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反省会

「反省会をします!」


 魔物を退治した僕たちは魔物から売れる素材を採取し売却した結果、まあまあな小金持ちとなった。その資金を元手に宿屋の食堂でちょっと豪華な夕食を取った。その直後のこれである。

「い、いきなりどうしたの汐音ちゃん」

 お腹をさすり満足げな表情で突っ伏していたところ、突如告げられた会に嫌な顔をして冬華ちゃんが言う。

「どうしたのじゃありません! 今日の戦いで何も感じなかったのですか?」

 やる気のない顔の冬華ちゃんに汐音君は目を吊り上げ強い口調で言う。

 冬華ちゃんは腕を組んでしばらく考えた後、

「ん~、魔物も倒して、みんな無事、村も無事、うん、よかったよかった」

能天気に喜んで言う冬華ちゃんに、カミナリが落ちる。

「よくありません!!!」

「「ヒッ!?」」

 汐音君のあまりの剣幕に冬華ちゃんは体を縮こませる。一緒に食事をしていたカレンちゃんも固まってしまった。まわりにいる他のお客たちの視線がこの席に集まり、ささやき声が耳に届く。

「し、汐音ちゃん落ち着いて、みんな見てるよ」

「これが落ち着いていられますか!」

「「ヒッ!?」」

 汐音君は周囲の目などお構いなしに机を叩いて声を荒げる。

「コウちゃん、汐音ちゃんコワいよ~」

 冬華ちゃんは小声で僕に訴え掛ける。

 僕を巻き込まないでくれ……僕はそっと目を逸らす。

「何か言いましたか!」

 汐音君はメガネのツルに手を添え、クイッとメガネを上げると鋭い眼光を冬華ちゃんに向ける。

「いえ、なにも言ってません! (裏切り者~)」

 冬華ちゃんは背筋をこれでもかというほど伸ばし否定すると、僕を恨めしそうに睨む。

「ハァ、能天気と言いますか。そういうところは五十嵐君そっくりですね」

 汐音君はため息混じりに言い、冬華ちゃんに真面目な目を向け口を開く。

「あの戦い途中まではまあまあ順調だったのですが、成体が出てきてからは全然ダメでした」

「そうかなぁ? よかったと……!?」

「……」

 冬華ちゃんの反論を無言の眼光で黙らせる。

「あそこは一度態勢を立て直すべきところです。それをあなたは一人で突っ込んで行くなんて!」

 汐音君はテーブルに手を突き乗り出して説教を始める。

「だ、だって、あのときはあーするしかなかったし……あいつを足止めする役が必要だったじゃん」

 と、冬華ちゃんはびくびくし目を泳がせながら言い訳をしはじめる。しかし、汐音君は冬華ちゃんを真っ直ぐに見つめてその言い訳を否定する。

「本当にそれが理由ですか?」

「う、うん……」

 冬華ちゃんは下を向き言い淀む。

「ハァ、冬華ちゃんあなたの言動からは五十嵐君への対抗心のようなものが感じられます。それが原因ではないんですか?」

「……」

「兄妹で何があったのかは知りませんし、話したくないのでしたら聞きません。でも、それであなたにもしものことがあったらどうするんですか!? 私はあなたを妹のように想っているんです。ですから……あんなことは二度としないでください」

