開戦
【学園戦艦:校長室】
俺とカズヤは今、第一訓練場で起きたことについて、説明するために校長室に来ていた。
「なるほどねぇ~.....襲撃者は昔の幼馴染、しかも既に故人か.....」
フムフム、と顎に手を当て、頷いているアズサ校長。
「...で?ケガの方は大丈夫なのかい?ハルトくん」
意外だな....この人のことだからてっきり、何かふざけた事を言うのかと思ったが...俺の心配をしているのか?
「まだ少し痛みますが....大丈夫です」
「チッ!....それは良かったよ」
(気のせいだろうか?....今、舌打ちが聞こえたような気がした)
「あー残念だな...傷ついて弱ってるハルトくんの...主に心を、更に傷つけたかっのに...」
(この人は絶対俺のこと嫌いだろう.....今改めてそう感じた)
「校長先生、今回の件についてどうお考えですか?」
いつもなら、俺とアズサ校長のやり取りを、面白そうに聞いているカズヤだが、今回ばかりは真面目に話を進めたいようだ。
「うーん、そうだね今回の件ねぇ~.....私なりにいろいろと考えたんだけどさ」
(...口調から察するに、特に何も考えていないな、この人)
「とりあえず保留かな?」
「.....保留ですか?」
予想外の回答に、不思議そうな顔をしたカズヤが聞き直す。
「そ、保留かな....とりあえずだけどね」
珍しく困った顔をしている...何か事情があるようだ。
「何か、そうしなくてはいけない理由があるんですか?」
「実は今回、君たちを呼んだのはね......別のことを頼みたかったからなんだよ」
「......」
(....マジか?)
声に出せないので心の中で言う。
(俺は、さっきカズヤに殴られたことも含めて、話したくもないことを全て話したんだぞ?)
それなのに“保留”って....話さなければよかった。
「ん?どうしたのかなハルトくん?そんなに暗い顔して...ただでさえ“アレ”な顔がもっと“アレ”になってしまうよ」
....“アレ”な顔ってなんだ?“アレ”って?
「いいえ別に、ただ....自分の目の前にいる人間は、実は人ではなく...人の皮をかぶった悪魔なのでは?と愚考していたところです」
(....しまった、思わず本音を口に出してしまった)
俺も人間だがら、我慢には限界がある。
よくここまで我慢したものだ、自分を褒めてやりたい。
「なるほどねぇ~.....愚行か...ハルトくんには私がそんな風に見えてるんだ...」
笑みを浮かべているアズサ校長。
(やばいなこの人は....今、一瞬だけ“狩る者”の目つきになった)
「いえ、もちろん冗談です、そんなこと思っているわけ無いじゃないですか」
ハハハッ!と笑ってごまかす。
「......」
カチャカチャ......何やら机の上のパソコンをいじっている。
「....校長先生?一体何をしているんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「ん?今ね....ある一人の、可哀想な生徒の成績を.....少しいじってるんだよ」
おいおい、ちょっと待てよ...それってまさか...。
「すみませんでした、校長先生」
頭を下げて謝る。
その角度、実に45°....最敬礼というやつだ。
誇り?意地?...そんなのもの、退学になるくらいなら喜んで捨ててやる!
「.....」
カチャカチャ....それでもまだ、無言でパソコンをいじり続けるアズサ校長。
「ハルト、もうこうなったら.....“アレ”しかないぞ」
カズヤが小声で囁く。
さっきから“アレ”“アレ”って......“アレ”って何なんだよ!
「仕方ない、絶対にしたくはなかったが....成績のためだ」
覚悟を決め、床に膝をつく、そして手をつけ土下座をしようとした...その時。
プルルルルルルルッ!
