終幕 愛されすぎる日々
私は衝撃的なものを見つけてしまった。
最近は寝室とザカリィさまの執務室間くらいは移動できるようになったのだが。
執務室に入ったところ、机にあり得ないものを見つけてしまったのだ。
「『お姉さま日記~9歳前巻~』?なにこれ!?」
その日記は私の成長記録のように私の毎日がつづられていた。
その日のご飯、私がおいしいと言ったお菓子、その日着たドレス、私の元へ訪れたエンバルトを罵る悪口。そして定期的に記されている私の各所のサイズは。―――これいかに?
そう言えばアリアはこちらに来た夜には既に私のサイズ表を持っていた?こちらに来る数日前にドレスの採寸をした気がするけれど、それをアリアが入手していたってこと?
―――まさか。
それに、何故これがザカリィさまの机の上に?
「見たのか」
後ろから抱擁されて思わずびくついた。
「あのーこれ、ザカリィさまのですか?」
書いたのはアリアだろうけど。
「あぁ、そうだ」
「あの~、明らかにアリアが書いたような気がするのですけど」
「あぁ。シャーリィが9歳の時から、1日も欠かさず書いていたそうだぞ」
「はぁっ!?じゃぁ、今も!?」
「今は必要ないだろう?私がこうして君をずっと独占しているのだから」
ぎゃうううううぅぅっっ!!!耳元で甘い声で囁かないでくださぁいっ!!
「―――と言うか何故、それをザカリィさまが持っているんですか!?」
「あぁ、君の妹君が君の嫁入り道具だと言って持って来た唯一の荷物だ」
そう言えばトランクをひとつ持ってきてたわね?それは私の荷物じゃなかった。侍女として必要なものだとばかり思っていたのだけど。まさか入っていたのは、これかあああぁぁぁっっ!?
「これを手に入れるまでは君との結婚式が挙げられなかったんだ。これをアリアから下賜され、ようやく式が挙げられた」
いや。下賜って身分の上のひとから下のひとへ使う言葉では?何だ?その小姑最強みたいな言いぐさは。
「没収したい、―――と言ったらどうします?」
「それじゃぁ君が毎晩その日記を自ら読んでくれるんだね?」
「い、いいえ!は、恥ずかしいから無理ですぅっ!」
「それじゃ、これは私が持っておこう」
―――と言われて没収されてしまった。
「私は君だけを見ている」
「ザカリィさまっ」
何故だろう。その言葉は何よりも嬉しくて、欲しかった言葉。
「ずっと、ずっとだ。シャーリィ。愛している」
「はい、ザカリィさま。私もです」
―――
そんな様子をアリアはざっちゃんをもふっと抱いて、影からこっそり見守りながら微笑んでいた。
「クスっ。やっぱりみんなで一芝居打って正解だったわ。公爵家もお兄さまも王太子殿下も、お姉さまも全員グル。知らなかったのは攻略対象の4人だけ。運命的な再会にしたかったから、あの日迎えに来るのが旦那さまだってことだけは、お姉さまにはナイショにしていたのだけど」
そんな風に呟いているとす不意に後ろから腕を回される。
「レノ?」
「あまり君が奥さまを見つめていると俺は嫉妬してしまう」
「お姉さまよ?」
「でも、嫌。俺だけを見て」
「わかってる」
そう言ってアリアは魔物の国に来て、ずっと会いたかったひとと恋をして、結婚式の日を待ちわびながら幸せに過ごしていた。