休養
久々の続きです
「……ん……まぶしい……」
窓から日差しが降り注ぐ。日差しを避けるように寝返りをうとうと体を動かすと体に走る痛みで目が覚める。目の前には見知らぬ天井が広がっていた。
「デジャブだ」
そこには女神はいなかった。代わりに俺を呼ぶ声が飛んできた。
「アキ!」
キーーーーーーーーン
耳元でデカイ声を出すんじゃない! キーン言ってるよ。声のする方へしかめっ面で顔を向ける。そこには女神ではなくカレンが笑顔で顔を乗り出していた。
「顔近い、あと声デカイ!」
「あ、ご、ごめん」
カレンは顔を赤くしオドオドと椅子に座りなおす。
俺は痛む体を起こし、体を動かして具合を確認する。起き上がる際にカレンが慌てて体を支えてくれた。
……傷は治っている。傷があった箇所の痛みはないが、体中が痛い。筋肉痛? いや神経痛かな? 関節も痛い。思い付きで無茶したから仕方ないか。なんであんなことしたかなぁ、自分のバカさ加減に深いため息を吐く。
俺のため息を聞いたカレンが心配そうに訊ねてくる。
「大丈夫? どこか痛む? 傷は治ってるんだけど」
外見的には完治しているから、そりゃ心配するか。
「ん、ああ、ちょっと節々が……」
じじくさいことを言ってしまった。余計な一言を言えるいいトスを上げてしまった。
「え、まだ治ってないところがあるの?」
バカな!? せっかくのいいトスをスルーだと! あり得ない、いつもなら「年寄りくさっ」くらい言うのに、こんなのカレンじゃない!
俺は思わず叫んだ。
「お前カレンじゃないな! なにもんだ!」
「え? ひょっとして、頭打ったのが原因? アホがさらにアホになっちゃた!?」
カレンはどうしようどうしようとオロオロしながら、さりげなく俺をアホ呼ばわりする。こいつ間違いなくカレンだな! そう結論づけたところで、扉が開かれ一人の男性が入ってきた。
「目が覚めたようだね、気分はどうかな?」
「あ、先生」
先生と呼ばれたこの男性はオグルと言って先の戦いの際、魔石で結界を張ってた人だった。30代後半の彼はフランクな性格もあってか年齢よりも若く見える。オグルさんは俺の診察をすると村の状況について教えてくれた。
怪我人はでたものの、俺が重症を負っただけで、ほかには被害はでなかったそうだ。俺が無駄に怪我しただけみたいだな。
「そんなことはないさ、キミのおかげで僕たちは助かったんだ。ホントに感謝しているんだよ。本当にありがとう」
とオグルさんは深々と頭を下げて礼を言う。
「そうだよ。母さんを、みんなを助けてくれてありがと、アキ」
カレンまで笑顔でそんな殊勝な事をいう……少し怖いぞ。
「どうしたカレンらしくないぞ、変なもんでも食ったんじゃないか?」
俺はあまりの怖さに憎まれ口をたたいてしまう。
「な、失礼ね! わたしだってお礼ぐらい言うわよ! ホントに感謝してるんだから」
カレンは口を尖らせながらそっぽを向いてしまう。
「そうか、それは悪かったな」
ん~どうも調子が狂うな。
「ところで、結界の方は張ったのか? 俺それ見るために戻ってきたんだけど」
調子を戻すために話題を変えてみたが、オグルさんが申し訳なさそうな表情で教えてくれた。
「あの後すぐに張ったからもう張り替え作業は終わってるよ」
「マジか!? ちょっと楽しみにしてたのに……」
本気で肩を落として落ち込む俺に、カレンが嬉々として突っ込んでくる。
「アキが早く起きないからいけないんでしょ! それに大丈夫だよ、また次があるし」
「次ってまだまだ先だろ~、俺いねぇじゃん」
俺が何の気なしに言うと、カレンが緊張した面持ちで言う。
「だったら……ずっといればいいじゃない。アキ強いし、村の警備とか行商人の護衛とかしてさ」
カレンは矢継ぎ早に言葉を紡いでいるが、まだ勘違いしてるなこの子は。
