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会議中2

 アギトとの戦闘後、魔物の死骸の処理を兵たちにまかせ将軍やマリアさんたちは城の会議室で会議中だ。

 僕たちは怪我の治療を終えると僕の使っていた部屋に集まっている。

 一応容疑は晴れたが、先に城側のメンバーで話をすることになり、僕たちは後から呼ばれることになっている。きっと僕らの処遇について再検討しているのだろう。

 どちらかと言うと僕たちは僕たちのやるべきことをするだけ。

 処遇と言うなら邪魔をしないでくれればそれでいい。

 会議も特に参加させてくれなくてもいい。

 結果だけ教えてくれればそれでいい。

 などと不貞腐れても仕方がない。

 僕としては聞き出したい情報もあることだし、謝罪があったなら情報と引き換えにしよう。

 そんなことを考えていると、みんなも思うところがあるのか口を開かずおとなしくしている。

 程なくしてお呼びがかかり、僕たちは会議室へと向かった。


 会議室には高官たちが集まっていたが、この世界に来た時に最初に行った会議よりも人数が減っていた。先の防衛戦の事後処理に追われているのだろう。

 ハァ、彼らを見るだけであの時の視線を思い出してしまいそうだ。あの犯罪者に向ける視線を……散々犯人扱いされたのだから仕方ないだろ? 僕だって感情を持つ人間なんだから。

 それで会議なんだが、話の内容は大きく分けて2つ、謝罪と敵、アルマとアギトについてだった。

 謝罪とは言うまでもなく僕たちに掛けられていた冤罪についてだ。陛下は誠意をこめて頭を下げられた。器がデカすぎる! 一国の主にそんなことをされては受け入れるしかない。かといってそのままただ謝罪を受け入れることはしない。予定通り情報と引き換えに受けることにした。もちろん陛下も謝罪だけでなく何らかの形で報いようとしていたようでこの話に承諾してくれた。

 レイナ姫も申し訳なさそうに謝罪された。もちろん姫にも情報提供をお願いし承諾を得ている。 

 ただ、レイナ姫の護衛だけは納得している風ではなかった。今だに敵愾心を僕たちに向けている。実際どうでもいいが……

 まあ、彼の情報、黒髪の女がレイクブルグを壊滅させたと言う情報のおかげで、レイクブルグの人たちを救う手立てができたと言っていい。あの黒髪の女をとらえることができれば解決できるだろう。

 次に敵についてだが、アルマについてはそれほど脅威とはみなされていない。実際、存在を忘れられるほどにしか力を持っていなかった。どちらかと言えば、策、口のうまさというか人を欺く能力の方に注意が必要だ。下手をすると人同士で争う羽目になりかねない。僕たちの刑が執行されるようなことになっていたら、そうなっていたかもしれない。そういったことでは要注意だ。見つけ次第捕らえるか、処断することとなった。情報を得るため捕らえるのが得策ではあるけれど。

 アルマ以上に厄介なのがアギトだ。

 味方だと思っていたのにまさか敵になるとは……

 以前ローズブルグにアギトが現れた際に会っていたマーサさんはアギトの様子から注意すべきだと言っていた。その懸念が的中してしまったことになる。マーサさんはその懸念が徒労に終わることを願っていたそうだが、予見士のマーサさんの懸念が当たらないとは思えないんだけれど……

