閑話 強力な接着剤
首だけになったまま、彼女と文字人間の戦いを観戦する。
早い。彼女もさることながら、俺の身体なのに文字人間の動きが異常に早い。
「文字の力を使っているのか?」
よく見ると、俺の身体の所々に、いつの間にか文字が書き込まれている。
足には「速」や「早」の文字。体には「硬」や「堅」の文字。腕には「豪」や「斬」などの文字が貼り付いていた。
「すごいわ、タクミ。首がちぎれても、そんなに強いなんてっ」
うん、ママン、そんなことあるはずないよ。文字人間が勝手に動かしてるんだよ。
彼女の拳を紙一重でかわし、文字人間が懐に潜り込む。
「死っ」
彼女が不採用を使わないかぎり文字の力を使わないと言っていた文字人間が、一撃で決着する文字を貼り付けようとする。
「そんなの、効かないわ」
死の文字を胸の真ん中に貼り付けられたまま、彼女が全力の拳で文字人間の脇腹を、ふんっ、とえぐるようにぶん殴った。
「ぎゃああああっ!!」
首が繋がってないから、痛みはないけど悲鳴をあげる。バキっボキボキっ、とあばら骨が何本も折れる音が聞こえたんですけどっ!!
「文字の力が通じない。そうか、すでに書かれていたのか」
「気づいた? やっぱり上書きはできないのね」
彼女の力は不採用だけじゃない。自分に都合の悪い展開をやり直して、書き直すことができる。
セーブとロード。
表面に見えていないだけで、彼女はその身体に何かを書き込んでいた。
「やっぱり僕と彼女の力は似ている」
「ふふ、そうね、嬉しいわ。ワタシの息子だと実感できる」
うん、ちがうよ。そいつはもう100%文字人間だよ、ママン。
「さて、どうしようか。この身体だと全力は出せないな。ちょっと壊れてきたみたいだし」
ちょっとじゃないよっ! 首が取れてる時点で、もう大惨事だよっ!!
『タッくん、タッくん、大丈夫なん? なんか色々えらいことになってるけど』
「大丈夫じゃないっ! 文字人間が俺の身体を乗っ取って、めちゃくちゃしてるんだよっ!」
まんまるJRに見つからないように、コッソリとカルナが俺の首が置かれた木陰にやってくる。
『追い出してみる? うち、長いこと魔剣から出たり入ったりしてるし、そういうの得意やで』
「ダメだよっ、今追い出したら俺、首なくなってるから即死しちゃうよっ、くっつけてからにしてっ!」
『む、難しいな。回復は得意やないねん。サシャがおったらええねんけど、ここにおるんは……』
離れたところから、クロエとレイアが覗いている。
ダメだ。世界を滅亡させる奴と、カットする奴しかいない。
「僕が手伝おうか」
「伽羅様っ! なんでっ!? 固まってたんじゃないのっ!?」
ひょこっと小さな小型犬が木陰の裏から顔を出す。
「実は分身は102匹いるんだ。常に1匹は緊急時に備えて、戦いの外で待機しているんだよ」
「でも伽羅様は俺の敵じゃないの? なんで助けてくれるの?」
「このままじゃ文字人間のシナリオ通りに踊らされるからね」
ん? どういうこと? まあ助けてくれるならなんでもいいか。
「じゃあ僕がタクミの首をくっつけた瞬間に、カルナちゃんは文字人間を追い出して」
「いや、伽羅様っ、なんか俺の首に塗ってるけど、まさか、それ、接着剤じゃないよねっ!?」
「ちがうよ、もっと強力なやつだよ……木工用だけど」
ボンドじゃんっ! 木工用ボンドじゃんっ!!
「そんな原始的な手段でくっつけるのっ!? もっと、こう、再生みたいな能力じゃないのっ!?」
「単純なほうが成功率高いんだよ。大丈夫、僕を信じて」
いやいやいや無理無理無理っ! むしろ不安しかないってっ!!
「そ、そうだっ、カルナはどうやって文字人間追い出すのっ!? 確実なプランはあるのっ!?」
『うちは大丈夫やで。魔剣で切り裂いて、タッくんの中に侵入するねん。魂の収納は1人1個しかできひんはずやから、うちが入ったら文字人間、押し出されて出てくるはずやわ』
「いやいやいや、その前が気になるよっ! 俺、切り裂かれるのっ!?」
ダメだっ、計画に穴がありすぎるっ!
「完璧なプランだね、カルナちゃん。切り裂いたところもちゃんと治しておくからね」
「ま、まさか……いやぁああああーーっっ!!」
伽羅様が木工用ボンドを、キラーンっ、とかかげた。
コミックス5巻が9月8日に秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売されました! この巻から小説版とかなり違うオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します!