 汐音君は目に涙を溜め訴える。その様子に冬華ちゃんはアワアワし、申し訳なさそうに謝罪する。

「汐音ちゃん……ごめんなさい」

 汐音君はメガネを上げ目尻の涙は拭うと、視線を僕に向ける。

「ですから会長! しっかり私たちの手綱を握っていてください」

 いつの間にか汐音君の腕にしがみ付いていた冬華ちゃんもそうだそうだ、と言わんばかりに頷いている。

 いきなり矛先を向けられた僕は咄嗟に謝ってしまった。

「は、はい! すみません」

 僕の謝罪に我に返ったのか、汐音君はハッとなり慌てて胸の前で手を左右に振る。

「い、いえ、私こそリーダーを差し置いて勝手に口を出してしまいすみませんでした」

「え?」

「はい?」

 僕の疑問符に、なんですか? といった感じに小首を傾げている面々。

「リーダーとかってあったんだね」

「当たり前じゃないですか、集団行動する際にはリーダーの存在は必須です!」

 汐音君は眉を顰め困った人を見るように言う。

「そうだよね、ごめんごめん」

「まぁまぁ、リーダーもちゃんとわかってるって。まわりもちゃんと見てるし、あの時も最後私を守ってくれたじゃん」

 と身を乗り出していた汐音君を絡めた腕で引き寄せ、僕を弁護してくれる冬華ちゃん。

 しかし

「え?」

「え?」

 僕の疑問符に疑問符で返す冬華ちゃん。目線を交わし疑問符を応酬する。

 それを見かねた汐音君が口を挟む。

「あの魚人の腕を斬り落としたのは会長ですよね?」

「いや、僕じゃないよ。さすがにあの位置からだと冬華ちゃんごと切ってしまうからね」

「え、じゃあ汐音ちゃん?」

「そんなわけないでしょ。私も会長だと思っていましたし」

 汐音君は呆れたように答えると、横からカレンちゃんが声を掛けてきた。

「あの~」

 それの声に条件反射のように反応した冬華ちゃんが声を上げる。

「あ、カレンちゃんか!」

 違うだろ! という視線が冬華ちゃんに集まる。自信満々でカレンちゃんにお礼をしようとするのを制し、カレンちゃんが続ける。

「ち、違うよ! えっとね、川の方から風が発生したように見えたから」

「「 川? 」」

 声を合わせて疑問符が浮かぶ……川には誰かがいた気配はなかったはず。焦りで注意力が低下していたのか? 気配を消して僕たちを監視してるとか? そんなことをするメリットは? 敵なら助けるのはおかしいし……疑問が沸々と浮き上がってくる

「会長?」

 考え込んでいると汐音君に呼ばれ思考を止める。

「ああ、風が吹いたのは気付いたけど、川には誰もいなかったと思う……でも一応気を付けておこう。何かがいたとしても味方とはかぎらないからね」

 と僕は注意喚起する。

「「 はい! 」」

 そう素直に返事されるとなんだか怖いんですけど、特に冬華ちゃんが……




 数日後リオル村にローズブルグから兵が到着した。

 隊は一個小隊? くらいかな? 軍隊のことはよくわからないけれど、2、30人くらいの屈強な兵士がレインバーグ奪還のために来てくれた。

 今目の前にこの小隊指揮官のアルマさんがいる。この屈強な兵士たちに囲まれて異質なほどにか弱く見える。病的に色白く、およそ兵士に見えない体躯、どこか女性的な印象で、美少年を大人にしたような感じだ。表情は柔らかなのだが瞳は少し冷たさが感じられる。

 見た目で判断するのもどうかとは思うけれど、それでも僕よりも細いって。それとも魔法士とか知略を駆使するタイプなのかもしれない。要するに軍師なのかな? 指揮官というのだから何かしらの能力に長けているのだろう。

 その隣にはアルマさんの副官がいる。こちらは対照的でかなり鍛えられているのがわかる細マッチョで褐色の肌の男だ。険しい表情で激情を孕んだ目でこちらを見据えている。悪く言えば睨んでいる。

