訓練開始その3
【学園戦艦:第三訓練場・市街地エリア】
ドドドドドドドッ!!
市街地に銃声が響き渡る。
チュンッ!チュンッ!
建物に弾丸がぶつかり、コンクリートの壁が弾け飛ぶ。
チュンッ!
俺が隠れている建物の壁にも弾丸がぶつかる。
「ちっ!さすがはカズヤだな.....正確な射撃だ」
シズカと離れてから俺は、遮蔽物の多い市街地エリアの中心に来ていた。
「どうした?ハルト撃ってこないのか?」
ドドドンッ!...ドドドンッ!
場所を探るために短い(バースト)射撃をしている。
「くっ、分かってはいたが....一対一は苦手だな...」
自分の銃を見つめる。
M16A4.....旧アメリカ正式採用銃。
三点バースト機構を有し、他のARとは比べ物にならないほどの命中精度の高さや、多彩なアタッチメントが装備可能であり、その見た目から“ブラックライフル“の異名を持つ。
世界三大ARと言われる名銃の一つだ。
(俺とカズヤの射撃技術は、ほぼ互角....だとすれば問題は...)
「どうした?ハルト、自慢の3点バースト....見せてくれよ!」
そう、この銃は3点バーストと言ってフルオート射撃に切り替えても、3発ずつしか弾が発射されない特殊な機構をしているのだ。
弾の消費を抑えるという点では最高だが、相手がカズヤほどの戦闘技術を持っていると致命的な重み(デットウェイト)にしかならないのが事実である。
「いいぜ、見せてやっても!....お前の弾倉が空になったらな」
「フフンッ!その手には乗らないぜハルト?お前のことだから挑発して弾切れでも狙ってるんだろ?」
(正直、自分でも安い挑発だと思ったが....やっぱり無理か)
恐らく、カズヤの狙いは俺が撃った後....つまり、三点バース機構の弱点とも言える“弾丸の連射性能の低さ”を利用して俺が撃った後に突撃し、得意のCQC(近接格闘)を仕掛けてくるつもりだろう。
(射撃は得意だが.....対人格闘であいつに勝ったことはないからなぁ....俺)
「さて、どうするか....」
そう考えたとき、周囲が静かなことに気がついた。
(さっきから銃声がしないな....弾切れか?....それとも)
いろいろと考えを巡らせていると、不意にカズヤの声が聞こえてきた。
「なぁハルト?.....いい加減その銃(M16)を使うのはやめないか?何か思い入れがあるみたいだが.....俺たちが撃つべきは人間じゃない....”dead”だ」
「....そんなことわかってるよ」
「ならどうして銃を変えない?相手が人間なら三発でも倒せるだろう、だが俺たちが相手をするのは人よりもタフで凶悪なバケモノだぞ!」
確かにな....“dead”との戦闘で必要なものは、射撃技術はもちろんのこと、銃自体の火力も重要になってくる。
そもそも、銃の“火力”とは弾の発射弾数や射撃レート(連射速度)により決まるものであり、発射弾数が多く射撃レートが高い銃ほど、より高火力の銃ということになる。
(実際に...フルオートで撃てない俺の銃(M16)は対“dead”向きとは言えないのは事実だ)
「....まだ、戦闘中に弾切れになるのが怖いのか?」
「......」
嫌なことを言ってくれるな....挑発だと分かっていてもムカっときてしまう。
「現実的に考えてみろ、今のこの状況が何よりの証拠だ」
「....確かにそうかもな.....カズヤ!」
「!」
俺は物陰から出る。
「正気か、ハルト?銃も構えずに出てくるなんて...」
ガチャッ!
カズヤが銃を構える。
「俺はいつでも正気だぜ、カズヤ」
カチャッ....流れるような動作で、銃(M16)を構える。
ダダダンッ!
三点バーストの銃声が鳴り響く。
「!」
物陰に身を隠すカズヤ。
ダダダンッ! ダダダンッ!
「はっ!そう来なくちゃな!ハルト!」
(.....銃で撃たれているのに、笑っているぞこの男?)
ドドドドドドドドッ!
「くっ!」
思わず身を隠す。
「どうしたハルト?もっと撃ってこいよ!」
楽しそうなカズヤの声が聞こえてくる。
(お前の狙いはわかってるよカズヤ....けどな、俺にはお前に勝てる“切り札”があるんだぜ?)
