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ティムティナ再び

久々の続きです。

 僕たちは汐音君を連れて行った小さな人影を追ってレインバーグの北にある山の麓まで来ていた。

 ……ちょっと人聞きが悪い表現だったから言い直そう。

 汐音君を助け魔物の群れのど真ん中から連れ出してくれた小さな人影の後についていき僕たちは山の麓まで来ている。

 その人影は汐音君を連れて生い茂る森の奥へと進んでいく。

「コウちゃん急がないと見失っちゃうよ!」

 前を行く冬華ちゃんがこちらを振り向き言う。

 僕とサラさんはカルマに肩を貸しながら走っていたため、引き離されつつあった。汐音君を一人にするのはまずいと思い冬華ちゃんに向かって叫ぶ。

「先に行って汐音君と合流してくれ!」

「うん、わかったー!」

 冬華ちゃんはそう返事をすると汐音君の後を追いスピードを上げる。

「クソッ! オレがお前らの足手まといになるとは……」

 カルマは口惜しそうに下唇を噛む。

「いつまでこだわっているのですか! そのようなことを言っている場合ではありません。今はお互いに力を合わせなければいけない時なのに」 

 サラさんは今だ僕たちとの壁を取り払おうとしないカルマを咎める。

「まあまあ、男にはプライドってものがありますから、そんなにすぐには割り切れないものですよ。少しづつわかり合って行けばいいじゃないですか」

 僕はそう言いつつ表情が暗くなる。僕は頭を過った記憶を頭を振って振り払うとサラさんに言う。

「サラさん、いったん休んで応急処置をしましょう。追い付くのは難しそうですし」

「そうですね。わかりました」

 サラさんは前方を確認してから了承した。

 僕はカルマを木陰に座らせるとサラさんに顔を向ける。

「僕がまわりを見ておくのでカルマをお願いします」

「はい」

 サラさんはカルマに回復魔法をかけはじめる。

「クッ……すまん」

 カルマは頭を下げ、謝罪なのか礼なのかわからないニュアンスで言う。

 僕はまわりを見つつカルマに訊ねた。

「カルマ、他の兵たちは……その生き残りはいないのか?」

 カルマはそっぽを向いて答える。

「いや、何人かは城に知らせるために逃がしたが……逃げ切れたかはわからん」

「そうか。……魔石はどうなった?」

 僕はさらに訊ねる。

「魔石は……破壊された」

 カルマは悔しそうにボソリと呟いた。

「そうか」

「……」

「……」

 沈黙が痛い……沈黙に耐えきれなくなり僕は聞こうか迷っていたことを聞くことにした。

「なあ、アルマは……なんで裏切ったと思う?」

 それを聞いたカルマは表情を険しくする。

「知るかよ! そんなのオレが聞きたいっての! ……ただ、あいつ昔から体弱くて兵に志願した時もその知力を買われて兵になれたんだ。当然戦場には出させてもらえなかった。仕方ないとはいえ、あいつは不満に思っていただろうな。兵なのに戦うことができないなんて……だが最近になって急に体の調子が良くなって戦場にも出られるようになった。その頃からか、様子が変わったのは……」

「様子が? どんなふうに?」

「どうって……説明しずらいんだが、雰囲気? 兄貴なんだけど兄貴じゃないような……」

 カルマは説明に窮し押し黙る。

「ん~それだけじゃわからないな」

「し、仕方ねぇだろ! わかんねぇんだから!」

「そうか……そうだな」

 僕はそれだけ言うと口を噤んだ。考えられることはいくつかあるけど、どれも確認のしようがない。どうしようかと思い悩んでいるとサラさんの声が耳に届いた。 

「光輝さん、応急処置終わりました」

 いいタイミングで声を掛けてくれた。ちょっと焦っているこんな落ち着かない状況で悩んでも考えはまとまりそうもなかった。そこまで優秀な頭をしているわけではないから一刻も早く汐音君たちと合流して落ち着きたいものだ。

「じゃあ出発しますか」

 僕の合図で二人は立ち上がる。カルマも自分で立ち上がっていた。

 僕たちは汐音君たちの入って行った森の中へと足を進めた。


 しばらく行くと山に囲まれた岩肌の見える場所にたどり着いた。

「誰もいませんね……」

 サラさんの言う通りここには誰もいない。何もない。

「道間違えたんじゃねぇの?」

 カルマは小バカにしたように言う。

 間違えようがないだろう。山に囲まれていてこの道しかなかったし。冬華ちゃんが何か手掛かり残してくれていればいいんだけど……あの子がそんなことするとも思えない。いや、むしろ楽しんでいるかも……

「……怪しい」

 僕はまわりのどこかに冬華ちゃんが隠れていないか探し始める。木の上、岩の影、草むらの中隠れられそうなところはすべて見たがいない。

(考えすぎか?)