 アルマさんの説明によれば、村で小休止した後、東にある教会へ行き野営するとのことだ。そして明日作戦を決行するそうだ。

「兄貴、こんなよそ者に作戦を説明する必要はないだろ!」

 副官の人はどうやらアルマさんの弟のようだが、どうも僕たちのことを認めていないようで隠す素振りも見せず悪態をつけてきた。

「カルマ控えろ! 失礼だろう。彼らはこの世界を救うために来てくださったのだぞ!」

「救う? 救うって何からだよ? ありもしないモノに怯えてどうすんだ! まあ、魔物を狩ってくれるってんならせいぜい頑張ってもらうだけだけどな」

 カルマは言うだけ言うと休憩している他の兵の元へと行ってしまった。

「カルマ! すみません、あいつは、その、異世界の住人を呼び寄せるのに反対していたもので」

 アルマは何とかフォローしようと言い繕う。

「いえ、気持ちはわからなくもないので、僕らを巻き込みたくなかったと受け取っておきますよ」

 カルマはよそ者の力に頼らなくても自分たちだけで十分だと、そう言いたかったのだろう。結局は陛下の決定に従うしかなかったわけだから、怒りの矛先がこっちに向いても仕方がないのだろう。しかしいい迷惑だ……

「(ねぇねぇ、汐音ちゃん。あれって超死亡フラグじゃない? ああいうこと言うタイプってこの直後の戦いで死んじゃうか、敵につかまった後惨たらしく殺されそうだよねぇ。もしくは寝返って裏切りそう)」

「(死亡フラグってなんですか?)」

「(死亡フラグ、というのはよくわかりませんが、あの目つきは気に入りませんね。ムカムカします。痛い目にあえばいいんです)」

 後ろから三人娘のそんな会話が聞こえてくる。……一応小声で話しているようだが僕に聞こえるくらいだからもちろんアルマさんにも丸聞こえである。

「アハハハ」

 アルマさんの乾いた笑い声が痛い。

 僕は引き攣った笑顔を作りつつ話題を変え訊ねた。

「そういえばサラさんはいらっしゃらないんですね?」

「あ、はい、我々は先に出てきましたから、後から来られると思いますよ」

「そうですか」



 その言葉の通り、小隊が村を出た後、入れ違うようにサラさんが戻ってきた。別れたときと変わらない……?

「サラさん、おっ帰りーー!」

「……」

「あ、あれ? 私無視された? ねぇ、無視されたの? 私嫌われちゃった?」

 ショックを隠し切れないとばかりに汐音君に縋り付く冬華ちゃん。

「いえ、無視というより……様子が変ですね」

 汐音君の指摘通り確かにおかしい、どこか沈んだ雰囲気がある。

「サラさん!」

 僕が名を呼ぶとサラさんは驚いた顔をする。

「は、はい! あれ皆さん、なぜここに?」

「なぜって、ここリオル村だよ。サラさんを待ってたんじゃん」

 汐音君に縋り付いたまま言う冬華ちゃん。

 サラさんはまわりをキョロキョロと見て自分がリオル村に着いていたことに驚いていた。

「どうしたんですか? 城で何かありましたか?」

「い、いえ、何もありませんよ。ちょっと、考え事をしていただけです」

 サラさんは首のネックレスを握りしめながらぎこちない笑顔を見せて言った。

 何も……か。何かあったみたいだが、本人が何もないって言っている以上聞いても話てはくれないだろう。

 僕は汐音君に視線を送り首を左右に振る。汐音君は一つ頷く。

「では、今日は宿に戻って休みましょう。明日レインバーグへ向かうのでしょう?」

「ああ、着く頃には作戦も終わっているだろうしね」

「じゃ、宿へゴ————!」

 サラさんの腕を取り冬華ちゃんが先行していく。

 それを聞いたカレンちゃんが俯いて少し寂しそうな顔をする。

「そっか、明日行っちゃうんだ……」

「カレンちゃん、用事が済みましたらまた城に戻ります、その時また村に寄りますから」

「うん」

「その時は五十嵐君も一緒かもしれませんがね」

 汐音君はウインクしてそう言うと、笑顔の戻ったカレンちゃんに寄り添うように宿へ向かって歩み出す。


 僕はみんなを見送り北の空を見上げる。あの山の向こうにアキが、四ノ宮たちがいるかもしれない。

 逸る気持ちを抑え宿へと戻る。北の空の暗雲を横目に見ながら……


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