訓練終了
【学園戦艦:第三訓練場・市街地エリア】
「....なんだこれ?」
俺とカズヤは、お互いの援護補佐兵であるシズカとレイカを迎えに来ていた。
....のだが、目の前に広がっている光景が、信じられないことになっていた。
壁という壁には穴が空き、身を隠すための遮蔽物としての役割を失っており、打ち尽くした弾倉と空薬莢がそこらじゅうに転がっている。
「空爆でも要請したのか?あいつらは」
穴だらけになったコンクリートの壁を見ながらカズヤが言った。
「いや流石に、訓練場を空爆はしないだろう.....」
「だよな.....」
俺もカズヤも改めて二人の恐ろしさに気づく。
「ん?そこに居るのは....ハルトくんとカズヤかい?」
声がする方を振り向くと、誰かが物陰から出てくる。
「ようレイカ....何があったんだ?これ」
恐る恐るといった様子でカズヤがレイカに質問する。
「いや、大したことはないぞ?ただ、思っていた以上にシズカくんとの先頭が楽しくてね.....少し本気になってしまっただけだよ?」
爽やかな笑顔で、そう答えるレイカ。
(これで少しか......やばいなこの人
「ところでレイカさん、シズカはどこですか?」
「ああ....彼女なら、アスカくんが心配だからと行って、先に迎えに行ったよ」
そう言いながら、アスカ達が戦ってたであろう方向に指を指すレイカ。
(なるほど、さすがはシズカだな...常に仲間のことを一番に心配してくれている)
「そうですか.....ならアスカ達を探しに行くか?カズヤ」
「そうだな、そうするか....レイカはどうする?」
「おや?....私も一緒に行っていいのかね?」
不思議そうな顔をしているレイカ。
「?」
質問の意味が分からずに、顔を見合わせる俺とカズヤ。
「ああ、すまない...質問の意味が伝わらなかったようだ」
「ええ...一体どういう...」
.....ハッ!
質問の意味を聞こうと、口を開いたが.....唐突に、本当に唐突に、意味に気づいてしまった。
「.....」
無言でカズヤを見つめる。
「...なんだよ?」
今更だが、俺とカズヤは友人だ....男同士の。
そして、目の前にいるこの女は良く言えば”多趣味”であり、悪く言えば.....“そっち系”なのである。
つまり、この人の中では.....俺とカズヤは“行き過ぎた”男同士の友情で結ばれていると思われていたのである。
(冗談じゃないぞ.....カズヤはどうだか知らないが....俺にそんな趣味は無い!)
「.....レイカさん、一応言っておきますが....俺とカズヤはあなたが思っているような関係では無いですからね」
「...おいハルト....それって一体どういう意味だ?」
カズヤも質問の意味に気がついたのか、呆れた顔をしている。
「フム、そうだったのか...」
何度目かは判らないが、何度も丁寧に説明した結果、どうやら誤解は解けたようだ。
「すまなかった...どうやら私は勘違いをしていたようだ」
「本当ですよ....まったく」
「.....」
無言のカズヤ。
「それにしても....一体どうして、俺たちがそんな仲だと思ったんです?」
興味本位で質問してみる。
「いや、別に深い意味があるわけでは無かったのだが....」
「?」
「君とカズヤは...普段からとても仲が良さそうに見えていてね...それでつい...ね」
「なっ...別に、そんなに仲良くは....これくらいが普通ですよ!」
「そうか、そういうものなのだな...友というのは」
そう呟くと腕を組み、何かを考えるポーズをするレイカ。
(“考えるレイカのポーズ”か....この人がこのポーズをすると、考え事が終わるまで、何を言っても聞く耳を持ってくれないんだよな...)