 僕は顎に手をやり考え込む。それにしてもこの岩肌だけなにか……

「どうしたんですか?」

 僕が岩肌をじっと見て考え込んでいると、訝しげにサラさんが訊ねてきた。

「いえ、どこかに冬華ちゃんが隠れていそうな気がして」

「隠れるってなぜそんなことを?」

 僕の呟きにサラさんは「そんなバカなことを」というふうに言う。

「あの子ならやりかねないんで……」

「はあ……」

 サラさんは信じていないように生返事を返す。カルマに至っては木にもたれかかり気にする風も見せない。

 すると……岩肌から顔が出てきた。

 その瞬間僕とサラさんは驚きで目を見開いていたが、その顔の表情を見て一瞬でそれが冷めた。

 ベロベロべ~~とするようなバカにしたような顔だったからだ……そしてそれは冬華ちゃんだった。

「うわぁ!? 汐音ちゃん押さないでよ!」

 僕はジト目になり目の前のバカな子を見る。

「(ホントに隠れてた……)」

 後ろから小声でサラさんの呆れ声が聞こえてくる……ごめんなさいねバカな子で。

「あなたがバカなことをしているからです。そんなところはやっぱり兄妹なんですね」

 苦言を呈し、呆れながら汐音君が岩肌からスーッと出てきた。

 僕は汐音君に訊ねた。

「汐音君! これはいったい?」

「すみません会長。私はやめるように言ったのですが……」

 汐音君は違うことで謝罪した。

「いや、そこじゃなくて今岩肌から……」

「とにかく入ってください。あまりここで話していると見つかってしまいますので」

 そう言うと汐音君たちは警戒している僕らを岩肌の中へと押し込む。

「ちょっ、まっ!?」

 岩肌にぶつかると思ったら、そこには広い空間が広がっていた。

「洞窟?」

 僕が呟くとサラさんが何か気付いたようで口を開く。

「なるほど認識阻害魔法で隠していたんですね」

「どういうことです?」

「魔法でここの存在を隠していたんです。外から見る人にここがただの岩肌だと誤認させているんです」

 サラさんがそう説明してくれると奥から幼げな声がした。

「うん、そーだよ!」

 声の主は銀髪の小さな男の子だった。

「キミは?」

「ボクはティム」

「ティナはティナだよ」

 ティムと名乗った男の子の後ろからピョコっとティムにそっくりな女の子が名乗り出てきた。

「双子かい?」

 僕が訊ねると「「 うん 」」と見事なハモリを見せて頷くとジーっと僕の顔を見る。

「あ、僕の名前は光輝(こうき)だよ」

「わたしはサラです」

「カルマだ」

 僕に続いて二人も名乗る。汐音君はティムの隣に歩み寄ると背中に手を添える。

「この子なんですよ、私を助けてくれたのは」

 汐音君はそういうとティムの頭を撫でてやる。

「へ~そうだったのか。ありがとうな。仲間を助けてくれて」

 僕がお礼を言うとティムは胸を張ってこういった。

「男だったら、かわいい女の子を助けるのは当たり前なのだよ」

「なのだよ」

 ティムに倣ってティナも言う、最後の部分だけ。

 それに気分を良くした汐音君はティムを抱きしめる。

「もう、かわいいだなんて素直ないい子ですね~」

 なぜか冬華ちゃんはティナを抱きしめていた。

「キャー、ティナちゃんかわいいー!」

 まあ、この光景はなぜか和むから良しとしよう。僕がそんなことを思いながら眺めていると二人を叱る声が聞こえてきた。

「こら、二人ともお客さんのお邪魔をしてはダメですよ」

 そう言って美人な女性が歩み寄ってくる。その隣に白髪混じりの男性がいた。

「「 お母さん 」」

 二人は女性の足にしがみ付く。

「やっぱりアキじゃなかった」

「なかった~」

「あらそう、残念だったわね」

 女性はそう言うと二人の頭をなでる。

 それの微笑ましい光景を頬を緩ませて眺めていた汐音君が僕たちの間に立ちそれぞれ紹介してくれた。 

 汐音君たちはすでに自己紹介済みだったようだ。

 僕はたった今聞いた名について訊ねた。

「あの、今アキっていいませんでしたか?」

 それに答えたのはティムだった。

「アキに教えてもらったんだもん。男はかわいい女の子を守るものだって」

「えへへ~」

 そういうティム、そして嬉しそうに笑うティナ……どういうこと?

