6 君がいてくれたから
下書きのままだったものを、完成させた追加投稿です。
※設定を間違えていたので書き直しました。すみません!
今日は真理の家。
「ねえ、尚香さんさ、俺のためには心の割合を割いてくれないの。」
「…………」
功の方に見向きもせず、作業を進める与根。
また何か戯言を始めるボーカルである。
「与根ちゃーん。ねえ、聞いて聞いて。」
「泰に聞いてもらえ。」
「泰君どっかに行っちゃった。」
「俺が聞くぞ。」
「真理が聞いてあげる!」
伊那と真理が言うも、与根に聴いてもらいたい功である。
「でも、尚香さん。功と付き合ってから、オシャレとか気い使ってんだろ。」
せっかく結婚してくれた章が笑われても困るので、尚香だってそれなりに気は使う。
「子育てで崩壊した。」
「それは仕方ない。」
「でも尚香さん。多分俺じゃなかったら、相手の心を掴むためにもう少しあせくせ努力してたと思うよ?尚香さんの周り、子供いてもみんなきれいだもん。」
「その人たちも家の中では分からんだろ。あんなお金ある層で、東京だから外出でも気を使うだろうし。」
「尚香さんは下町育ちだからねえ~。」
「そんでさ~。」
「…………」
与根、毎度毎度うざいなと思う。
「尚香さんって、俺のために泣いてくれたことないのに、他人のためには結構泣いてるの。お父さんお母さんとか、にーちゃんとか…」
「…………」
「……で?」
与根に聴いてもらいたいのに、伊那が答える。
「ちょっとだけ無理強いしたら、泣いた。」
「は?!」
「あ??」
何をしたのだ。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。普通のカップルでもしてることだから!って、押し切ったら『そうなの?』って、必死にネット漁ってた。」
「………そんな話は聞きたくない。」
「大丈夫。許してくれたし。」
「どうだろうが聴きたくない。」
「俺は聞きたいぞ。」
「まりも聴きたい!」
「まあ、とにかく毎日楽しい。」
「それはよかったな。」
「えー?!何が~?どんな風に~!!まり、気になる!」
「でも、それは功のせいであって、功のためではないよな?」
「え?何?そう?」
と、いつもLUSH+であった。
***
「金本さーん!」
「あ、柚木さん、久しぶり!」
ファミレスでかわいく擦り寄ってくるのは、既に結婚して長男がいる柚木である。今は夫の異動で大阪に。
柚木は取引先トーノーの企画さんと結婚。スパダリ大好き大企業勤務あざと系美人柚木なら、どんなイケメンを掴むのかとみんな思っていたが、背も高くない見た目は普通の人と結婚してしまった。手が厚くて働き者で安心できる人がいいと、それで選んだらしい。なんだそれは、これまではフェイントか。
「あっくん!」
尚香が柚木の子に声を掛けるとニコニコ笑う。
「星もご挨拶して。柚お姉ちゃんとあっくん!」
今は旦那の苗字だが実は柚木、名前も柚であった。柚木がニコッとすると、星は反応できずに挨拶だけする。
「……こんにちは……」
「星君かわいー!ミニ章君だ!おばちゃんでいいよー。今日、お兄ちゃんは?」
「……ようこおばーちゃんたちといる。」
兄は良子や巻、伊馬と体験美術館に行っている。幼児が2人いてその三人は心配だと、大和も帰国している姉と付いて行っていた。
「お兄ちゃんとも会いたかったな~。星君、ウチの天隆もよろしくね。」
天隆君をじっと見ている星。しかし、天隆君はまだ話せる歳ではなかった。
そこにソナや川田も合流。ソナも下の子だけ連れて来ていた。美香は今日は用事でいない。柚木が大阪から来てくれるということで、尚香は久々の外出。まだ小さな娘は帰ってくるまで道が見ていてくれる。
「尚香さ~ん。山名瀬章との生活はどうですか?」
「…………章君?」
何を語れというのか。
「なんですかー、その顔!」
「……普通だけど……。昔との違いは…………昔は夜帰ってた人が、ずっと家にいる感じ。未だに。」
「え~、それだけじゃないですよね~。夜もいるって、それが一番超特別な変化だし!」
ここまでストレートに聞いてくるのは柚木ぐらいである。
「庁舎君は家ではどうなんですか~?いろいろ構ってきます?」
「……すごくよく喋るか、だんまりでずっと何か観てるか……」
正直尚香、章といる半分は家に学生がいる気分である。あのふざけた性格はなんなのだ。
「えー。星君、パパとママはどう?仲良し?」
渋い顔をして考えている園児星君は、コクンとうなずいた。
「………なかよし。」
「うわっ、かわいい……」
「川ちゃんもお腹大きくなったね。」
数年前に一人目の妊娠から仕事をやめて子育てに切り変えた。2歳の子も横にいて、今二人目だ。
「尚香さん、仕事復帰しないんですか?」
「預かった子もいるからね。せめて中学校までは、必要な時に送り迎えできるようにしてあげたいし。それまでは在宅かな。」
「まだまだ先じゃないですか!」
園にはお金が掛かるが、本人たちが望まない限り、義務教育は基本公立に送るつもりなので楽は楽だ。
「いや~。なんだかんだ、みんな30を機に結婚しちゃったね。」
ソナが驚いている。東京でこれはなかなかではないか。他の仲間内ではま未婚も多い。
「ウチは庁舎君騒動がなければ、まだ結婚はしなかったかも。なんか、あの気流と勢いをそのまま継いだというか………」
まさにその渦中と結婚してしまった川田がつぶやく。
「いいな~。ほんと山野瀬家、楽しそうだよね。近かったら遊びに行けるのに。」
