惨敗
少し時を遡る。
オレの名はカルマだ。オレは今、光輝たち一行と共にアルマそしてアギトとかいう包帯男と剣を交えている。
光輝たちと言うのは異世界からオレたちが召喚してしまった者たちだ。この世界を救うために戦わされていると言っていい。本来なら彼らにそんな義務もなければ義理もない。被害者なんだから当たり前だ。
オレは召喚には反対だった。オレたちの世界の問題を異世界人に解決させるなんて違ってる。オレたちで解決するべきだ。
しかしオレは一介の兵士に過ぎない。陛下の決定に口を挟むなんてことできるはずもない。だったら彼らに負担を掛けないようなるべくオレたちで問題を解決していくしかない。
そう思ってオレは戦ってきた、兄貴と共に。
しかし、レインバーグ奪還作戦の際に兄貴が裏切った。オレも含め仲間の兵士たちを背後から切り付け魔物の餌食にしていった。オレは何とか切り抜け街に来ていた光輝たち一行と合流し助けられた。本来なら兵士であるオレが彼らを助けなければならないのに……
難を逃れレインバーグの避難民の隠れていた洞窟へかくまわれた際、彼らと口論になってしまった。彼らはフィッシャーマンの成体を倒したと言った。最近召喚された彼らがそんな力を持っているはずがないのだ。
そこでオレと彼らで模擬戦をすることとなった。相手は冬華と言う女だった。明らかガキだった。言動も態度もとても大人のそれではなかった。
オレはバカにされていると思い、力の差を見せつけ光輝を引きずりだしてやろうと思った。……いや、少し嘘だな。この女、ことあるごとにオレの事をバカにするような言動をしやがるから、一度シメてらやろうと思ったのが本当のところだ。男らしくないとは思う。
それでも勝負をした。引くわけにはいかなかったから。彼らに勝って彼らの力は必要ないと証明したかった。そうすれば彼らを元の世界に返すことも検討してもらえるかと思ったから。
しかし、勝負はオレの惨敗だった。完膚なきまでにやられた。真剣勝負で負けたのだ。しかも女に、ガキだと思っていたヤツにだ。光輝はさらに強いのだろう。本人はこの女に負けるかもしれないと言っていたが。
彼らの力を認めるしかない。それを見せつけられたのだから……
彼女の、冬華の剣技は美しかった。流れるようで、まるで舞っているようだった。
オレを見据える表情は真剣で、いつものガキのモノではなく大人の剣士の顔だった。
オレは見惚れてしまった。
しかしその後の冬華の言動は相変わらずガキのままで、ことあるごとにオレをバカにする。いや、オレが勝負に負けたことで酷くなったともいえる。なんなんだこの変わりようは?
オレはそのころから冬華を目で追うようになっていた。
それから光輝たちの力を借りレインバーグの奪還に成功した。アルマは取り逃がしてしまったが。
オレは彼らと別れ街の復興や城への報告内容をまとめていた。
レイクブルグから戻った彼らの表情は暗かった。冬華は俯いたまま通り過ぎていく。彼女の兄貴は見つからなかったみたいだ。早く見つかって元気になることを願った。
オレは光輝からローズブルグが危ないかもしれないと聞き、一足先に城へ戻った。
しかしすでに遅くアルマの策に嵌まり投獄される羽目になった。
程なくして光輝たちも投獄され、その仲間も捕まった。どうも味方だと思っていたアギトと言う男に裏切られたようだ。
オレもアルマに裏切られたから気持ちは痛いほどわかる。
オレは彼らの力になりたいと思った。いや、共に戦いたいと……
そして今に至る……
アルマにはオレと冬華が、アギトは光輝たちが相手をしている。
アルマは剣や魔力弾などを駆使して攻撃してきたが、剣技では冬華の方がはるかに上で魔力弾が少しばかり厄介なだけで二人掛かりなら余裕で取り押さえられそうだった。
しかし向こうの戦況が芳しくない。
オレは冬華を向こうの加勢に行かせ、こちらには将軍とタリアが参戦した。二人掛かりで余裕だったのだ、3人になったらまったく相手にならなかった。アルマは元々体が弱かったからこんなものだろう。
そう思っていた矢先、複数の悲鳴とゴォォォォという音が城内に響いた。
その音のした方を見ると、4人が床に転がり光輝が膝を着くところだった。
光輝の前にアギトが立ち見下ろしている。
5人掛かりで倒せないってあいつなんなんだよ! 化け物じゃねぇか!