「.....」
自分の銃(M16)を見る。
カチッ。
銃の射撃モードを切り変える。
カチッ。
セミオートからフルオートへ....そして。
カチンッ!
「なぁハルト?そろそろ決着を付けようじゃないか?」
物陰からカズヤが出てくる。
「そうだな、カズヤ」
俺も物陰から出る。
「......」
沈黙....。
そじて.....何の前触れもなく、戦いは始まった。
ガチャッ!
お互いに銃を向ける。
ドンッ!
先に引き金を引いたのは.....俺だ。
瞬間...すべてがスローモーションのように見えた。
高速で回転しながら、カズヤへ飛んでいく銃弾、それを横へ飛んで回避するカズヤ。
チュインッ!
壁にぶつかり砕ける銃弾。
一発目は当たらない。
ドッ!
二発目が発射されるが、カズヤの横を通り過ぎていく。
ドッ!
三発目の銃弾が発射され、真っ直ぐにカズヤの頭目掛けて飛んでいく。
(....やったか?)
倒せる!.....と確信した瞬間。
「甘いな....ハルト」
キィン!
「なっ....!」
絶対に避けられない一撃.....カズヤはそれを避けるのではなく、自身の持っている銃(SCAR-H)で防いで見せたのだ。
「終わりだハルト!」
横に飛びながら銃を構えるカズヤ。
そう...三点バーストしかない俺の銃(M16)だと、三発外せば次の射撃までの僅かな間に負けるだろう。
「ああ....俺の負けだな....もし、俺が使っている銃が普通のM16ならな!」
ドンッ!
....四発目の弾丸が銃口から発射された。
「なっ!!」
カズヤが驚愕している。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!.....。
五発、六発、七発......。
銃口から次々と弾丸が発射される。
「くっそ!まじか.....」
ベチャッ!ベチャベチャベチャベチャッ!
カズヤの顔面がピンク色に染まっていく。
「どうだ?カズヤ、コイツ(M16)でも勝てたぞ?」
倒れているカズヤに手を差し出す。
「ちっ....負けたぜハルト」
笑顔で答え、手を取るカズヤ....男の友情はいいものだな。
「まさか、お前のM16にフルオート機構が付いていたなんてな....」
俺の銃(M16)を見ながらカズヤが言う。
「まぁな、こいつ(M16)はお前が言うように「dead」との戦いにはあまり向いていないからな....それを補うために改造したのさ」
(それに、この銃はあの人との約束だからな....)
俺が感傷に浸っていると...。
「通称”ハルトスペシャル”ってとこか?」
ニヤついた顔でカズヤが聞いてくる。
「なっ!なんだその名前は?....サクヤやマヤじゃあるまいし」
「いいだろう?この名前?なかなかカッコイイじゃないか?」
(今のこいつを見ていると、さっきまで俺と戦っていた男とは別人じゃないかと思ってしまう...)
「呼びたいなら勝手にどうぞ」
「そうか!なら決まりだな”ハルトスペシャル”で!!」
「.....」
(この男は本当に....もういいか)
「さてと、俺たちの決着はついたな」
「ああ、他の奴らを探しに行くのか?ハルト?」
「そうだな....索敵狙撃兵同士の対決はマヤの圧勝で終わったし、あとはアスカ達と.....シズカ達か」
「....銃声は聞こえないな。もう決着はついてるのかもな?」
耳に手を当てているカズヤ。
「そうか...とりあえず、マヤに連絡してみるか」
無線機を取り出す。
「マヤ聞こえるか?」
ザザー....少しの間を置いて無線機からマヤの声が聞こえてくる。
「.....聞こえてる....手を貸したほうが良かった?」
恐らく俺とカズヤの戦いのことを聞いているのだろう。
「いいや.....見ていて安心できる戦いだったろう?」
「....いつハルトがやられるか楽しみだった」
珍しく楽しそうな様子のマヤ。
(....冗談で言っているよな?......一応聞いておこう)
「冗談だよな?マヤ?」
「..............うん」
(少し間が長くないか?.....この子こわい)
「おいハルト、ふざけるのはそれくらいにして、他の奴らの居場所を聞いてくれ」
「そうだな、マヤ!他の奴らの状況はどうなっている?」
「.....戦闘は終了している、でも....迎えに行ったほうがいい」
何か含んだような言い方だな。
「わかった、迎えに行くぞカズヤ」
「了解、きっと凄いことになってるだろうな.....」
俺とカズヤは他のメンバーを探しに向かった。