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真剣勝負!

続きです

 洞窟の奥には避難時の娯楽として子供たちが遊べるように広い空間が設けられていた。今そこで冬華ちゃんとカルマが剣を交えている。いや、木刀を交えている。 

 話を少し遡る。

 それは作戦会議中のリオル村での話が終わったときのことだ。

「嘘をつくな! たった三人でそんな数相手取れるわけがないだろう! しかもフィッシャーマンの成体を倒すなどできるわけがない」

 カルマは断じて信じないと言わん勢いでこれまたすごい形相で言う。近くにいたティムティナが怯えて汐音君の後ろに隠れてしまうほどに。小さい子を怯えさせるんじゃない。

「は? 三人じゃなくて四人ですけど? 話聞いてた?」

 冬華ちゃんは挑発するように言う。そんな火に油を注ぐような言い方しなくても……

「四人だとしても変わりませんよ。とても信じられません」

 サラさんも信じられないと、驚きを見せる。

「信じられないと言われても事実ですし。証明するにもリオル村の住人に聞くくらいしかないですよ」

 汐音君は双子を宥めながら言う。ずいぶんと懐かれているね。当然汐音君はカルマに抗議の視線を向け、カルマはバツの悪そうな表情をしていた。

「この際真偽はどうでもいいと思うんだけど……」

「しかし会長、信じてもらわないと魔物を倒しに行くことができないのでは? 私たちは止められているんですよ」

 汐音君は現状の説明をしてくれる。わかってますか? みたいな顔しなくてもわかってるよ。

「うん、だから実力がわかれば問題ないじゃないか」

「そうですが、具体的にどうするんです?」

「剣で勝負しよう。それが一番わかりやすいし」

「たしかに……」

 汐音君は顎に手をやり納得を示す。そして口を開いた。

「で、誰が勝負するんですか?」

「相手はオレがする」

 横からカルマが口を挟んできた。まぁ、一番信じてないカルマが相手をするのは妥当なところだろう。さすがにサラさん相手にはやりづらいし。

「じゃあ、こっちは僕……」

「私がやる!」

 僕がやると言い切る前に冬華ちゃんが横から遮り宣言した。そして二人はにらみ合い火花を散らしている。僕はまだ了承していないんだけど……

「いや、言い出しっぺは僕なんだし、僕がやるべきだろう」

「やだ! 私がやる!」

 冬華ちゃんは僕には視線を合わさずカルマを見据えたまま我を通す。ん~こうなると何を言っても聞かないからなぁ。ため息交じりに汐音君を見ると肩を竦めて首を左右に振る。汐音君も同じで諦めているようだ。仕方ないか。

「カルマ、冬華ちゃんはこう言ってるがどうする? イヤなら僕が相手をするけど」

「いいよ、さっさとそいつ倒してお前に相手してもらうからよ」

 カルマは冬華ちゃんを見据えたまま不敵な笑みを浮かべて言う。

「言ってくれるじゃない。負けて吠えずらかかないでよ! いえ、むしろかいちゃいなさい!」

 と冬華ちゃんは啖呵をきる。

「上等だ! 泣いてから後悔しやがれ!」

 カルマは女を泣かす宣言をする。男らしくないぞ~

 さすがに黙って成り行きを見ていたサラさんも口を挟んできた。

「光輝さん本当にやらせるんですか? 何度も言いますがカルマ殿は正規兵ですよ?」

 確かに……

「真剣だと危ないですからね。稽古用の木刀みたいなのはないかな?」 

と僕が言うと、サラさんは声を荒げて声を上げる。

「そういう問題ではありません! 技量の問題です!」

「まあまあ、本人がやるって言ってるんですからやらせてあげましょう。危険と判断した時は止めに入ればいいですし。(ここでわだかまりを取り除けたらなおいいし)」

 僕はそう言って説得する。最後の部分は小声で言ったから聞こえてないよね。そう言ってる間にティムが近づいて来た。

「はい、木刀!」

「お、あるんだ? ありがとなティム。これの短いのとかってあるかい?」

「うん、あるよ! こっち」

 と言ってティムが案内してくれた。そこはかなり広い空間で試合をするにはちょうどいい広さだった。木刀は壁際に置いてあった。冬華ちゃんとカルマは各々自分の得物を選んでいく。

 その間に汐音君が広間の使用許可をバーグレイさんに取りに行ってくれた。さすがに仕事が早いね。優秀な子が近くにいると助かるね。厄介ごとを増やす子もいるけど……ハァ

 そんなことを考えていたら得物が決まったようなのでの二人に話掛けた。

「今からすぐ勝負するかい?」

「あったり前じゃない! 善は急げよ!」

 と冬華ちゃんは言う。特に善はないと思うが……

「こっちもいいぜ」

 カルマも同意した。二人がいいなら始めようか。

「じゃあ、立会人は……」

 まわりを見ると話を聞きつけて見に来た野次馬が集まって来ていた。汐音君はティムティナを木箱の上に座らせ自分もその隣に座っている。サラさんもその隣に立ち二人を見守っている……僕にやれということだね。うん、やるよ、そのつもりだったし……