机の上に置いてある電話が鳴った。
「チッ!....はいもしもし?アズサです....はい...戦力は確保済みです...ええ予定どうりに....では!」
電話を切るアズサ校長....本日二回目の舌打ちが聞こえた。
「ん?どうしたの?さぁ早く土下座の続きを...」
「校長先生先、先ほどの電話は.....」
やはり気になったのか、アズサ校長の言葉を遮ってカズヤが質問する。
「ん~やっぱり気になるよね...」
困った顔になるアズサ校長。
「戦力って、一体なんですか」
俺も立ち上がり、質問する。
(今のうちに...土下座のことはうやむやにしてしまおう)
「戦力ねぇ....実は、それが君たちを呼んだ本当の理由だよ」
「.....」
俺もカズヤも真面目な顔で話を聞く
「さっきの電話はね、政府軍のお偉いさんからの電話で...“ある任務”を頼まれてるんだよ」
「「“ある任務”?」」
俺とカズヤが同時に質問する。
「校長先生、その任務とは?」
「うん、なんかね...政府軍の人たちが“新種のdead”と“思われるもの”を発見したそうなんだよね」
「.....新種ですか?」
一般的に、ウィルスに感染し異形の姿に変わった者を総称して”dead”と呼んでいる。
その姿は様々で、血まみれの女性の形をした者や、体が異様に膨れた男性の姿をした物もいる。
(今までの“dead”にすら苦戦しているのに“新種”か....厄介だな)
「最近は新種の報告が無かったからね...今頃、軍本部は大慌てじゃないかな?」
実に、楽しそうに笑っている、アズサ校長。
(....そういえば、アズサ校長は元は世界連合軍の本部所属のエリート...だったが、何か事件を起こして、この学園の校長になったという噂があったな)
「何か恨みでもあるんだろうか?」
小声で呟く。
「大人になるとね......色々あるんだよ?ハルトくん」
「.....」
聞こえていたか...地獄耳め。
「とにかくだっ!」
ドンッ!
机を両手で叩きつけ、椅子から起き上がるアズサ校長。
「今回君達に依頼したい任務は、報告にあった“新種のdead”が本当に新種かどうかの確認と....できればその一部を持って帰ること!」
一部を持って帰るって....面倒だな。
政府の直属機関である“研究戦艦”や、この学園にある“地下実験場”なんていう危険な場所で日々“dead”の研究は行われている。
“相手を知れば負けることはない”.....俺の師匠の口癖だった。
今回の任務に“dead”の一部をもって帰る、という指令が含まれているのは、その一部を研究して正体を調べるためだろう。
「なるほど.....それが任務である以上、断ることはできませんが.....なぜ俺達なんです?」
納得していないのか、複雑な顔をしたカズヤが質問する。
「理由かい?.......聞いても、絶対に後悔しない?」
いつになく、真剣な顔つきでアズサ校長が聞き返してくる。
「ええ、覚悟は出来ています」
「俺も聞きたいです」
カズヤに習って、俺も真面目な顔で答える.....そうしないと、いけないような雰囲気だ。
「.....わかったよ、二人がどうしても聞きたいなら言うけど....」
随分と勿体つけた言い方だな.....そんなに言いづらいことなのか?
「君達がこの任務に選ばれた理由....それはね....」
「.......」
少しの間を置いてアズサ校長が言った。
「偶然.....かな?」
「.......」
なんとも言えない空気が、校長室に流れた。
「偶然....ですか?」
予想外の言葉に驚いたのか、どこか気の抜けた顔のカズヤが聞き返す。
「そう、偶然」
堂々と“偶然”と言っているアズサ校長....俺もこのくらい堂々と、物を言えたらな.....無理か。
「....」
言葉を失っているカズヤ....まだまだ甘いな。
(この程度で驚いているようでは、この校長とは言い争えないぞ?)
「そもそもが、新種が発見された場所から一番近くにいるっから、ていう理由だけでこの私に任務の指令が来てさ、誰を行かせるか....人選をしている時に君たちが来たから、ちょうどいいかなって☆」
今、ウィンクしたよこの人....。
(“ちょうどいい”なんて理由で、人を死地に送る決定をしたのか?)
