閑話 忘却慟哭
最終破壊兵器の光が世界を包み込む。
その魔装備の全容は未だ謎のままだ。
そもそも、起動するには魔剣カルナ級の魂が必要だったはず。一体、あの兵器の中には何者の魂が入っているのか。
「ソッちん」
再び呼びかけるが返事をしない。
ただ終わりを待つように、両手を合わせて祈っていた。
「カルナ、同じ魔装備として、アレを止められないのか?」
『アレが同じ? アホなこと言わんといて。規格外すぎて、もう魔装備の枠からはみ出してるわ』
チョビ髭が開けた穴からは、発射口しか見えていない。それだけでも直視することができないほどの圧倒的な力に押し潰されそうになる。
『もう、世界を破壊する爆弾は発射されとる。それが落ちずに止まってるだけや』
「え? 終ちゃんが止めてくれたの?」
『ちゃうわ。あの小型犬が頑張ってくれてる』
ゔぅーーっ、と終ちゃんに唸りながら、伽羅様の全身の毛が逆立っていた。
本当だ。巨大な爆弾みたいなシルエットが、光の中でピタリと静止している。
『リンデンが使ってた空間魔法や。あそこだけ時間が止まってる』
「おおっ、さすが伽羅様っ、そのまま止めといてっ」
さっきまでは敵だったが、今ほど頼もしい存在は他にいない。
『どうするんっ、タッくんっ、止まってても刺激を与えたら爆発するでっ』
「大丈夫っ、うちにはどんなものでも、なかったことにできる、あの人がいるじゃないかっ」
2対2のタッグマッチ。
今回は武器として所持しているカルナ以外は、一緒に戦えない。
「だけど、きっと見えないだけでっ、絶対内緒でそばにいるはずっ!」
「よかったら、あれ、私がカットしましょうか?」
「ほら、いたぁっっ!!」
いきなり背後に現れたレイアに、いつもならびっくりするけど、今回ばかりは喜び、はしゃぎ、浮かれて歓喜の声をあげた。
「ぜひ、ぜひお願いしますっ! もう綺麗さっぱり跡形も残さずカットして下さいっ!!」
「お任せ下さい、タクミさん」
さすがレイアさん。自信満々に終ちゃんに向かって空中を一歩ずつ登っていく。
「あれ、どうやって空中歩いてるの?」
『たぶん、空を少しずつカットして歩いてるように見せてるんやとおもう。ほんま、なんでもカットできてしまうんやな』
もう、あんたが最強じゃないですか? 終ちゃん消したら代わりに戦っておくれよ。
《時を止め、空間を削るか》
突然、頭に声が鳴り響いた。
直接脳内に話しかけるカルナと同じシステム。
しかし、この声はまるで違う。
頭の中で、重低音スピーカーが最大音量で鳴り響いたような爆音が反響している。
《愚か者どもが。そんなもので、我を止められると思うたかっ》
落雷。まるで天が怒ったかのような巨大な雷が伽羅様とレイアに降り注ぐ。
「カット」
それをそのままカットしようと、ばっ、と右手を挙げたレイアが目を開く。
雷は世界を覆い尽くさんばかりに縦横無尽に広がっていた。
「終ちゃんって爆弾落とすだけじゃないのっ!? なんなのあの雷はっ!?」
「演出ですよ。そう、ただの爆弾を落とす前の演出。だけど、それだけで無限界層最強生物も敵わないのです」
カットしきれなかったレイアに雷が直撃して、空からレイアが落ちてくる。さらに……
「きゃうんっ」
時を止めていて動けなかった伽羅様にも雷が直撃して、止まっていた爆弾がゆっくり動き出す。
《さあ、人類ども。断罪の始まりです》
「めっちゃ怖いこと言ってるっ! ほんとに中身誰なのっ!?」
最終破壊兵器に入れた魂が、俺の知り合いなら説得できるかも、と思ったが、こんなこというやつ、俺の知り合いにいない。
『な、なんか、知ってる気配がするんやけど、まさか……』
「えっ!? カルナの知り合いなのっ!?」
『いや、いくらなんでも、そんな力あるはずないねん。今の強さバランスでいうたら、ランキング100位にも入られへんはずや』
だったら違うのか。最終破壊兵器にはカルナ級の魂が必要だとチョビ髭が言っていた。
「タクミさん」
「おおっ、レイア。大丈夫かっ」
雷に打たれたダメージはすべてカットしきれなかったのか。満身創痍のレイアがふらつきながら近づいてくる。
「私が強くなった原因が何かわかりますか?」
「え? めっちゃ修行したからじゃないの?」
「いえ、それだけではここまで強くなれませんでした。カット能力を得てラスボスにまでなれたのは、毎回、活躍を省略されるという負のエネルギーからなんです」
そ、そうか。確かにレイアは当初メインヒロインに近いポジションにありながら、見せどころはほとんどカットされていた。
「あの終ちゃんは私と同じ負のエネルギーに満ち満ちています。この物語に当初からいて、メインで活躍していたのに、今はまったく出番がなくなり、みんなから忘れられた、とてつもない負のオーラにっ! それが魂を強くしているんですっ!!」
「ええっ!? そんな可哀想な人いるのっ!? まったく思い浮かばないんだけどっ!?」
《怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒っ》
俺の言葉で、終ちゃんの負のオーラがますます膨れ上がる。それに比例して爆弾まで巨大化していった。
「いやぁああぁぁーーっ、だれだれだれっ!? カルナっ、思いついた人言ってみてっ!!」
『あかん、タッくんが思い出さへんと、この怒りは収まれへんっ!!』
わからないよっ、最近出番がなかった元レギュラー? リック? バッツ? リンや魔王はちょっと前に出てたよね?
「デウス博士?」
《滅べ人類。我の怒りと共に》
間違えたぁーーっ!? 巨大爆弾が急加速して落ちてくる。終わった、世界終わってしまった、俺のせいで……だって我なんていうやつ、俺の知り合いに……ん?
「もしかしてクロエ?」
着弾寸前で巨大爆弾がピタリと止まる。
《う、うわああぁぁぁあぁぁぁあぁんっ!!》
物語当初からいて、いつのまにか出番のなくなった黒龍クロエの魂の慟哭が響き渡った。
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