三百六十五話 おさないでっ
花花花花、無限に広がる花が狂い咲く。
「お待たせでござるよ、タクみん」
その中心で一番最初に咲いた花が色鮮やかに輝いて、ロッカの姿に変貌する。
「緑一色によって植物にされたものは、自ら人の姿に戻ることはできない……その制約を覆したのか」
植物と人間の中間に位置しているように、人の形をしているが、ロッカの足は植物のように地面に埋まり根付いている。
「何、これ?」
虚な目をしたアリスが自分の周りに咲く花に触れると、色鮮やかな花が黒く染まり、ぼろぼろと崩れ枯れていく。
「ロッカっ、アリスがっ」
「大丈夫でござるよ。根を通して、すべての会話は聞いてたでござる」
え? もしかして世界中の植物と繋がってるの? これからもう内緒話とかできないかんじ?
「タクみんが拙者を好きすぎて、アリス様が嫉妬してるという話でござるなっ」
「なんかちょっとちがうっ!!」
根から伝わる情報、正確に伝わってるのっ!?
「ああ、そうか、お前がロッカか」
何度も会ってるはずなのに、アリスからロッカのことが抜け落ちている。
記憶まで黒く染まったアリスから、まるで伝染するように、まわりの花々が次々と枯れていく。
それは、花の中心にいるロッカの近くまで広がっていくが……
「ふんっ」
根が張った足に気合いをいれたのか。ロッカが踏ん張るような体制を取ると、花の黒化がピタリと止まる。
「お花を枯らしてはいけないでござるよ」
ロッカの周りの枯れていた花々が、生気を取り戻したように再生していく。しかし、それもアリスに近づくちょうど真ん中あたりでピタリと止まってしまった。
「ぐ、ぐぬぬぬぬっ」
枯れた花と咲いた花が、アリスとロッカの領域でせめぎ合う。
「いいかげんにするでござるよっ、タクみんは拙者をヒロインに選んだのでござるっ、旧式は黙って退場するでござるよっ!」
「……タクミの隣に立つのはワタシしかいない。邪魔者は排除する」
大丈夫か、これロッカに任せて大丈夫なやつなのかっ!? むしろ、怒りでアリスの進化が加速してないっ!?
『まあタッくんの隣には、うちがいるんやけどな』
「カルナまで参戦しないでっ」
すでにアリスとロッカは人の範疇を軽く超えている。人外魔境な戦いに伽羅様や文字人間すら、近づくことができない。
「凄まじい負のエネルギーでござるな。拙者の緑一色が押し返されるでござるよ」
全てを植物に変える緑一色がアリスには届かない。真ん中でせめぎ合っていた領域も、徐々に黒が侵食しロッカのほうへと向かっていく。
「ロッカっ」
「仕方ないでござる。本気の本気を出すでござるよ。タクみん、巻き込んだらごめんなさい、でござる」
「へ?」
ごうん、と地中で何かがうねるような音が響いた。
とんでもないことが起こる気配。だが、この感じ、前に一度、経験しているような……
「天上天下完全緑化」
地面から突然、巨大な根っこが、ずごんっ、と出現する。それも一本じゃない。そこらじゅうから、次々と、ずごずごずごっっ、と爆発したように、あらゆるものをぶっ飛ばしながら分厚い根っこが世界中に広がっていく。
『タッくんっ、これっ!?』
「ひぃイィィィッッッっ、神樹王モクモクが使ってた惑上緑化だっ!!」
世界どころか、宇宙すら緑に変える緑一色の上位互換。
こんなのが使えるなんてっ、植物と同化することにより、ロッカも進化を遂げていたのかっ!?
『こんなん、アリスもひとたまりもないわっ、うちらもやばいけどっ!!』
「いやまってっ、神樹王モクモクの時、倒したの誰だったっ!?」
『あ』
どどどんっ、と襲いかかる全ての根っこをアリスはまったくよけずに受け止めた。
「からまるでござるよっ!!」
それでも根っこはアリスに絡みつき、その姿が見えなくなるまで、ぐるぐる巻きにして拘束する。
「そのまま植物になって反省するでござるよっ!」
「なにを?」
ぞくんっ、とその場にいるもの全員が凍りついた。
惑星を覆うような根っこにからまられても、アリスは微塵も変わらない。
ずずずず、と、からんだ根っこごと、ゆっくりとロッカに向かっていく。
「と、止まらないでござるっ! おかしいでござるよっ、こんなことあり得ないでござるっ!!」
進化なしで神樹王モクモクを凌駕したアリスにとって、そんな常識が通じるはずもない。
どんっっっ、という地響きと共に、アリスが一歩を踏み込んだ。絡みついていた根っこが、爆発したように弾け飛ぶ。
「推して参る」
「おさないでほしいでござるっ!!」
無限界層全域に届くような轟音と共に、ロッカは根元ごと宇宙の果てまでぶっ飛ばされた。
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