三百五十八話 文字数
「来ちゃった」
「なんで来ちゃたのっ!?」
いや、来なかったら、もぎとられてたけどっ。
でもお前、いきなり俺を見捨ててロッカのオデコに移動したよねっ!?
「うん、ちょっと面倒なのが来たから戻ってきたんだ。嬉しい? 俺様が来て超嬉しい?」
「嬉しくないよっ、自由気ままに俺の中を行ったり来たりしないでっ、あと、そんな喋り方だったっ!?」
「しばらく別人格に変わってたから安定してないんだ。大丈夫、すぐに戻るから」
え? なに? 誰に変わってたの? また悪巧みしてるのか、この文字はっ!
「不可侵領域は一度つかってるから、もう使えないんじゃなかったかしら?」
「うん、黒塗りの辞書が無効化されてる。いや、タクミには効いてるはずだから、使ってるのはアイツのほうか」
あら? もしかして伽羅様、俺が最初から文字の力使ってなかったの気づいてらっしゃる?
「領域ごと押しつぶすよ、ママはちょっと離れてて」
百一匹の小型犬が、わーー、と一箇所に集まっていく。それが合体するように重なっていき……
「ばうっっっっっ!!」
どぉおおんっ、と超巨大ダックスフンドが咆哮と共に現れた。
「ミ、ミニチュアじゃなくなったよっ! でもおっきくても可愛いよっ!!」
「ありがとぉおぉぉっ」
うん、可愛いけど超怖い。
天からでっかい肉球が、文字人間の領域を潰すため、振り下ろされる。
「無重力」
「え? なに? どういう意味?」
文字人間が俺の中で、カッコいい横文字を、ぼそっとつぶやく。
そのとたん、大重量のはずの巨大伽羅様が、ふわっ、と風船みたいに浮き上がった。
「え? 重力を操作したのっ!? この一瞬でっ!!」
俺の考えを伝達する必要もない、コンマ1秒のズレもなく発揮される文字の力。しかも横文字使うところが、ちょっとオシャレでイラッとくる。
「さすがタクミ様、ついに本領発揮というわけですな」
うん、黙れ、ぱんいちチョビ髭、俺は何もしてない。
「手伝う? キャラメル」
「大丈夫、僕も本気出すから」
ぷすん、と、自らの爪を自分のお腹に突き刺す伽羅様。空気がパンパンに詰まった風船が割れたときみたいに、ばんっ、と大きな破裂音が響き渡る。
「じ、自爆したっ!?」
「違うよ、攻撃方法を変えたんだ」
伽羅様が急速にしぼみながら、不規則な動きと共に高速で空中を駆け巡る。
「面じゃなく点へ。領域ごと押し潰さず、全ての力を一箇所に集中するつもりだね」
「だ、大丈夫なのっ!? 不可侵領域っ」
「不可侵だからねえ。普通なら大丈夫なはずだけど、一応、警戒しとこうかな」
しゅるるるるっ、と空気圧を利用した小型犬が弾丸のように飛んでくる。
「圧縮領域」
その弾道に合わせて、不可侵領域を、ぐっ、と縮めて更なる強化をはかる文字人間。
「そうくると思ったよ」
「まだ空気を残していたのか」
圧縮した領域にぶち当たる寸前に、プシューっ、と最後の空気を吐き出して、軌道を変える小型犬。
一瞬で俺の背後にまわり、さらなるスピードで加速する。
「ぎゃあああっ、無防備な場所に直撃するぅっっ」
「鉄塊」
俺の悲鳴を文字人間が上書きする。
それ知ってるっ、味方を鉄の塊にして一時的に完全防御状態にする有名なゲームの呪文じゃないかっ!
カッチーンと全身が鋼鉄化して、伽羅様の突撃を、ガインっ、と背中で受け止める。まったくのノーダメージ。ちぇっ、と伽羅様が可愛く舌打ちする。
「でもこれ、俺、動けないよ」
「君が動く必要あるのかい?」
うん、まったく必要ない。
お地蔵さんのように、じっ、としとくよ。
「それ、不採用だわ」
反則だと言わんばかりに彼女が俺を指差すと、パーンっ、と一瞬で鋼鉄化が無効化される。
「ナイスっ、ママっ」
「事象の否定か。文字の力と相性が悪いね」
鋼鉄に弾かれた伽羅様が、そのままターンっ、と地面を蹴って再び飛んできた。
「不可侵……」
「それも聞き飽きたわ、不採用ね」
文字の力が発動する前に彼女の力が発動される。うん、2対1だと、さすがの文字人間でも部が悪い。チラッとチョビ髭のほうを見ると、自信ありげに、にっ、と笑みを浮かべる。
うん、聞かない。どうせ何もないから聞いてあげない。
「どうするのっ!? 文字人間っ」
「長い文字は言ってる途中で彼女にボツにされる。それならば……」
突進してくる伽羅様に、文字人間が片手をかざす……と、いっても文字人間が操ってる俺の手なんだけどね。
「破っ!!」
「っ!?」
たったの一文字。それだけで手をかざした先の視界一面に大爆発が巻き起こった。
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