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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
それからの2

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7 君がいてくれたから



「川ちゃんもお腹大きくなったね。」

川田も数年前に一人目の妊娠から仕事をやめて、子育てに切り変えた。2歳の子も横にいて、今二人目だ。ジノンシーはその場その場での即戦力を求めているので、転職や退職もしやすい。尚香は未だ呼ばれているが。



「尚香さん、仕事復帰しないんですか?」

「預かった子もいるからね。せめて中学校までは、必要な時に送り迎えできるようにしてあげたいし。それまでは在宅かな。」

「まだまだ先じゃないですか!」

園にはお金が掛かるが、本人たちが望まない限り、義務教育は基本公立に送るつもりなので楽は楽だ。



「いや~。なんだかんだ、みんな30を機に結婚しちゃったね。」

ソナが驚いている。東京でこれはなかなかではないか。他の仲間内ではまだ未婚も多い。


「ウチは庁舎君騒動がなければ、まだ結婚はしなかったかも。なんか、あの気流と勢いをそのまま継いだというか………」

まさにその渦中と結婚してしまった川田がつぶやく。




「いいな~。ほんと山野瀬家、楽しそうだよね。近かったら遊びに行けるのに。」

「柚ちゃん。旦那さんの大阪、とりあえず2年だっけ?」

「うん、まだ知り合い少なくて寂しくて。地元が神戸だったから、どうにか友人はいるからよかったけど。2年って微妙だし。大阪来たら絶対連絡ちょうだい!」

と涙目である。

「星君、イオちゃん、さいちゃん。天隆(あたか)のこと、忘れないでね!」

「……………うん……」

子供たちがうなずいた。みんな大人の話をきちんと聞き、食事中の椅子に座っていられるいい子であった。



機関銃のようによく話す上の頼君と、真理の暴れん坊長男の大変さを知っているソナたちとしては、子供がいるのに実にゆっくり食事ができたのであった。





***





それからまた、少し時は巡り。




「尚香さん……」


「…………章君?」


みんなが寝静まった深夜のキッチン。片付けをしていた尚香を、章が後ろから抱く。子供たちが大きくなりだんだん夜中も騒がしくなるが、みんな運動もしているので、遅くても11時過ぎには疲れてだいたい寝てしまう。



ふたりで片付けを住ませソファーに一緒に座り、温かいお茶を飲みながら、尚香はしんみりしてしまった。


「……なりちゃんがいなくなってさみしい……」

里子に預かった一番小さな子が一人、親元に帰ってしまった。母親が病気でずっと入院。母方の祖父母はおらず、父親一人で病院に通いながら仕事子育ても出来ず。夫の介護生活を終えた祖母が地方から出て来たため、今は父祖母と暮らしている。




しんみりしている尚香を抱きながら、章がつぶやいた。

「なんか、いっぱい子供たちいたね。」

「そうかな。」

「いろんな人にすごいとか言われるんだけど。」

「……まあ、もともと人の出入りが多い家だったからね。」

あまり違和感がないし、金本お母さんが動けるようになったのと、道や洋子もよく来てくれるというのもあるであろう。信頼できる女性が周りに多いのも助かった。


章も敏感なので、プライベートがっちり必要派かと思いきや、山名瀬家の祖父の家にいた頃から人の出入りの多い家にいたからか、子供がたくさんいても騒がしくてもあまり気にしない。作業仕事で一人になる時も多いし、夫婦部屋は確保しているのでそれでいいそうだ。夫婦部屋でも子供がよく遊んだり寝てしまったりするが。


子供たちが少し成長してからは、年数回、各々親子一対一で特別な時間を取るようにしていたが、好きなファミレスかカフェ行こうか?と言うと、「伊馬も食べに行きたいよ」「頼君はいいの?」「明ちゃんも連れて行く」と、彼らの方が誰かといたがった。普段は、誰かのせいで自分はできないとか、お兄ちゃんばかり卑怯だと言うのにどういうことだ。


4か月くらいだったのに、なりちゃんが行ってしまった時は、尚香でなく子供たちが泣いていた。





尚香が章の手を握る。

「章とだからだよ。」


「俺?」

「章だから、伊馬たちとも一緒に暮らせて、四人も子供作れたんだよ。」

「………」


「章が子供好きで、100人いても大丈夫って言うから。」

「……そうだっけ?」

だいぶ前の話だ。自分の子は、と言ったんだけどと思うも、自分もたくさんの人に育ててもらったので、話を出された時そんなもんだとも思ったのだ。尚香の、どうせ子供が三人以上いたら忙しいのだから、体力のあるうちに頑張ろうよと言う言葉にも納得し。子供たちもむしろ賛成であった。


