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三百五十二話 世界滅亡爆上がり


《アナタの、タクミ殿の1番大切な人は誰ですか?》


 選択を間違えたら世界が終わる。

 息を大きく吐いた後、ゆっくりと、その名前を口にした。


「か、彼女です」


 ピシリと世界が凍りつく。最終破壊兵器と化したクロエの背後からゴゴゴゴゴと、異様な効果音が聞こえてきた。


『タッ、タッくん、彼女おったんっ!?』

「えっ!? ち、ちがうよっ!!」

『信じられへんっ! うち、ずっと側におったのに気づかんかったっ!! いつからそんなハレンチ王なったんやっ!!』

「ちがうよっ! だから彼女っていうのはっ!!」


 いや、今はカルナに言い訳している場合じゃない。今にも世界を滅ぼす爆弾が落ちてくるかもしれないんだっ!


「クロエ、よく聞いてくれ、彼女っていうのは……って、いやぁああああっーー!! すでに爆弾落下してるぅぅうっ!!」


 問答無用の超加速で落下する爆弾に、なす術もなく立ちすくむ無限界層トップクラスの面々。


「カルナっ、なんか言ってくれっ!!」

『タッくんの浮気もん』


 ちがうぅうぅぅっ! そういうやつじゃないぃぃぃっ!!


 100倍ジャンピングチャンスに失敗した爆弾がついに地面に激突する……あ、世界終わっちゃった。誰もがそう思った瞬間だった。


「今の解答。完璧パーフェクトですよ、匠弥」


 ぞくり、とするような、慈愛と狂気が入り混じった声が響き渡る。

 そして、今にも地面に接触しそうだった爆弾がギリギリの所でビタリと止まった。


《お前はっ!?》

「お前だと? 兵器ごときが私を語るな」


 すぐに名前は出てこない。

 いや、名前など一回も出ていないのだ。

 その存在はまるで最初から、ずっとここにいたように、爆弾の横で穏やかな笑を浮かべている。


 チョン、と軽く触れると、世界を破壊させる爆弾は、ぎゅーーんっ、と音速を超えるスピードで上昇し、宇宙を突き抜け見えなくなった。


「さ、最終破壊兵器の爆弾がキランって星に……」

『タ、タッくんっ、彼女って……』

「うん、俺の母親だよ」


 そう、すべてのシステムを管理する、この世界の大精霊にて、かつてのラスボス。今は現実世界に帰って、隠居してるはずだったけど……


「息子に1番大事と言われたら、頑張らないといけないでしょう?」


 こ、怖い。この選択は果たして正解だったのか? 俺はまた余計な敵を呼び込んでしまったのではなかろうか。


「そこの髭」

「どこの?」

「髭はお前しかいないだろうが」


 チョビ髭が彼女に、ぱんっ、と後頭部をはたかれた。


「あのポンコツ兵器の爆弾はあと何発残ってるの?」

「何発? いえ、爆弾のエネルギーは怒りです。クロエさんの怒りが継続する限り、爆弾は無限に生成されますよ」


 なに、そのチート設定っ、あの爆弾で終わりじゃなかったのっ!?


「そう、だったらアレごとボツにするしかないわね」

《ふんっ、いつまで万能の大精霊でいるつもりや。もう、あの頃とは強さのレベルが段違いに変わってるんや。ずっと出番なかったから気づいてへんの?》

「知ってるわよ。だから私もアナタと同じなの」


 え? もしかして彼女もクロエやレイアのように特殊な力でパワーアップしてるのっ!? そういえば伽羅様が時間を止めても停止できなかった爆弾、簡単に止めてたよっ!!


「危ないですね」

「レ、レイアっ、まだいたのかっ!? 危ないって、どっちがっ!?」

「彼女がです。元々、そんなに力がなかった私や黒蜥蜴がラスボス級の力を手に入れたんです。最初からラスボスだった彼女が私たちのようにパワーアップしたのならば……」※

「やっば、世界終わっちゃう」


 絶対クロエより彼女のほうが性格悪いし危険度マックスだよっ、世界滅亡確率爆上がりだよっ! 


《物語の最序盤から出てたうちと、母親とはいえ途中から出てきたお前が同列やとっ》

「違うわ。私はこの世界でずっと匠弥を見守ってきた。それこそ、物語が始まる前から永劫とも思える時を」


 うん、母の愛が重い。そんなに見守らないで。


《戯言を抜かすなっ》


 チョビ髭が開けた漆黒の穴、そこから発射口しか出てなかったクロエが、ズズズズ、とその全貌をあらわしていく。


「ひぃいいっいいいっ、何あれぇええっっーー!!」


 世界の空を覆い尽くすような巨大な翼。そして、さらに大きな黒龍(ブラックドラゴン)本体。そこに数百を超える発射口が至るところに融合されている。


「素晴らしい。あれが最終破壊兵器、終ちゃんの究極形態です」

「やかましい」


 再びチョビ髭が彼女に後頭部をパカーンとはたかれていた。


《もう母親やろうが誰やろうが関係あらへん。うちが1番やないなら、こんな世界、ぶっ壊れたらええねんっ!!》


 すべての発射口の先が見たことのない色の光に包まれる。異様な発光が織りなす光景は、まるで世界が地獄に堕ちたように錯覚してしまう。


「わふん」


 伽羅様が可愛く吠えると彼女はチラッと視線をそちらに向ける。大丈夫よ、と言うように小さく頷くと、小型犬はリラックスして伏せをした。


《滅べ、うちがヒロインでない世界っ!!》


 まるで散歩に出かけるように、彼女はご機嫌な様子で聞き覚えのある鼻歌を口ずさむ。


 世界を埋め尽くすほどの爆弾が降り注ぐ中、俺の子守唄だったパッヘルベルのカノンがはっきりと聞こえてきた。



※ レイアはライバル心からクロエのことを黒蜥蜴と呼んでいます。




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