ステキな誤解のバカヤロウ!
「そして、私のカラダを好きにできる」
なにィッ!?
オウカは、女戦士系のコスプレが似合いそうな2・5次元美女で、背は程よく高くて手足はスラリと長く、童貞殺しどころか童貞虐殺の豊乳豊尻ボディだ。
俺の顔なんて、まるごと埋もれそうなおっぱいだ。
――こ、このカラダを、好きにできるだと?
正直、地位や名声に興味はない。
生活レベルだって、日本の庶民の方がよっぽど贅沢だ。
でも、恋人は。
うちの学校の女子は、正直微妙なのばかりだし、わずかな美少女は運動部のエースとか読モやってる奴とか高ヒエラルキーとよろしくやってるビッチばかりだ。
オウカは、うちのクラスの誰よりも美人で胸が大きい。
むしろグラビアモデルだって比較にもならない。
今後、日本でこれほどの逸材とお近づきになれる可能性なんて、ゼロと言っても過言じゃない。
リアリストな今どき男子の頭脳で冷静に考えれば、俺は将来、一生独身の魔法使いルート確定か、よくて世間体を考えた愛のない結婚のあと、倦怠期からの熟年離婚ルートだろう。
でも、でもでもでも。
ごくり。
落ち着け、落ち着くんだ翔太。
あのスカートが張り裂けんばかりの尻たぶを、あのスーツがはち切れんばかりのおっぱいを、俺の両手で、顔で、口で、好きにできる。
ごぐり。
ほ、ほしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
いまが人生の分岐点。このチャンスを逃せばもう一生、男の本会を遂げることはできないだろう。
上手いこと日本に帰れても、一生後悔するだろう。
未来が見える!
童貞のまま三十をすぎて、部屋で一人寂しくエロ動画を見ながら自身を慰め、『あのままオウカと結婚していたら今頃』と後悔にむせび泣く未来が見える!
無限の欲望と誘引力に、俺の下半身は全身の意志力を吸い上げ、体の主導権を奪おうとしてくる。
17年間培われた理性は、もう風前の灯だ。
耐えろ、耐えるんだ俺! ここで屈したらもう日本には帰れないんだぞ!
「私も今年で十八歳だ。恥ずかしながら、そういうことに興味もある。しかし、大統領になってから近づく男など信用できない。それでも、君は別だ」
ご、ごぐ…………っ、息が、飲めない。
だがしかし、俺はなけなしの理性と、女で身を滅ぼした男たちのエピソードを足掛かりに、マグマのような衝動を抑え込んだ。
頭の中に黒い霞みがかかる。
Y染色体由来の衝動が下半身でうねりを上げる。
理性も思考力も、何もかもがおぼろげに掻き消えていく。
いや、だまされるな。そんなこと言って、どうせ結婚したら手も握らせてくれないとかに決まっているんだ!
「子供はそうだな、十人は欲しいな」
ほぁあああああああああああああああああああ!