そして意外にも、尚香は瞬発力はないが、思った以上にスタミナも持久力もあったのだ。ジノンシーの激務分を子育てに当てたので余力があった。



「章とじゃなきゃできないよ。」

「そう?」

「章君とじゃなかったら、自分の子供だってこんなに育てられないよ。」

「………そうかな?」

いつも家にいるわけじゃないのにと章は思う。


「そんなの考えられない旦那さんだっているわけだし。」

「……ふーん。そうなの?」

そう言いつつも、尚香の特別のようでちょっとうれしい。


「章と一緒になったから、四人産んでもでも大丈夫だと思ったんだよ。」

「だから、りのちゃんにも会えたんだ。」

りのちゃんは末っ子だ。



長く角張った指で何度も尚香の手を握る。




章は思い出す。


三人目がお腹の中で亡くなったと聞いた時、それは何か急に、どこにもいなくなってしまう、そんなイメージでいた。パッと消えてしまうような。



けれど、命は存在だ。明確な。


そこにあったのに、なかったように消えることはない。




章は一つ一つ現実を対応してひどくショックだった。


その頃は道も日本におらず帰ってくるのは少し後。夫なのに自分にできないことが多くて、不足なことも多くて。年のお母さんと身重だった尚香が動き、美香やナオも心配で何度か見に来ていた。情けない夫にあきれて、尚香が離れてしまうのではと、こんな時すら身勝手なことにそんな自分の心配もしてしまった。


しばらく横になって、泣きもせず寝ていた布団。産後の養生期間を終えると、上の子もいるのですぐに日常に戻って行った尚香。



無神経なことを言わないようにとみんなに注意され、かといって気の利いたことも出来ず、自分の事でもあるのに周りに言われることに必死に対処して来ただけだ。その後すぐにまたツアーに出て。


それでも尚香は、あの頃の自分に、時々横にいてくれただけでいいよと言った。良かったとも思い、情けなくも思う。





けれど今、こんなに騒がしい。


苦しいことも、たくさんの人が乗り越えてきたことだと思って、それでも前を向く。



おばあちゃんが三人もいる上に、子供も多くて自分たちに構っていられず、もう誕生日すら面倒で二人の誕生日もほぼ駆け足。


ただ、功の誕生日は未だエナドリからのファンが功の名前で寄付してくれるので、状況によっては功も出向いて奉仕(ポンサ)に行っている。一度は、顔を出さない条件で上の子たちも連れて行ったこともあった。



章はまだ話したいのに、尚香はウトウト寝てしまう。



「おかあさぁん!」

そこに起きて来たのは、パパ大好きな長女の明子(めいこ)


有無も言わさず、ドンっとパパママの真ん中に割り込んで来た。尚香は一度目を開けるも、明と確認してまた寝てしまう。

「明ちゃん、ママ起きちゃうよ。降りて。」

「ヤダ。」

と、居座りすぐに寝てしまった。

「おかーさーん!」

それを聞いて、星もやってくる。寝ぼけたまま同じく割り込む……どころか母の上で寝る。

「星君、ママとお話してるんだけど。ママ重いからこっちおいで。」

そういうと、星は母の顔を確認し、

「ねてるよ……」

と、寝てしまいそうになるので、明を避けて持ち上げて自分の方に移動させた。


そして、よく見るとリビングの端で、伊馬までタオルケットを引きずってじっと立っていた。


「伊馬もおいで。」

と、章が笑うとタオルケットごとよそよそやって来て、間にはもう入れないので章の横にくっついてくる。持って来た布団を掛けてそっと撫でてあげると、伊馬も安心してそのまま眠ってしまった。



全員寝ているのを確認して、章はソファーを倒して大きなベッドにし寝床を整えた。余分な布団も床に置いてクッションにし、一番動く明を抱いて子供部屋にそっと移す。明も起きないし、他の子供たちが寝ているのを確認してリビングに戻る。


伊馬がもう大きいしみんな動くので、ソファーも大勢で寝るには狭い。

「尚香さん、起きれる?」

「……ん?」



ふたりで自室に行くも、横になると尚香は直ぐ眠ってしまう。


ベッドで横になって、立て肘で尚香を眺める章。

「…………」


伸びた髪をそっと整えてあげると、モゾっと少しだけ自分の方に近付く。

「っ!」

普段は払いのけられるので、思わず驚く。


え?と、固まって確認するも、尚香は寝ていた。



うれしくて、思わずそっと抱いてしまう。



昔は尚香から擦り寄ってくると、うれしい反面、どうせ他事や他の人のことを考えているのだろうと、不安になって少し気もそぞろだったが、今はそれでももう何でもよくて、普通に安心する。




ふたりの時間は減ったけれども、子供の分心配事も増えるけれど、そうやって過ごした時間は、何かを無くした時でさえ、迷い道にもたくさんの灯をくれるだろう。






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