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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
それからの2

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7 お買い物



さらに起こった変化と言えば、そして照明山本さんもどうにか結婚。



山本は……


あの東山照明の佐々木さんが初イットシーに来た日から、数年経っても関係に変化がなく。山本さんはプライドが邪魔して唯一の結婚を逃したとみんな思っていたが、なんだかんだ佐々木さんと無事結婚ができたのだ。



あの後、山本と佐々木は強気がぶつかり合い、こじれて一時期ケンカ状態。


遠距離であれだけマウントを取り合って、どう関係を繋げたのか不思議でしょうがなかったが、何と山本、地方まで出掛けてデートに誘ったらしい。

結局、山本が佐々木に願い込む感じでお付き合いにこぎつけ、山本的にはかなり奮発して、そんなもん無駄だと自分で呟いていた宝石付きの結婚指輪をプレゼントしたのだった。


しかし、佐々木的にはありえない。

「買うなら相談してほしかった。指輪しないのに……」

と言われてショックを受ける。世のめでたい慣例や行事をあれこれ否定していた山本なので、まさか指輪を買ってしまうとは思わず、佐々木にもこれは不意打ちであった。しかもサイズが合わない。


「……サイズはどうしてそれを買ったの?」

大きすぎる。

「前に手を並べた時、佐々木の薬指が俺の小指より細いくらいだったから………」

「………はぁ……。こういうのはお金に困らないくらいの金持ちで、よっぽどの物じゃないと、サプライズは誰も喜ばないよ。」

「……………」

ブランドや宝石が好きな女性は昔より減っているし、そこらの物は鑑定書があっても二束三文にしかならないこともある。他人に重い物を貰いたくない女性も多い。だいたい付き合うと決めてもいない時点で、これはフライング。一歩間違えればストーカーであった。



それに、仕事帰りの佐々木を見付けた時、佐々木は職場の男女たちと楽しそうにしていた。


しかも地方と甘く見ていたが、みんな山本より見た目もセンスもよく、雰囲気もいい。最近のオタクはセンスがいいのかオタクはいないのか、自分のような服の男もいない。今日は山本も無難な黒と白で決めてはいるが、何せ元が山本さんである。それを恥じてはいないが、その日だけは弱気になってしまった。東京のLUSH+やバンズ率いるイットシー、ライブハウスの照明チーフと知らなければ、ただの太り気味おじさんである。


なんだか自分がひどく小さくなった気がして、そのまま帰ろうか悩んでいたところに、佐々木が気が付いて声を掛けてきてくれたのだった。


周囲のおしゃれなお店が分からず、あっても女子ばかりで騒がしい。居酒屋に行って近況を話し合い、そんなタイミングで付き合ってほしいと、20万もする指輪を渡してしまう。重い。200万の指輪でも要らない。


男三十路も後半、緊張と焦りで手順を間違えてしまった。



世をダサい扱いしていたのに、ダサダサ全開の上、滑ってまで頑張った山本さん。



大いに笑われたが、その日、佐々木は山本自身をバカにすることは言わず。山本も、佐々木にマウントを取るようなことは何も言わなかった。



指輪は預かると一応もらってもらえたが、その日は盛り上がることもなく山本はトボトボ帰宅。答えは数週間後、佐々木が指輪を直しに東京に来たことだった。




今、その指輪は佐々木の細くて長い指にきれいに収まり、仕事で指輪ができない時は、ネックレスとして胸に収まっている。



なお、佐々木さんのためにメタボくらい凹ましたらどうですか?とみんなに言われていた山本さん。忙しかったのもあるが、頑張ったものの結婚式までには何も間に合わなかったらしい。


一方、細くてひょろりとし、垢抜けないように見えた佐々木さんはといえば………

山本は散々あれこれ言っていたが、周囲が言うように、プロにメイクや衣装の調整を任せたら、山本が心配になってしまうほどきれいになってしまったらしい。少し()けた頬、スレンダーなスタイルと素朴さをそのまま活かして、かわいくもクールなモード寄りに。腕のいい衣装やアーティストの手配は、政木からのプレゼントだ。

一夜限りのマジックだけれど、普段の顔のケアや簡単なメイク法も教えてもらっていた。


披露宴はなく、小さな食事会だけ。それでも功が絶対招待してと我儘を言い、二人のために歌を歌って帰ったそうな。





そんな風に、みんなの周りも変わっていく。


大和も1年留学をして大学を卒業。太郎や朝ちゃんもどんどん大きくなり、あっという間に尚香の身長を越えていく。


お父さんお母さんもまだまだ元気だ。






そして、何よりうれしかったのは、やっと正二彩香夫妻に赤ちゃんが授かったことだった。



章夫婦の家に子供が迎えられる度に、兄夫婦からお祝いも届き、あまりに子だくさんで尚香たちも引け目を感じてしまっていたが、彼らが不妊治療をお休みして数年後に思いがけず妊娠。何があるか分からないので、知らせてくれたのは出産後だ。


