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三百五十三話 ごほうび

 

《滅べ、うちがヒロインでない世界っ!!》


 一発だけでも絶望した最終破壊兵器爆弾が、世界を埋め尽くすほどに降り注ぐ。

 それでも彼女はパッヘルベルのカノンを口ずさみながら、余裕の笑みを浮かべている。


「素敵な景色ね」


 地獄の釜が開いたような世界で、彼女は両方の人差し指と親指をピンと伸ばし、それを組み合わせ四角形を形作(かたちづく)る。

 まるでこれから記念撮影でも始めるかのように、ピントを合わせて、四角の窓から巨大な黒龍クロエと爆弾の降り注ぐ空を覗き込む。


『彼女なにしてるんっ!? もうあきらめてしもたんっ!?』

「ち、ちがうっ、何かやるつもりだっ!!」


 ぐるん、と、ゆっくりとした動きで彼女は、指で作った四角形を反転させた。


《え?》


 相変わらず頭の中で最大音量で鳴り響くクロエの声。

 だが、それは今までよりもさらに近くで反響していた。


『ク、クーちゃん? いつ降りてきたん? お、おかえり』


 呆然(ぼうぜん)としたままの巨大な黒龍が俺たちのすぐ側で地面に転がっている。


「ば、爆弾はっ!?」

地上天下(ちじょうてんげ)逆転空間(ターンアラウンド)


 四角形の窓を解除して彼女が天を指差す。

 すべての爆弾は重力を無視して、勢いよく空へと落ちていく。


「ま、まさか、これっ!?」

『逆になってるっ!?』


 テレビをひっくり返したように、彼女が手のひらで作った四角形の中の世界だけが反転していた。


《なんでやっ!? うちは最強の破壊兵器やでっ!! なんで寝転んでるんやっ!!》

「関係ないのよ、強者も弱者も。あらゆるものは簡単に逆転する。こんなふうにね」


 この世界のすべてのシステムに対応し、大精霊と呼ばれる彼女だからこそ、そんなことが言えるのだろう。俺はどこまでいっても最弱だし、最強になれる日なんてやってこない。ちょっと勘違いしてたけど。


《ま、まだ終わられへんっ、ここで全弾発射したるっ!!》


 倒れたままのクロエが、自ら巻き込まれるのを覚悟で爆弾発射を試みる……が。


「させないよ」


 バクンっ、と伽羅様が発射口の一つに噛み付いた。

 そのまま噛みちぎり神速のスピードで駆け抜けていく。


《なんやっ、発射口は100個以上あるんやっ、一個だけ潰しても……って、ヒィィィッっ!?》


 ぶわわっ、と伽羅様が分裂していた。その数、100以上。クロエと融合している発射口のすべてに噛み付いて喰いちぎっている。


「分身の術っ!? いやみんな違う動きしてるから、もしかして伽羅様、百子ちゃんっ!?」

『タッくん、双子ちゃんみたいにいうてるけど、そんな次元ちゃうでっ、まったく同じ力のまま分裂してるわっ! 101匹ワンちゃんやんっ!!』


 それ、ダルメシアンじゃない? 伽羅様はダックスフンドだよ。


《は、発射口がっ、全部持ってかれてしもたっ!!》

「地上では負けないよ、僕は狩猟犬だからね」


 発射口が無くなったクロエは、バランスが取れずひっくり返ったまま起き上がれないでいる。


「グッボーイ、グッボーイよ、ママのキャラメル」


 彼女がパチパチと拍手すると、1人に戻った伽羅様は嬉しそうに尻尾を振っている。※


《ぐっ、発射できへんならっ、体内で爆発して自爆したるっ》

『クーちゃん、もうやめよ。大丈夫やから。またこれからいっぱい出番あるから』

《カル姉は完全レギュラーやからそんな余裕のあること言えるんやっ、ここで終わったら、うちはまた何年も出番ないまま忘れられていくねんっ!!》


 う、うん、それもまた否定できない。でも俺にはどうすることも……


『タッくん、クーちゃんになんか言うたげてっ! 今のクーちゃん止めれるの、タッくんだけやでっ!!』


 いや、ちがうよね? むしろ俺以外のみんなが頑張ってくれてるよね?


「私からもお願い致します、タクミ様。クロエさんを最終破壊兵器から解放してあげて下さい」

「いや、お前がそそのかしてクロエを終ちゃんにしたんじゃないかっ! お前がなんとかしろよ、髭っ!」

「……」

「お、お前がなんとかしろよ、ソッちん」

「かしこまりました。私も説得に協力しましょう」


 こんな時までソッちん呼びを要求しないでっ!!


「ク、クロエ、今まで会いに行けず悪かったな。無限界層トーナメントとかで忙しかったんだよ」

《……その随分前から会ってへんよ》


 う、うん、ごめん。もういつから会ってないかも覚えない。


『ほら、タッくん、頑張ってっ』

「ほら、タクミ様、頑張ってっ」


 お、おまっ、リピートしてるだけじゃないかっ! 


 結局全部俺任せなの? 助けを求めるように彼女のほうを見ると、伽羅様にボールを投げて、きゃっきゃっ、と遊んでいた。



※ 伽羅様様の本名はキャラメルといい、彼女の飼い犬であり2人は固い絆で結ばれています。エピソードは「第六部 終章 二百八話 ママ」に載ってます。よければご覧になってみて下さい。



コミックス4巻が2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されました! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。5巻へと続く連載も秋田書店様のチャンピオンクロスで絶賛再開中です!

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― 新着の感想 ―
同じ力のまま分身・・・ウルトラセパレーションか?(スットボケ いやまあ数的にはマックスの分身の方が近いんやろうけど
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