 僕の表情に疑問符が浮かぶ。

 そこでティアナさんがあわてて説明してくれる。

「すみません。アキさんがこの子たちを助けてくれたんです。その時にそのような話をしていたもので……」

「そうでしたか」

「(ティナちゃんのあの嬉しそうな表情、お兄ちゃんあんなちっちゃい子にまで!?)」

「(見境ないですね五十嵐君は……見損ないました)」

「(アキさんがそんな……)」

 後ろでアキの名誉が失墜していくのが聞こえてくる。サラさんまで一緒になって……サラさんは信じてあげてくださいよ。 

「と、とにかくアキがこっちのルートで進んだことはわかった。うん」

 僕が一人納得していると、レインバーグ町長のバーグレイさんが心配そうに訊ねてきた。

「あの~町の方はまだ魔物が占拠しているのでしょうか?」

「すみません、我々の不手際で……しかしすぐに隊を再編成して町を奪還しますので今しばらくの辛抱を」

 カルマは頭を下げて謝罪する。そのあまりにも今までの態度とかけ離れた光景を見て僕たちは茫然としてしまった。

「あんた血流し過ぎて人格おかしくなっちゃったの?」

 と冬華ちゃんが失礼なことを代弁してくれた。僕もそう思ったし。

「あ? 人格おかしいのはお前だろ! いきなり岩肌から緊張感のないアホ面出しやがって!」

 カルマはそう言い返す。その言い分もわかる。

「あ、あれはちょっとした遊び心よ! 遊び心を忘れたら人生おしまいよ!」

 冬華ちゃんはさらに言い返す。忘れたとしても人生は終わらないと思うぞ。

「あの場面で遊び心を出す神経を疑うよ!」

 カルマはもっともなことを言った。勝負あったかなと思ったところでサラさんが割って入った。

「二人ともそこまでにしてください。みなさん見ていますよ。カルマ殿は正規兵なのですから一々感情に流されてはローズブルグ兵としてみっともないですよ」

 カルマが押し黙り下唇を噛むのを見て冬華ちゃんはフフンと笑う。

 それを見てサラさんの矛先が冬華ちゃんに移る。

「冬華さんも、誰彼構わずからかうのはよくないですよ。さっきのカルマ殿の姿勢は兵士として至極まっとうな対応でしたよ」

「(お兄ちゃんならもっとからかうと思うんだけど……)」

 冬華ちゃんは小声で呟き口を尖らせる。それを見たカルマはフフンといった顔をしている。さすがに声には出していないが……

「すみませんでした。お見苦しいところをお見せして」 

「い、いえ」

 サラさんがバーグレイさんに謝っている間、後ろでは叱られたばかりの二人がガンの飛ばし合いをしていた。子供か!

「(私の役回りを奪われてしまいました……)」

 いつの間にか隣にいた汐音君がボソリと呟いて少し寂しそうな顔をする。

 僕はそんな汐音君の肩をポンと叩いて言う。

「(今回はカルマもいたから仕方ないさ)」

 汐音君は黙って頷いた。

 そんなことより、これからのことだな。僕は話を切り出した。

「とにかく魔石がないことにはどうしようもないな。壊されていなければ僕たちで魔物を倒してもよかったんだけど……ここに予備の魔石があったりはしませんか?」

 バーグレイさんは驚いて口を開く。

「え、ありますが……皆さんだけでですか?」

あなたたちだけでは無理でしょう、と言いたげな表情をしていた。

「なんだ、あるんじゃん。じゃあ次にやることは決まったね」

 冬華ちゃんは頭に手を組んで軽く言い放つ。

「そうですね。私たちはまだ先に進まなくてはいかないですし、後ろから魔物に襲われるのは嫌ですからね」

 汐音君がメガネをクイッと上げて賛同する。

「そうだね、とりあえずカルマの治療をしつつ作戦会議しようか」

 僕は文化祭の予算会議をしようか、みたいなノリで言う。

 さすがにこの異常な光景に黙っていられなくなり、サラさんが止めに入る。

「ちょっと、皆さん本気ですか? 遊びではないんですよ!」

「そうだ! 素人が出しゃばってくるところじゃない!」

 カルマが一緒になって止める。

「そうは言っても隊の編成にも時間がかかるだろ? ここの備蓄だって無限にあるわけじゃない。やれるなら早めにやった方がいいだろ?」

「そうそう、魔物の数が少ないうちにさ」

 僕の言葉に冬華ちゃんが援護射撃をする。

「少ないって、さっきの魔物の数見たでしょう? 少なくはないんですよ!」

 サラさんが冬華ちゃんに言い迫る。

 冬華ちゃんは引き気味に汐音君に助けを求めるように言う。

「え、リオル村の時より少なかったよ。ね、汐音ちゃん」

「そうですね。半分もいなかったんじゃないですか」

 汐音君はメガネのツルをつまみ思い出すように言う。

「たぶんレインバーグにいた魔物が斥候の後をつけてきてリオル村を襲ったんだろうから、こっちが少ないのも当然かな」

 僕たちの言葉についていけていない様子のサラさんは疑念を抱いて訊ねてきた。

「どういうことですか? わたしが城に戻っていた間に何があったんですか?」

「あれ? 話してなかったっけ?」

 冬華ちゃんはあっけらかんとして言い。汐音君が補足する。

「あの時のサラさんは様子がおかしかったですからね。言うタイミングがなかったんですよ」

「あ~そっか」

「じゃあ、その辺の話も含めて作戦会議しようか」


 カルマは今もなお疑念に満ちた目を僕らに向けている。



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