「カレンさん? 何度も言うようだけど俺は弱いんですよ。警備とか護衛なんて責任負えませんよ」
俺は丁寧にお断りした。
「そんなことなよ! アキみんなを助けてくれたじゃない」
この子はホント俺のこと過大評価してるよな、困ったものだ。なんと言おうかと悩んでいるとオグルさんが見かねて口を挟んできた。
「カレン、あまり彼を困らせてはダメだ。それに彼は自分の力量をちゃんとわきまえている。はっきり言うよ、カレンあまりわがままを言って彼を戦わせると取り返しのつかないことになってしまうよ」
その言葉にドキリとなったのはカレンだけではなく、俺も同じだった。俺たちは驚きの表情をオグルに向ける。意味合いは違っているだろうけど。
カレンは「どういうこと?」という。
俺は「一目でわかるなんてすげーさすが先生」、だ。
オグルさんはカレンに優しく説明してくれる。内容は優しくはないが。
「昨日の戦い、彼は、最後尋常ならざる戦い方をしていただろう?」
「うん、最後アキが消えたと思ったら、フィッシャーマンのまわりをアキの残像が飛び回って連続の斬撃音が響いてた。あんなに強いんだよ!取り返しのつかないことなんて起きないよ」
カレンは昨日の戦いを思い出してオグルの話を否定する。
おっと一つ情報が入ってきたな、昨日と言うことは俺が寝てたのは一晩だけということだな。よかった2、3日じゃなくて。
と思っていると、俺を置いて話が進められていく。
「要するに、アキ君が最初からあの力を使っていればこれほどの重症を負うことはなかった、と言いたいわけだね?」
「うん」
「そうなのかい? アキ君」
そこでいきなり俺に話を振ってきた。俺が説明すんの?
「無理ですね。あんな力ホイホイ使ってたら体がもちませんよ。最初の状態が今の俺の限界ですよ。そもそも俺の力は、魔法の使えない俺へ自衛目的として教えてもらったもので、自分一人を守るので精一杯なんですよ」
仕方ないから正直に話したけれど、自分の弱点を言うって自殺行為じゃね?
「彼は仕方なく自分の限界を超えた力は使わざるをえなかった。だからあの後力尽きて倒れてしまったんだ。彼一人なら戦わなかっただろうし、逃げ切ることもできただろう」
オグルは険しい表情で『カレン君が死ぬかもしれない戦いを彼に強いたんだよ』という内容を遠回しに告げる。そして表情を緩めて冗談めかして付け足す。
「まぁ、戦ってくれたから我々は生き延びることができたんだけどね」
俯いていたカレンが涙を浮かべ声を震わせて言う。
「じゃあ、なんで逃げなかったの?」
「知るか、バカ!」
俺はあの時と同じセリフを言ってやった。そしてわかっている事実を告げる。
「でも、女の子が泣いてるのは見たくないよな」
オグルさんは呆れたような顔で俺を見ている。いやいや、男ならみんなそうでしょうが!
カレンはそんな理由で? と言わんばかりの表情で
「……あんたの方がバカだし……」
と言って笑う。
俺は痛む体にムチ打ってオグルさんの自宅兼診療所を後にした。
オグルさんはもう少し安静にしていた方がいいと言って心配していたが、あまりのんびりもしていられないので半ば強引に出てきてしまった。せめて準備だけでもしておかないと明日出発できないし。ホントは今日出発の予定だったのに……
それは置いておいて、教会跡で回収してきた武器類を売って軍資金にしなければ。ちなみに俺の荷物や武器はカレンが回収してくれていたみたいでホントに助かった。思い出したときはマジ焦ったし。
「あ!? 回収で思い出したけど」
「わっ!? ビックリしたー、何よいきなり!」
なぜか一緒に付いてきたカレンが驚いて怒り出す。思い出しちゃったから仕方ないだろう? てか、なんで付いてきてんだよぅ。
「俺が倒した魚人たちってどうなった? 素材回収してないんだけど」
特にあのデカイの、高額素材の宝庫! せっかく倒せたんだし回収しなきゃ!
