第6幕 主従も姉妹も似るようです
魔物の国では盛大な結婚式が開かれていた。祝福されるのは魔物の国の王・ザカライアスとその妃・シャーロット。
ひととおりザカライアスの嫉妬心とヤンデレをシャーロットがうまく抑え込みながら、お披露目とパーティーを終えたふたりは、早速とばかりにとあるふたりを前にしていた。
「それで、ふたりはいつ結婚するの?アリア」
「お姉さまったら、まだ気が早いですよ」
シャーロットが目の前にする侍女はかつてかけていたメガネを外し、もう肩につくまで伸びた朱色の髪を揺らしながら、澄んだ水色の瞳を細めて頬を桃色に染めていた。
「私は、アリアの結婚式も楽しみにしているのよ?やっと迷惑千万なストーカークソどもから離れて魔物の国まで来たのに。アリアが幸せになれないなんて嫌よ。だって私の大切な妹じゃない」
「お姉さま!ふふ。私、お姉さまにそう言っていただけて嬉しいです」
「それじゃ、も―――っと私を喜ばせなさいな!」
「はぁい」
アリアは照れながらも婚約者である狼耳しっぽのレノの元へと駆けていく。
「―――それで、いつまでそこにいるんです?ザカリィさま」
私が振り向くとドアの隙間から、ザカリィさまが覗いていた。そして勢いよくドアが開け放たれるとザカリィさまがずかずかとこちらにやって来て、すかさず私を抱き上げたと思えば膝の上に座らせ抱き着いてきた。
「ちょ!?ザカリィさま、いくらあなたが長身だからって私はもう子どもじゃないんですから」
いくら小柄だとは言えこれは恥ずかしすぎる。
「だってお披露目で、パーティーで君が多くの魔物たちに見られたと思うと私は嫉妬で狂いそうなんだ。せめて終わった後くらいは堪能させてくれ」
「全くしょうがないですね。でも全く式も何もやらなかったから、てっきりこちらでは結婚式をやらないのかと思っておりました」
「それは、そのー、許可が出るのに手間取った」
「王さまなのにですか?やっぱり私が人間だからですか?」
「いや、そうじゃなくってな。うぅ。こちらの話だ、気にするな」
「―――はぁ」
―――
一方、主人たちのラブラブっぷりをこっそり見守っていたアリアとレノは、苦笑しながらその場を後にした。
「そう言えば、手紙が来ていた」
「お手紙?どなたから?」
「花嫁修業のため侍女をしていた前侍女長・リリーア姫さまからだ」
レノが手紙を手渡すとアリアは待っていましたと言う表情でそれを受け取る。
そしてその中に4人分の便せんが入っており、それを取り出す。
「俺にも見せて」
レノは手紙を開くアリアの腰に手を伸ばし顔を近づける。その行為にアリアは頬を真っ赤にしながらも目を通す。
―親愛なる、アリーへ―
君が魔物の国に望んで嫁いでしまったこと。私は後悔の連続でした。来る日も来る日も、君のことが恋しくて恋しくて仕方ありませんでした。
ある日リリーアに、君の実家へ連れていかれました。そこで私は見てしまったのです。君の兄・ヴェインが君とシャーロットのドレスをくんくんしている姿を。
“あなたは、玉座の前であれができますか?ヴェインさまなら堂々とやりますよ。もちろん主であるエアハルトお兄さまの前でも”とリリーアに言われましたが、私にはそんな勇気はありませんでした。
所詮私の覚悟はそこまでだったのです。こんなふがいない男である私を許してください。そして君に付きまとっていたことを許してください。
リリーアにあなたがやったことはこう言うことだとお手洗いに行くたびにガン見され、もう私はお婿に行けません。
大人しくリリーアと結婚することに決めました。今度我が国を訪問されたら直接会って謝罪がしたいです。
―エンバルトより―
「まぁエンバルトのアホったら。他の3人も同じように謝罪の文ですね。そして3人とも新たな婚約者が見つかって、奥方さまの尻に敷かれて楽しく暮らしているそうです。さすがはリリーアさまです。それと帝国の第2皇女だったヴィーラさまも協力してくださったのね。ふぅ、やっぱりあのおふたりに任せて良かった。リリーアさまに侍女長の引継ぎでお会いして、あの方なら大丈夫って思えたもの」
「―――だが」
「どうしたの?レノ」
「アリアを変な愛称で呼ぶとは」
「だって、エンバルトのバカに私の大切な愛称は呼ばれたくないもの。私を“アリア”と呼ぶのは家族とレノ、あなただけよ」
「むしろ俺だけにして欲しい」
「んもう」
「それにしても」
「ん?」
「アリアが国に残してきた私物は俺も愛でたい」
「ダメよ。あれは姉妹2人揃って魔物の国に嫁いで傷心したお兄さまへの慰謝料よ?ちゃんとご褒美をあげないと傷心で仕事ができなくなるから。私たちのせいで国が傾くのは嫌だわ」
「君に付きまとっていた奴らがいる国でも?」
「リリーアさまに調教していただいたからもう十分よ。それにエアハルトさまやヴィーラさま、リリーアさま、そして家族がいる国だもの。大切だわ」
「君に大切だと思われる奴らが憎いな」
「全く、誰に似たんだか」
「主従は似ると言うが」
「姉妹も似るのかもしれないわね」
「ふたりして魔物に嫁いだからか?」
「いいえ~。ヤンデレ気味な夫に惚れるところからかしら?私、彼らに付きまとわれるのは嫌だったけれどレノなら平気よ?むしろ、もっと一緒にいたい」
「うん。俺もだよ、アリア」
そうして2人は優しく口づけを交わした。