「じゃあ、僕で。真剣は置いてきてね危ないから」

 二人は剣を置いてそれぞれ木刀を持って中央に出てくる。

「ん~と、どちらかが降参するか、一太刀入れたら終了でいいかな?」

「うん」

「……」

 僕の申し出に冬華ちゃんは返事をし、カルマは無言で頷く。

「では、はじめようか。二人とも構えて」

 冬華ちゃんは大小一本ずつの二刀流。左足を前に腰を落とし左の短刀をカルマへと向け右の長刀はやや後ろ斜め下に構える。

 カルマは長刀一本。こちらも左足を前に腰を落とし体を横に向け剣を両手で持ち胸の高さで剣先を冬華ちゃんに向けて構える。

 二人とも右利きか?

 二人が構え動きが制止したのを確認し声を上げる。

「はじめ!」

 僕の合図のすぐあと、けたたましい声が響きわたる。

「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 冬華ちゃんが下っ腹から気合を入れる。

 いきなりの発声に怯んだカルマは動きが一瞬硬直する。

 その隙を見逃すことなく短刀を前にしたまま冬華ちゃんが出る。そして入れ替えるように右の長刀を右下からの逆袈裟でカルマの死角へと振り抜く。

「フッ!」

「見え見えなんだよ」

 カルマはそう呟くとバックステップで躱し冬華ちゃんの長刀が空を斬る。カルマはガラ空きとなった胴へ突きを繰り出す。

「ハァッ!」

 胴に迫る突きを冬華ちゃんは左の短刀で左に流す。そして振り抜いていた右の長刀をクルッと回し右上から袈裟切りでカルマの首へと振り下ろす。

「フンッ」

「!?」

 冬華ちゃんの袈裟切りがカルマの首ギリギリのところでピタリと止まる。そして両者とも停止する。

 先に口を開いたのは冬華ちゃんだった。

「あんたやる気あんの? 私が女だからって本気出さないとか言わないわよね!」

「まさか、実力のわからないヤツ相手にいきなり本気なんて出せるかよ。殺し合いじゃないんだからよ」

 カルマはニヤリと笑って言う。その顔には若干の汗が見て取れる。返されるとは思っていなかったのかもしれない。

「あっそ」

 冬華ちゃんは木刀を引いて元の位置に戻る。

「じゃあもう一回仕切り直しね」

 そう言って振り返った冬華ちゃんの表情はさっきよりも真剣なものに変わっていた。有無を言わさぬその表情は本気でやらないと許さないという無言の圧力が含まれていた。

「ああ」

 それだけ言うとカルマも元の位置に戻る。冬華ちゃんの豹変ぶりに若干引き攣った顔をしていたがすぐに表情を引き締めなおす。


「冬華ちゃんのあんな表情はじめて見ました」

「そうなのですか? お友達ではないのですか?」

「そうですが、知り合ったのはここに呼ばれる直前でしたので彼女のことはそこまで知らないんです。私が知らないだけで、会長も五十嵐君も表に出してないものがあるのかもしれないですね」

「そうですね」

「(でも、それを知ってしまったら私たちはどうなるんだろう)」

 そんな汐音君とサラさんの会話が横から聞こえてくる。最後小声で言ってたから聞き取れなかったけど。


 再び二人が構えたのを確認し、僕は右手を振り上げ開始の合図を出す。

「はじめ!」

「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ——!!」

 またしても冬華ちゃんの気合が放たれる。いや、さっきよりも鬼気迫るものがあるな。

 今度は先に仕掛けたのはカルマの方だった。やや前傾姿勢の構えから前に出て突きを繰り出す。しかし前回とは違いスピードが上がっていて、数も増える。突きの連撃が雄叫びと共に放たれた。

「おぉぉぉぉぉ!」

「!?」

 冬華ちゃんはその突きの連撃を、ときに足さばきや体さばきで躱し、ときに左の短刀を駆使して突きの軌道をいなしていく。その間も鋭い視線はカルマの動きをとらえ続けている。


