三百五十九話 お仕置き時間
「破っ!!」
彼女の不採用よりも早く、たった1文字で大爆発が巻き起こる。
「え? 決まった? 伽羅様やっつけた?」
「無限界層ランキング2位はそんなに甘くないですよ」
爆炎の中を黒い影が弾丸ように突っ込んでくる。
「ノーダメージっ!?」
「まさか、いや、もしかして……」
あ、あれ? 突っ込んでくる弾丸が一つじゃない、ひーふーみー……数えきれないっ!?
「いっぱいきてるっ! マシンガンだよっ!!」
「分裂してダメージを分散、そのまま攻撃に転換してきたか」
分身したらダメージも101分の1ずつになるのっ!? ズルくないっ!?
「ってか、いっぱい来てるよっ、どうするのっ!?」
「波っ!!」
文字人間が手をかざし、一文字を唱える。読みは同じ「は」でも意味が違う。地面から突然、溢れ出した大量の水が高波となり、分身した伽羅様に襲いかかる。
「不採用が間に合わないっ! キャラメルっ!!」
「大丈夫だよ、ママ。こんなの突破してやる」
波など物ともせず、黒い弾丸となった小型犬たちが、バシュバシュ、と突っ込んでいく。
「いやぁああああっ、普通に突破してくるぅっ!!」
「固っ!!」
三度、一文字の力が炸裂する。
弾丸小型犬たちが波に突っ込んだ瞬間に、それがぴきーーん、と固まったのだ。
「くぅーーん」
伽羅様が悲しそうな声で鳴いている。
隆起して固まった波の中に、101匹の小型犬が閉じ込められる奇妙なオブジェが目の前に広がっていた。
「素晴らしいっ、本気のタクミ様の前ではランキング2位の伽羅様といえど、お子様の手をひねるようですな」
「刃っ」
「のぎゃあぁっっ!!」
突然、空中に刃が現れて、ザシュっ、とソネリオンを切り刻む。
「も、文字人間っ、どうしてっ!? このチョビ髭は一応味方だぞっ」
「魔装備のない武器商人なんて、なんの役にも立たない。邪魔なので退場していただきました」
いや、確かにずっと足を引っ張ってきたけど、ピンチを助けてもらったこともあったはず……あったよね?
「後悔するぞ。これでもソネリオンは意外なところで活躍するんだ」
「戯言を。そんな日は永久にやってきませんよ」
チョビ髭が怨みがましい表情で地面に倒れる。俺じゃないぞ、やったのは俺の中にいる文字人間だからなっ!
「ソ、ソっちん、と呼んでくだ……がくっ」
そっちなのっ!? そっちでそんな怨みがましい表情しないでっ!!
「さて、残るは1人ですね」
「……あなた、タクミじゃないわね」
さすがママンっ、俺が文字人間に乗っ取られてることをわかってくれたのかっ。
『いやタッくん、文字の力に溺れてたとき、あんなんやったで』
「そうそう、みんなのこと羽虫とか呼んでましたよ」
そこのドラゴン姉妹、余計なことは言わないで。
「まあ、どちらでもいいわ。お仕置きすることに変わりはないから」
ちりっ、と空気が燃えるような音がした。
彼女から漏れるオーラのようなものが、周りの温度を上昇させている。
「こ、怖いよ、文字人間。彼女、怒ってるよっ」
「さすが元ラスボスといったところですか。新しいラスボスとして負けられませんね」
ん? 文字人間が新しいラスボスなの?
最後に戦うのは、あのお方のはずなんだけど……
「そうか、2人いるのね。どちらが主導権を握ってるのかしら」
「文字人間だよっ、ママンっ、追い出してっ、そして俺にはお仕置きしないでっ」
声を張り上げて叫ぶがまったくボリュームがでない。
「文字人間っ、お前っ」
「音量を0に調整しました。大丈夫、僕だけには聞こえますよ、あなたの声が」
コイツ、完全に俺を乗っ取るつもりかっ!?
「さあ、始めましょう」
彼女が、すーー、と姿勢を前に傾ける。100メートル走のクラウチングスタートのような姿は、四つん這いで走る獣に酷似している。
「不採用に頼るのをやめましたか。ただ全力で、殴りにきますね」
「ちょっとまってっ! 殴られるの本体の俺じゃないかっ!! なんでお前、いいでしょう、かかって来なさい、みたいなポーズとってるのっ!?」
ふ、と彼女の口元が、小さな笑みを作る。
「参る」
まるでアリスのように。
正面から堂々と、そのまま真っ直ぐ一直線に。
どんっ、と彼女が加速して突進してくる。
「いやぁああああっ、やめてぇええっ!!」
突進する彼女に向かって、文字人間が同じように突進する。だが、所詮、操ってるのは貧弱な俺の身体。スピードもパワーも彼女とはまるで比べ物にならない。
顔と顔がぶつかり合う寸前で。
鏡合わせのように、お互いが拳を振りかぶる。
「ママっ!!」
波の中で固まった101匹の小型犬が、遠吠えに似た声を上げた。
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