任務
【学園戦艦:校長室前】
「はぁ~.....着いてしまった」
なぜか殺人容疑を掛けられた俺は、カズヤの付き添い付きで校長室に来ていた。
(あの校長のことを考えるだけで、気分が悪くなる....どんな予想外なことをしてくるか想像もつかないからだ)
「覚悟を決めろよハルト.....尋問には俺も立ち会うからさ」
楽しそうに尋問とか言っている....というか尋問されるのか?俺。
「...いくか」
コンコン。
覚悟を決めて、扉をノックする。
「どうぞ~入って」
軽いノリだな....。
「やーやー!ハルトくんにカズヤくん、よく来てくれたね!」
扉を開けると、大歓迎!といった様子で、俺たちを迎えてくる女性が一人。
そう...この人こそ...この学園の最高責任者であり、連合政府の門外顧問でもある。
柊アズサ学園長だ。
(.....俺が言うのもなんだが、行儀が悪いなこの人は)
なぜかというと、この人は今、机の上に座りながら俺たちに向かって話かけているのだ。
(高級そうな椅子があるのに、座らないなんて....宝の持ち腐れだな)
俺がそんなことを考えていると...。
「早速で悪いんだけど、殺人の動機は何だったんだい?ハルトくん?」
何の前触れもなく、笑顔でこんなことを言ってきた。
(....この人の中では、完全に俺が犯人か)。
いや、この人の話に乗せられてはダメだ。
(ここはなんとしても、俺の言い分を発言しないとな)
「待ってください、校長先生....こういう場合はまず、俺の話を聞くとか..」
「うん、言い訳ならいくらでも聞いてあげるよ?...言ってみて」
俺の発言を完全に無視して、アズサ校長が言い放つ。
(...この人の思考はどうなってんだ?人の話を聞く気がないのか?)
「......」
カズヤはといえば....笑いをこらえながら、俺と校長の話を聞いている。
(コイツは.....絶対に、後で痛い目に合わせてやる)
「....校長先生、一応聞いておきますが...俺の話を聞く気はありますか?」
僅かな希望を持って、質問してみるが。
「ん~そうだね....ないかな」
そっけない答えが、帰ってくるだけだった。
(この人....本当に何なんだよ?...もう)
「アハハ、冗談だよ」
「.....」
(言い返す気力もなくなってきた)
「....なぜピンポイントに俺を呼び出したんです?...これじゃあ俺が容疑者みたいじゃないですか?」
(この人のことだから、くだらない理由だと思うが....一応聞いてこう)。
「ふふふっ!よくぞ聞いてくれました!」
待ってました!とばかりに立ち上がり、俺に近づいてくる。
「事件が事件だからね...迅速かつ速やかに、犯人を見つけないといけないじゃない?」
「.....」
テクテクと俺に近づいてくる。
「そこで考えたのが....誰かを犯人に仕立てて捕まえて、上(連合政府)にバレるまでの時間を稼ぎ~...」
「.....」
俺の目の前で止まる。
「その間に真犯人をみつけよう!という作戦なんだよ」
俺の肩に手を置き、高らかに言い放つ。
(....この女、得意げに語っているよ)
あまりの作戦に、笑いすらでてこない。
「なるほど、さすがはアズサ校長先生です!素晴らしい作戦ですね」
....なぜかカズヤが褒めている。
作戦自体は、俺も悪くないと思う....その犯人役が俺じゃなければな。
「校長先生....生徒、いや俺に対する憎しみでもあるんですか?」
「いや、無いよ?あえて言えば....この事件は君に何か関係がある気がするんだよね....感だけど」
(この人は、自分の感で生徒を犯人扱いするのか?)
「それに犯行に使われたのは、君が普段使っているものと同じ、M16らしいからね....この学園でこの銃を使っていて....私の嫌いな生徒っていったら....ハルト君しか思いつかなかったんだよね」
(気のせいだろうか...今、本音が聞こえたような....)
「確かに、M16といえばこいつ(ハルト)ですもんね」
納得したような顔をしているカズヤ、こいつは俺の敵なのか?