仕方なく、レイカが考え終わるのを待つことにする。
「.......」
「カズヤ?」
(そういえば....さっきからずっと無言のままだな)
「おい、カズヤ!」
呼びかけるが...。
「まさか....俺がそんな風に見えていたなんて....」
「....カズヤ?」
何かを言っているようだが、声が小さすぎて聞こえない。
「ハルトくん、そろそろ行こうか?」
考え事が終わったのか、腰に手を当て俺たちを促すレイカ。
「ええ、そうですね」
チラッ。
カズヤを見る。
「......あぁ...信じられない」
相変わらず、何かをつぶやいているカズヤ.....大丈夫か?コイツ。
色々とあったが、俺たち三人はアスカ達を探しに開始地点に向かった。
....10分後。
「....なんだこれ?」
さっきと同じ....いやそれよりも凄い光景が目の前に広がっていた。
市街地での模擬戦闘をするため頑丈に作られているはずの家屋は、無残にも倒壊している。
そして、どうやったらできるのだろうか...コンクリート製の壁には、人が通り向けられそうな、大きな穴が空いていた。
(....空爆と言うより戦略核攻撃といったところだ)
「なぁカズヤ....一応この辺、放射能測定しておいたほうがいいんじゃないか?」
「.....奇遇だなハルト、俺も同じこと考えてた....」
さっきの会話を未だに引きずっているのか、どこか元気が無い様子のカズヤ。
お互いに乾いた笑いが溢れる。
「フム、学園第二位と三位同士が戦うとこうなるのか....どんな戦いだったか興味があるな」
壁の弾痕を指でなぞりながら、レイカが呟いている。
(この人もやっぱり危険人物だな....)
そんなことを考えていると...。
「あれっ?ハルトくんどうしたの?カズヤくんとの一対一の戦いは?」
俺たちがいることに気がついたのか、シズカが物陰から出てくる。
「なっ!シズカ、今までどこにいたんだ?急に出てきて」
「ああ、ごめんなさい.....だって....アスカさんの場合、勝負の最中に邪魔したら、相手が誰だろうと銃撃してくると思ったから...気配を消してたのよ」
(そうだったのか....しかしすごいな、本当に気配に気づかなかった)
「それなら仕方ないか....で?あいつらは見つかったのか?」
「......うん...見つけるには、見つけたんだけどね」
何か言いにくいことがあるのか、口をもごもごしている。
「何かあったのか?」
「....とにかく二人は向こうに居るから、見たほうが早いと思うわ」
「?」
とりあえず行ってみるか。
....2分後。
「....何やってんだこいつらは?」
状況を簡単に説明すると.....二人して取っ組みあっている。
服は半分以上脱げ、見方によっては二匹の猫がじゃれあっているようでもある。
....ちなみに、二人の装備していたショットガンは、弾が切れたのか遠くの方に転がっている。
「この~離せ!アスカ!」
「そっちこそ負けを認めろ!カグヤ!」
お互いに罵り合っている....女の子だよな?こいつら。
俺がそんなことを思っていると..。
「二人ともっ!...そこまで!」
ついに我慢の限界が来たのか....シズカが怒鳴り声を上げて怒り出した。
「・・・・」
二人が驚いている....無理もないか....普段から滅多にシズカが怒鳴ることなんてないもんな。
「これは訓練なんだから、素手での殴り合いは禁止!それに、二人とも女の子なんだから...はしたない格好しないの!」
(...相当怒っているなこれは)
「ごっ!ごめんシズカ...」
「...ごめんなさい」
二人して謝っている....二人のあんなに怯えている顔は初めて見た。
「ハルト....シズカさんて、怒るとあんなに怖いんだな」
「ああ....普段はやさしいが、怒ると怖いぞ」
俺たちが声を潜めて話している傍では、未だに二人とも怒られている....今だけは、二人が少し可哀想に思う。
「なぁシズカ?もうそろそろいいんじゃないか」
二人を見かねて、恐る恐る声をかけてみる。
「そうね....二人ともしっかり反省するように!」
「うん....」
「....わかった」
二人とも元気がない....可哀想に。
「さて、二人のお説教も終わったし...帰るか」
疲れている様子のカズヤが聞いてくる。
「そうだな....みんな!実りのある訓練だったか?」
振り返って全員に聞いてみる。
「....そうだな」
どこか元気が無いカズヤが答える。
「ええ、そうね」
「ああ...実に実りのある訓練だった」
カズヤとは対照的に、笑顔で答えるシズカとレイカ。
「....」
「....」
アスカとカグラは下を向いている....可愛そうに。
「.....私も楽しかった」
「なっ....マヤ!」
(いつの間に俺たちに合流したんだ.....?)
気づけば、俺の後ろにマヤと...なぜか腰から上がピンク色に染まったサクヤがいた。
「うぅ....ぐすん」
涙を流しているサクヤを見て、大体のことは想像できた。
「妹に厳しいな....マヤ」
「.....」
笑顔で右手の親指を立てるマヤ。
...この姉は...妹が不憫でならない。
姉であるマヤと手を繋いでいる妹のサクヤ....ピンクに染まっていることを除けば仲のいい姉妹の図だ。
「それじゃ....帰るか」
訓練を終えた俺たちはそれぞれの自室に帰っていくのだった。