 ただ、今回のアギトの様子もどこかおかしかったらしく、マーサさんはさらにわからなくなったという。

 マーサさんが言うには

「アギトは本気を出してはいなかった。あの時のような力を使っていれば一瞬で勝負はついていたじゃろう」

とのことだ。

 これにはカルマも同意していた。

 カルマと戦っていたアギトは僕たちの時とは違い、明らかに手を抜いていたと。

 冬華ちゃんは「あんたが弱すぎて力が抜けたんじゃないの?」と言いたそうな顔をしていたが、さすがにこの場では言わなかった。きっと後で言うだろう。

 それよりも、あれで本気じゃないって、本気を出したアギトを相手に僕たちは勝てるのか? なぜ本気でこなかった? 城の中だったからか? 疑問は尽きない。

 みんなが困惑する中、結衣君が場の雰囲気にのまれたのか恐る恐る口を開いた。

「あの、外から見ていた感じだと光輝先輩たちに本気を出させたかったように見えました」

 城の高官たちはその意見を、「そんなことをする意味がわからない」、「多勢に無勢だったから力を出せなかっただけだ」などと言い一蹴した。

 結衣君ビクッとし、小さくなってしまった。

 僕から言わせれば高官たちの言ってることの方がおかしい。あのアギトを見ていないから言えるんだ。

 「多勢に無勢」ならすぐに力を使って終わらせればいい。「そんなことをする意味」はアギトが言っていた。「私の楽しみのため」と。本当かどうかはわからないが……

 そもそもアギトに力を出す余裕がなかった、なんてことはなかったのだから。

 結衣君の言ってることの方がしっくりくる。

 今思い返せば、アギトの言葉の端々に僕たちに本気を出させようとしているふしがあった。

 理由はわからない。アギトが言っていた通り楽しみのためなのか、それとも……

 あの時僕たちはどうやって倒すか、そのことだけを考えていた。

 外から見ていた結衣君の方が客観的に観察できたということだ。

 僕も戦闘中にそう見れるようにならないといけないな。それだけで何かに気付くこともでき、戦況を変えることもできるだろう。

 それ以外にもやらなければならない事がある。課題は山積みだな。

 そう考えていると、黙って話を聞いていたサラさんが口を開いた。

「アギトの行動がどうであれ、アギトは敵なのです。本気を出さないのなら、本気を出す前に倒すべきです。これは稽古でもなければ模擬戦でもないんですから」

 サラさんがこんな事言うとは思わずみんな困惑していた。

 しかしサラさんの言うことももっともな話だ。敵に全力を出させて戦って勝つなんて、マンガやゲームの話だ。アキは好きそうだが。

 陛下方もサラさんと同じ意見らしく、アギトに関してもアルマと同じ対応で決まった。アルマ以上に難題だけれど。


 でだ、先に言った謝罪を受けるにあたっての情報提供についてだが、単刀直入に言って得られるものはなかった。

 欲しかった情報は、モルガナの所在、または拠点。そしてアルマの言っていた封印の先。

 モルガナの方はまだ手掛かりも掴めていないようだ。

 奴らが封印を解いた後に何があるのか。これについては陛下もマーサさんも「あるモノが封印されている」ということしか知らないということだ。こちらも調査し、わかり次第知らせてくれることとなった。 

 ここでもまた後手に回ることになるのか……

 そこで会議は終わり、僕たちは僕の部屋へと戻った。


 部屋へ戻る途中、前を歩く冬華ちゃんが反対方向へ歩いて行く一人の兵士のところへ駆け寄っていく。

 そして背中に蹴りを入れた。 

「うっ!? いってぇな! 誰だ!」

 蹴られたのはカルマだった。

 アギトとの戦闘の後、カルマはすぐに将軍と一緒に行ってしまったから話せないでいた。言いたいことが山ほどあるのだろう。

「誰だじゃないわよ! あんたバカなんじゃないの!」

 冬華ちゃんは気がすまないのかカルマの足をゲシゲシッと蹴る。

「いってぇよ! なんのことだよ!」

 と文句を言うカルマを横目に、将軍とタリアが「お気の毒さま~」といった表情で通り過ぎていく。

「なんでアギトに向かって行ったの! あんた弱いんだから無茶すんじゃないわよ!」

「な!? 誰が弱いだと! オレはこの国の兵士だ! 敵に背中なんか見せられるか!」

 冬華ちゃんはカルマの胸倉をつかんで声を上げる。

「バカじゃないの! そんなの死んじゃったら意味ないんだからね!」

「オ、オレは死なねぇし」

 カルマは目を逸らしながら言う。目の前に冬華ちゃんの顔が迫って焦っているようだ。

「あんた死ぬところだったじゃない!」

「うっ」

「死んじゃったら元も子もないんだよ……」

 冬華ちゃんはアキの事を言ったいるのかもしれない……危険を顧みずたった一人で総司たちを迎えに行ったアイツの事を……

 カルマもなんとなく察したのか冬華ちゃんの目を真っ直ぐ見て言う。

「そうだな……でも、オレはお、お前を……」

 冬華ちゃんはカルマの言葉を黙って待っている。

「……お前たちを守るためなら何度だって立ち向かう」

 カルマ、カッコよく言ったが「お前たち」って言い直さなくてもよかったんじゃないか? そこで怖気づくなよ……

「ハァ、バカじゃないの? ホントに死ぬわよ?」

 冬華ちゃんはジト目で言う。チキンなカルマに呆れてしまったようだ。

「バカってなんだよ!」

「バカだからバカって言ってんのよ!」

 ん~この二人は当分はこのままかもなぁ。

「男ならもっとストレートに言ってほしいところですね。途中で怖気づくなんてもっての他です。先が思いやられますね」

「うおっ!?」

 隠れて聞いていたら、いきなり声を掛けられた。 

 振り向くと汐音君がメガネのツルに手を当てながら屈んでいた。

 いつの間にか僕の後ろに隠れてみんなもあの様子を見ていたようだ。

「へ~冬華ちゃんああいう人が好みなんだぁ?」

「たしかに意外だ。アキみたいなのが好きなんだと思っていたな」

「ね~」

 総司と結衣君が勝手なことを言っている。僕も思っていたが、冬華ちゃんが聞いたら怒り出しそうだな。

「いいなぁ~」

 カレンちゃん、何がいいの? 恋に焦がれるお年頃ですか?

「みなさんこんなところで何なさってるんですか?」

 会議室から遅れて出てきたサラさんが訝し気に見て訊ねてきた。

「い、いえ、何でもないです」

 僕は手を左右に振って言う。盗み聞きしてたなんて言えない。

「はあ、そうですか」

 サラさんは小首を傾げている。

「みんな何してんの?」

「!?」

 僕の背後に腕を組んでジト目の冬華ちゃんが立っていた。

 みんな揃って怒鳴られたのは言うまでもない……



 皆の退出した会議室にマーサとマリアが残っていた。

 沈んだ表情のマリアが言う。

「お母さん、サラのことですけど……」

 マーサは察したように答える。

「うむ、表面上は元のサラに戻っているように見えるが、内には悲しみを秘めていよう。皮肉にもアギトの言葉で立ち上がる理由ができた。今はアギトに憎しみが向いているからいいが、(かたき)を討つことができたときどうなるか」

「そうですね」

「前に進んでくれるといいんじゃが……そうでないなら……わしらが支えてやらねばな」

「はい」

「……なぜおぬしは戻って来なかったのだ。馬鹿者め……」

 マーサは窓から覗く夕闇を見つめ今は亡き馬鹿者の顔を思い出す。


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