三百四十八話 ニューフェイス
先週土曜日の掲載分を掲載予約の手違いで載せれていませんでした。木曜日に三百四十七話を掲載しておりますので、見逃している方は、そちらを先にご覧になって下さい。申し訳ございませんでした。
試合当日の朝がやって来た。
暖かい日差しに爽やかな風。
まさに絶好の敗退日和だ。
『タ、タッくん、めっちゃ清々しい顔してるな』
「うむ、これで煩わしい戦いから開放されるからね」
最強になったと勘違いして身の丈に合わない戦いを繰り広げてきた。これからはもう世界のすみっこで、おとなしく平和に生きていこう。
『では参りましょうか、タクミ様』
ハンガーに吊られたシャツのまま、チョビ髭が声をかけてくる。
「悪いがソッちん、俺はもうお前を身にまとうことはない。なぜなら、これからの決戦で使う俺の必殺技に、そんなペラペラなシャツでは耐えることができないからだ」
『な、なんですとっ、最高峰の魔装備となった私でも無理なのですかっ!?』
うん、だって着てたら自爆がイカサマってバレちゃうんだもん。
「界層最強、無敵無敗の俺の必殺技がそんなに甘いと思うか? 発動した途端にその衝撃波でソッちんシャツはビリビリに引き裂かれ跡形も残らないだろう」
『ひぃ、さ、さすがにそれでは、ご一緒にいられませんね。仕方ありません、久しぶりに本体に戻らさせていただきます』
ソネリオンの魂が抜けて、フワフワと白い魂のようなものが飛んでいく。
『ああっ、タッくんっ、シャツに不気味な顔のシミがっ』
いなくなっても、残留思念みたいな跡が残っているのか。怖い。ソネリオンが抜けたら、このシャツすぐに捨てようと思ってたけど、なんか呪われそうだよ。……ロッカのオデコ穴に封印しちゃおうかな。
「さあ、いこうか、カルナ。新しいおもちゃを見つけた少年フェイスで」
『すごいな、タッくん。ほんまは怖くてガクブルやのに、戦いが始まるの待ち遠しくて仕方ない強者に見えてしまうわ』
ふっ、今ならびびってちびりながらでも、俺負けないからフェイスを維持できるぜ。
アリスにビビりながら過ごした数日間で、俺の顔芸は極みに極まった。
昼の太陽の横に球体王まんまるが浮かび上がる。
戦いの場はボルト山の山頂付近。
木々が開けた小高い丘に、伽羅様とネレスが並んで立っていた。
『タッくん』
「うん、ほどよく小太りだ」
第二作戦大盛りによって、素早い動きを封じられた伽羅様が戦う前から、ちょっと息を切らしている。
「お待ちしておりました、タクミ様」
「え? だ、だれ?」
伽羅様とは対照的にガリガリに痩せ細った骸骨みたいな髭が杖に支えられるように立っている。
「いやですね、貴方の素敵なパートナー、武器商人ソネリオンこと、ソッちんではありませんか」
「な、なんでっ? なんで戦う前から死にかけてるのっ!?」
「いやぁ、シャツの中にいたので本体の食事を忘れていました。もう少し遅かったら危なかったですね」
いやもうすでに手遅れだよっ! 戦いが始まったら俺より先に瞬殺されそうだよっ!
「伽羅様、太りました?」
「うん、レバーのお供えが最近豪華でね。ほんの少しだけ太ったかもしれない」
「……ほ、ほんの少し?」
「大丈夫。これくらい、戦いでエネルギーを消費したらすぐ痩せるよ。まあ数秒ってところかな」
え? なんか、嫌な情報が聞こえてきたんだけど……本当に?
『それではこれより無限界層一桁トーナメント、ダッグ戦を始めたいと思います』
「ちょっと待ってっ、色々ちょっと待ってぇっ!!」
『あかん、タッくんっ、新しいおもちゃを見つけた少年フェイス崩れてるやんっ!!』
ま、まずい。なんとか顔面を維持しなければっ。
『大丈夫やっ、先に死にかけてるソネリオン攻撃してくるわっ、その間に自爆をっ』
「伽羅様、どっちを先に攻撃する?」
「もちろんタクミからだよ。あの武器商人、ほっといても死にそうなんだもん」
あ、あんなこと言ってるぅーーーっ!!
『う、うん、ほんまやな、うちでもそうするわ。しゃーない、試合開始後やなくて、もう同時に自爆するで。カウントゼロ自爆や』
それいいね。コンマゼロ秒で自爆したら、さすがの伽羅様も手が出せない。
「ふっ、いいだろう。2人まとめてかかってくるがいい」
『か、完璧やっ、いきなり完璧な俺、負けないからフェイスやっ』
球体王まんまるの中央に巨大な数字が刻まれる。10、9、8、7、と数字はゆっくりと減っていき……それに比例するように魔剣カルナが莫大な力を貯めていく。
「……伽羅様」
「うん、なにかするつもりだね。気をつけて」
ふふふ、気をつけてもどうしようもないんだよ。
俺の自爆は誰にも止められない。
5、4、3、2、といよいよカウントダウンが終わる寸前。
『あ、あれ? タ、タッくん、うち、なんか力入れへんっ!!』
「へ?」
溜まっていたカルナのパワーが、ぷしゅん、という情けない音と共に消滅する。
「申し訳ございません、タクミ様。死にかけてる私を助けようと吸収の魔装備が自動でカルナさんのパワーを吸い込んでしまいました」
横には死にかけだったチョビ髭が、ツヤツヤになって元気に復活していた。
「お、おまっ、なにしてるのっ!?」
『1、0、それでは試合開始ですっ!!』
「いやぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁっ!! ちょっと待ってぇえぇぇええっぇっぇええっ!!」
新しい顔面。阿鼻叫喚フェイスが発動した。
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