「待ってください.....本当に、そんな理由で俺たちは選ばれたんですか?」
少し怒っているのか....カズヤが食ってかかるような勢いで、質問している。
「やだな~もう、勘違いしないで欲しいよ」
無邪気な笑顔を見せるアズサ校長。
しかし、次の瞬間には...。
「私はね.....君たちだから選んだんだよ?」
真面目な顔で、そう言い放つアズサ校長。
「.....」
俺もカズヤも、今まで見たことがないアズサ校長の真面目な表情に、言葉を失う。
(意外だな......アズサ校長の中で、俺たちの評価が高いなんて)
「フフフッ....二人とも意外そうな顔をしているね」
楽しそうに笑みを浮かべ、俺たちを見つめるアズサ校長。
「.....正直言って驚きましたよ......まさか俺たちの評価が高いなんて」
素直に口に出してみる。
「心外だなぁ、君たちのことは、特に大事にしてきたつもりだよ?」
これまでの俺に対する暴言は、愛のムチだったのか?.....そんなわけないな....絶対に!
「それに私は、初めから言ったはずだよ?“君達”の任務だって」
「?」
俺もカズヤの首を傾げる。
君達ってことは、俺とカズヤのことだよな?
他の意味を考えてみる......まさか。
「フフッ.....気づいたようだね......そう“君達”という言葉には、“君達二人のチームで”という意味があるんだよ」
ドヤ顔のアズサ校長。
(.....最悪だ。)
戦力が増えることはいいが......問題が一つある。
それは、チームでの連携の弱さだ。
チーム同士の連携がうまくいかないと、せっかくの戦力でも上手く活かすことができずに、無駄になってしまうのだ。
俺もカズヤも、自分のチームに指示を出すことは慣れている....が、他人のチームに指示を出すとなると、うまくできる保証はない。
「校長先生......俺もカズヤもチームでの連携はあまり経験がないんですよ?....うまくいくかどうか、不安が残るんですが」
一応、不安があることは伝えておこう....無駄な気がするが。
「そう...不安が残る...か」
何やら考えている様子のアズサ校長。
(意外だ、深く考えている......もしかすると話が流れるかもしれない)
そんな淡い期待をしていたが....。
「まぁ....大丈夫だよ!君達ならね」
気楽にそんなことを言っている....期待するだけ無駄だった。
「....校長先生」
ここまで無言だったカズヤが、やっと口を開く。
...いいぞカズヤ、この校長に何か言ってやれ!
「了解しました、この任務引き受けましょう」
......ん?
今なんて言った?....”引き受ける”?
「随分とあっさり引き受けてくれたね......何か考えがあるのかな?」
少し、驚いた表情になるアズサ校長。
「いいえ、何か考えがあるわけでは無いです、ただ....」
「ただ?」
「.....それが任務なら、どんなことでも受けるのが、我々の勤めですから」
爽やかな笑で、軽く敬礼をする、カズヤ。
(....目の前にいるこいつは、本当に俺の知っているカズヤか?)
「へぇ~.....なかなか、良い考え方をしてるじゃないか?」
疑うような視線を俺たちに向けた後、クルっと後ろを向いてしまうアズサ校長。
「....おい、カズヤ!」
小声でカズヤを呼ぶ。
「なんだよ?」
「アズサ校長には、ああいったが.....秘密にしているだけで、何か考えがあるんだよな?」
「......ふっ」
失笑するカズヤ....まさかな。
「.....カズヤさん?」
「....そんなものは.....無い!」
真っ直ぐに、俺の目を見て言った。
(....そんな気はしていたよ)
「なに、これから作戦を考えればいいだけの話だ」
「確かにそうだが.....」
(死ぬかもしれない任務なのに.....それでいいのか?)
「....いいかな?二人とも」
いつの間にか、俺たちの方に向き直っている、アズサ校長。
「こんな事を言うのもなんだけどね....任務を受けてくれて、ありがとう」
「.....」
「ん?どうしたんだい二人とも?そんなに驚いた顔をして?」
「いえ....」
まさか....この人から”ありがとう”なんて言葉が出てくるなんて...驚きだ。
そして、不覚にも“ありがとう”と言った時の....アズサ校長の笑顔。
(胸がドキッとしてしまった.....ああくそっ!)
