介入準備2
思い立ったらすぐ行動。
それがトーマス大統領のポリシーであった。
大統領執務室に置かれた一本の電話機、古い型の電話機だが盗聴を防ぐために特殊な回線コードを使用している優れモノだ。
ダイヤルをポチポチと押してから大統領が連絡を取ったのは国防総省であった。
「すまないがマッキンゼー長官を執務室に来るように言っておいてくれ、可能な限り今すぐ来るように!」
大統領は待っている間に大好きなハンバーガーを頂く。
ハンバーガーはアメリカで生まれた偉大な食べ物だ。
アメリカでは多くのハンバーガーチェーン店が存在するが、その中でも大統領が好きなのはマッケインバーガーのトリプルバーガーと細切りにされたフライドポテト、そしてコーラだ。
アメリカで生まれた偉大な食べ物に囲まれ食べる食事は美味い。
それに、ファーストフードなので食事も短時間で済むという利点がある。
トーマス大統領にとって最も効率的で利便性の高い食事なのだ。
大統領になる前からこの食事スタイルを変えたことは無い。
「大統領、なんですかこんな時間に呼び出して…」
美味しそうにハンバーガーにかじりついている大統領の元にマッキンゼー長官が執務室にやってきた。
中東各地で起こっている反米勢力への対処に終われているマッキンゼー国防長官をトーマス大統領は呼び出した。
彼は連日の中東問題に対処するために徹夜明けで会議に出席していたのだ。
眠そうに目をこすりながら入ってくるマッキンゼー長官に、トーマス大統領はハンバーガーを差し出した。
「すまないな国防長官、ぜひ君にやってもらいたい仕事があるのだ。まだ昼食はとっていないのだろう?ハンバーガーでも食べながら話そう、チーズバーガーとレタスマシマシバーガーの二つがあるが、どちらを食べたいかね?」
「ありがとうございます大統領、ではチーズバーガーをください」
何も朝から口にしていないマッキンゼー長官は、トーマス大統領の誘いもあってかチーズバーガーを手に取って食べだした。
程よく味付けされたチーズとミンチ牛肉がマッチして、マッキンゼー長官の胃袋の中に突入していく。
申し訳ない程度の野菜も入っているので、必要最低限の野菜は確保できるだろう。
もっとも、トーマス大統領はいつもハンバーガーを食べているのでマッキンゼー長官も大統領と食べながら話す際は、ハンバーガーかフライドチキンを食べることに慣れている。
「うん、今日のハンバーガーはスパイスが効いていますな、大統領が入れるように注文したのですか?」
「もちろんだ。最近味付けに飽きてしまってな…チーズの上に粗挽きコショウを振りかけてもらうだけでも一段と味が引き締まって美味いだろう。マッケインバーガーのCEOにこのメニューを是非とも一般化してほしいと頼んでいるんだ」
「そうなのですか…いやはや、大統領…さすがお目が高い。で、本題は何ですか?」
「うむ、国防長官の君なら理解してくれると思ってね…第二次世界大戦中にかつてレーダーから消失するために一隻の駆逐艦で行われた実験の結果は知っているだろう?」
「…それは世にいうフィラデルフィア実験の事ですな…軍内部ではレインボー計画として極秘裏に進めていた実験ですがね」
フィラデルフィア実験、それは第二次世界大戦中の1943年10月下旬ごろにレーダー探知機から姿を眩ませる実験をしていた駆逐艦「エルドリッジ」が実験直後にフィラデルフィアの沖合からノーフォークまで瞬間移動し、艦内にいた乗員などが艦に取り込まれたり、精神に著しい消耗を起こして発狂するなど艦内が地獄絵図になったという都市伝説である。
これはあくまでも都市伝説であったが、一部は嘘ではなかったのだ。
瞬時に消えたというが、実際には駆逐艦「エルドリッジ」は異世界に転移していた。
異世界転移という言葉は響きはいいかもしれないが、その実態はかなり過酷なものであった。
転移する際に使用したレーダー消失機が故障してしまい機械の修理が完了する二か月間の間、エルドリッジは一隻のみで異世界の海をさまよい続けた。
乗員が残した資料によれば現在地球で確認されていない好戦的な大型生物や魔術のようなものを使用する現地住民との戦闘に巻き込まれて、乗員の半数以上が戦死・行方不明となった。
残された乗員の努力と奮闘によってレーダー消失機の修理が完了し、無事に異世界から帰還してきたのだ。
1943年の10月23日から12月29日の二か月間、エルドリッジの行った実験結果は米国の戦闘記録には載らない非合法的かつ永久非公開資料として国防総省でもトップシークレットクラスの機密文書して封印されたのだ。
「私も国防長官になって初めてフィラデルフィア実験…いえ、レインボー計画の顛末を資料として読みましたが…まさか現在日本で流行している異世界ファンタジー小説のような”時空転移”を可能にしてしまう代物だとは思いませんでしたよ」
「そうだ、私も大統領になってからその機密資料を読んだら三日間ほど寝れなかったよ。公式に異世界があると分かれば当時のソビエト連邦が介入して下手をすれば第三次世界大戦すら起きかねない状況だったのだからな」
「…まさかとは思いますが、大統領…私を呼び出したのは…」
「感がよくて助かるよ、実のところ…これからするべき事は異世界へのコンタクトと開拓だ。不法移民どもを押し付けることも出来るうえに異世界に行けるとなればみんなも行きたがるだろう?そうすればアメリカに史上類を見ない大規模な開拓ラッシュが起きる。西部開拓の比ではない人類史上最も大規模な公共事業になる。世界中の投資がアメリカに集まってくればアメリカに富みが集まるんだ。一石二鳥…いや一石三鳥は余裕だろう」
「…本気ですか大統領?異世界があると知られたらロシアや中国が黙っていませんぞ…それを承知の上でやるのですか?」
大統領はもちろんだと言った後でこう付け加えた。
「ただし、合衆国が異世界に行くには犠牲がつくものだ…リベラル派の多い地域が突如謎の生物に襲われることが絶対条件だ。そうでなければ介入はできまい」
かくして、アメリカ合衆国上層部による異世界への扉を開けることになる。
強引な手口を使ってだが…。