いや、それどころじゃない! 光輝が危ない! オレはあいつらと共に戦うと決めたんだ!
オレはすぐに声を上げた。
「将軍!」
将軍はオレの考えがすぐにわかったらしくすぐに答えてくれた。
「ここはいい、行け!」
「はい!」
オレはアギトの左、包帯で覆われて死角となっている方へ向かって突きを繰り出した。卑怯だろうとここは戦場、5人を相手取れるヤツに真正面から行っても意味がない。オレは躊躇うことなく連続で突いた。
しかし、アギトは見えているかのように難なくオレの連撃を躱す。
「次はお前か?」
オレはアギトの視線を受け戦慄を覚えた。体が無意識に距離を取っていた。
(なんだこいつ……やべぇ)
オレは内心で愚痴るとまわりを見た。
冬華たちは起き上がろうとしているが、光輝は放心したまま動かない。動けるようになるまで時間を稼がないと。
「おぉぉぉぉぉぉ!」
オレは自分を奮い立たせるように猛とアギトへと突きを繰り出す。
アギトはまた連続の突きが来ると思ったのか、オレの突きを少し横にズレるのみで避けた。
オレは突いた剣をさらに突くのではなくそのまま横に振り抜いた。
最小限の動きで避けていたアギトと剣の距離は拳一つ分もない。これなら当たる! と思った。
当たる瞬間、アギトはかき消えていた。
アギトはバックステップで後方に下がっていた。
オレが剣を振り切るのと同時にアギトは距離を詰め剣を握るオレの腕を掴んで逃げられなくするとそのまま腹に拳を打ち込んできた。
「がはっ!?」
「ぐはっ!?」
2発入れられ、3発目を入れられる前にオレは片足をアギトの二の腕にかけ拳を止め、もう片方の足でアギトの顎を狙って蹴り上げた。
しかしアギトは掴んでいたオレの腕を離し上体をすらしオレの蹴りを躱すと、離した手で小さな竜巻を作るとオレに打ち付けた。
「ぶっ!?」
オレは吹き飛ばされ床を転がる。
痛ってぇけど、動ける……なんでだ? 5人を相手に平気な顔してるようなヤツだぞ? オレが強くなった? ってそんなわけあるか! こいつオレに合わせて力を抑えてやがるのか? ふざけやがって!
オレは顔を上げアギトを睨みつけると、冬華、サラさんと総司とかいうやつがアギトに斬りかかるところだった。
「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
アギトは手刀で冬華のダガーを叩き落とし蹴り一つで蹴り飛ばす。
「ぐっ!?」
蹴りの回転をそののままに腕に纏った風の刃を飛ばしで総司の炎の剣に当て総司を吹き飛ばす。
「なっ!?」
そして目の前に迫るサラさんを手を振って巻き起こした突風で吹き飛ばす。
「きゃっ!?」
オレはすぐさま飛び出し剣で切り付けるが、振り下ろすオレの腕をアギトの手刀で打ち据えられ、ゴキッと言う嫌な音と共に剣を落としてしまう。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
「脆いな……」
アギトはそう呟くと、膝を着くオレを見下ろす。
オレはアギトを睨み返すと、アギトはオレではなく光輝の方を見る。
「チッ」
アギトは舌打ちをすると口を開いた。
「まだ惚けているのか……そんな暇などないというのに。お前は誰も死なないとでも思っているのか?」
光輝はアギトを見上げるがその瞳には覇気がない。
「……つまらんな」
そういうとアギトはオレを見た。その瞳は怪しく光っている。オレは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
そしてアギトは告げた。
「誰かが死ななければ本気が出せないようだ。私の楽しみのためにお前には生贄になってもらおうか」
「!?」
アギトはオレの首を掴み強引に立たせると、オレの腹に拳を打ち付けた。
ドゴッ!
