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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
第二十七章 出口の外には

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68/97

67 100万円は分かりやすい

修正している間に、同じ文が二重になっていたりおかしくなっていたので整理しての再投稿です。ごめんなさい。



放課後の目立たない場所で、電話をする3人。



大和、今日は兄貴分を持ち上げる。

「わ~!!庁舎さん!電話の声もかっこいいですね!!」

『何がだ。そんな事、言われたこともない。媚びを売らずに用件を言え。』


これ以上、庁舎の機嫌を取りたくない大和が、目の前の女子にスマホを譲る。

「…………利帆、お前が言え。」

「え?待って!本当に功なの??」

「うそ!」

女子二人が戸惑っている。大和の同級生の利帆と、昨年までのクラスメイトの藤野である。藤野は4月の春迎祭で、大和の知り合いのお姉さんとあの功がただならぬ関係ではと、利帆と唯一見てしまった生徒である。


「あの!またライブしてくれませんか!緑川で!!」

『え、やだ。』

即言いに即答である。


「見てない友人たちが、観たいって言うんです!」

『俺、功じゃないし。』

「誰なんですか?」

『漫画家。』

「漫画家?」

『売れない四コマ漫画家。グッズは売れたけど。最近は2コマにして、週刊連載でもないのにさぼるなとネットで叱られた。読みもしない人たちに。もう1コマ漫画で、最終的に半コマ漫画にしようと思ってる。』

「功さんですね!!」

『違うよ。』


そこで藤野は武器を出す。

「……私知ってるんです………」

『?』

「大和の従姉のお姉さんといい仲なんですよね……。あのラッシュクラスティンの会長さん?」

『何それ?』

「みんなに言っちゃいますよ。緑川、大騒ぎになっちゃいますよ?」

ふふふと笑っている。


「おい、藤野!!」

何を言い出すんだと慌てる大和と利帆だが、庁舎君は冷え冷えしている。

『もうずっと会ってない人だし。変な噂を流すと訴えられるよ。あの人すっげー強いよ。』

「えー!やめて下さい!!」

藤野、すぐに敗北した。利帆は、音楽事務所に訴えられるのではないのかと思うも、藤野が泣きそうだ。

「ごめんなさいー!!なら、何も言わずにウチの学祭でライブして下さーい!!」


『前に聞いたけど、俺らじゃないけど学祭1公演でも1時間で200から300万円だって。100万円じゃないんだね。』

「!!」

驚く三人。

『バンズは400万円だったらしい。』

「!!!!」

バンズはイットシーのLUSH+次席である。

『1時間半歌って、入場料が必要だったみたいだけど。』

「それ、言っていいの?」

『知らん。みんな俺にホントのこと言わんから本当は100万かもしれん。でも相場があるらしくて、バンズならそんくらいだろうってみんな言っていた。会社じゃなくてバンド同士の酒の場で。』

「LUSHは?!」

『100万円?』


「………1曲……1曲でいいです………」

藤野がめちゃくちゃ弱気になる。みんなで1日バイトしてお金を集めれば20万円くらいにはなるだろうか……。緑川なら親たちが出してくれるかもしれない。

『高校でするって聞いたことないけど。』

1曲だけの依頼など、移動や運搬など経費の方が大きいのでまず頼まれない。

『あー、伊那が母校でなんか授業したことはあったかも。ライブじゃないけど。ああいうのもお金いるのかな?俺、母校で馬鹿にされてたから伊那の奴、学校なんてどうでもよさそうな顔してムカつくな。』

母校に行きたいと思える関係がうらやましいだけであった。



「………」

この前のように考えていた藤野たちは、かなりショックを受けている。ネットで調べさえもしなかった。


『なんで?どうしたの?高校の学祭なら自分たちで歌えばいいのに。』

「藤野が今回の実行委員会の一人で、そういう提案をしてみただけです。」


『ふーん。』


この男のすごさに、マジかと初めて大和が感服しそうになるが、次の一言でやはりバカだと思った。

『最近まで、コンサート開催って経費100万円くらいかと思ってたから、俺もびっくりしてる。この前のスタジアムとか500万円くらいかかったのかな?』

「は?500万円?全部で?出演料込みで?スタジアムで?」

世間知らずの大和でも、スタジアムの経費が500万円で済むとは思っていない。小規模ライブハウスの貸し出しでも最低5万はするのだ。学祭は出演料の話だが、箱も準備してくれる大学祭が2、300万でスタジアム500万とかおかしい。

『俺の事バカにしてんの?俺だって、100万の5倍が500万って知ってるよ?』

「…………」


『経費も100万円で出演料も100万円。』

「100万円?バンドだろ?そのお金、メンバーで振り分けるの?給料じゃなくて?」

スタッフやバイトも山のようにいただろうに。


『知らない。100万円。』

なぜこの男は100万円にこだわるのだと思うが、100万が分かりやすくて好きなだけである。札1束100枚分と教えてもらった。分かりやすい。

アメリカでもなぜかミリオンミリオンうるさかったので、100万が世の標準だと思っていたのである。それさえ言っておけば、世の中に置いて行かれまいと。なお、よく出てくるのでテンミリオンも覚えた。1億である。それ以外は言わないでほしい。数学が分からない章は、アメリカに行ってもっと単位や数字が分からなくなったのである。それだけは失敗であった。



