三百四十六話 3つの顔
『タッくん、なにしてるん? なんかシリアスな顔してへん?』
「うん、ギリギリまで弱くなったことを隠さないといけないから、余裕のある男らしい顔を練習してるんだ」
『た、確かにその顔はっ、俺、負けないから、って言うた時の顔やっ』
恥ずかしい思い出だけど、あのセリフを言ってた時の俺は本当に無敵みたいな顔をしていたからな。※1
『爆発に巻き込まれて吹っ飛ぶ練習は終わったん?』
「何回かやってみたんだけど、どうしてもウソ臭くなっちゃうんだよね。ちょっと火力をおさえて本当に爆発させてくれない?」
『え? 今?』
「今じゃないよっ、本番だけだよっ、いきなり黒い玉ださないでっ!」
恐ろしいっ、練習で致命傷だよっ。
「わかってると思うが、めちゃくちゃ手加減してくれよ。もちろん、周りのみんなには凄まじい大爆発が起こったように見えるように、だぞ」
『うちのハードルめっちゃ高いやん。タッくんに当てる爆発は手加減しまくりで、その周りは超高密度の大爆発で誤魔化すんやろ。一歩間違えたら大惨事やん』
「信じてるぞ、カルナ。俺のすべてはお前にかかっている」
『俺負けないから顔で丸投げせんといてっ!!』
だって俺にできることは、もうこの顔芸だけなんだもん。
「あとは新しいおもちゃを見つけた少年のような顔も、もう一回練習しとこうかな。ファイナルタクミクエストンを使ってくると勘違いしてくれるかもしれない」※2
『はいはい、タッくんの練習は楽しそうでよろしいなぁ、うちはものすごいプレッシャーやのに』
そんなことないよっ、俺もこんな次元違いの戦いに巻き込まれて、顔芸なんかしてるの大変なんだからねっ。
「タクミ」
「お、おお、アリスじゃないか。どうしたんだ、こんなとこまで」
「髭シャツがタクミ1人で修行してるって言ってたから、何か手伝えることないかと思って」
むう、アイツ、アリスに余計なことをっ。
「せっかく来てくれて悪いが、俺の力はもはや天井知らずの超高次元、いくら人類最強のアリスといえど、ついて来れるレベルじゃないんだ」
『す、すごいな、タッくん、よく真顔でそんなハッタリかませるな』
ふっ、これから宇宙を飛び越えて界層最強と戦うのだ。人類最強くらい、誤魔化せないで勝ち目があるものか。……まあ負けるんだけどね。
「それは出会った時から知っている。だがワタシとて、それであきらめていたわけではない。無限界層の戦いに参加するため、今まで以上に修行を頑張ってきたつもりだ」
アリスが気合いを入れたのか、身体からオーラのような湯気が、ごうっ、と勢いよく立ち昇る。それはこれまで戦ってきた(実際には文字人間が)どんな強敵をも凌ぐ、凄まじい覇気だった。
「ひぃ」
あまりのオーラにびびってしまい、俺負けないから顔も忘れて、思わず後ずさる。
「ひぃ?」
「ん? どうした? アリス」
「いや、今、タクミから悲鳴のような声が」
「ああ、ちがうよ。亡くなったひぃおじいちゃんを突然思い出したんだ」
ダラダラと汗を流しながら、なんとか俺負けないから顔に戻していく。
「ま、まあ、どうしてもというなら俺の側で修行するのは許可してもいい。ただし、あまり俺に近づいてはいけないぞ。大変なことになるからな」
俺のほうが、と心の中でつぶやいておく。
「わかった、タクミの邪魔にならないように少し離れておく」
「うむ、あの辺りまで離れたほうがいい。もうちょい先だ。まだそこらだと危ないぞ、全力を出した時びっくりするぞ」
俺が。
『だ、大丈夫なん? いきなり弱いのバレそうやったやん。帰ってもらったほうがええんちゃうの?』
「ああ、でもここでアリスの強者オーラに慣れておけば、伽羅様たちと戦うときに表情を崩さない練習になるからな」
すでにアリスの実力は、無限界層のランキング上位とほとんど変わらない。側にいて動揺しなくなれば、誰と戦っても十分に顔芸が通用するという自信につながる。
『いや、もうタッくん、顔芸の事しか頭にないやん』
「はァァァアァっ」
アリスがさっそく気合いを入れて修行を始める。先程とは比べ物にならない凄まじいオーラ。え? あ、あれが全力じゃなかったの?
「ま、まだまだだな、アリス。お前の力はその程度か」
『タッくん、足元ガクガクやん』
二つのフェイスに加え、大ピンチで発動する「ふっ、お前の力はその程度か」フェイスを習得した。
※ タクミは過去に二つの顔を使用しています。
俺、負けないから顔→「第九部 一章 二百八十九話 口癖」
新しいおもちゃを見つけた少年顔→「第四部 五章 百三十一話 ファイナルクエストン?」に載ってます。ぜひご覧になってください。




