ディナーは正装して
おそらくハイマン国王が手を回していたのだろう。ユリウスたちの予想に反して、納税に関する書類は翌日にはシュテファン邸に届けられた。
人をやって書き写すつもりだったユリウスは、原本が王宮から届けられたことに驚きながらも、国庫の記録をむさぼるように読み進めた。
ユリウスとアントンは、書き写されたそばから帳簿を広げては、直近二年分の納税額の資料と突き合わせ、辻褄の合わないところを拾い上げていった。
「なんだこれは。おかしいなんてもんじゃないぞ」
「こちらもご覧ください。この商品はアイズリー商事だけが扱っているのですが、インスブルック家の納税資料の明細では、アイズリー商事の帳簿の二分の一の数字になっています」
「これは全部を洗い出すのは無理だな。そこに時間をかけるよりは、精査が必要だとわかる資料を作成して、あとは王宮の役人たちにやらせた方がいいな」
「そうですね。本来はあちらの仕事ですしね」
とうとう尻尾をつかんだぞと、ユリウスの青い瞳が光った。
「後は、馬鹿な王太子にでもわかるように、矛盾点を解説した資料でも作るか」
忙しい彼らに負けじとクラウディアがこんをつめていたので、とうとうマリント本人が部屋までやってきて彼女に休憩するよう頼んだ。
「ちび姫。ちゃんと休憩をせねば、私がユリウス様に叱られるのでな。下で一緒にお茶に付き合ってくれんか」
「はい」
クラウディアもマリントに誘われれば断れない。
執事が運んできたお茶からは、蜂蜜の甘い香りが漂っている。
「ちび姫はグラーツ領が気に入ったらしいが、それはあのユリウス様も含めてかな? あれは良い青年だ」
「ええと。え?」
クラウディアが目をパチパチさせると、「ははは。ちび姫にはまだ早かったか。すまんな」と笑われた。
「だが、ちび姫のためにここまで尽くしてくれているのだ。ユリウス様は冷酷どころか、熱い情熱の持ち主と見える。まあ近くにいたなら、ちび姫の方が詳しいかな。仕事ぶりはさすがとしか言いようがないが、ちび姫には優しく接しているようで安心した」
「ユリウス様がお優しいのは確かですが、私は叱られてばかりなんです。すぐに謝る癖がついてしまって。それをユリウス様はものすごく嫌がられて。あと、意気地のないところも自信のないところも、とにかく私はユリウス様を怒らせてばかりなんです」
そう言ってうつむいてしまうクラウディアに、「おやおや」と、マリントと執事は顔を見合わせた。
夕食のために、クラウディアは届けられたばかりのドレスに着替えた。
先にダイニングに来ていたユリウスと目が合うと、なぜか目を逸らされた。
クラウディアが着席すると、ユリウスがぼそっとつぶやいた。
「髪飾りをつけておらんな」
「え?」
マリントはニコニコと微笑んで成り行きを見守っている。いつものようにアントンが言葉を足した。
「購入したドレス一式が届いたと聞きましたからね。美しく着飾ったクラウディア様を見ることができると、ユリウス様は期待していらっしゃったのですよ」
「え?」
ユリウスは憮然とした表情で、「シュテファン公爵に対して無礼だと言いたかったのだ」と言い訳をする。
「は! 申し訳――」
クラウディアがそう言いかけた時、ユリウスの瞳が光った気がした。
「あ、いえ。気をつけます。じい様。明日はきちんと支度して参りますので、どうか今日のところはお許しください」
「よいよい。こちらがつけた侍女もいたらなんだ。すまんな」
「よかったですね。ユリウス様。明日が楽しみですね! さ、いただきましょう!」
わざと空気を読まないアントンのお陰で、なんとかディナーは始まったのだった。




