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閑話 ネレスと文字人間

 

 でっかい花火が起こったと錯覚した。

 どーーんっ、という馬鹿でかい音と共に、空にあった球体王まんまるが爆散する。

 一瞬だけ足を止めたが、さほど気にすることもないと思い直しすぐに駆け出した。


 おそらく、これが最後のチャンスだ。

 伽羅様には悪いが普通にタッグ戦をしている場合じゃない。


 ボクの記憶がないこと。あのお方が漫画版タクミではなかったということ。たぶん全ての鍵は文字人間が握っている。

 無限界層一桁トーナメントのダッグ戦が終われば、生き残った1人はあのお方と戦わなければならない。

 その前にボクは文字人間を追求して真実を暴かなければいけないんだ。



「あれ? そんなに息をきらしてどうしたのでござるか? えっと、名前なんだったでござるかな?」

「いいよ、そんなの。ボクも本当の名前なんて思い出せないんだから」


 文字人間の潜伏先。第六禁魔法ロッカに辿(たど)り着く。

 時間にしておよそ10分。今ならまだタッグ戦は終わっていない。文字人間はそちらに集中しているはずだ。


「それより、ちょっとキミのオデコに入りたいんだけど、よろしいかな?」

「よろしくないでござるっ! なんでみんな拙者のオデコに入りたがるのでござるかっ!? ここはシェアハウスじゃないでござるよっ!!」


 オデコを必死に抑えて全力の侵入拒否。うん、仕方ない、時間がないので、ここは強引に。


「ちょっと待つでござるっ! 靴を脱いでもダメでござるよっ! なんでみんなそこだけエチケット守るのでござるかっ!?」


 魔力の渦が流れてくる。やはり簡単には侵入を許してくれないか。


「大人しくしてたら、すぐに出ていくよ。しかもうまくいけば、文字人間も追い出してあげる」

「そんなうまい話はないでござるよっ! うまくいかなかったらどうなるのでござるかっ!?」

「……捕えられたらボクもそこに永住するかも」

「ぜったい、入居拒否でござるっ!!」


 正直に答えたのに激キレられた。


「果てしなく広がる緑の大地。彼の地にて、我は誓わん。緑と共に未来永劫、穏やかに眠らんことを……」


 しかも第一禁魔法を唱えてらっしゃる。


「ごめんね。それパクらせてもらう」

「へ? 何がでござる?」

「略式 緑一色グレイトフルグリーン


 詠唱を飛ばして緑一色を一瞬で発動させる。


「うわぁあああっ、なんでござるかっ!? 拙者の魔法をっ、そんな簡単にっ……ござっ、みーどーりー」


 植物化したロッカが虚な瞳で光合成を開始する。


「全部片付けたらちゃんと元に戻してあげるからね」


 オデコにバッテン状に絆創膏が貼ってあったので、ぺりぺりと剥がすと、黒い穴がぽっかりと空いていた。


「お邪魔します」


 体積を100分の1ほどに小さくして中に入っていく。

 ヌルハチがヌルハちぃになる仕組みで小型化に成功した。一度見た技は全部真似できる。それも相手よりも高性能で。


「タクミと戦った時も全部コピーできた。いやアレは文字人間と戦っていたのか」※


 どんな状況にも対応できるあまりにも都合の良い能力。たぶん、この力も……


 真っ暗な空間を奥に進んでいくと、小さな光が見える。少しずつ近づいていくと、大画面の巨大なテレビが見えてきた。そこで伽羅様や彼女、タクミやソネリオンが戦っている。そして、テレビの前で寝転びながらお菓子を食べてるのは……


「やあ、ネレスちゃん」

「……文字人間」


 初対面のはずなのに、まったくそんな気がしない。

 ずっと前から一緒にいたような、懐かしい家族に会ったような、そんな感覚に戸惑いを隠せない。


「お前は……いやボクは……誰なんだ?」


 言葉がうまく繋がらない。真実を知る前に答えを知ってしまったからか。


「……ボクの名前は本当にネームレスだったんだね」

「うん、そうだよ。君に名前なんてない。過去の記憶も存在しない。君が生まれたのはタクミと出会った、あの時なんだから」


 文字人間と出会って確信してしまった。

 ボクは物語を盛り上げるために作られた存在。

 相手の技を真似できるのも、自分に技なんてなかったからなんだ。


「お前がボクを作ったんだね、文字人間」

「作ったのとはちょっと違うよ。君は僕の一部だからね。分身みたいなものだよ、性能はほとんど劣化していない」


 無意識に使っていた文字の力。武器商人から受け取ったはずの蒼蓮(あれん)紅蓮(ぐれん)も偽りの記憶か。


「タクミが文字の力を使えると勘違いした時からシナリオは始まっていたんだ。それに対抗するラスボスを用意しないといけなかった」

「……それが、あのお方」

「うん、ひとりぼっちだと可哀想だから君を作ったんだ。パートナーは必要だからね」


 漫画版のタクミなど、やはり存在しなかった。

 そもそも無限界層がある縦の世界に、パラレルワールド的な横の世界は混在できないのだ。


「じゃあ、やっぱりあのお方もお前が作ったんだね、文字人間」

「それは違うよ。分身は何体も作れない。もっとも強大なラスボスを演じるのだから、最強がその役割を担わなくてはならないじゃないか」


 最悪の予想を軽々と超えて、文字人間はその姿を変化させる。


 最も愛しくボクが唯一守りたかった、あのお方が目の前に現れた。



※ 第八部 タクミとネレスが戦うエピソードは「転章 閑話 ネレス」に載っています。よければご覧になってみて下さい。


コミックス5巻が来月2026年9月8日に秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売されます! この巻から小説版とかなり違うオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します!

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