「待ってください....確かに俺の銃はM16ですが、警備員を殺す動機がありませんよ」
このままでは本当に、俺が犯人に仕立て上げられてしまいそうなので、俺の言い分を伝える。
「そう、それが問題なんだよね、困ったことに」
「校長先生.....」
(困ったことにって....)
いい加減、不愉快になってきた。
「アハハ!冗談だよハルトくん!そんな怖い顔をしないでくれたまえ」
笑いながら冗談だと言っている....どこまでが本気かわからない。
「君たちを呼んだ本当の理由はね....君たちに“ある任務”を受けてもらいたかったんだよ」
このタイミングで任務か.....断ることはできそうにないな...。
(まぁ...それを見越して、話していたんだろうな...この人は)
あくまでも、この学園の学園長....切れ者なのは確かである。
「二人とも、任務の内容はわかると思うけど、一応言っておこう」
そう言うと、わざとらしく咳払いをする。
「今回の事件の真犯人探しを二人でやって欲しい...内密に...迅速に...ね」
口に指を当てて“静かに”というサインをしている。
(ああ、なるほど....つまりこの人は、面倒事を俺たちに押し付ける気だな?)
「任務自体は分かりました....ですが、質問が二つあります」
先ほどとは打って変わって、真面目な顔をしているカズヤ。
「ん?何だい?カズヤくん」
「まず一つ目に....なぜこの任務に当たるのが、俺とハルトだけなんです?」
(いい質問だ、やはり“真面目な顔をしたカズヤ”は頼りになるな....それ以外では、ほとんど無力だが)
「理由は簡単だよ、さっきも言ったように....この事件、何かハルトくんと関係があると思うんだよね.....カズヤくんは、ハルトくんのおまけかな?一人だといろいろと大変だろうし」
この人の感だけで俺が選ばれたのか、とばっちりを受けたカズヤが可哀想だ。
(....ざまぁみろ)
ハッ!
イカン、つい本音が出てしまった。
「そうですか....私がおまけなのには、少々疑問が残りますが….まぁいいでしょう。」
納得していない様子のカズヤ。
「で?二つ目の質問は何かな?」
「もし....俺とハルトが真犯人を見つけられなかった場合はどうなるんです?」
確かに重要なことだな....まさか本当に、生徒(俺)を犯人として連合政府に突き出したりしないだろう。
「あ~その時はね....」
チラッ。
俺の方を見るアズサ校長。
「ハルトくんに犠牲になってもらって、連合政府にハルトくんを突き出そうと思ってるんだよね....あっ、もちろんカズヤくんには何もしないよ」
(そうか....今わかった....この女は俺の敵だ)
「なるほど....そうですか」
何かを考えている様子のカズヤだったが。
「なら安心ですね....ハルト一人の犠牲で、学園の評判が守られるなら安いものですからね」
爽やかな笑顔で、そう答える。
(....わかった、この男も俺の敵)
「さて、他に質問がないのなら任務開始だよ。時間は明後日の放課後まで、それまでに真犯人を捕まえること!わかったね?二人とも?」
「了解!」
見事な敬礼を見せるカズヤ。
「....りょうかい」
任務が始まる前から、完全に戦意喪失している俺。
「どうしたんだい?ハルトくん?元気がないよ」
(人を殺人犯扱いしておいて、この対応.....なぜこの人が学園長してるんだろうか?)
「それでは失礼しました。」
「.....失礼しました」
俺たちは揃って、校長室を後にする。
「あ~ハルトくん」
「....何ですか?」
この期に及んでこの人は....俺にとどめを刺すための一言でも言うのだろうか?
「....昔から私の直感はよく当たるんだよね...それも悪い方向に」
「.....」
「....今回の事件が君と関係があると思ったのは本当だよ...気をつけて任務にあたるように」
そう俺に言い放つアズサ校長の顔は、真剣そのものだった。
「....了解」
俺は、真面目な顔で答え、校長室を後にする。
(.....信犯人はM16を使う奴か、まさかな....)
不吉な予感を抱きつつ、俺とカズヤは犯人探しを始めるのだった。