「カルマさんすごい突きですね」

 試合を見ている汐音君が呟く。

「正規兵ですからあれくらいはやっていただかないと困ります。しかし、すごいのは冬華さんです」

 そういうサラさんに訝しげな表情を見せ汐音君は訊ねる。

「冬華ちゃん防戦一方に見えますが……」

「いえ、彼女あの突きを軽くあしらってます。しかもカルマ殿の動きをずっと観察しています。もし隙を見せたら……」

 サラさんはそこで口を噤んだ。


 緩急をつけつつもカルマの突きの連撃はやまない。冬華ちゃんは最小限の動きで躱し続けていた為カルマの方が先に疲れ始める。カルマの突きが一瞬止まったところを狙い冬華ちゃんの右の長刀が横薙ぎに振り抜かれる。

「ハァッ!」

 カルマはその長刀を自らの木刀を縦にしガードする。

「クッ!?」

 そして空いたカルマの右側に冬華ちゃんの短刀の突き出される。しかも無言で。

「!?」 

 カルマはその無言の短刀をギリギリで躱すが、突きは一度ではなく連続で放たれた。

「フッ! クッ!?」

 カルマは三つめの突きを躱しきれず木刀で受け、その後の突きも木刀で受け続けた。カルマはさばき切れなくなる前に反撃に出ようと冬華ちゃんが突き出してきた短刀を強引にかち上げた。

「うおぉ!」

 そして、かち上げた体制からそのまま木刀を冬華ちゃんに振り下ろした。

「終わりだ——!」

「(それ言っちゃダメでしょ)」

 冬華ちゃんは何か呟くと、かち上げられた勢いに逆らうことなく体を右に回転させ振り向きざまに右の長刀をカルマの木刀を狙い振り上げる。

バキッ

 カルマの木刀が二つにへし折れる。

 冬華ちゃんの武器破壊にカルマは硬直しその隙を冬華ちゃんの左の短刀が突く。

 短刀はカルマの首元でピタリと止まり静寂が辺りを包む。

「勝負あり!」

 僕は勝負の決着を告げるとまわりから歓声が沸き上がる。ティムティナはキャッキャと騒いでいて汐音君はそんな二人を見て危ない危ないと慌てている。その隣でサラさんは茫然と立ち尽くしていた。

 カルマはその場で座り込み、冬華ちゃんは元の場所に戻り一礼する。

 僕は冬華ちゃんに話掛けた。

「ずいぶんじっくりと攻めたね」

「え? 別にあいつがなかなか隙を見せてくれなかったから仕方ないでしょ」

「隙ね…」

「なによ! 文句あるの?」

 冬華ちゃんは少し朱に染まった頬を膨らませる。

「いや、ないよ。お疲れさま」 

「ふん!」

 僕が労ってあげると冬華ちゃんは汐音君の下へと戻っていく。


「あ――――負けた――――!」

 後ろからカルマの声が聞こえてきた。僕はカルマに近づき声を掛ける。

「冬華ちゃんどうだった? 強かっただろ?」

「……ああ、不本意ながらな」

 カルマは不貞腐れたように言い、さらに口を開く。

「お前はあいつより強いのか?」

「どうかな? 冬華ちゃんがここまで強くなってるとは思わなかったから、純粋に剣だけで勝負したら負けるかもな」

 僕は冗談めかして言うと、カルマは溜息交じりに言う。

「あんなふざけたヤツがなんであんなにつえぇんだよ」

「それは……負けたくないからだよ」

 僕はそう答えた。

「何にだよ? あいつオレを見てるようで違うモノを見てるようだったぞ」

 カルマはそんなことを言う。カルマもよく見えていたということか……

「そうか……」

 僕は冬華ちゃんを見ながらそれだけ言うと口を噤んだ。

 そんな僕を見てカルマは話題を変えるように言う。

「そういえばあいつオレに勝ったのに何も言ってこないな。あいつのことだから「よっわ~本気出してこの程度? 情けないんですけど~」とか言ってくるかと思ったんだが……」

「あはははっ、確かに。でも今は言わないかな……あの子は真剣にぶつかって来てくれるヤツの事嫌いじゃないから……」

 僕は一人の男を思い出し表情を暗くする。

「ふ~ん」

 カルマは冬華ちゃんを見ながら生返事をする。

「でも、そのうちいつもの調子に戻ったら何か言ってくるだろうけどね」

 と僕が忠告すると、冬華ちゃんがこちらを見てニヤリと笑った。そしてスキップをしながら近寄ってくる。

「ほら来たぞ~カルマがんばれよ~」

 僕はカルマにそう言いニヤリと笑う。カルマは頬を引き攣らせていた。

「あらあら~カルマさんったらこんなところで座りこんで何をなさっているのかしら~。ひょっとして~、吠えずらかく練習でもしてるんですか~」

 冬華ちゃんはニヤケ顔で口元に手を添えつつカルマをからかいはじめた。

「かかねぇよ! つうか吠えずらってどんな面だよ!」

という二人のやり取りが広間に響きわたっていく。


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