なんだかんだいって、アズサ校長が、かなりの美人であることは事実なのだ。
(だけどまさか....胸がときめくなんて....ああくそ...)
「....」
カズヤも言葉を失っている。
「....君達は、私のことを何か勘違いしていないかい?」
呆れたような顔でアズサ校長が言う。
「私も一応大人だよ?一般常識ぐらいは持っているつもりなんだけどな~?」
確かにアズサ校長の言う通りだ....だが。
「改めて言われると....なんかムカつくな」
つい、口に出してしまう。
「.....ハルトくんへのお仕置きは今度にして」
何か物騒なことを言っているのが聞こえた。
「任務の詳しい事は、この書類に書いてあるから、それぞれ読んでおくようにね」
書類の束を渡される。
「あと....任務のことは、君達から言っておくように」
「なっ!」
(俺の口から言うのか....気が重くなるな..)
「......」
カズヤも同じ気持ちなのか、無言で額に手を当てている。
「フフフッ」
そんな俺たちを、笑顔で見ている、アズサ校長。
「....何ですか?」
「いや.....やっぱり若いっていいなぁ~と思ってさ」
(この人は....また、訳の分からない事を言っている)
「学生である君達にとって”今”が一番大事な時だからね....楽しむように!」
.....何を伝えたいのか、いまいちよく分からない。
「それじゃ二人とも任せたよ、頑張ってね~」
こちらに手を振っている。
相変わらず気楽な人だ....可愛い生徒が死地に向かうというのに。
「では失礼します」
「....失礼します」
俺とカズヤが校長室を出る。
「......」
誰も居なくなった校長室で一人、アズサ校長が呟く。
「....これからが“本番”だよ?二人とも」
そう言うと、アズサ校長は電話を手に取った。。
同日、【学園戦艦:食堂】
「私たちに....任務?」
俺とカズヤは今、アズサ校長から依頼された任務のことを話すためそれぞれのチーム全員を招集していた。
「.....どんな内容?」
険しい顔をした、マヤが聞いてくる。
「あ~.....内容はだな、この書類に書いてあるから、後で読んでおいてくれ」
とりあえず書類を配る。
「まぁ、簡単に説明すると......新種の“dead”の発見と、その一部を持って帰ることかな?」
「随分といきなりね.....それも.....かなり危険そうだけど」
不安そうな顔でこちらを見つめてくるシズカ。
(そりゃそうだよな.....俺だって未だに納得していない部分の方が多い)
「しかし、だ....シズカくん、それが任務ならどんなに危険なことでも遂行しなければならない....それが私達だよ?」
諭すようにレイカが言う。
....さりげなく、シズカの体に触っているのなぜだろうか?
「それはそうですけど......」
不安そうな顔のシズカ。
「まぁまぁ、シズカ?そんなに難しく考える事ないんじゃない?」
そんなシズカに対して....楽しそうに笑っているアスカ。
「....アスカさん」
「レイカの言う通り、任務だから断れないし.....だからと言って“できない”“やらない”っていう選択肢はないわけでしょ?.....なら、やるしかないじゃん?」
どこまでも気楽そうな、アスカ。
(こういう時に、役に立つんだよな...アスカは)
「....そうね....そうよね、ありがとうアスカさん」
まだ少し、不安は残っている様子だが...シズカは覚悟を決めたようだ。
「まさか、アスカがシズカを諭すなんて....珍しいのもを見たな」
小声で呟く。
「...ねぇカグラ?......後でハルト襲おうよ、もちろん“痛め付ける意味”で」
「?......別にいいけど」
何やら二人でコソコソ話しているようだが、よく聞こえない。
(....さっきから寒気がするのは、気のせいだろうか?)
