三百五十話 終ちゃん
カルナの爆発と同時に伽羅様の前足が、ぽんっ、と俺の頭の上に置かれた。
それ自体に痛みはない。おそらくは何かの能力が発動する技。しかし、それを確認する前に驚天動地の大爆破が伽羅様の小さな身体を遥か後方に吹っ飛ばした。
「わふっ!?」
俺の周りの爆破は本物。しかし、中心部にいる俺にはフェイクの爆破しかやってこない……はずだった。
『……タ、タッくん、ごめん』
「え? まさか……」
『ギ、ギリギリやったから、加減間違えてしもた』
「嘘ぉぉおおぉぉぉおおぉぉぉぉぉんっ!!」
カッ、と足元が炎の塊のようなもので紅く染まる。
ミッシュ•マッシュを吸収して無限界層ランキング上位の力を得たカルナの本気の爆炎。
理論上の限界を超える10兆度の大爆発が、いまにも俺の足元で発動しそうになる。
「加減間違いすぎじゃないっ!?」
『てへ』
絶対「てへ」で済むレベルじゃないよっ!
俺、溶けちゃうよっ、骨どころか、灰も残らないよっ!
「うわぁあああああああああっ!!」
周りの爆発に遅れて、どんっ、と俺がいる中心部に天まで届く爆炎の火柱が立ち昇る。
当然のごとく、俺は欠片も残らず消滅……あ、あれ? 熱くない?
「カ、カルナ?」
『ふふふ、フェイクやっ、敵を騙すにはまず味方から言うやろ。タッくん、迫真の演技やったでっ』
うん、演技じゃないからね。でも、これでみんな、俺がご臨終だと思ってくれるはずっ。
偽物の火柱が俺を覆い隠しているうちに、練習していた「すべてをやり遂げだ満足な死に顔フェイス」でゆっくり横たわる。
後はもうチョビ髭が2人に負ければ、計画通りに無事無傷で試合終了に……
「うおおぉぉおっ、タクミ様ーーっ、ご無事ですかぁーーっ!?」
炎をかき分けてチョビ髭がどんどんこっちに迫ってくる。うん、こっち来んな。死んだふりがバレちゃうだろ。
『大丈夫や。周りの爆炎は本物や。いくらなんでも、ここまで来られへん』
そ、そう? なんか炎に焼かれながら近づいてくるけど……
「こんなっ、こんな炎で私とタクミ様の友情が妨げられるはずがありませんっ!!」
「いやぁああああっ、なんか燃えてるっ! 燃えてる髭がやってくるぅっ!!」
『あかんっ、タッくんっ、死んだふりせなっ!!』
いや無理。物理的に無理っ!
「だってもう熱いっ、ちょ、おまっ、こらっ、はなせっ、アツいアツいアツいアツいっ!! アツいィィッっっ!!」
「よかったっ、さすがタクミ様っ、この爆発の中っ、ほとんど無傷で生きておられたっ!!」
もう無傷じゃないよっ! めちゃくちゃ熱いよっ! コゲげてるよっ!!
「自らの犠牲も厭わぬ、大爆炎。その覚悟、しかと受け止めましたっ」
「受け止めないでっ、せめて受け止めたら自分だけで完結しといてっ、俺を巻き込まないでっ!!」
なんとかチョビ髭を引き離し、燃え移った炎を消し止める。
「ふー、やれやれ、これでようやく死んだフリを……」
『いや、もう遅いで、タッくん』
「あ」
少し離れた場所から、伽羅様とネレスがまじまじと俺を見つめていた。
爆炎の火柱が静かに収まっていき、俺と髭は、そこから一歩も動けない。
「ソ、ソッちんっ、なにか強力な魔装備はっ!?」
「残念です。身につけていたものは、今ので全部燃えてしまいました」
いやぁああああーーーっ! だから来んなって言ったのにっ!!
「カルナっ、もう一回今のはっ!?」
『もう無理やっ、これで終わりやおもたから全部出しきってしもたっ』
絶対絶望。周りの炎が消えると同時に、俺の命の灯火まで消えてしまう。
「あぁ……今日いい天気だからピクニックにでも行こうか……腕によりをかけて美味しいお弁当作って……」
『タッくんっ、現実から全力で逃避せんといてっ!』
はっ、と我にかえって、ぶわっ、と涙が溢れ出る。もはや、どんな顔面も維持できない。
伽羅様とネレスが神速で迫ってくる。もう時間を稼いでも意味がない。
爆炎の残り滓が、ぽっ、と消えて、無防備な史上最弱が丸裸になる。
『タッくんっ』
「うん、せめて最後は」
精一杯の強がりで、新しいオモチャを見つけた少年フェイスで、にっ、と笑う。
その顔に警戒した2人の、わずか0コンマ何秒かが運命を覆す。
「間に合いましたよ、タクミ様」
魔装備たちが流星のように降り注いだ穴から、それは、ニョキっ、と姿を現した。
「最終破壊兵器が」
全容ではない。おそらくは全体の二割ほど。発射口の先の僅かな部位が顔を出しただけ。
だが、それだけで、世界の重力が何十倍にも膨れ上がり、押し潰されそうな威圧感に包まれた。
「がるるるるっ!!」
カルナの大爆炎でも動じなかった伽羅様が初めて本気の唸り声をあげる。
「ちょっ、ちょっと待ってっ、それ、伽羅様たちだけに当たるのっ!? 俺たちは大丈夫なのっ!?」
チョビ髭は答えず、静かにまぶたを閉じた。
「ぎゃああああっ、やめてやめてやめてっ! まだ伽羅様たちにやられるほうがいいよっ!! ストップしてぇええっ!!」
「申し訳ありません。終ちゃんはもう止まりません」
『な、名前かわええな』
発射口の先が見たことのない色の光に包まれて、世界を根底から破壊する最終兵器が放たれた。
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