三百六十四話 六花繚乱
『タ、タッくんっ、もうギリギリやっ、早くっ!!』
アリスの圧力で頭が地面に埋まる寸前。
何も考えずに、俺は頭に浮かんだヒロインの名を口にした。
「ロ、ロッカっ! 俺のヒロインはロッカだっ!!」
静寂。時が止まったように、しーーん、と静まり返る。肝心のアリスですら、固まったようにピクリとも動かない。
『だ、大丈夫なん、タッくん? アリスからの圧力はなくなったけど、ものすごい緊張感が伝わってくるんやけど……』
「大丈夫だ。レイアがラスボスになった時もロッカが全部吹き飛ばしてくれただろ? アリスが進化して暴走しても、きっとなんとかしてくれる」
そう、普段はろくなことをしない、おバカキャラだが、肝心な時は思いもよらない大活躍をしてくれるんだ。
「こないよ」
「え?」
文字人間が背後で、悲しそうに首を横に振る。
「ロッカ、緑一色をネレスに跳ね返されて、いま緑になってるよ。だから、ここには来れないよ」
「ええええぇえーーっ!?」
何してるのっ、ロッカっ!! 俺、お前に全ベットしちゃったよっ!?
『た、た、た、タッくん、ア、アリスが、アリスがっ』
「いやぁああああぁぁあぁっ、見たくない、見たくないっ! ちょっと待ってっ! やり直しを要求するっ!!」
ゴゴゴゴゴ、とアリスの方から、えげつないオーラが溢れ出す。もはやまともに見ることもできない。
「いっそ、このまま重圧で俺を地面に埋めてくれっ!」
『いやタッくんっ、埋まってないっ、むしろ、盛り上がってるっ!!』
ぼごっ、と身体が地面から出て空に浮かび上がる。俺だけじゃない、文字人間や彼女、伽羅様やレイアたちまで、次々と空中に浮かんでいく。
そんな中、ただ1人。アリスだけが、ポツリと地面に立っている。
「重力が反転している。いよいよ進化が始まるのか」
「止めろよ、文字人間っ! お前が真のラスボスをやるんだろっ!?」
「あきらめます。アレを超えるラスボスは、過去現在未来において、二度と現れることはないでしょう」
あきらめないでっ! 裏で色々画策していたくせに、そんな悟った聖人みたいな雰囲気で、遠くの一点を見つめないでっ!!
「………………タクミ」
地獄の底をひっくり返して鍋で丸一日煮込んだような、超低音ボイスが響き渡る。
「ロッカが好きなの?」
答えれない。答えたら全部終わるような気がして言葉につまる。ま、まだ世界が終わるほうがマシじゃないか? 最終破壊兵器クロエのほうを振り向くと……
「ダメです、タクミ殿。砲台全部グニャグニャになりました」
重力異常で役に立たない。今度はレイアのほうへ、バッ、と素早く首を動かす。
「カットできません。恐らく、この先の未来がないからだと思います」
いやぁああああっ! 聞きたくないっ、そんな未来聞きたくないっ!!
『あかんわ、タッくん。せめて最後は潔くいこ。うちもあきらめて、せめて一緒に逝ったげるわ』
「あきらめないでっ! 行くの漢字を逝くにしないでっ!!」
彼女も伽羅様をぎゅっ、と抱きしめながら、祈るように目を閉じる。そこまでなのっ!? ラスボスクラスが勢揃いして、そこまで手立てがないのっ!?
ふわっ、といきなり周りを覆っていた重力異常が消えてなくなる。宙に浮いていた俺たちは、地面のアリスに向かって自然落下していく。
「……参る」
「どこに参るのっ!?」
ぎゅううううっ、と宇宙全体の質量が圧迫するように縮まっていく。
「いやぁああああっ、こわいこわいこわいこわい、やめてぇええええっ!! 参らないでえっっ!!」
ぽんっ、と突然、地面から草が生え、一瞬で花を咲かせた。一本の赤い花。その花を中心に、ぽんぽんぽんっ、と大量の花が辺り一面に咲き乱れる。
ぽふっ、と俺たちはその花に優しく受け止められるように落下した。
「こ、これはアリスの?」
『ちゃうわ、これ、緑一色や』
え? それじゃあ、これって、もしかしてっ!?
圧迫するような重力が掻き消えるように霧散していく。1番最初に咲いた花が、ムクムクっと大きく成長し人の形を形成する。
「驚いた。緑一色を支配したのか」
文字人間が感嘆の声をあげる中、世界を覆うように満開の花が無限に広がっていく。
「お待たせでござるよ、タクみん」
うちのヒロインがやってきた。
コミックス5巻が9月8日に秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売されました! この巻から小説版とかなり違うオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します!