「あ~あれね。村の中で倒した魔物は村で管理することになってるから素材も村で売って村の修繕費用に使われるよ」
当然のようにカレンは言う。
「はぁーーー!? あれだけ苦労したのに? 死ぬ思いしたのに? 俺の利益ゼロ?」
俺は絶望のあまりその場に崩れおちた。もうイヤ……
「仕方ないじゃない、そう決まってるんだから。それにアキだって家壊してたし」
「あれは俺の所為じゃないだろ! 魚人が悪い!」
俺は納得いかず抗議する。断固として抗議する! あれは魚人の所為だと!
「そうだけど、だから魚人の素材を売って修繕するんじゃない。ほら、魚人責任果たしてる」
(ぐ、減らず口を……そういうところだけ頭の回るヤツめ)
「はぁ、まぁそういうことなら諦めるか」
「うんうん、アキやっさしーーー」
調子のいいヤツめ。カレンをにらみつつ見るとあることを思い出す。
「今回の俺の報酬はカレンが俺になんでもしてくれる権だけか」
俺は悪い顔をカレンに向けて言う。ニヤリと
カレンは明らかに動揺し、うろたえはじめた。
「な、な、な、なんで覚えてるのよ! じゃなくて、そこはなかったことにするのが男気ってものでしょ!」
「そんなものは知らん! 男気ってなに? 女のお前が男気を語るな!」
男らしく男らしくないセリフを言う俺。
「わたしにな、な、なにをやらせるつもりよ!?」
カレンは自分の体を抱きしめるように隠しながら言う。
ジーーーーーー
カレンの体を舐めるように眺めるとカレンは顔を赤くして顔を伏せる。なぜそこで赤くなる?
「……ハァ、おまえ相手にエロいことするかよ。もっと女っぽくなってから出直して来い」
俺は紳士だからな、そんなことはしない。
カレンはそんな俺に感動するわけもなく激昂していた。
「な、失礼ね! わたしのどこが女らしくないのよ! こう見えてそこそこあるんだから……」
「はいはい、そうだね~」
だんだん声に勢いがなくなっていくカレンを軽くあしらって先を進む。
先の戦いで切り裂かれた胸当てを新調し、旅のお供に非常食と回復アイテムを購入、宿泊代諸々を残すとして買える苦無は3、4本か、さてどうしよう。
「あの~、カレンさん?」
「なによ」
いまだに怒っていると見える。にも拘わらずまだ付いてきているのはなぜ?
