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炎上、ロサンゼルス1

20XX年6月1日午前5時。

アメリカ合衆国西部カルフォルニア州ロサンゼルス。

夜明け前の薄暗い時間帯にライトを点灯させながら一台の黒塗りの日本車がハイウェイを降りてくる。

90年代に販売された大手日本製自動車メーカーのセダンタイプの車であり、アメリカでも多く出回っている車だ。


人気ひとけがないこともあってか、セダン車は交通渋滞などに巻き込まれることなく決められた場所までスムーズに到着することができた。

セダン車が停車したのはロサンゼルスの高層ビル街にある立体駐車場の屋上だ。


車から降りてきたのは少しばかり肌寒さを感じさせるような半袖半ズボンの恰好をした40代半ばの男だ。

男は車のエンジンを切ってから後部座席に鎮座している巨大な装置に取り付けられたタイマーを弄り始める。


「10分後に起動するようにセット完了、あとはこの場を離れるだけだ…」


今時珍しいアナログ式のタイマー。

ツマミがあり、そのツマミの部分を右に回転させるとタイマーが始動する。

爆弾ではないが警察が導入しているデジタル式の爆破装置探知機に引っかからないようにするために、あえてアナログ式のタイマーを取り入れているのだ。

タイマーを起動したことを確認した男は車から離れて駐車場から出ていく。

だが、決して全力で走ってはいけない。


全力で走れば警察や周囲の一目を引きやすい。

そこで男は早朝マラソンを行っている一般人を装うために職質されても問題ない恰好で小走りで高層ビル街の大通りを通っていく。


すると、男の後ろから一台の白色のバンがやってきた。

バンは道路の路肩に車を停めると、運転席の窓ガラスが開く。

そこにいたのはサングラスを掛けて大きな耳当てをしている褐色肌の女性であった。

女性は男に尋ねる。


「タイマーは?」


「セットした。あと10分以内に起動するようにした」


「乗って、ここから直ぐに逃げるわよ」


男を助手席に乗せるとバンは大通りからハイウェイに移動して北上していった。

ロサンゼルスから離れなければならないのだ。

今からロサンゼルスは地獄絵図と化す。

軍の幹部や大企業のご子息などにも既に3日前から極秘の避難指示が出されていた。

彼らに出されていた内容はロサンゼルス近辺で小規模な群発地震が発生しており、一週間以内に大規模な地震が起こる可能性があるため3日以内にロサンゼルスから離れるようにと避難させていた。


これはあくまでも表向きであり、実際は異世界への時空トンネルを開通させるための作業を行う上で必要な工程だ。

男をバンに乗せてから8分30秒後に、高層ビル街から大きな炎が噴き出した。

それはバンのバックミラーからでも確認できるほどの巨大な炎であった。

それから2分後にバンは大きな揺れを感じる。


勢いのある炎が引き起こした空振くうしんが到達したのだ。

ハイウェイで10キロ以上離れているにもかかわらずこの揺れなので、炎が噴き上げた高層ビル街の窓ガラスは全壊だろう。

バックミラーを見ながら女性が男に呟いた。


「始まったわ、今日から合衆国は大きく変わるわ…」


「良くも悪くも新しい時代の幕開けか…それが俺たちの後ろで行われるとはね…」


「じきに海軍と空軍が駆けつけて日本の怪獣映画みたいな光景が繰り広げられるわよ、ま、それは本部のテレビで見ればいいでしょ。あそこにいたら命がいくつあっても足りないわ」


「いやに詳しいね…あんた、あの炎について何か知っているのかい?」


「知っているわ…この耳を見れば分かるかしら?」


女性が耳当てを外すとそこには人間には不釣り合いな長く尖った耳をしている。

そしてサングラスを外すと紅く燃えるような瞳で男を見つめた。

その目もまた、通常の人間にあるような目ではなかった。

空想ファンタジーの世界に登場しそうな人種であった。


「ま、まさかあんたは…」


「そうよ、私はこの世界に本来いてはならない存在よ…だから私が異世界への扉を開く手順を行ってあげたのよ…もうじきロサンゼルスは地獄になるわよ」



………………



いつもと変わらない朝を迎える筈だったが、この日から日常は大きく変わってしまった。

この日の早朝にロサンゼルスの市街地を照らしたのは朝日ではなく、異世界からの来訪者であった。


―――『GYAAAAOOOOOOOOOOO!!!!!』


高層ビル街から轟く異様な叫び声に大勢の市民が目を覚ました。

猛獣の鳴き声が街中で聞こえ始めたかと思ったら、突然ビル街のど真ん中で大きな炎が噴き出したのだ。

炎は一気にビル街に広がり、路上駐車していた車のガソリンタンクに引火して火の手があがる。


炎の勢いはとどまるところを知らず、爆風となって周囲のビルの窓ガラスを破壊する。

ガラスの破片が近くにいた人々に襲い掛かる。

そしてビル街から少し離れたダウンタウンにいる人々は、目の前に映る非現実的な光景を見ながらスマートフォンで撮影を始める。


「おいおいおいおい!!なんだよあれは!」


「ドラゴンだ!ドラゴンが出たぞ!!」


「ハリウッド映画の撮影じゃないのかよ!!!」


巨大なドラゴンが突如としてロサンゼルスのビル街に現れた。

あまりにも突拍子でおかしいと思った市民であったが、ドラゴンが人間に対して明確な殺意を持って攻撃していることが判明するのが、それから僅か1分後であった。

ドラゴンの口から噴き出した巨大な炎が高層ビル街を巻き込んで赤色とオレンジ色の炎を強く巻き込んだ竜巻となって周囲に襲い掛かった。


「うぉっ!こっちを向いているぞ!」


「やばい!炎だ!炎がやってくるぞ!」


「待って!うわぁ、うわああああああ!!!」


「熱い!!!!熱いいいいいいいい!!!」


「ぎゃああああああああ!!!!」


強烈な熱を帯びた爆風がダウンタウンの方に吐き出されると、一瞬にして地区の四分の一が炎に包まれてスマートフォンで撮影していた人々を焼き払い、高熱に晒された建物から一斉に燃え広がった。

爆音と爆風で目が覚めた市民の大半は、突如として起こった出来事に頭の処理が追い付かずにフリーズしたままその恐ろしい光景を眺めていた。


「何………あれは?」


「街が…燃えてるじゃないか…」


「………!おい、子供たちを叩き起こせ!急いで逃げるぞ!」


一部の市民はハッと我に返ってパニック映画さながらの光景が現実に起こっていると判断し、家族や恋人などを急いで車に乗せてロサンゼルスからの脱出を図る。

かくして、ロサンゼルスはドラゴンの攻撃を受けて燃え上がっていたのであった。

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