「マヤにサクヤ、二人はどう思ってる?」
最後に、この二人の考えを聞いてみる。
「......私は問題ない.....サクヤ、あなたはどう思う?」
自分のことより、妹のことを気にかけるなんて....いい姉だな、マヤ。
「は...はい...サクヤは、少し怖いですけど.....頑張ります!」
震えながらサクヤが言った。
怖がっているが、その目には強い意志が込められているのを見てとれた、これなら大丈夫だろう。
(....とっても強い、姉もいるしな)
「.....良かった......もし“行きたくない”なんて泣き言を言ったら...」
「い..言ったら...?」
「.....この場でぶっ飛ばしてた」
「.....!」
さっきよりも震えが大きくなってしまった、サクヤの頭を撫でながら、マヤがそんなことを囁いている。
(....本当にこの姉は妹に厳しいな)
「それじゃあ、みんな任務について異論は無いな?」
最後に、カズヤが全員に聞く。
「ええ、無いわ」
「ああ、私もないよ」
シズカとレイカが答える。
「問題なし!」
「同~感!」
アスカとカグラも元気に答える。
「....異論無し」
「い、異論ありません!」
マヤとサクヤ姉妹も異論は無いみたいだ。
「最後に一応聞くが.....異論は無いか?ハルト」
全員の視線が俺に集まる。
(こういう空気は苦手なんだよな)
そう思いつつ、全員に向けて言う。
「ああ....無いね!」
......微妙な空気がその場に流れた。
(だから嫌なんだよ....もう)
そんな事があったが、任務のことをチームに話すことができたし、全員の気持ちも確認できた。
(俺にしてはよくできたんじゃないか?)
「さて、せっかくみんなで食堂に集まったんだ、ハルトの奢りで何か食べようぜ?」
カズヤがそんなこと言い出す。
「俺の奢りって....まぁしょうがない、普段からみんなには世話になってるからな...ここは俺が」
「いいね~それ!じゃ、あたしは...カツ丼に親子丼、海鮮丼に...とりあえず丼類全部持ってきて!」
俺が言い終わらないうちに、アスカが注文を始めた。
「あ~ずるいぞアスカ!私も丼類全部ね、後は....」
しまった。
...今まで忘れていたがアスカもカグラも結構な大食漢なのだ。
「待て!アスカ.....奢るといったが、俺も学生だぞ?正直言ってあまり裕福ではな.....」
マズイ、こいつらの食欲を甘く見ていた。
このままだと......作戦を練る前に、俺の財布が破綻してしまう...少しうまいか?。
「ねぇ、ハルト....そんなこと言ってていいの?」
「っ!」
まさか俺の心の声が聞こえたのか?......だとしたら、かなり恥ずかしい。
「向こうは、もっとすごいの注文してるよ?」
「なっ....」
アスカの言葉に、シズカたちの方を見る
「じゃあ、私は今日のおすすめのB定食でお願いします」
シズカは普通に注文しているようだ。
問題は.....。
「そうだな、とりあえず....値段の高いものを上から10品ほど持ってきてくれ」
そんなことを言いながら注文しているカズヤ。
「カズヤお前....」
「なんだよハルト?奢ってくれるんだろ?」
いやらしい笑みを浮かべているカズヤ。
「....もし足りなくなったら...カズヤの名前で借金してやる」
「お前...」
俺とカズヤ、二人の間に変な空気が流れた。
「それしか食べないのかい?シズカくん?」
後ろの方でレイカの声がする。
「ええ、私は普段からあまり食べない方なので....」
確かに、シズカは昔からあまり食べる方では無かった.....ならばなぜ、あんなに胸が大きくなるんだろうか?
.....男として最大の疑問である。
「フム、そうか.....なぜそんなにも育つのだろうな...」
「?」
最後の方は小声で聞き取れなかったが、レイカの視線がシズカの胸に向いている。
(ああ.....やっぱりこの人は、そっち系なんだな)
いい意味で言えば、友達思い....悪く言うと、同性愛者。
「........」
「どうしたの?ハルトくん」
ハッ!
つい考えてしまったピンク色の妄想を慌てて消す。
「....デザート類....全部」
「!」
今度はマヤとサクヤの方からとんでもない注文をする声が聞こえた。
「お、お姉ちゃん....そんなに食べるの?」
驚愕しているサクヤ。
それはそうだ...主食を無視して、いきなりデザート.....しかも全メニュー注文。
「.....安心して.....人は糖分だけ取れば、生きていけるから」
(いや...それはマヤだけだと思うぞ)
良い子は絶対に真似してはいけない!