「聞きたいことがあるんだけど、魔物倒して素材回収するじゃん? 回収した素材ってみんなどうしてんの? すっごいかさばるんだけど。邪魔だし」
昨日から密かに問題にしていたことを聞いてみた。
「担いでるんじゃない?」
こいつ適当に答えやがった。ハァ、そんなに怒らなくてもいいと思うんだが……ああもう仕方ない謝っておくか。
「わかった、俺が悪かったよ謝るから機嫌なおしてくれよ。あとでちゃんとエロいことしてもらうからさ」
「そこじゃないから! 怒ってるのそこじゃないから!」
あれ? 余計怒らせたかな? フーフーと鼻息を荒くしていたカレンだが諦めたようにため息をついて答える。
「もういいよ、アキ相手にムキになるのアホらしくなってきた。はぁ、えっと、回収した素材が邪魔って話だっけ? 魔法の掛かった収納箱があるんだよ」
「魔法の収納箱?」
「そ、物によって入れられる数が違うんだけど、高いのになると数量限界なく入れられるって。アキはそんなに入れる物ないだろうから一番安いのでもいいと思うけどね。できるだけ戦闘は避けるんでしょ?」
「そのつもり、で、一番安いのでどのくらい入るんだ?」
「入れる物の大きさにもよるけど、魚人のヒレなら50個くらいかな?」
衝撃の数字きたーーーー! カレンは普通に言ってるけどそれだけ入れば十分でしょ! それ以上何入れるんだって話だ。
「それで充分。どこで売ってる?」
俺は今カレンの家で夕食をごちそうになっている。今日はなんと! この家に泊めてもらうことになっているのだ。約束通りカレンにエロいことをしてもらうため……じゃないよ。ただ、普通にカレンに案内されて行った雑貨屋の「魔法の収納箱」が思ったより高かっただけなんだよ。宿泊代が全部飛んでくくらいに。そこで買おうか悩んでたら、「今晩泊めてあげよっか」と天使のささやきが聞こえてきたわけだよ。もちろんその天使はカレンだった。俺は天使カレンの提案に乗っかって今に至るというわけだ。
「どう? おいしい?」
不安げな表情の天使様がお尋ねになられた。どうやら今口にしたのは天使様がお作りになったものらしい。
「もちろんです。おいしゅうございます天使様」
俺は仰々しく頭を下げて言う。
そんな俺のおかしな行動を見た天使様のお母さんが不審感に満ちた目で天使様を見る。
「ちょっ、ちょっと! どうしちゃったのよ!」
天使様は慌ててお尋ねになられた。
「なにを仰られているのですか? 天使様が今晩泊めていただけると、天使のごときお優しいお言葉をお掛けくださったからじゃありませんか」
俺は羨望のまなざしを天使様へ向けて言う。天使様のお母さんは疑念に満ちた目で天使様を見る。
「お願いもうやめてーー! 母さんに変な目で見られてるよ~わたしまで変な子だと思われる~~」
カレンはもう降参とばかりに涙目になりながら訴える。てか、わたしまでって、俺は変な子確定なのか。
「安心していいぞ、カレンは十分変な子だ」
俺は優しい声音で慰める。お母さんの前で変な子って言ってしまう俺も大概だ。
「あんたが一番変な子よ!」
俺を指さして叫ぶカレン。人を指さすんじゃありません!
「うふふ、二人とも仲がいいのね」
お母さんは楽しそうに笑って俺たちを交互に見て言う。
「そんなことないし!」
カレンは顔を赤くしてブンブン横に振る。ムチ打ちになりそうだからやめた方がいいぞ。
「うふふ、そうなの? アキさん今日はここを自分の家だと思ってゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」
俺は丁寧にお礼を言った。
食事をしながら三人で話をしていろいろと聞くことができた。
カレンの両親とオグルさんが幼馴染であること。
昔二人でカノンさんを取り合っていたこと。あ、カノンさんっていうのはカレンのお母さんね。
カレンがオグルさんにお父さんのように懐いていて最近回復魔法を教わっていること。
お父さんが亡くなっていること……結界の張り替え作業の際、昨日のように魔物に襲撃されて亡くなったそうだ。だからあの時カレンはあれほどまでに取り乱していたんだな……少し心が痛い。もう少しカレンに優しくしよう。
オグルさんとカノンさんの仲は~まぁ、ご想像にお任せしよう。俺としては再婚もあり得るのではないかと。
あとは最近カレンに気になる人ができたらしい。カノンさんのこの情報にカレンはえらく動揺していたな。カレンはすぐ顔に出そうだから隠しきれなかったのだろう。カレンの気になる人ってどんなヤツなんだろうな。
それはさておき、最後にリオル村から次の街までの距離を聞いたんだが、次の街レインバーグへは、徒歩で一日半ってところらしい。相変わらず距離では教えてくれないんですね。
俺は客間へ案内され明日に備えて早々に眠ることにした。まだ戦闘の疲れが残っていたのか、すぐに睡魔に襲われ眠りについた。
感想あるとうれしいです




