニヤリと嗤う。
うつろな目の男は女を別の家へと引きずって行く。
男は女を床へと転がす。
「きゃっ!?」
男は動きを止めボーッと女を見つめる。
「あ、あの……」
女は怯える声で恐る恐る男に呼び掛けた。
これから自分が何をされるのかを予感しながら、それでも縋る思いで慈悲を乞おうと試みようとする。
しかし、それがまずかった。男はその声に反応するように瞳に怪しい光を灯す。
「……しゅう」
「え?」
女は男からできるだけ離れるように後ずさる。
「ふくしゅぅぅぅ」
「ひっ!?」
女は恐怖で体を強張らせる。
「復讐ぅぅ! 犯して犯して犯すぅぅぅ」
男は狂ったように女へと襲い掛かる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男は這うように逃げようとする女の髪を掴み引き寄せるとそのまま隣の部屋へと引きずって行く。
「うっ」
男は女をボロボロのベッドへと放り込む。
「きゃっ!?」
女が悲鳴を漏らすと、男は女を仰向けにし馬乗りになる。
「いやぁぁぁぁ! 助けて! 誰か助けて!」
女は喉が裂けんばかりに声を張り上げるがその声は誰にも届かず、まわりには魔物の徘徊する足音が聞こえるのみだった。
「うひっひひっふくしゅうぅぅぅ!」
男の濁った瞳はたしかに女へと向いている。しかし別の誰かへと復讐心を向け女を身代わりとしているようだった。
男は暴れる女の両手を押さえつけ女の瞳から溢れ出る涙をその舌ですくい上げる。
「ひっ!?」
「フヒヒヒッ、あまいぃぃぃぃ!」
男は極上の甘味にでもありつけたかのように叫び女の服を引き裂いた。
ビリビリビリッ
女の白く艶めかし裸体が現れる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女の瞳は絶望と恐怖に染まり涙が止めどなく溢れる。そんな中でも無意識に体は自己防衛のように逃れようともがき続ける。
男は女を押さえつけるとそのプルンとした乳房に吸い付く。
「いや! いや! やめてぇぇぇぇぇ!」
男は尚も舌を這わせむしゃぶりつく。
その時、ビュゥゥゥゥという風切り音がすると、男は何かに突き飛ばされたように吹き飛んだ。
「……え?」
女は溢れる涙で歪む視界に一人の人物を捉えた。その人物は白っぽいローブを纏い、フードを深く被った人物だった。
「う、うぅぅ」
男は呻くように立ち上がろうとする。
白い人物は男へ掌を向けると風が男の顔を包み込み球状に竜巻をつくる。そしてしばらくすると男は気絶したように床に倒れ込んだ。
白い人物はそれを確認すると女へと視線を向ける。
「ひっ!?」
女は怯えたように破られた服でその身を隠し小さくなり身を守ろうとする。
女はこの白い人物に覚えがあることを思い出し独り言のようにその名を口にした。
「アギト……様?」
白い人物にはその声が届いていなかったようで返事ではなく別の言葉を口にした。
『大丈夫ですか?』
「え?」
女にはその澄んだ綺麗な声に聞き覚えがなかった。
白い人物はそういうとクローゼットから着られそうな服を取り出し女へと差し出す。
『これに着替えて』
「は、はい」
女はまだ怯えていた余韻があるようで震える手で服を受け取る。
「あなた様は?」
女は涙に濡れた瞳で白い人物を見つめた。
その白い人物は綺麗な碧い瞳で、絹糸のような白髪の長髪はキラキラと輝いているようだった。その顔立ちも整っており綺麗な女性だった。
『いいから、早く着替えなさい』
「は、はい」
『どこか隠れられそうな場所は?』
白い女性は窓から外の様子を窺いながら女へと訊ねた。
「それなら山に避難所があります。そこなら見つからずに隠れられると思います」
女は手渡された服に着替えるとそう答え白い女性の側へと駆け寄る。
『そう、それならそこへ行きましょう』
白い女性は女を連れて家を出る。その際に何かの魔法で二人を包み込んだ。迷彩効果のある魔法だったようで魔物には見つからなかったが、気配で見つかるのを嫌った白い女性はなるべく魔物のいない道を選んで進み村を出た。
「こちらです」
白い女性は女の案内で山へと続く川の上流、滝のある場所に着く。レインバーグの避難所と同じ仕組みになっているようで滝の裏側に岩肌に偽装した洞窟があった。
洞窟の中には逃げ遂せた村人たちがいた。村人たちは怯えた視線を白い女性に向けている。
「ここなら見つかりません」
女はようやく安心したような表情を見せる。その気の緩んだ表情はどこか幼くも見える。
『ここに隠れていなさい』
白い女性はそういうと洞窟を出て行こうとする。
「え? 行ってしまわれるんですか?」
女は不安そうな寂しそうな表情で呼び止める。
『ええ、私にはやることがありますから。でもまた来ます。 ……諦めないで、きっと助けは来ますから』
白い女性は微笑んで立ち去ろうとする。
「待ってください! わたしセシリアって言います。せめてあなた様のお名前をお教えください!」
『私の名は……』
白い女性は名乗ると洞窟を出て行った。
セシリアはその背中へ熱い視線を向けて見送った。
ユリっ娘か!?