オウカが、ロケットバストの下で腕を組み、むぎゅりと寄せてあげて強調した。
途端に、俺の下半身には電流が奔り、意識は白く飛ばされた。
爆音が鼓膜を叩き、瓦礫が崩れる重低音の衝撃が聴覚を独占した。
「なにごとだ!」
どうやら、爆轟は本物だったらしい。
オウカが、窓に取りついた。
俺も外に視線を投げると、街の一角から黒煙が上がり、月明かりの下で反逆の狼煙とばかりに空へ昇っていく。
「姉様!」
「オウカ殿!」
ナナミとカナ、それに、他の隊長たちが、寝室になだれ込んできた。
まだ何もしていないのに、俺は秘密の情事を盗み見られたような後ろめたさに、心臓がドギマギしてしまう。
「これを見てください。連中の新しい動画です!」
ナナミがスマホ画面で動画を再生すると、国王派の残党たちが、不遜な態度と挑戦的な口調で告げた。
『悪逆非道なるテロリストの諸君、今、刑務所を爆破した。降伏しなければ、貴様らは今後も、正義の鉄槌を受けることになるだろう。我々を止めることはできない。何故ならば、我らこそが天と民に選ばれし、正統なる統治者なのだから! 我が名はノブスケ、今は亡き国王陛下の仇を討ち、陛下の意思を継ぐ者である!』
「ぐっ、そういう自分は爆破テロではないですか!?」
「しかしオウカ殿、奴らは何故、刑務所を爆破したのでしょうか?」
「犯罪者たちが市内に逃げ出せば、我らの嫌がらせになる。仮に爆破で誰かが死んでも、囚人なら構わない。そんなところだろうな」
寝室は、国王派にしてやられて悔しがる人と、心の中で国王派に熱いエールを送る者に分かれた。つまりは俺だ。
――必要とされるのは嬉しいけど、やっぱ、テロリストの仲間なんて御免だぜ。
オウカと結婚すれば、国王派が政権を取り返した後、俺は死刑、よくて一生刑務所だ。拉致された国民を救う能力が皆無に等しい日本政府なんてアテにできない。
ここはオウカたちとは距離を置きつつ、速やかに国王派に政権を取り戻して頂き、俺を日本に帰してもらおう。
腹の底で、色々と算段を練っていると、スマホを見ていた隊長たちの一人が声を上げた。
「おい待て、この動画の背景に窓があるぞ」
「外は明るいな、昼間に撮影したものか?」
「記念塔が見えるな」
「記念塔がこの角度、大きさから見える場所で奴らが潜伏できそうな場所と言えば……ナナミ、地図を持て!」
「はい!」
――あれれ? なんだこれ? なんだこの流れ?
ナナミが、素早く街の地図を持ってくると、オウカはテーブルの上に広げて、一点を指さした。
「連中はここら一帯の建物のどこかにいるな」
「記念塔が見えるということは間に背の高い遮蔽物がない」
「残党が集まれる以上、狭い民家はあり得ない」
「広い一階スペースが確保できるとなると……」
「このマンション、それに王室御用達の宝石店、広いガレージのあるこの大きな家も怪しいな」
「おぉ、三つまで絞れましたぞ!」
「ここが奴らの潜伏場所か!」
「ここに家宅捜索、いえ、突撃部隊を急襲させましょう!」
「うむ、奴らが逃げる前に、今すぐ行くぞ!」
オウカが頷くと、カナがハッとした。
「ま、まさかショウタ殿はここまで見越して。ツイチューブを使えば奴らもアジトでPV撮影をして、動画から国王派の残党の居場所をあぶりだせると」
え?
オウカも喉を唸らせる。
「我らの支持率を上げる方法と一緒に、国王派の残党問題を解決する方法まで考えていたとは、君の深謀遠慮ぶりには眩暈を覚えるな」
部屋中に、女子たちの感嘆の声が溢れた。
「ショウタ様、ステキ……」
「ショウタ様最高」
「ショウタは、濡れさせてくれるな」
「ショウタくんに抱かれたい」
各隊の隊長を務める女子たちは熱っぽい声で口々に俺の名を呼び、取り囲み、いつの間にか胴上げを始めた。
「我らが参謀ショウタばんざーい!」
「ショウタ様、これからも我々を導いてくださいね!」
「ショウタ様愛してるぅ!」
「ショウタ殿さえいれば我らは無敵だ!」
「わっしょいわっしょい!」
いやぁああああ! やめてぇええええ! 期待しないで買い被らないでぇ!
女子たちはみんな、羨望と尊敬の眼差しで俺を見上げながら、黄色い声を上げ続ける。
誰も俺を離す気なんてなくて、今にも全員まとめてプロポーズしてきそうな勢いだ。
日本が、日本が遠ざかるぅうううううううううううううう!
俺の絶叫は、誰にも耳にも届かなかった。
ごろん。
あ――――。
ひゅ~。
ドタビターン
ゲブォッッッ!