「たっ、確かに糖分は重要ですけど.....」
なんとか反論をしようとするサクヤだが。
「......」
無言でサクヤを睨むマヤ。
何故か....スプーンをかじりながら
「はぅ.....ごめんなさい」
涙目で謝ってしまうサクヤ.....別に謝ることなんてないぞサクヤ?
お前の言っている事の方がが正しい。
「ご注文の品、お待たせしました!」
メイド服姿のウェイターが注文した品を持ってくる。
なぜメイド服なのかというと.....学園の最高責任者であるアズサ校長の趣味だ。
「おっ!来た来た....みんな!食べようじゃないか!」
「おー!」
カズヤの掛け声に、俺以外の全員が声を合わせる。
俺はというと....。
「...絶対に足りない...どうしよう」
みんなが楽しそうに食事をしているのを横目で見ながら…..そんなことを呟いていた。
「....これって」
任務の書類を読んでいたシズカが、何かを呟いている。
「ねぇ、ハルトくん?」
「ん?どうしたシズカ?」
食事も終わり、なんとか支払いを済ませた俺は、シズカと一緒にコーヒーを飲んでいた。
ちなみに他のメンバーは全員自室に帰り、今は俺とシズカだけが食堂にいるだけだ。
「ねぇ、ハルトくん....この書類ちゃんと最後まで読んだ?」
上目遣いでそんなことを聞いてくる。
「あっ....そういえば読んでなかったな.....アズサ校長から内容を聞いただけで....」
「やっぱり......」
「?」
確かに、読むのを忘れていたが...何かとんでもないことでも書いてあったのか?
「ちなみに聞くけど....任務の開始日時って知ってる?」
「いや?....分からないけど....大体3日後位じゃないのか?」
「.....」
呆れたような顔をしているシズカ。
「....何時なんだ?」
(嫌な予感がする)
少し困った顔になるシズカだが…..
「えっとね.....落ち着いて聞いてね?ハルトくん」
「....」
シズカがこんなにも、言いにくそうにしてるなんて......そんなに近くに開始なのか?
俺が頷いたのを確認して、シズカが言った。
「......明日だよ」
「....」
(....)
思考停止。
「えっ..なんだって?..すまない、シズカ..もう一回言ってくれ」
思わず聞き返してしまう。
「えっとね.....正確には、明日の朝一番に、人員輸送用のヘリコプターで出発して....」
(ヘリで出発?......そんな事言ってなかったぞ?...あの人)
「それで、場所もね.....」
そこまで言って、口を濁すシズカ。
「場所?」
そういえば、そんな基本的な情報も聞いていなかった。
「.....どこなんだ?」
シズカに問う。
「....旧日本国....通称“始まりの国”....私たちの産まれ故郷よ」
「!」
旧日本国.....俺とシズカの産まれ故郷にして、世界で初めて門の出現が確認された国だ。
そのために“始まりの国”と呼ばれている。
「.....あの校長......隠してやがったな」
アズサ校長のことだ...生徒の個人情報等は、閲覧し放題だろう。
「ハルトくん...」
心配そうな顔で俺を見つめているシズカ。
「.....大丈夫だ....」
正直言って、あの国には嫌な思い出しかないが...今更“行きたくない”なんて言えない。
「とりあえず...この事を、カズヤ達にも知らせないとな」
「多分、今頃みんな気づいてると思うけど...」
シズカの言う通り、みんな気がついているだろう。
(そして、俺とカズヤに対する怒りが、爆発しているだろう)
「明日みんなになんて言われるか….」
想像するだけで、胃が痛くなる。
「....可哀想」
思いやるような眼差しで、俺を見つめるシズカ。
「....とりあえず今日はもう休もう」
「ええ、そうね」
そう言って俺とシズカは自室に戻っていった。