「川ちゃん。旦那さんの大阪、とりあえず2年だっけ?」
「うん、まだ知り合い少なくて寂しくて。地元が神戸だったから、どうにか友人はいるからよかったけど。2年って微妙だし。大阪来たら絶対連絡ちょうだい!」
と涙目である。
「星君、イオちゃん、さいちゃん。天隆のこと、忘れないでね!」
「……………うん……」
子供たちがうなずいた。みんな大人の話をきちんと聞き、食事中の椅子に座っていられるいい子であった。
機関銃のようによく話す上の頼君と、真理の暴れん坊長男の大変さを知っているソナたちとしては、子供がいるのに実にゆっくり食事ができたのであった。
***
それからまた、少し時は巡り。
「尚香さん……」
「…………章君?」
みんなが寝静まった深夜のキッチン。片付けをしていた尚香を、章が後ろから抱く。子供たちが大きくなりだんだん夜中も騒がしくなるが、みんな運動もしているので、遅くても11時過ぎには疲れてだいたい寝てしまう。
ふたりで片付けを住ませ、ソファーに一緒に座る。温かいお茶を飲みながら、尚香がしんみりしてしまった。
「……なりちゃんがいなくなってさみしい……」
里子に預かった一番小さな子が一人、親元に帰ってしまった。母親が病気でずっと入院。母方の祖父母はおらず、父親一人で病院に通いながら仕事子育ても出来ず。夫の介護生活を終えた祖母が地方から出て来たため、今は父祖母と暮らしている。
しんみりしている尚香を抱きながら、章がつぶやいた。
「なんか、いっぱい子供たちいたね。」
「そうかな。」
「いろんな人にすごいとか言われるんだけど。」
「……まあ、もともと人の出入りが多い家だったからね。」
あまり違和感がないし、お母さんが動けるようになったのと、道や洋子もよく来てくれるというのもあるであろう。信頼できる女性が周りに多いのも助かった。
章も敏感なので、プライベートがっちり必要派かと思いきや、山名瀬家の祖父の家にいた頃から人の出入りの多い家にいたからか、子供がたくさんいても騒がしくてもあまり気にしない。仕事で一人になる時も多いし、夫婦部屋は確保しているのでそれでいいそうだ。夫婦部屋でも子供がよく遊んだり寝てしまったりするが。
子供たちが少し成長してからは、年数回、各々親子一対一で特別な時間を取るようにしていたが、好きなファミレスかカフェ行こうか?と言うと、「伊馬も食べに行きたいよ」「頼君はいいの?」「明ちゃんも連れて行く」と、彼らの方が誰かといたがった。
尚香が章の手を握る。
「章君とだからだよ。」
「俺?」
「章君だから、伊馬たちとも一緒に暮らせて、四人も子供作れたんだよ。」
「………」
「章君が子供好きで、100人いても大丈夫って言うから。」
「……そうだっけ?」
だいぶ前の話だ。自分の子は、と言ったんだけどと思うも、自分もたくさんの人に育ててもらったので、話を出された時そんなもんだとも思ったのだ。尚香の、どうせ子供が三人以上いたら忙しいのだから、体力のあるうちに頑張ろうよと言う言葉にも納得し。子供たちもむしろ賛成であった。
そして意外にも、尚香は瞬発力はないが、思った以上にスタミナも持久力もあったのだ。ジノンシーの激務分を子育てに当てたので余力があった。
「章君とじゃなきゃできないよ。」
「そう?」
「章君とじゃなかったら、自分の子供だってこんなに育てられないよ。」
「………そうかな?」
いつも家にいるわけじゃないのにと章は思う。
「そんなの考えられない旦那さんだっているわけだし。」
「……ふーん。そうなの?」
そう言いつつも、尚香の特別のようでちょっとうれしい。
「章君と一緒になったから、四人産んでもでも大丈夫だと思ったんだよ。」
「だからりのちゃんにも会えたんだ。」
りのちゃんは末っ子だ。
おばあちゃんが三人もいる上に、子供も多くて自分たちに構っていられず、もう誕生日すら面倒で二人の誕生日もほぼ駆け足。
ただ、功の誕生日は未だエナドリからのファンが、功の名前で寄付してくれるので、状況によっては功も出向いて奉仕に行っている。一度は、顔を出さない条件で上の子たちも連れて行ったこともあった。
章はまだ話したいのに、尚香はウトウト寝てしまう。
「おかあさぁん!」
そこに起きて来たのは、パパ大好きな長女の明子。
有無も言わさず、ドンっとパパママの真ん中に割り込んで来た。尚香は一度目を開けるも、明と確認してまた寝てしまう。
「明ちゃん、ママ起きちゃうよ。降りて。」
「ヤダ。」
と、居座りすぐに寝てしまった。
「おかーさーん!」
それを聞いて、星もやってくる。寝ぼけたまま同じく割り込む……どころか母の上で寝る。
「星君、ママとお話してるんだけど。ママ重いからこっちおいで。」
そういうと、星は母の顔を確認し、
「ねてるよ……」
と、寝てしまいそうになるので、明を避けて持ち上げて自分の方に移動させた。
そして、よく見るとリビングの端で、伊馬までタオルケットを引きずってじっと立っていた。
「伊馬もおいで。」
と、章が笑うとタオルケットごとよそよそやって来て、間にはもう入れないので章の横にくっついてくる。持って来た布団を掛けてそっと撫でてあげると、伊馬も安心してそのまま眠ってしまった。
もう少し後に、ソファーを倒して大きなベッドにして章は寝床を整える。
ふたりの時間は減ったけれども、子供の分心配事も増えるけれど、そうやって過ごした時間は、今はまだ見えない未来を作っていくだろう。