埒が明かないと思う利帆はこの会話を止めた。

「……藤野、あきらめようよ……」

あの時はもう、特別であった。LUSH+3人に成り行きライブを開催させてしまった軽音部と吹奏楽部は英雄である。



『あ。いい、やろう!』

と、そこで急にチョーシャ君が言い出す。

「へ?」


『伊那みたいに半分講話にするか、チャリティーライブすればいい!』

「え?」

『そんで音源は緑川で準備して。俺があれこれ言うと、簡単に言うなってみんな怒るもん。』

「できるの?」

「日本はチャリティーでも出演料高いって…」


『さあ。事務所がなんて言うかは分からんが、聞く価値はある。』

「ほんと?!」

『でも、前みたいになんかカラオケしちゃった系でもいいけど。』

急にショボくなる。それでできるならそれの方がいいが、実行委員会のすることではない。

『フラッと来ちゃいました~!みたいな感じでいいし。』

てきとうな男だ。


『どうせ俺、ヒマな時あっちこっちに参戦してるし。あ、でもスケジュール……』

「緑川祭の日は、公開されている分の仕事はノースケジュールです!」

藤野、仕事が速い。庁舎も考える。3日間の大きなライブがあった後なので、休息を貰える可能性が大きい。


『……うーん。どうしよっかなー。』

「やりましょうよ!」

『うーん。でもなー。』

やるかやらぬかではなく、事務所を通すか、また山ちゃんのお友達で通すか考えているのである。でも、後者なら自分しか行けないかもしれない。



『あ!そうそう、その代わり金本さんと絡めないでね。』

「え?尚香さん?」

『もう会ってないから。』

「!」

大和は少し戸惑う。利帆も思わず大和の顔を見た。


「………尚香さんは、もうLushクラスティンの役職からは手を引きました。大丈夫です。」

大和が静かに言う。


みんなノウハウを持ったし、様々な人々が協力参加してくれるようになったので、尚香の手を離れたのだ。尚香がしてきたワークや講義も、もうお母さんたちや学生たちでできる。仕事の出張も多くなり、家にもいないし公民館などのイベントにも来ていない。


『分かった。ならとりあえず検討だけしとくね。あんまり期待しないで、まだ周りには言わないでね。学生は勉強しろよ!バイバーイ。』

と、切ってしまった。




「………」

「ねえ、本当に功なの??」

「功かは分からんが、庁舎ではある。」

震える藤野に、大和は答える。


「………うそ………」


しかしその横で検索して、利帆が驚いてしまう。

「ちょっ!有名人とか呼ぶと講演講話でも普通に100万とかだよ!!え?みんな知ってそうな人だとそれどころじゃない!!」

「はあ?!」

「もう呼ばなくていいんちゃう?」

勝手に来て、なおかつ普段呼び出される相手なのに、なぜ金まで払って呼ばねばならんのだと大和はあほらしい。

一体誰が庁舎の講話など聴きたいのか。そもそも話すら出来なさそうである。




***




「という訳で、俺、山ちゃんの友達だから、こっそり山ちゃんにだけ会いに行こうかと思ったけれど、一応与根には言っておく。後報告でこじらすと嫌だから。」

「は?」

学祭の話を聞いた与根がポカーンとしている。


「……でも……」

「あの人は緑川ともササッと縁を切ったらしい。心配しなくても会いはしない。」

「………」


「じゃあ何?勝手に行くの?三浦さん怒らない?」

この前叱られたばかりなのに。

「子供の学祭見に行くのに、なんで報告がいるんだ。プライベートだろ!」

「………」

歌う気満々だからである。ライブハウス以外で歌いたいのであろう。


功は、老人の集まりで歌わせられるのも好きである。以前は道の職場の施設に行ったついでに、フラ~とカラオケをしていた。気前のいいおじいちゃんが、お小遣いをくれることもあったらしい。


こそっと与根に漏らすのは、報告はしましたよ~という予防線を張っているのか、一緒に来ない?と匂わせているのである。


「来週フェスが済んだら………。ねえ、高校の学祭っておしいもの売ってるの?食べ歩きしたい。」

「………」

ただ遊びに行きたいだけであった。

「……さあ。高校によるんじゃない?ウチの高校は金要るのはなかったけど。なんで行く気なんだ?」



なにせ中学生当時、学祭前のバンド部であの騒ぎを起こして、当日は学校の隅っこで一人プレーヤーで歌だけ聞いてじっとしていた男である。

高校の時は既に忙しくて、準備も出来ず、そもそも友達もいないので校内を歩いただけだ。教室にも入らず、行く場所もなくなって。図書館も使っていたので、功を面倒見てくれた数学のおじさん先生の職員室に行って、そこでおかずを貰いながらご飯を食べて本を読んでいた。


高校の頃に背が伸び始めたので、あの頃なら反り込み入りスキンヘッドの時期もあり男子を威嚇できるし、元アイドルで女子にもモテそうだったのに、頑張ってもなぜか友達ができなかったのである。暗い男だ。工業高校で女子が少なかったのも原因かもしれない。

みんな章君が、この期に及んでウキウキワクワク、楽しい学校生活を期待しているなど思ってもいなかったのであろう。サッカー部やバスケ部に入らなかったのも、部活をバカにしていたのではなく、チームプレーができなかったからである。


普通の共学ほどは盛り上がりのない学校だったし、そんな日に学校に行かなくてもいいのに、かわいそう過ぎて、学祭終盤に与根が自分の高校からどうにか来てくれたのである。





●春迎祭の藤野さん

『スリーライティング・中』55 歌を

https://ncode.syosetu.com/n1546jw/55


●学祭前にバンドでもめ事を起こす人

『スリーライティング・上』13 もうここはライブハウス

https://ncode.syosetu.com/n9759ji/13

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