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三百五十五話 威嚇射撃

 

 キスをしたクロエがゆっくりと人型に戻っていく。


「よかったよかった、これでもう世界を滅ぼしたりしないだろう。めでたしめでたし、さあ早く帰ってご飯食べよう」

『いやタッくん、なんか大事なこと忘れてへん?』


 え? なんだろ? 洗濯物はちゃんと干して来たけど。


「わふっ」


 彼女と遊んでいた伽羅様が俺に向かって、可愛く吠える。


「ん? どうした? ああ、彼女が投げたボールを投げてほしいのかな?」


 足元に転がったボールを拾おうとしゃがんだ瞬間、伽羅様が、びゅんっ、とマッハで飛んできた。


「おいおい、そんなに慌てなくても……」

『ちがうっ、タッくんっ、それ攻撃やっ!!』

「へ?」


 さっきまで俺の頭があった位置を、弾丸みたいに飛んできた伽羅様が神速の速さで通過する。


「こ、これ、俺、しゃがんでなかったら……」

『あ、頭なくなってたな』


 え? なんで? 最終破壊兵器は無力化したし、もう戦いは終わったんじゃ?


「いや、タクミ様、無限界層トーナメントのダッグ戦、まだ終わってませんよ」

「ああっ! そうだったっ! 完全に忘れてたっ!!」


 そもそもチョビ髭が終ちゃんを呼び出したのも、俺が大ピンチだったからだ。


「ちょっ、ちょっと伽羅様っ、みんなで協力して世界滅亡阻止したんだしっ、もう試合は引き分けでいいんじゃないかなっ!?」

「わふっ、そんなわけにはいかないよ。どうせ、最後にはこの4人の中から1人を選ばなくっちゃいけないんだから。ねっ、ネレスちゃ……ネレスちゃん?」


 伽羅様が辺りをキョロキョロ見渡す。つられて俺とチョビ髭も一緒にネレスを探すが……


「あ、あれ? ネレス、どこいった?」

『わ、わからへん、なんか随分前からいてへんような気がするけど』


 確かに。俺たちが終ちゃんを止めてる間、まったく見かけなかった。あいつ、世界滅亡爆弾怖くて逃げたのかな。


「これって試合放棄? もしかして俺たち勝っちゃった?」

『そんな甘ないわ、タッくん。終わってたら球体王まんまるが試合終了いうはずやもん。伽羅様倒すまで終わらへんみたいやで』


 ゔゔーー、と伽羅様が威嚇してくる。


 ええっ、もう終わりでいいのに。実質、俺は戦力にならないから、チョビ髭と伽羅様の一騎打ちだよ。


「あらあらあら、キャラメル、パートナーに逃げられたの?」

「くぅん」


 あ、なんか嫌な予感がする。


「かわいそうに。でも大丈夫よ、ママが代わりに戦ってあげる」

「わふんっ」


 はい、予想通りの展開です。


「ダ、ダメだよね? 認められないよね? 球体王まんまるっ!?」

『そっちいま何人?』

「え? そんなの俺とチョビ髭の2人だけ……」


 ……じゃなかった。人型に戻ったクロエやレイア、オマケに魔剣カルナまでいるじゃないか。


「ご、5人かな?」

『ネレスと彼女の交代を認めますっ』


 ひぃいぃぃっ、認められちゃったぁぁあぁっ!!


『タッくん、あかんっ、うち彼女苦手やっ、性格悪いもんっ』

「知ってるよっ、俺も超苦手だよっ!!」


 ただでさえ、母親となんか戦いたくないよっ、俺も誰かと交代したいよっ!


「チョビ髭っ! なんか奥の手とかないのっ!?」

「……」

「ソ、ソッちんっ、お、奥の手とかないかな?」

「申し訳ありません。終ちゃんがとっておきの最終兵器でした」


 だからソッちん呼びならいけそうな雰囲気だすなって言ってるよねっ!!


「もうダメだっ、カルナっ、チョビ髭に吸われたパワーは回復してないのっ!?」

「ゼロのままやっ、むしろ、クーちゃん止めるために頑張ってたからマイナスやっ!!」


 最終破壊兵器持って来たのもチョビ髭だしっ、もう全部、アイツのせいだよっ!! 


「よかったらこの世界滅亡させましょうか?」

「ク、クロエっ!?」


 よかったらカットしましょうか? みたい感じで出てこないでっ!! レイアのカットと世界滅亡はレベチだからっ!!


「てかっ、発射口復活したのっ!?」

「はい、我の口内に新たな発射口が。これであの小型犬にもがれることもありません」


 それはよかった……いやよかったのか? 世界滅亡する爆弾なんて、使い道が見当たらないぞ。


「ちょっと待ってっ、大ピンチだけど世界滅亡爆弾は使わないでっ、それ威力とか抑えられないのっ!?」

「我、最終破壊兵器ですので。常に滅亡100%です」


 暴走してないだけで、危険度変わってないよっ!!

 伽羅様と彼女以上に恐ろしいよっ!!


「とりあえず威嚇(いかく)だけにしてっ! この世界に向けて放たないでっ」

「わかりました、ダーリン」


 ダーリン? え? 俺ダーリンって呼ばれた?

 キスしたから? もしかして俺、最終破壊兵器の恋人に認定されてるっ!?


『ちょっ、クーちゃんっ! アレはキスちゃうねんでっ! クーちゃんの暴走を止めるためのっ、そうやっ、人口呼吸みたいなもんやねんっ!!』

「アレがキスちゃうかったら、世界にキスなんか存在せえへんわっ!!」


 ぱかっ、とクロエが大きく口を開き、中から発射口が飛び出した。


「クロエっ!!」


 そこから放たれた爆弾は、俺たちに攻撃しようとしていた伽羅様と彼女の真ん中を、びゅんっ、と通過して、垂直に向きを変えて急上昇する。う、うん……確かに威嚇射撃って上空に向かって撃つよね。


『あっ』


 脳内再生されたのは、カルナの声ではなかった。

 角度を変えた最終破壊兵器の爆弾は、息子が受験する志望校のパンフレットを見ていた球体王まんまるに直撃した。※



※ 今回の無限界層トーナメントは、球体王まんまるの息子の受験という個人的事情で早まりました。エピソードは「第十部 四章 三百三十六話 家庭の事情」に載っています。よければご覧になって下さい。


コミックス5巻が2026年9月8日に秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売されます! この巻から小説版とかなり違うオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します!

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