「グハッ!?」
今までどれだけ加減していたのかがわかる。内臓をミンチにでもされたかのような強烈な一撃だった。
オレは腹の中の空気をすべて吐き出し、呼吸ができず見苦しくよだれを垂らしもがき出す。
「が、あ、あ、ぅ」
そしてもう一撃。
ドグッ!
「!?」
「や、めろ」
光輝の声が聞こえた気がした。
オレはすでに意識が飛びかけている。幻聴かもしれない……
オレはここで死ぬのか……あいつらの力にもなれず……こんなところで……!?
宙を彷徨う視線がアギトの瞳をとらえた。
なんでそんな憂いに満ちた目をしているんだ?
「……」
アギトがなにか呟いたが、聞こえなかった。
そしてオレの首を掴む手に力がこもる。アギトの瞳には憂いはなかった。オレの幻覚だったのか?
オレの最後が迫る。
オレは最後に虚勢を張ってやる。
「や、やれる、もんなら、やって、みやがれ……」
「いい覚悟だ……お前の方がよっぽど使えるな……どうだ? 命乞いをすれば私の下で駒として使ってやるぞ?」
「ざ、けんな、ば~~か」
「そうか、なら死ね」
アギトは淡々と言うと風を纏った手刀でオレを貫こうとする。
「やめろ————!」
「ダメ————!」
光輝と冬華がアギトに斬りかかって行く。
「……」
アギトが何かを呟くとオレを貫かず放り投げ、二人を迎え撃つ。
「すぐ回復します」
オレの放り投げられた先にはカレンとかいう女がいてすぐに回復魔法をかけてくれた。
光輝は剣に光を纏わせ、横薙ぎに振り抜こうとする。
「チッ」
アギトは舌打ちをすると振り抜く光輝の腕を抑え蹴り飛ばす。
「くっ!?」
冬華はショートソードで連撃を繰り出す。その剣には水の刃のようなものが纏われていた。
「はぁぁぁぁ!」
冬華の連撃をアギトは受けとめず、その水の刃を観察しながら躱していく。
冬華の袈裟切りをアギトがバックステップで躱すと、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
振り抜いた冬華の水の刃が伸びてアギトを追い、アギトの体を切り裂いた。
ように見えた。
アギトは、いや冬華もだがアギトの体に変化がないことに困惑の表情を見せる。
「ハァハァ、え? ……なんで?」
「なんだ? 何もおこ……!? ぐあっ!?」
急にアギトが苦しみ出した。なにが起こっているんだ?
「なるほど……お前の力はそういう力か……」
アギトは何かに気付いたように笑みを浮かべて言う。笑ってやがるぞこいつ。
その光景に冬華は困惑しつつも警戒をする。
そこへ
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
という叫び声が突然響いてきた。
声の方を見るとアルマが将軍の剣に倒れるところだった。
すっかり忘れていた。アギトの存在感が強すぎてアルマの存在を忘れていた。
「チッ、(こいつも使えないな……)」
アギトは舌打ちし、アルマの方へ行くとアルマを抱える。早すぎてどう移動したのか見えなかった。
「なっ!?」
「早い!?」
将軍とタリアが驚愕の声を漏らす。
「ここは一度引くとしよう」
アギトはそういうと光輝を一瞥し外へと駆けだしていく。
「逃がすわけないでしょ!」
冬華と動けるものが後を追う。
オレも回復を終えると後を追った。
町の大通りを騒がしい西へと向かうと巨大なゴーレムの肩にアルマを抱えたアギトと黒髪の女が立っていて、離脱していくところだった。
程なくして戦闘は終わりを迎え、冬華たちも戻ってきた。
石碑は守られた。
しかし、オレたちは事実上たった一人に惨敗した……