こんなこともあるのだとみんな驚いてしまった。



スマホ越しに泣いてしまう尚香。

「尚香~!泣くな~!!」

「だって……っ」

「会いたくなるだろー!」

彩香が笑ってしまう。もし子供ができなかったら、養子か里子をと思っていた矢先。


まだ子供の顔を見てはいないが、いつか日本にも帰ってくるだろう。





もう一つ、大きな結婚。


めでたいことでもあり、章としては複雑にもなってしまうこともあって。

それはまたいつか。




けれど、未来はどんどん変化を迎えていく。


何もないような一日一日に見えて、それでもみんな、未来を繋げようと必死になって動いてきたから。


だから未来も、それなりに変わって行く。



小さな月日の尺度では、何も変わらないように思えても。





***




山名瀬家上の子たちも、もう中学校や小学校高学年。



次男の(ほし)明子(めいこ)と三人でスーパーに買い物に来た章は、どんどん商品をカートに入れていた。


「お父さんこれも。」

明がチョコを入れると、今度は父が、

「抹茶とイチゴと味もある。箱のキャラクターが全部違ってかわいいね。買っとかないと。」

と全部入れてしまう。全部同じでも入れていたであろう。


「お父さん。お母さんがおじいちゃん用にエビせん買ってって。」

「海老せんいっぱいあるね。」

と言いながら、目につく物を全部入れて、蟹せんもあると蟹も加え、小魚ナッツもカートに。

「これで海洋を制覇できる。カートの中、大海原!」

「お父さんかっこいい!」

「太平洋!」


そこに、チーズを買い忘れていた星が戻って来て驚愕する。

「父さん、明、何してんの?!」

「海。昆布とワカメ系もいる?」

「は?」

「海老せん買ってた。」

「1個でいいよ!」

「1個じゃすぐなくなるし。これはおじいちゃんち用。」

「それでもそんなにいらないし!」


中を見ると、他にもいろいろ入っている。

「これ何?入浴剤とかいらないんだけど!」

「星君、でもこれ、新商品なんだよ。柚子でもミカンでもなくなく八朔だよ?」

「母さんが家にあるの使ってからって!」

「期間限定だし買っとかないと。」

「じゃあなんで、おもちゃ入りのバスボールまで買ってるの?それ1個いくらか知ってるの?」

「…………。明ちゃん知ってる?」

分からないパパが聞くと、低学年明ちゃんはハキハキ答えてくれる。

「税抜き375円!」

「そんなん5個も買って、何考えてんの?100円のでいいよ!」

「それも、おもちゃも期間限定だから。」

ブリッコする父親と、不満そうな顔の明子二人にじっと見つめられる次男。

「…なんだよっ。そんな顔してもだめだから!」


「……星君、世の中は柔軟にいかないと。この前納豆も3パックまでって言ってたけど、2日で消費しちゃったし。買って損はしないよ。どうせまた買いに来るんだし。」

子供が多いし人もよく来るので、なんでもすぐに無くなる。

「あったらあるだけ食べるから、母さんが少しずつ買えばいいって!ほら!レインにあるのだけ!!」

「そう言って、買い物行けないからってパパたちに任せてんだし。大丈夫、大丈夫!」

「…………っ。」


八朔は絶対と言うので、バスボール4個は戻しに行こうとする星。



そんな息子の思いも知らず、アワアワしているうちに速度の早い父は次のターンに出る。

「よし!今度はドレッシング買いに行こう!」

「は?!ダメだよ!」

一番ダメなコーナーである。ずらっと並べられるドレッシングやタレはとくに何でも買いたがる。



この調子で今まで何度か母を怒らせたのだ。だからこのマイペース親子が、消費の早いお菓子を買っているうちに、ドレッシングは自分だけで見に行こうと思っていたのに。




次男は半泣きな声で、兄に電話を掛けた。


『おう、何だ?』

「……お父さんがまた買い物で好き勝手してる………」

『はぁ?母さんからレインとかあるなら、それ見せればいいだろ?』

「見てもくれない……。分かってるからとか言って………」

『怒ればいいだろ?』

「怒ってるんだけど…………。あ……今も、明とカートいっぱいにしてる………」

と、向こうを見て本当に泣きそうだ。


『あっ~。今どこ?』

「いつものリリット……」

『俺、今、習字終わったから行くわ。』

習字塾は比較的近い。



6年生黒髪短髪の長男は、急いで彼らを探しに行くのであった。





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